82話
なんだか非常に心に刺さるご飯介助を終えて、私たちもご飯を食べ、本日の予定の立て直しです。
「とりあえずジョージさんから話を聞くのが先だろうな」
「あの本に話聞くのはその後の方が分かりやすいんじゃないかと思います」
だろうね。あの本喋りたがりなんだけど、わざと一部の情報を伏せたがるというか……つまり、そこを暴かれるのを楽しみに待ってるんだろうなあ。
そしたら、そこを暴くための情報はできるだけ持ってた方がいいもんね。
「だったら舞戸がジョージさんに直接話を聞くのが早いが……英語科研究室の人たちの世話は舞戸の方がいいだろ、多分」
結局、お椀いっぱいのお粥も完食できない人もいる位あの人たちの胃は衰弱しているようで、ということは一度に食べる量を少なく、回数を多くして回復させるしかないって事だ。
となると、毎回あったかいものを食べていただくためには毎回作らなきゃいけないって事で、そうなると私がずっとここに居た方がいいんだよね。
「という訳で、とこよを同行させるよ。その子たちと色々『共有』してれば実況中継になるわけだし」
私がそういうや否や、とこよがぴょこん、と加鳥にくっついた。うん。ホントに君は加鳥が好きねー。……まじで、なんで?
「じゃあとこよは僕が連れてくよ」
加鳥の了承も得られたので、とこよをポケットにでも入れておいてもらおう。とこよは満足気である。よかったねぇ。
「じゃあ、僕達はジョージさんに話を聞いてくるから。舞戸から聞きたいことがあったら『交信』の腕輪で言って」
「俺と鈴本は滝の向こう側かー。絶対ジョージさんの方が面白いよね、これ」
「そう言うな、どうせジョージさんの方は後で舞戸に記憶見せてもらえばいい」
おいこら、お前ら私をビデオレコーダーかなんかだと思ってないか。
……ってのはおいておいて、針生と鈴本は中庭に当たる部分の湖の中心の浮島(マジで水じゃなくて空中に浮いてるからホントにこの表現正しいよね)を探索に行くらしい。
ジョージさんの方は羽ヶ崎君と社長が居ればどうせその2人によるジョージさん尋問タイムになるんだし、それはいいわな。
うん、ただ、この2人だけだと回復できないからちょっと心配。まあ、空飛べる2人だし、回避に関してはツートップだから、そこんとこの心配はあんまり無いんだけどね。
「……ねえ、ジョージさんの方、俺行く必要、ある?」
「無い」
「無いかな」
「俺も行く必要ないですよね」
「無いね」
「無い無い」
「角三君と刈谷は留守番でもいいんじゃないかなあ」
うん。こういう事に関して他の追随を許さぬ羽ヶ崎君と社長、ぽんやりムードメーカー兼とこよカメラマンの加鳥、アッシー君兼まとめ役の鳥海が居れば、もうこれは盤石と言わざるを得ない。
盤石の体制の元尋問されるであろうジョージさん、南無。
「角三君は身体介護のお手伝い、刈谷は回復係としてこっちに残ってもらうのがいいかなあ、と私は思うんですが、いかがでしょ」
「俺はそれでいいよ」
「あ、じゃあ、俺もそれで」
ふむ。という事は、鈴本・針生の浮島ツアー組、私・角三君・刈谷の看病組、そして羽ヶ崎君・社長・加鳥・鳥海のジョージさん南無組に分かれて行動、って事になるね。
「とりあえず全員お昼時には帰って来てね。報告も兼ねて」
それじゃあ解散、となった時。
……。
「ちょい。みなも、どこ行くの」
当たり前のようにみなもが針生の肩に乗っていこうとしていた。
『え?だめ?』みたいな顔してるけど、君、よく考えなさい。そいつはアサシン改め忍者だ。そんなのの肩に乗ってたら振り落とされてしまう!
……そう思ってたら、鈴本の肩に乗り換えた。
いや、そうじゃなくて!大体そいつも空飛ぶんだぞっ!諦めて戻ってらっしゃい!
……と、伝えた所、暫く迷った挙句、針生のベルトにつけてあるポーチの中にすっぽりと収まった。
『どうよ!』みたいな顔してる。う、うーんと……。
「ん?一緒に行く?俺は別にいいよ?みなもちゃんだっけ?よろしくね」
お、おお……心の広いご主人様でよかったなあ、みなも。
みなもはポーチからまた顔を出してぺこ、とお辞儀してみせた。みなもなりの挨拶らしい。
「ホントに大丈夫?邪魔にならない?」
「うん、平気平気。そこMP回復薬とか入れとく場所だし」
……だいじょぶくない!
