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79話

 おはようございます。今日も元気に過ごしましょう。

 今日こそはそろそろ吹奏楽部とエンカウントではないかなと期待しちゃっている私です。はい。

 朝ごはんはご飯だね。ご飯に味噌汁卵焼きと漬物だね。定番。ついでにお弁当も作っておくよ。

 今日のお弁当は生姜焼き弁当です。煮物漬物でお野菜も取れるようにしたけど彩りがあんまし良くない。全体的に茶色っぽい。……精進します。

 そういえば皆さんが魔物のお片付けした時に結構お肉が入ったので、そろそろまたまとめてベーコンとかにしておこうかな。今日の待機時間はお肉の解体と処理かな?


 さて。朝ごはんを食べる皆さんはなんとなーく、気分が重そうである。

 しょうがないね。今日の回収予定は英語科研究室付近。今はどうか分からないけど、少なくとも以前は福山君が居たっていう場所である。つまり下手すると福山君にエンカウント。

 気分が重くなるのも当然っちゃ当然である。こういう時に穂村君がいてくれたら……!と思わざるを得ない、らしい。気持ちは分かる。

 尚、穂村君達からは今朝、連絡が入った。特に何もなくても定期的に連絡してくれるあたり、穂村君の人間の出来具合が見て取れるという物ですね。

 どうも彼ら、溶岩地帯を越えたらジャングルだったらしく、教室の捜索は難航しているとの事。

 その代わりモンスターはそんなに強く無く、さらには果物もお肉も豊富で美味しいらしく、そこは良かったとの事。

 うん。割とのんびりでも何とかなりそうだし、無理せず頑張ってもらいたいね。


 そして皆さんが死んだような目をしつつ出ていったので、私も監視体制を貫きつつ、お肉の解体や処理をしようと思います。

 最近はハーブ・スパイス類も豊富だし、料理に幅が出て楽しいね。

 ということで、ここら辺を使ってベーコン作っていきます。

 ……いやね?別に、すっかりアイテムインベントリになった物理実験室に放り込んでしまっておけば時間経過無いらしいから、お肉も生のまま保存できるんだよ。保存できるんだけど……でも、ベーコン美味しいじゃない。

 これだけ美味しいお肉の美味しい部位がたんまりあるんだし、香辛料もたんまりあるんだし、美味しいもの作りたいじゃない。


 ……ということで、ベーコンです。

 うん、本当はね、豚のモンスターが出てくれたら一番いいんだよ。けど、見ないんだよね、豚。なので猪で作るよ。

 若い猪の三枚肉をブロックに切り分けて、それを香辛料と一緒に塩漬けにしていく。

 はい、今日の作業はこれだけ。後は1週間ぐらい塩漬けしておかねばならんのでな。……しかし、これだけっつっても、相当な労働です。

 何故かって、猪、大量にあるから。多分2桁ある。

 解体は一瞬なんだけど、その分かれたお肉をまた分けて、っていうのがもう!

 しかも、ベーコンにするのは三枚肉だけど、前脚は煮て煮豚みたいにしておきたいし、ロースとヒレとモモは燻煙かけずに揚げたり焼いたり煮たりしたいし、よく見たら猪の奥に鹿が放り込んであるのうっかり見つけちゃってそっちも処理したり……と……うん、なんか、凄く色々大変でした。

 でも終わってみればすっきりしたアイテムインベントリ(物理実験室)。

 うん、食料庫はこうでなくてはなるまいて。すっきり整頓されていないとね。やっぱね。良くないよね!

