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91話

 圧倒的な戦力で勇者を仕留める事に成功!そして相手の主戦力である騎士たちは社長の催涙剤でやられているから時間は相当稼げるんじゃないかな。

「く、くそっ!離せっ!」

 よし、このまま福山君は『眠り繭』で保存しておこう。動かれると厄介だけど死なれるのもまた厄介だからね。

 ……と、思ったんだよ。

「くそ、覚えてろ!絶対に僕はお前たちを倒す!『空間跳躍』!」

 ……福山君、まさかの瞬間移動系スキルユーザー。これには鈴本も苦笑い。

 ……そうかー、道理であのオークション会場から神殿まで帰れたわけだよ。これはやばいな。捕まえるのは相当難しいぞ……。


『目標Fはスキルにて逃走。繰り替えす、目標Fはスキルにて逃走。どこに来るか分からないしいつ逃げるかも分からない。注意されたし』

 鈴本が『交信』で全員に伝えると、それぞれ適当に返事を返してきた。

 ええと、角三君と鳥海は社長の撃ち漏らしを……ああ、あれは峰打ちで沈めてるのか。あとは打ち直す前の角三君の剣は『威光』とかいうスキルが付いてたけど、それも残してあって使ってるのかな。相手が戦意喪失して不戦勝っていうのを狙ってるみたいだ。

 ……まあ、殺さずに済むだけの圧倒的な戦力がこちらにあるなら、殺さずに済ませたいよね。

 事実、なんというか……こちら側は社長と加鳥が対集団に対してオーバースペックすぎるんだよなあ……。

 特に加鳥。

 お前は何故人型機動兵器なんぞ作っちゃったのか。今持て余してるだろ、それっ!

 ……まあ、多分、これの見た目で既に騎士たちの戦意はごりごり削られたと思うんだけど……。

 いったい、誰が未だかつて見たことも無いようなオーパーツを見て戦う気になろうか……。


 全体的にこう、社長の催涙剤十数発で神殿の騎士達の殆どは戦意を喪失しちゃったらしい。化学兵器って凄いなあと思わざるを得ない。

 打ち漏らしも殆ど角三君と鳥海が戦意喪失させちゃったし、なんというか、全体的にこう、拍子抜け、というか……。

 あとは針生待ちかな。

 針生は今影を渡って神殿内部を探索中だ。

 命(物理)を見つけ次第私たちは退却、針生が連れてるみなも視点を利用して合流して、命(物理)を全部保護、っていう事になる。

 勇者より先に神殿を引っ掻き回したかったのはこのせいだね。

 神殿としては勇者が寝返るぐらいなら殺してしまえ、ってかんじだと思うんだ。だとしたら、こっちが先に勇者と接触しちゃうとその瞬間命(物理)を叩き壊す、とかいう行動に走られちゃう可能性がある。

 あくまでも、勇者にされた人たちの命を神殿が握れなくなった状態で勇者と接触したい。

 ……そのための時間稼ぎなのだ。この戦いは。

 だからまあ、ここまできっちりかっちり制圧する必要も無かったっちゃなかったんだけど、さっさと勇者か神殿のトップを出してもらうためにはできるだけ圧倒的な武力を見せた方が早いだろうから、まあ、結果オーライ。




『神殿内部でちょっと偉い感じの騎士が動いてるの見た。ちょっと強そうだから注意』

 針生から『交信』が届いたので神殿の正面玄関を『遠見』で見ていると、少ししてデザインの違う白い鎧の騎士が10人程出てきた。

 なんか言ってるらしいけどちょっとここからだと聞こえない。多分社長とか角三君あたりには聞こえてると思うから後で聞いてみよう。

 ……そして次の瞬間光の矢が私の服に当たって弾けた。おおう、見えなかったぞ。魔法で助かった。実弾だったら刺さってたな。……実弾だったら多分もっとゆっくりだと思うし、事前動作とか必要だと思うからやっぱり分かるだろうけど。

『ね、舞戸、舞戸っ!僕、『おかえし』したいっ!』

 鎧の肩あての下から声が聞こえる。例の如くハントルです。

 なんかねー、この子脱皮したらでかくなっちゃって、袖に入りきらなくなっちゃったのだ。いや、入るんだけど、入ってる感が剥きだしになっちゃったというか。ぱっつぱつになるのである。

