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78話

 吹奏楽部の人たちにお引越ししていただくこの家は、シンメトリーな造りの3階建て。

 竈や井戸も完備、玄関入ってすぐはエントランスで、その奥へ進んだ所にある食堂は100人が入れる広さ。

 そして個室にはベッドや椅子や机があり、クローゼットの中には服も一式揃っております。

 外には果樹が繁り、手入れの行き届いた畑には芋や人参が大量にあり、そして花が咲き乱れる中庭まである非常に快適な居住空間となっております。

 ……どう見ても揃いすぎです。本当にありがとうございました。

 つまり、『用意されてた感』が半端ない。

 ならば、『用意されていた』という設定を作ってしまえばいいのである。

 ここは異世界。色んなことが起こります。そして、どんなことが起きてもおかしくないのです。

 例えばだな、ひたすら主人の帰りを待ち続けて家の掃除し続けてるメイドの幽霊が出るとか。




 という訳でシナリオはこうだ!

 吹奏楽部の人たちが入ってきたら、浮いてる幽霊メイドがお出迎えする。

 この時点で斬って捨てられたらパターンBに入るし、ここで対話の余地があったら、パターンAに入る。

 パターンAは、『メイドの幽霊を成仏させよう!』ルート。

 吹奏楽部の人たちにちょっとご足労頂いて、なんかしかの達成感を得られるようなお使いをしていただき、その報酬として、この家をあげる、というシナリオ。

 で、パターンBの方は、『家にとりついたメイドの幽霊を除霊しよう!』ルート。

 こっちは完全に敵対モード。

 斬られそうになったらすぐに(これができるかが不安なんだけども)『転移』して、家のあちこちを飛び回りつつポルターガイストとかで攻撃して、適度にやられて除霊される、という。

 除霊後は毒の沼地が花畑になるとかそういう分かりやすい変化があるといいかもね。


 ……という提案をしたところ、案の定猛反発を食らいました。

「えー、それ、舞戸さんが危険すぎるでしょ」

「身の程を知れ」

 ……うん、まあ、そう言うなよ。NPCっぽくて、尚かつずっとそこに留まっていなくていいっていうキャラクター設定が幽霊だったっていう。

 いや、だってさ、生きててみ?ここあけ渡すのおかしくね?というか仮にそうしたとしても私ここに永住しないとおかしくね?そしたら私の冒険はここで終わってしまった!になってしまう。それはいかんよ。

「ええと、さ、それ、フルフェイスの甲冑着た俺がやってもいいんじゃない?」

 鳥海がそう提案してきたが、考えてみて欲しい。

 幽霊メイドと幽霊甲冑、どちらにより対話の余地があるか。

 ……絶対前者だろ!つか、家のドア開けたら奥から甲冑出てきてみ?怖いよ!絶対怖いよ!そしたら間違いなくパターンBに入るね!……パターンBの何が悪いって、家の中に被害が出るとか、怪我する可能性が高いとか、そういうことだけじゃなく、なんとなく平和感が薄くなることだ。

 ここはお家なのだ。ダンジョン『幽霊騎士の出る廃屋』みたいに認識されちゃあ不味いのだ。

 ダンジョンに住みたいか?いや、無い。

 まあ、その分勝ち取った感は強くなりそうだけども。

 ……まあ、そしたら、幾ら甲冑着てても声出したらばれそうな鳥海よりは、まだ吹奏楽部の人たちと面識が無く、それでいて見た目や恰好を大分自由に変えられる私が適任じゃないですかねえ?っていう。


 まあ、最終的には皆さん折れた。何故かっていうと、パターンBに入っても割と勝算があるから。

 なんというか、メイドさん人形達の視覚を駆使すれば、割とどうにかなりそうだよね、っていう。

 後方からの攻撃も全部お見通しな訳だし、いざとなったら心眼みたいな事もできてしまう。

 鈴本に延々と見切りの練習をさせられたからな、結構自信あるぞ。

 相手が棒状の武器もった人間で、かつ弱ければな。

 そして『魔法無効』のメイド服着てれば魔法は受けても大丈夫。

 魔法に対しては無敵。無敵である。無敵である。

 繰り返す、私、無敵である!