「いや、ミント抽出液ができてから容量減ったからさあ、ポーチのスペース空いてるの」
あ、そういうことか。でもみなもが詰まってたら出しにくくないかい?
「出す時にはみなもちゃんに出してもらえばいいもんねー」
ねー、と針生がみなもに言うと、みなもも『ねー』みたいな顔して嬉しそうにしている。
うん、うん……別にいいんだけど、何で針生?
うん、まあ、これでこっちの組にも実況係が付いたって事だから、そういう意味での保険はかかった、とも言えるか。
皆さんをお見送りした後、私はと言うとポタージュスープを作り始めることに。
お粥もいいけど2食連続でお粥よりは、別の物食べたいよね、多分。
ポタージュなら噛まなくてもいいし、消化にも悪くないし、いろんな野菜をそのまま摂れるし、何よりあったかい。
長らくお腹を空かせていた人たちにはやっぱりあったかいものがいいんじゃないかと思ってだな。
「……舞戸、俺手伝う事ある?」
「あー、じゃあ芋の裏ごし手伝ってくれるかね」
現在ひたすら芋だの人参だのを蒸して裏ごししている所でございまして。
うん、ミキサーとかあればポタージュ楽なんだけど、そういうの無いし、あっても電気無いから動かないし。
という事で、一旦材料を蒸して裏ごしして(裏ごしする道具は鳥海に作ってもらいまして)それを出汁で割る、っていうかんじに作るのが早いんだよね。
でも、メイドさん人形達にこの作業、ちょっと辛いみたいなのだ。木べらに振り回されているというか。
まあ、道具が私サイズだから、メイドさん人形達にとっては自分の身長よりも大きいサイズになっちゃうんだよね。
かといって、人形サイズの道具にしちゃうと、裏ごしするのに回数を重ねなきゃいけなくなって、その間に芋だのなんだの冷めちゃって、そうすると裏ごしが大変になっていくんだよなあ……。
「これ潰せばいいの?」
「うん。こう、木べらで押し付けつつ引くかんじに」
角三君はやり方だけ教えたら後はちょっと覚束ない手つきながらも力がある分手早く裏ごししていってくれるので助かる。意外と裏ごし作業は力仕事なのです。
「舞戸さん、一通り向こうの人たち回復してきました」
刈谷の回復魔法『聖光』は割と万能で、怪我を治すだけじゃなく、疲れを取るとか、体力を回復するとかそういう事もできる。なのでさっきまで英語科研究室の人たちを回復していてもらったのだ。
「じゃあ刈谷には人参の裏ごしをたのんで私はちょっと実況見るかな」
「了解です」
刈谷の方は手馴れた感じに人参をピュレにしていく。うん、いいぞいいぞ。
さて、で、私はジョージさんの尋問をとこよ中継で見ることにするよ。
「……あたりだよ、そうだ、俺はこの世界の人間じゃねえ。つかよ、もっと早く気づくかと思ってたぜ?」
あ、なんか丁度よくジョージさんの自白から始まった。
「何年前の召喚に巻き込まれたんですか?」
「そうだな、もう……15年ちょいになるのか」
……この時点で、神殿は信用するに値しないと半分以上分かっちゃったようなもんである。
「じゃあ、やっぱり神殿は、僕らが元凶を消しても召喚した全員を元の世界に帰してくれる訳じゃ無い、って事?」
「なんだ、もうそこら辺まで知ってやがるのか……参ったな、知らない方が幸せかと思ったんだが」
あー、そういえば三浦君と岬さんのロミジュリカップルをオークションで買った後に質屋で神殿云々の話してた時は、ジョージさんはロミジュリに辟易して退席してたんだっけか。
「そもそも俺が神殿の存在を知った時にはもう全部終わってたからな。既に一部の仲間たちと全ての教室が元の世界に戻ってた」
「……神殿が何かすると全部の教室も無くなるんだ?」
「そうみたいだな。俺も詳しくは分からねえけど、デイチェモールの海辺にあった俺らの教室がある日突然無くなってな。丁度その日あたりに神殿が儀式をやったらしい、っていう噂が後から流れてきて、それっきりよ」
うわ。うわ……つまりそれ、それ……やばいじゃないか。
私たちが思っていた以上に、事は深刻だったのだ。私たちが全員で元の世界に帰る手段は、今の所2つしかない。
1つは、全員が神殿の儀式に参加すること。
でも、これを神殿が許すとは思えない。神殿としては多くの魔力を出してくれる異世界人をずっとこの世界に留めておきたいだろうから。