 それでも付いてきたがったので鎧に隠して運んできた。尚、ケトラミさんは流石にお留守番。手の内晒す必要は無いし、そもそもケトラミさんにやる気が無かった。

『魔王』には凄く興味があったみたいなんだけど、その後の交戦を想像したら嫌になったらしい。

 うん、まあ、モ○ルスーツが一体いる時点で既にオーバースペックだから構わないんだけどね。

 で、問題のハントルだ。

 多分今来たのは『シャドウエッジ』の光版。そういう意味でハントルは張り切ってるんだとは思うんだ。ハントルが唯一使える攻撃技が『しゃどうえっじ』だからね。

 しかしだな、ここで下手に反撃して目付けられたらそもそも私がこうして1人安全地帯でにやにや悠然と見えるようにしてる意味が無くなってしまう。

 今みたいに一発来るぐらいならまだ何とかなるけど、真面目に私に向かってこられたらまず勝てないのは目に見えてる。

 そしたら撤収せざるを得ないからね、心象悪いよね。『ははっあいつ口ほどにもねーじゃん魔王とかワロス』とか言われるのはちょっと避けたい。

「……という事で反撃は私からはできないんだよ」

『むー……しょうがないね、舞戸は魔王になったんだもんね?』

 演技だけどね。

『魔王はねー、凄く頭がいいんだよー』

 ……んっ?

『それで女神さまと戦ってねー』

 ……あれっ?

「ちょ、も、もしかしてハントルも、魔王、の事、ご存知?」

『うん!母さんがよく聞かせてくれたのー』

「もしかしてケトラミもご存知?」

『ケトラミ物知りだから知ってると思うの』

 ……な、なんてこったい!

「え、えーと、じゃあ私が魔王と名乗るのは、ハントルとしてはどうなの?嫌じゃないの?」

『えー、舞戸がやったら面白いからいいの!』

 ……あ、あとでケトラミにも聞いておこう……。

「とりあえずその話はあとで。反撃は無し。オーケイ?」

『オーケイ!』

 よ、よし。次は何が来るかな……。




 新しく出てきた10人の騎士たちは流石に強かった。

 さっきの数だけの奴らとは違う。だってあの角三君とタイマンで均衡してるんだよ。ちょっとやばいよ。

『威光』は効いてるのかな、効いてあれだとちょっとやばいぞ。

 角三君と戦ってるのがリーダーぽいかんじだから、多分アレがこの騎士たちの上限、と見ていいだろう。けど、まあ、角三君が攻めあぐねる、っていうのはやばい。

 鳥海は……くっそ、あー、どうしよう。私が助けに行っても無駄だって分かるからどうしようもないし、あいつは一応ヤバくなったら『転移』できるから……。今2対1に持ち込まれてる。騎士とは何だったのか。

 鳥海が耐久特化型で助かった、って事に尽きる。それでも2人の騎士に対して上手く一撃ずつ入れていくあたり、相当こいつは器用、ということなんだろうなあ。

 鈴本の方はもうなんというか、両者動かず。

 動いたら斬られると分かってる向こうと、耐久力の低さから自分から動けない鈴本。

 うん、そのままタイムアップを狙ってくれた方が私としては有難い。

 見ていて安心できるのは加鳥。

 向かってくる騎士の膝を狙ってレーザービーム。膝を狙うあたりがこいつだなあ。

 ただ、問題なのは前衛組が戦ってる相手を狙おうとすると味方撃ちそうで怖い、っていう事と、もう一つはもう最初の3人の膝をやった時点でもう向かってくる騎士が居なくなっちゃった、って事だ。

 加鳥としてもこう、あの機体で細かい操作はできないみたいだから、味方との乱戦に持ち込まれちゃうとどうしようもない。

 一応『必中』というスキルは持ってるから、外に出て自前のスキルでレーザー打てばいいんだけど、それって直線状に伸びるレーザーとかの場合、その線上に味方が居たら絶対に巻き込む、という事でもあるからね。

 というか、機体から出たらそれはそれで危ないから精々後は盾になるしかないという。

 社長の方も結構苦戦していた。

 あの社長が毒を使う暇が無い。元々1対1で強い戦い方ができる奴では無いのだ。むしろあの騎士相手に土魔法とかでしのいでるのが凄い。……いや、使ってるな、あれ。多分。騎士の動きに明らかにキレが無い。遅行性の麻痺毒でも出したんだろうか。その為のガスマスクだもんね。

 刈谷が一番苦戦、というか、苦肉の策だったかもしれない。元々好戦的な性格じゃあないし、後衛で衛生兵な訳だし。しかしその格好は怪しすぎるので狙われたらしい。そして、刈谷はさっさと戦う事を諦めた。