 だから成仏する為の止めは魔法って事にして、物理攻撃は全て躱した上で魔法に当たって、その魔法で成仏したふりして『転移』すれば無傷でやられたふりまでできちゃうのである。

 勿論、パターンAになるに越したことはないし、それを目指すべくファーストコンタクトはしっかりがっちり向こうさんのハートを掴みに行きたいと思います。はい。




 という訳で、私は幽霊っぽくならねばならない。

 幽霊ってからには足が無いとか、浮いてるとか、透けてるとか、そういう何かが欲しいものである。

 ……『変装』は、髪や目や肌の色を変えられるスキルである。あるが……もしや、透明にできたりしない?ということで無色透明変装。

 やってみました。できました。

 できたよ。できちゃったよ。グラデーションもできるよ。

 これで私幽霊どころか透明人間もできるよ!もちろん服は透明にならないので透明人間やろうとおもったら全裸必須だけどな!何かの拍子にスキル解けたときが怖いから絶対やらねえ!


 ということで、脚をこうグラデーション式に透明にしてローズマリーさんver.幽霊になることに成功、したんだけど……。

「なんか……あんまり幽霊っぽくないよ、舞戸さん」

 ……何故だ。

「ロングスカートで足透明にしてもさ、見えないって」

 ……成程!




 ということで、大急ぎで一着、膝下丈位までのメイド服をこさえた。

「こ、これでどうだっ!」

「いや……なんか違う……」

 しかし、皆さんの反応は芳しくない!

「お前表情が生き生きとしすぎなんだよ」

 ……死んだような顔すればいいのかね?

「お前顔色良すぎ」

 肌の色もうちょっと白くする?既にホワイト人間だよ?

「色味が明るすぎるのかも。彩度落としたらどうかなぁ?」

 ……。

 というように、色々と文句を付けられたので結局髪と目を淡い青灰色にすることに落ち着きました。

 もうこれローズマリーさんじゃない。




 と、ここまでくれば後は待つだけの簡単なお仕事なので、パターンAの準備したり、この家の周りに植林したり、他の皆さん方がここら辺のモンスターを掃討したり、果樹伐採したり、食べられる植物抜いたりしながら、吹奏楽部の皆さんがこっちの方に来るのを待つことになるね。


 ……お分かりいただけただろうか。

 この作戦、始まるタイミングが完全に相手任せなのである。

 今にも来るかもしれないし、三日とか掛かるかもしれない。

 非常に不安定な始まり方をするわけで、しかし、常に私がステンバーイしておくのはちょっとしんどいので、メイドさん人形達を常駐させておくことにした。

 常に視界を『共有』しておけば、来るタイミングも分かるからね。


 ということで、私はいつでも幽霊メイドできるようにしつつ、相良君達の資金源を縫う作業。

 他の皆さんは音楽準備室を拾いに行きました。

 川へ洗濯山へ芝刈りレベルで言ってるけど、実際は割とモンスターも強いし、ケトラミダッシュもできないしなので皆さんの方は結構重労働である。

 帰ってきたらすぐご飯にできるように仕込みもしておかないとなあ。

 今日は何にしようかなあ。そろそろまた魚でもいいね。焼き魚で和食にしようかなあ。




 結局その日、吹奏楽部の動きは無かったので、普通に晩御飯食べて寝ます。

 ちょっと久しぶりのお魚は好評でした。

 たださ、焼き魚にするとさ……骨取る間、皆集中するから会話が無くなって寂しい。

 さて、これから寝る訳だけど、メイドさん人形を4体1組にして、交代で起きて見張りをするように頼んである。

 それで、もし動きがあったら私を起こせ、とも言ってあるので安心して寝ます。おやすみなさーい。




 おはようございます。

 メイドさん人形に確認を取った所、『異常なし!』みたいな感覚が返ってきたので動きはまだない模様。

 まあ、近辺に果樹が無くなったからって言ってもすぐにこっちまでくるわけも無いしなあ。


 ということで、朝ごはん食べてすぐ、皆さんはお弁当持って音楽室系列の教室の回収に行きました。

 待機してなきゃいけないのって私だけで、しかも教室の回収に行くのに私はむしろ邪魔と来たもんだ。

 うん。満を持して皆様いってらっしゃいませ、だよ。

 ここで皆して立ち往生してても時間の無駄だもんね。

 そして私はというと、やる事が無くて只の服製造マシンです。

 一応MPがからっけつになったりしないように気を付けながらMP使ってます。幽霊メイド(MP0)とか、ちょっと笑えない。


 延々と服を作り続けて4時間程度で、メイドさん人形から『そろそろ動くかもよ?』みたいな感覚が送られてきた。

 ……うーん、なんというか、メイドさん人形って、喋らないのだ。なのでこう、感覚、というか、なんというか、そういうぼんやりしたものが送られてくるだけで……『共有』による意思の疎通は難しかったりする。