2つ目は、教室を全て集めて、その上で全ての生徒たちを集めて、それで、全員で帰る、っていう、私たちが目指している方法。
1つ目にも2つ目にも、リミットがある。
そのタイムリミットはどちらも同じ。神殿が儀式をする時、だ。
ただし、2つ目なら、その神殿の儀式を阻止しさえすれば、リミットは私たちが決められる。
「俺は元の世界に戻ろうとする前にこの世界に定着しようと頑張っちまったクチでね。それも原因だったのかもなあ」
そう、そういうジョージさんみたいな、この世界でまず生き残ることを優先しないと生き残ることすら難しい人たちもいるから、そういう人たちを一人残らず探す時間が必要なんだ。
それに、合唱部の人たちみたいに、死んだ人を生き返らせる時間も。
両方、いくら時間があったって足りないかもしれないのに、神殿が儀式やっちゃったらそれで終わり、とか、ちょっとしんどすぎる。
「神殿がいつ儀式をするかは分かるのかな?」
「いや、あいつらいっつも事後報告だからな。それは無いだろう」
しかも、そのリミットは分からんときた。……これはもうほんとに神殿に行くしかないかね。
「というかさ、神殿って何やってるところなの?この世界の人たちにとっての神殿って何?」
「単純にこの世界の宗教施設だな。俺も良く分かんねえが……多分、この世界は一神教でだな、女神が信仰対象なんだろうよ」
一神教かあ。多神教の方が色々と助かったんだけどなあ。
「この世界を創ったのがその女神で、で、その女神の声を聞く者が集まったのが神殿の始まりらしいな。で、今も神殿はそれで女神の声を聞いて世界中にお触れを出したりしてる」
「一番最近出たお触れは何ですか?」
「想像つくだろ。『この世界は滅びに向かっている、それを回避するために勇者を召喚した、勇者には可能な限り協力せよ』っていうお知らせだよ」
お、おおう。事後報告じゃん。お触れっていうか、報告じゃん。
「で、滅びの元凶って何なの」
「さあ……ほら、俺はインドア派だったもんだからよ」
ぬ、ぬうん。このジョージさん、このインドア派のおかげでこの世界情勢というか民俗的なことには非常に詳しくて、凄く助かるが……根幹にかかわるような部分に関しては割と知らないんだなあ。
でも、リミットについて分かったのは凄く助かるね。
「勇者は何人ぐらいいるか分かりますか?」
「いや。最近1人新たな勇者が導かれた、っていうのは噂になってたし分かるんだが、具体的な人数は何とも、だな」
その1人って、福山君の事かな?
「勇者の動向って分かりますか?」
「いや、それは流石に。神殿なら分かるのかもしれねえが……」
ということは、リミットが分からないのは変わらないかあ。うーん……。何とかしてその勇者たちと連携を取りたいね。
そしたら1つ目のリミット……神殿の儀式開始のタイミング操作ができるようになる訳だから。
……あ、勇者って……福山君も、かあ……。
……。うん、ええと、なるようになるさ、多分。
ここらで実況を切って、お昼ご飯の準備と英語科研究室の人たちのご飯のお手伝いに行かねば。
意識を戻してみれば角三君と刈谷の裏ごしが終わった所だった。
鶏肉の脂の少ない所と香味野菜で取った出汁でジャガイモと人参のピュレを伸ばしていって、濃さを調節したらポタージュスープの完成である。
これを5人前お椀によそって持っていくと、既に目を覚ましている人もいたので、その人たちがスープを飲むのを手伝う。
っつっても、寝て食べて回復魔法かけてもらってまた寝て、っていう事をやった彼らは回復してきてもいて、上体を起こすのは楽になったみたいだし、自分で食べられるようになった人もいた。
この調子でがんがん元気になっていっぱい美味しいものを食べて欲しい所である。
「ただいまー」
それから少しして、ジョージさん尋問チームは帰ってきた。
「お帰りなさいませご主人様―ず。なんかやばいことになってきたね」
「ああ、聞いてた?うん、ね。そろそろ神殿とも接触しないといけなくなってきたけど。その前に『アライブ・グリモワール』に色々聞いてもらう事もできたかな」
そうだね。勇者の動向とか分かるなら聞きたい。それから、元凶の正体とか……或いは、私たちの最適解なんかも、教えてくれるかもしれない。
「あれ、ところで鈴本と針生はまだ戻ってないんですか」
……あれ、そういえばそうね。




