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85話

 とりあえず着替え終わって透明人間やめました。はい。

 やっぱり自分が透けてるのって凄く違和感まみれなので戻ったら落ち着いた。ふぃー。

「一体何があってアレが湧いたの?」

 想像はつくんだけどね。福山君は勇者の契約をしたって事だろうから、神殿に居ても全くおかしくは無いんだよね。

「いや、普通に俺達……っていうか、鈴本が客室に案内されて歩いてたら、向こう側からアレが来てさー、一応鈴本は『よく分からないけど気づいたら神殿に居た。俺は一人です』っていう設定で通してたのにアレがいきなり『あっ!どうして君がここに居るんだ!』って始まったからさあ……。もう凄かった……。鈴本がさ、マシンガントークでできる限りアレに喋らせないようにしながら舞戸さんを待ってたんだよ……」

 そ、そうか、それは何ともお疲れ様としか……。

「相変わらずアレは空気読めないんだ」

「ね」

「多分だけど、アレ神殿の人も困ってるよ、多分」

 ……福山君も普通にしてれば只のちょっと顔がいい優等生にしか見えないからね。

 実態を知らない先生にも人気あったよ。うちの部の顧問には『悪い意味でロマンチスト』と評されてたけども。

 そんな外見にうっかり絆されて拾って来ちゃったら想像よりも凄く斜め下な中身でびっくりしたんじゃないかな。

 ……というか、私もこの世界に来るまで彼がああいう中身なんだって知らなかったよ。うん。人間分からないものだね。

 うん、まあ、でもあれだ、勇者にできちゃったりしたんだし、操作はしやすいのかもしれない。

 多分福山君、自分にとって都合のいい言葉には凄く従順だと思うから。

 ……おお、神殿の疲れ切ったドヤ顔が目に浮かぶようだよ。お疲れ様です、神殿。でも許さん。

「ま、まあ、とりあえず神殿で手に入れた情報は全部出すから。ほら、鈴本、起きて、起きて」

「んぁ……おはよう。疲れた」

 うん、お疲れ様でした。

「えっと……とりあえず、舞戸さん」

「はい」

「俺の記憶を社長に受け渡ししてもらえる?」

 ……はいい?

「一応何があるか分からないから神殿の影渡って一通り見てきたんだよね。社長に見せたらもしかしたら地図になるかも」

 ほほー、それは素晴らしい事だね。神殿と敵対するにしたら地図があるのとないのとで大違いだから。

 ならば善は急げという事で、『共有』で針生から社長へ記憶を受け渡した。

 う、うおおお……割とこれ、疲れるんだよ……。人の記憶って貰うと凄く辛い。社長も辛そうだけどそれ以上に敵地の地図作れるって事ではしゃいでる気がする。やめろ、まだ敵対を決めた訳じゃ無い!

「俺は地図書くんで、先に皆さん鈴本と針生の話聞いててください」

 社長はさっさか地図を書き始めたので放置するとして、鈴本の話を聞くことにしよう。


「最初からもう意味が分からないんだが……俺と針生が湖の中心の浮島に向かっていたら急に力が抜けて墜落した。そしたらそのまま水流にのまれて滝に落ちて、落ちた先が神殿の中庭だった。……その内社長が地図にするだろうから構造とかは省くぞ」

 滝が流れ落ちてくるレベルの広さの中庭があるのかー。なんか割と小奇麗な建物だったし、下手したら、いや、しなくてもお城レベルのでかさなんじゃないだろうか、神殿。

「そこに落ちてすぐ中庭の滝の裏に隠れて、で針生と会議して……針生が神殿の影を渡り歩いてざっと地形を把握してくれてな。それでここが神殿だ、ってやっと分かった」

 滝の裏っていうとやっぱり洞窟があったりするんだろうか。そこに宝箱落ちてたりとか。……しないか。

「被害は少ない方がいいだろうって事で、針生には俺の影に隠れてもらって、俺一人で中庭を出た。そのままそこら辺を歩いてたら神殿の騎士に見つかってな、それから神殿の……司祭、っていったか。そいつの所まで連れていかれた

 あ、やっぱりあの騎士達は神殿の騎士かあ。

「司祭の上に大司祭っていうのがいるらしいんだが、そいつは今日不在とかで、とりあえず代理でそいつが対応する、って事だったらしいな。だからトップの顔は見てない。話した内容は簡単だ。この世界が滅びようとしているから勇者として契約してこの世界を救ってくれ、っていう。まあテンプレだな」

 あー、やっぱり?