 視覚とか聴覚なら確実なものが分かるので、そっちと照らし合わせながら、って事になるね。


 で、吹奏楽部の動きはというと、狩りに出かけた割と戦闘力の高いグループが獲物を見つけられずに帰ってきて、素早さの高いグループが果樹の群生地を見つけて帰ってきた、といった状況。

 ふむ、このままいくと果樹の方向に進んでいくしかないから、そのまま果樹を辿っていけばここに辿り着くぞ。

 果樹の実は適度にもいでおいたので、一本の木からとれる分量は少ない。

 ならば木から木へと移っていかないと人数分の果物が取れないので、いつまでも停滞していられない、ということで。

 早ければ今日の夕方にはここを発見するだろうね。

 一応皆さんにもそういう報告をした所、皆さんは皆さんで『音楽準備室』を回収し、第二音楽室や音楽研究室を探しに西へ進んでいるとの事。

 今日中にもしかしたらその2つも回収できるかも、との事。頑張って下さい。


 服を縫いつつ監視を続けていたら、遂に果樹の群生地に何人かのグループが辿り着いて収穫を始めた。

「トランペットは辺りの警戒、クラリネットは果物の収穫をしてください!」

「はい!」

「では作業を始めてください!」

「はい!」

 ……メイドさん人形の聴覚借りてたらこんなのが聞こえてきた。

 そうかあ、やっぱりトランペットとかは前衛戦闘職っぽいもんなあ。クラリネットはやっぱり素早いのかね、指回し的なイメージで。

 ちなみにメイドさん人形はどこから彼らを見ているかっていうと、果樹の周りの果樹じゃ無い木の葉っぱの陰からである。

 彼らに見つかったらすぐ飛んで逃げるように言ってあるので大丈夫……というか、彼らは気づく気配が全くない。果樹に夢中の模様。うん、まあ、気持ちは分かる。


 結局その日は吹奏楽部の人たちもそんなに前進せず、近い所から順に果実を採りつくして帰って行った。

 うーん、ここを見つけるのは明日になるかなあ。

 割と果樹群生地から近いから、果実採りつくすころには絶対見つけると思うんだけど。思った以上に彼らは慎重派のようです。


 そして私は大分服製造マシンと化したので、できた服をジョージさんの質屋に置いてきました。

 そしたら三浦君と岬さんのロミジュリ劇場を見せられたり花村さんに懐かれたりしたけど概ね元気です。

 うん。前半でHP削られたぜ……。

 尚、相良君達はロミオとジュリエットにもう慣れた模様。

 人間は適応できる生物だけど、それにしても凄い。目の前でロミジュリ劇場やってるのに誰も反応しないんだもん。凄い。

 唯一ジョージさんだけが居心地悪そうにしてるのが何とも。うん、頑張ってください。




 という訳で、皆さんが帰ってきたので晩御飯。

 から揚げで晩御飯にしたらえらく大量に食われて貯蓄分の鳥肉が無くなりましたが私は元気です。

 ホントにから揚げ好きねー。君達はから揚げを定期的に大量摂取しないと死ぬ病かなんかに侵されているのかい?

「とりあえず今日は『音楽準備室』『第二音楽室』『音楽研究室』を回収してきました。これで音楽関係はコンプリートですね」

 そしてみなさん、この快挙である。これで北棟2Fは……ああ、まだあった。因縁の英語科研究室って奴が。

 ……うん。皆さんもそこんところは覚えている模様。

 うん。英語科研究室は福山君他数名の生徒がいた、っていう教室である。

 福山君はあそこからどうやって1F南のエイツォールまで辿り着いたんだろうね。うん。そこんところも調べられればいいんだけど。

 まあ、何はともあれ、多目的ホール回収計画と同時進行で2F北棟回収が進められて良かったです。はい。ここで立ち往生とかちょっと笑えないからね。


 明日の計画は、他の人たちは英語科研究室の回収、私は多分幽霊メイド、それまでは待機、って事になるね。

 皆さんの方に関しては、北棟の東の方ならケトラミライディングができるから、さっさと回収できるんじゃないでしょうか。

 時間があまったら中庭の方も見てくるそうです。うん、なんか島があるとか言ってたもんね。

 では明日の計画が決まった所で寝ます。おやすみなさーい。


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― 新着の感想 ―
[一言] ミニっツメイドが直接住居監視(潜入)でもいいのよ? リーダーに通信器渡すとか。
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