 ……そして、ちょっと、思い至ってしまったというか。

 ……教室ってしまって置いた時、内部の時間経過は無い模様。だからものが腐ったりし無くて助かるんだけどさ。

 と、いうことは……うっかりしまいっぱなしにしておくと、塩漬けが一向に進まないということでもある。

 ということで、常時出しっぱなしにしておける場所に塩漬けお肉だけ置かせてもらいに行きます。『転移』。


「あっ、舞戸先輩!どうしたんですか?……ええと、それは?」

「やあやあ花村さん。ジョージさんいる?」

「いますよー。寝てるみたいなので叩き起こしてきますね!」

 はい、こちらデイチェモール質屋。ここなら塩漬けお肉の塩漬けがちゃんと進行するのです。なのでここの一角をお借りしてお肉置かせておいてもらいたいんだけど……。

 ……何やら、ジョージさんの部屋と思しきあたりから、凄まじいドッタンバッタンした音と、ジョージさんのものらしい悲鳴が聞こえ……少ししたら、得意げな花村さんと、元気のないジョージさんがやってきた。

 ……ええと、ええと……うん、何も言うまい。花村さんは歌川さんに呼ばれてどっか行ってしまった。

 まあ、うん、ジョージさんが起こされて取り残されてなんとも哀愁が漂ってるね。うん、それは置いておいて本題だ。

「ジョージさん、ここの冷暗所を少しお借りしたいのですが」

「ん?……ああ、それ置いとく為か?うん、まあいいけどよ……それ、何だ?」

「お肉です」

 木のでっかい桶みたいなのの蓋を開けると、中にはお肉がぎっしり押し寿司のように詰まっている。

「これは近い未来でベーコンになる予定の、猪の上等なお肉です。香辛料も調味料もケチらずふんだんに使ってあります。スープに入れても炒めものに使ってもよし。旨味と香りがきっと素晴らしいでしょうから。ええ、もちろんそのままこんがり焼いてもジューシーでカリッと美味しいでしょうね。……そうですね、お酒のおつまみにも丁度いいと思います」

 煽るように説明を重ねると、ジョージさんが生唾を飲むのが分かった。

「これを置かせていただけるなら、場所代とお礼としてできたベーコンをお分けします」

「よし、幾らでも置いていけ!地下室を貸してやる!」

 ……よっしゃ。


「よし、じゃあここ使っていいぞ」

 案内されたのは6畳ぐらいの地下室。何もないがらんとしたお部屋である。

「隣の地下室は食料庫だが、こっちは使ってないからな。自由に使ってくれていいぜ。ただ、お礼は貰うがな?」

「はい、どうもありがとうございます。ベーコン楽しみにしていてくださいね」

 全てのお肉を地下室に運び込んで、また『転移』。次は鹿肉処理しないとなあ。




 鹿肉もバラして塩漬けにしたりしてお昼過ぎになった所で、やっとメイドさん人形から『きたよー』というかんじの感覚が伝わってきた。おお、遂に来たか!幽霊メイドの出番がっ!


