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76話

 なんかジャガイモ手に入った時点で食べたかったのに今まで作ってなかったアレを作りますよ。はい、コロッケです。油とかパン粉とか結構貴重なものを使わないといけない上、加熱過程が肉を炒める、芋ふかす、揚げる、というように3段階もある超燃料食いな料理なのです。

 けど今や大抵の食材は手に入るし、燃料は私のMPだから問題ないんだよね。

 ということでひたすらコロッケを制作する機械と化してコロッケ作りますよ。


 コロッケって一人で作るとなると大変なのだ。

 成形する人、小麦粉付ける人、卵付ける人、パン粉付ける人、って具合に分業できると楽なのである。

 ということでひたすらメイドさん人形さん達を動員。こういう時に人手があるっていいなあ。人っていうか人形だけど。

 いまや全てのメイドさん人形達がドッグタグのミニチュアを貰って、それぞれにスキルを1つずつ入手したみたいなんだけど、それら全部が魔法なんだよね。早い話が全部カタカナ。

 一番多いのは『ヒール』。これは怪我を治す魔法。

 次に多いのが『プチウィンド』。ただ普通の強さの風が限られた範囲で吹くというよく分からんスキルなんだけども、体の軽いメイドさん人形達はこれに乗ってより速く飛んだりできるみたいである。

 他にも『プチファイア』だの、『プチアイス』だの、そういうプチプチしたかんじの魔法が揃っていたりする。

 ……別にさ、そんなにプチプチしなくてもいい気がするんだけども。やっぱり小さくないと駄目なの?




 コロッケも後は揚げるだけ、という所で皆さん帰還。

「お帰りなさいませ今日はコロッケです」

「ただいま。ちょっとめんどくさいことになったかもしれん」

 ……ほー?

「まあいいや、それはご飯のときでいい?私も『アライブ・グリモワール』さんとちょっと話した結果情報が入ったので」

 それでいい、との事だったので、さっさとコロッケ揚げちゃいましょう。


 コロッケは好評でした。なんか周期的に食べたくなるよね、コロッケ。

 そしてご飯を食べながら皆さんの報告を聞くことに。

「吹奏楽部を見つけた。ここから南にケトラミなら一瞬の距離だ。俺達でも10分かからずに着いた」

 ……ほう。

「持ち前の団結っぷり発揮してた。で、そこに合唱部の人が3人来たらしいんだが、追い返したんだと。で、その3人と思しき宝石も3つ見つけてきた」

 社長が懐から布に幾重にも包まれたそれを机の上にそっと出した。

「で、一応教室集めの事とかも話したんだが……あいつらは協力はしないそうだ。多目的ホールも渡さない、と。……というか、あいつらどうも教室を移動できるという事を知らないらしいな。聞かれなかったので教えなかったが」

 うわー、それはなんつーか……うん、実は私、ちょっとそれは予想ついてた。

「何でかなー、ここは協力してさっさと集めちゃった方が早く帰れるじゃん。俺そこが良く分からなかったんだけど、あの排他的な空気何?」

「あ、それ、僕も思ったよ。なんか軍隊みたいだったよね、吹奏楽部」

 ……皆さんには理解できないようだけども、うん、想像はつく。なんとなく分かる。

 うちの高校の吹奏楽部って、人数が多い。吹奏楽コンクールのAの部に出る人を決めるオーディションがあるレベルらしいから、60人を超える部員数なわけで。

 で、彼彼女らって、その人数で団結するために、凄い……なんというか、ええと、独特の空気と言うか、独特の規則というか、そういう物を設けて、それで団結してるのよね。

 で、それが……この異世界と言う非常に過酷な状況になっちゃうと……どういう方向にその空気が働くかっていうと……。排他、と。

 団結の方法としては他の追随を許さぬ強固さだろう。排他。

 只、それを行った結果、合唱部の人たちは死んだ訳だ。……うん、暫定、ね。

 勿論、こんな状況下で他人まで助けろとかは言えない。

 私たちは余程最初から敵対されでもしない限りは助けよう、っていうかんじの方針を貫いてるだけだし、(私を除けば)それがなんとかできそうな位の能力があるからこそ、そういう事を言ってられる訳だ。