「そのあたりでお前から針生に連絡が入った。針生が俺の影に居るときは針生との意思の疎通ができるからそこで『何もしないのがベスト』っていうのを聞いて……体調不良の振りして……一芝居打った」

 ……あれ、なんか鈴本の歯切れが良くないぞ?と思っていたら、針生から補足があった。

「いや、凄かったよ、鈴本。まさかの色仕掛けだったからね」

 ……。

 ……OH。いや、いや、確かに鈴本割と見た目いいけどけどちょっとあの、神殿の人ってそういう嗜好が

「話した司祭さんが丁度女性でさあ」

 あ、成程。あー、びっくりした。うん、ごめんね。司祭を男性でイメージしてたよ……。カトリックの司祭のイメージでいたもんでさ……。

「それをこう、ちょっと弱った水も滴るいい侍の流し目でコロッと」

「やめろ!人聞きの悪い事を言うのはやめろ!俺はそんなつもりはなかった!」

 ……。まあ、想像はつくよ。鈴本はそういう事を狙ってできる度胸は無いし、器用でもないし。ただ、ただ……結果は針生の言う通り、なんだろう、なあ……。

 見た目がいいのも考えものかもね。いや、でも結果オーライ。

「で、無事その司祭さんがそこら辺に居た騎士に客室まで案内させてくれて、で、その途中でアレが騎士引き連れて歩いてるところに正面衝突しちゃって、まあ、あとは鈴本のマシンガンが頑張った」

「何度も言うようだが、もう一度言わせてもらおう。……疲れた」

 お、おう。お疲れ様でした。




 そしたら次は私が『アライブ・グリモワール』さんから聞いた話を伝達。こっちは割愛。

「……という事は、俺はうっかり契約してたら命(物理)を持っていかれていたのか」

 うん、そうね。この世界だと命って後ろに(物理)って付けられるみたいなのよね。

 私は実際に見てるし、羽ヶ崎君と鈴本は思う所があるらしいんだけど、他の人たちは首を捻っている。うん、まあ、見てみると分かるよ、命(物理)。

「その話だと湖の真ん中の浮島に元凶がある、ってことになるのかな?」

 それも気になるよね。うん。

「近づくなら舞戸さんが適任、っていうのも気になるけど……あそこに舞戸さんが行くには橋でも架けるしかないんじゃないのかなあ」

 ね。ほんとにね。私空飛べたりしないし。下手に落ちたら神殿に着くころには死体になってそうだし。

「でも神殿に儀式を行わせないためには勇者側を何とかするか、神殿を何とかするかしなきゃいけないと思うけど、どうするの?」

 ……そうね。何とかしないとリミットはいつ来るか分からない。勇者を新たに勧誘しようとしてる位だし、今のところは大丈夫そうだけども……。


「できました。地図です。可能な限りは地図に起こしました」

 そうこうしている間に、社長はさっさと地図を完成させていた。

 おー、綺麗。凄いなー、精度が高いのが一目で分かるよ。

「さて、折角地図も作ったわけですし、どうせ敵対するなら、こっちでタイミングを決めて有利に運んだ方がいいと思います。ということで、攻めましょう」

 ……流石社長!仕事と気が早いっ!