 早速メイドさん人形達の視覚情報を見てみると、確かに果樹から果実を採りつくして、どんどんこっち側に来ている模様。

 果樹に生ってる実は取ったりしてわざと少なくしておいたからね。早いペースで移動してくれるみたい。

 モンスターも減ってるから交戦することもないし、中々のペース。果樹を辿ってくればもうこの建物が見えるからね。見えたら多分寄って来るんじゃないかな。


 いつ来ても良い様に、私は幽霊メイドに『変装』しておく。

 また、いつパターンBに入っても大丈夫なように、家の各位置に配置したメイドさん人形達にも警戒を呼びかける。この子たちは私の心眼になってくれるからね。重要です。

 それから、皆さんの方にも『交信』の腕輪を使って報告をしておいた。

『頑張れ、無理そうだったらすぐ逃げろ』との事でした。ええ、立派にやり遂げて見せますとも。




 それから少しして、遂に吹奏楽部の人たちがこの家を見つけた。

 ……が、どうするかひたすらみんなで話し合っているようで、全くこっちに来ない。

 うん、慎重で何よりです。でも、こっちも急ぐんでね。さっさと行くよ。

 できるだけ軋ませて音を立てながら玄関を出ると、一斉に吹奏楽部の人たちが私を見た。遠目には只の人に見えるかもね。

 そして、やはりというか、私を見つけてもまごまごしていたので、私の方から接近していく。

「あの、お客様、ですよね?」

 私は幽霊、私は幽霊、と自分に言い聞かせながら声を掛けると、流石に意を決したのか、果物採集の間指示を出す係になっていた女子が一歩進み出てきた。

「私たちは吹奏楽部トランペット・クラリネットパートです!」

 ……ええっと、その自己紹介、何の役にも立たんぞ。個人情報を出さないという意味では凄く理に適ってるけども。

「ええ、と、すいそうがくぶ?とは、なんですか?」

 私はこの世界の幽霊メイドなので、そんなもんは分かりません。

 そう返すと、明らかに向こうの人たちはざわざわし始めた。うん。君達、この世界の人に会うの初めてだもんね。幽霊だけどね。

「そ、その人脚が!」

 そして、やっとこさ、中の1人が私の足が透けてることに気づいてくれた。あー、よかったよ。気づかれないかと思ったよ。

「私はあの家にお仕えしていたメイドだったのですが、数年前に事故で死んでしまったのです。しかし未練がありまだ現世に留まっておりまして」

「クラリネットパートは援護してください!トランペットパート、交戦開始!」

「はい!」

「はい!」

 ……パターンBかよっ!人の話は最後まで聞けよっ!


「ま、まって、話を聞いて!」

 メイドさん人形は庭にもいるので視界には困らないけど、一応家の中を戦場として想定していたもんで、こうもだだっ広い場所で戦う想定はしてなかったんだよっ!

「お願いを聞いて下さったらちゃんと成仏しますからあ!」

 尚、この間もひたすらラッパの人たちの剣や槍をひたすら避けている。

「なんならあの家をそのまま差し上げます!死んでからもお手入れはしていたのですぐ住めますよっ!」

 うおっ!魔法がぶつかったっ!でも軽い衝撃があるだけで全然ダメージがない。すごいなあ、このメイド服。

 ……とか、思ってたらなんか攻撃が止んだ。

「トランペットパート、攻撃中止!話を聞きましょう!」

「はい!」

 ……最初からそうしてくれよっ!




「……ということで、この池に落としてしまった指輪を取ってきていただきたいのです」

 ええとですね。吹奏楽部の人たちは人が変わったように話を聞いてくれました。

 そして、『自分の主人がくれた指輪を裏手の池に落としてしまって、それを取ろうとして池に潜ったはいいが溺れて死んでしまった、自分は幽霊なので水に入れない。なので指輪を取ってきてほしい』というような事を伝えた所、あの威勢のいい「はい!」と共に、役割分担がさくさくと決められて、池に潜る準備をし始めてくれた。

「それで、この家を頂けるんですね?」

 そして、このパートリーダーらしき女の子はとことん現金である。

 うん。嫌いじゃないよ。話が早く進んで助かるし、元々現実的な人は割と好きだよ。

「はい。もう誰も住んでいない家です。今まで癖でずっとお掃除はしていましたが、家だって住む人が居ないよりは、新しい人たちが住んでくださった方がきっと喜びますわ」

「ここには何人ぐらい住めますか?」

「一時は使用人たちが沢山おりましたから、80人は余裕をもって住めますわ」

 一応ベッドは100人分用意しました。はい。何人いるか分からんからなあ。

「そんな家をずっと1人で掃除してたんですか」

 おお、なんか同情してくれてるのかな?うん、ますます嫌いじゃないぞ。この人。

「ええ。毎日少しずつ、順番にお掃除しておりました」

 そして、話していたら池から人が出てきた。

「ありましたー!これですね?」

 その手には指輪がある。うん。これはこのパターンAの為にわざわざ池に落としておいた指輪(最大MP上昇)です。ちなみに加鳥謹製。


 ……しかし、ここで想定外の事態が発生したのである。


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