 ……つまり、私と同じ戦法に出た。

『箱舟』で完全無欠のガードと成して、そこにガンガン剣打ち込んでくる騎士を嘲笑って煽る、という。

 おお、よかったね。メイスの効果、早速使ってるね。

 尚、刈谷に関してはMP切れの心配は無い。時々なんか余裕かますふりしてミント抽出液飲んでるし。

 羽ヶ崎君は私の横で傍観である。

 向かってきた騎士が一番よわっちかった、っていうのもあるだろうけども、その手際も良かった。

 相手の魔法に突っ込みながら『アイスコフィン』で氷柱一丁上がりしちゃったからね。いやはや、度胸あるなあ。

「舞戸、さっき魔法とか飛んでたけど平気?」

「うん、まあ、ハントルの親様様、ってところだね、お互い」

「ね」

 福山君の剣に関しては正直ヒヤッとしたけど、まあ、福山君の性格が幸いしたかな。

 頭をだな、狙って来たのだ。まっすぐ。

 脚狙われたら避けられなかったかもしれないけど、頭だ、頭。まっすぐすぎて避けやすかった。

 一歩横に動けば確実に外れる訳だからね。あとは反射的に確認してすぐ動ければ大丈夫、という。

 ……危険っちゃ危険だったね。でもまあ、最悪頭パーンしても治るから。その場合刈谷を動員しなきゃいけなくなるのとさっきの『魔王とかワロス』に一歩近づいちゃう危険があるという訳だけど、まあ、終わりよければ何とやら。




 とかやってたら、大体角三君の方も角三君優勢になってきたし、鳥海の方は1人片づけたというミラクルなことになってたし、鈴本の方はまだ動いてなかったけれど、針生から『交信』が入った。

『見つけた!とりあえずみなもちゃんと接続してー』

 OK。よし、早速みなもの視界を『共有』だ!

 ……暗い部屋だ。棚がある。棚いっぱいに並んでいるグラス。ざっと見ただけでも20個ぐらいはあるんじゃないかな、これ。

 しかしまあ、何と言うか……うん。この神殿のきな臭さは大幅に跳ね上がった。


『もういい?もう見た?もう離脱していいよね?もう俺ここに居るの嫌なんだけど……』

「いいよ。戻って来て。こっちに来てくれたら巻き込んで『転移』できるから」

『あ、うん。じゃあ舞戸さんの影に居ていい?』

「どうぞどうぞ」

 そんなやり取りをしたら、ふ、と自分の影が重くなる、というか……奇妙な、背筋がぞわりとするような感覚があって、『ただいまー』という針生の明るい声が頭に直接響いた。

 お、おう。そうか、来たのか。速いな。流石ニンジャ。


『総員撤退?』

 鳥海から『交信』が来たので、多分あっちも片が付きそうなんだろう。

「する!総員撤収!速やかに帰還せよ!」

 腕輪に向かって言うと、すぐに我らが機動戦士がガッションガッションやってきた。うん。お前は速いな。歩幅が段違いだもんなあ。

 羽ヶ崎君は元々側に居たので大丈夫。

 社長は相手に一発土魔法のでっかいのを御見舞いして、駄目押しに催涙剤を撒いて撤退。

 鈴本はちら、と私の方を向いた瞬間に襲い掛かってきた騎士をカウンターでぶった斬ってから悠々と撤退。

 角三君を上手く巻き込んで鳥海が刈谷の側に『転移』して、そのまま刈谷を巻き込んでもう一回『転移』。うん、あの状態だと刈谷はどう考えても自力での離脱はできなかったもんなあ。

 よし。ここで『拡声』の錫杖を構える。

『貧弱だなぁ、神殿よ!』

 最初っから煽りに行くよ。これで向こうが一つでも手の内晒してくれたら儲けもん。

『実につまらん!騎士が雑魚同然なのは分かっていたがな、こちらに一太刀も浴びせられずに勇者すら逃げ出すとは!笑わせる!』

 勇者を煽るのは単純に私怨って訳じゃ無くて、やっぱり他の勇者たちをこっちに寄越して欲しいからなんだからね!

『まあいい。今回は単なる挨拶という奴だ。次は余をもっと楽しませるのだぞ?さらばだ!』

 いい具合に魔王っぽい事を言って『転移』。

 ふふふふふ、割と魔王っぽく、魔王っぽくできたんじゃなかろうか?




 帰ってきたら影から針生が出てきた。どうなってんだそのスキル。

「とりあえず皆さん、お疲れ様でした」

「お疲れ」

「お疲れ様です」

 全員、テンションが元に戻ったというか、反動でしっかり下がったところで報告の始まりだ。

「さて、じゃあもう一回行って命(物理)の回収だけど……こっちはこっちで対策が要るなあ」

「何かあったのか」

「うん、元凶がさあ、部屋のど真ん中にあったんだよね」


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