 地図を見る限り、神殿は結構シンメトリーな造りをしているみたいだね。となれば、えらい人ほど真ん中の高い位置に居るんだろうなあ、多分。地図上にもそれっぽい塔があるし。

「で、本当に攻め込むのか?見た限りあの騎士達は割と強そうだったが」

 鈴本で強そう、なんだから私からしたら勝てる気がしない、だな!うん!

「いや、正面から攻め込むのは馬鹿でしょ。一番いいのはトップだけどうにかしちゃうことじゃないの?」

 まあ、神殿とかいう明らかな縦社会のトップがどうにかなっちゃったら儀式どころじゃなくなるか。

「そうなると忍者針生にお任せ、ってなっちゃうね……。針生、大丈夫?」

「ん?まあ、なんとかなるんじゃないの?あはは、一応俺前職アサシンだったし」

 そういやそうだったね。というか影渡ってトップだけさっくりコロコロして帰ってくるのは割と何とかなっちゃいそうではあるよね、実際。

「まあ、トップが弱いなんていう保証は無いですから。滅茶苦茶強かったら針生1人じゃ分が悪いです」

 そして社長の危惧も尤もである。大司祭、になるのかな、トップは。そいつがよく分からん魔法使ってこないとも限らないんだ。何てったって、命を命(物理)にできちゃう奴だぞ?多分。

「いいですか、何も敵の本拠地に殴り込みに行くことだけが攻めに行くって事じゃありませんから。……宣戦布告、とか、どうですか?」

 なにそれかっこいい。


「まずは元凶っていうのが一体何なのかを見る必要がありますね。実態が分からない物を利用するのはめんどくさいですから」

「待て、宣戦布告……ああ、そういう事か、成程理解した。……つまり、元凶を守る立場になれば、神殿と勇者は俺達と対立せざるを得ない、ってことだな」

 ……あああああ。そうか、そっか。神殿は勇者を使って元凶を消そうとしてる。だったら、元凶を守ってれば勇者に会えるし、神殿もゴタゴタするし、儀式は間違いなく遅らせられる。

 そもそも元凶って、この世界にとっては害悪だけど、私達にとってそうだって訳でも無い。

 なら、何も元凶を消す必要は無い。守る立場になったってなんら問題は無さそうだもんね。

 まあ、元凶ってのが何なのか分からない事には何とも言えないけど。

「じゃあ、とりあえずはあの浮島になんとか行ってみないといけないんだよね?」

「いきなり力が抜けたのも元凶のせいなのかなー、あー、なんかそんな気がしてきた。だとしたらあの浮島、スキルか補正かに干渉してきてる、ってことだから……あー、そりゃ舞戸さんが適任だよね」

「あの本の言い分考えたら、まあそうなるよね。舞戸には補正が掛かってないんだから」

 ……成程。『アライブ・グリモワール』の話と鈴本と針生の体験談を重ねると……あの浮島、および元凶は……近づくと、補正が剥げる、ってことかな。




「じゃあ、とりあえず昼飯食ったらもう一回見に行こう。それから浮島対策は考えるとして……社長」

「はい、何でしょう?」

「一応聞くぞ。元凶の正体が分かったら、何をするつもりだ?」

「さっきも言いましたけど、宣戦布告です。宣戦布告の方法は幾らでも考えられますから省くとして……宣戦布告の内容ですか。それは元凶を見つけた事、元凶を守る立場につく、っていうこと、それから……そうですね、インパクトが欲しいですね」

 インパクト、かぁ。

 ……社長が踊りながら毒物をまき散らす、とか?

 あ、いや、冗談です。

「神殿が勇者だけでなく、神殿自体の戦力も少しずつ割いてくれるようなのがベストです。最初は神殿だけで何とかしようとしてくれるのがいいですけど、最終的にはトップまで出てきてくれなきゃ困るんですよ。それから、勇者と対立してると思わせないと人質を使われますからね。そこにも注意するとして……」

 社長はなんともあくどい笑みを浮かべて、言うに事欠いて、こういう事を言ったのである。

「向こうが勇者ならこっちは……魔王、と名乗るとか、どうですか」


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