 ……けど。もし、能力が無かったら。

「ね、一応確認ね。吹奏楽部の人たちって、スキル持ってた?」

「察しがいいな。持ってたが、殆ど全員が精々いいとこ3つまでだ。補正も凄く小さいみたいだな。部長とかパートリーダーとかだけは、スキルも2桁持ってたり補正が大きかったりしたみたいだ」


 ここで思い出そう。

 まず、角三君だ。

 角三君はこの世界に落とされた瞬間から『騎士』だった。

 これは、多分一人でトイレという非常に要塞としても住居としても使い勝手の悪い部屋からのスタートだったから、その分なんかボーナスが付いてるんだろう、位の認識だった。

 次に、あんまし思い出したくないけど、福山君。彼も多分、『騎士』かそれに準ずるものだったはずだ。

 一人で、廊下……つまり、川からスタート。これも不利な状況からのスタートだとボーナスが付く、っていう仮説を裏付けるのに役立ってくれると思う。

 この2件から言えることは、多分、スタート地点とスタート地点に居た人数によって、補正の強弱や職業が変わってるんじゃないか、っていう事。

 じゃあ。60人を超える人数で、非常に広く頑丈なホールからスタートする彼彼女らには、角三君や福山君とは逆の補正がかかるんじゃないだろうか。

 つまり、弱体化、と。いや、ちょっと言い方が変かな。基準を元々の私達とするなら、多分強化なんだけど、その程度が凄く低い、と。


 ……ここは異世界だ。何度も言うようだけど、異世界だ。

 魔法も使えるしよく分からん法則が闊歩してて、しかもモンスターがうじゃうじゃいる異世界だ。

 そんな中で一人一人がそんなに強く無く、しかし人数は凄く多い彼彼女らが取れる生き残り戦略と言うのは、もう『団結』という事に尽きる。

 そして彼彼女らがその生き残りをかけた『団結』の為に、合唱部の人を排斥しようとした、という事を責めることはできない、と、思う。

 ましてや、もし合唱部の人たちが滅茶苦茶強かったら、それはむしろ恐怖の対象になるんじゃないだろうか。

 自分たちと立場は同じ、しかし、圧倒的に力に差がある同級生。

 そしてここは異世界。何されるか分からない。圧倒的な力の差があれば、それこそ、60人以上を奴隷のように扱うことだって可能かもしれない。

 だったら……追い出して、その結果、死んでしまったとしても……緊急避難的な、そういう意図であって……そもそもそんな状況下でまともな判断力があるとは言いがたいし……。

 うん。まあ、そういう事。

 つまり、彼らを責めることはできないよね、っていう。そういう事。

「で、だ。俺達がその部長達よりも遥かに強いらしい、という事が分かるや否や集団で襲い掛かられて、とりあえず社長が土壁を作って……それで逃げてきた」

 うん、もう一度言おう。

 私たちは余程最初から敵対されでもしない限りは助けよう、っていうかんじの方針だ。敵対されでもしない限りは。

 ……うん、まあ、向こうも関わり合いになりたくないらしいし、今回は以前の峯原さんの時とかとは違って別に向こうを倒さないとこっちに身の危険が、とかそういう話じゃないから、お互いノータッチで行けばいいかな。勿論、追撃とかしてくるようなら、その時は考えるけど。




「で、私の方かな、次は」

『アライブ・グリモワール』さんから聞いた話をざっと説明する。なんとなく私の解釈も混じっちゃってるので、その部分はその都度注釈を付けつつ、っていうかんじで。

「……で?お前は合唱部の人たちを生き返らせるために僕とか鈴本にやったみたいなことをしようとしてる訳?」

 羽ヶ崎君が嫌そうな顔をしている。うん、君には色々筒抜けになっちゃったからなあ。

「いや、流石に顔も分からないような人の為にそこまでできる程私は人間できてないかな。……いや、あのさ、言い方は変だけど、募金みたいなのをちょっと考えたんだよね」

 つまり、私の他に『共有』できるような人がいれば、その人と協力して、大勢の人から少しずつ命を分けてもらってだな、それでちょっとずつ注いで1人分にすればいいんじゃないかな、と。

「ね、ねえ、俺よく分かんないんだけど、命ってそんな単純なもんなの?」

 ちょっと針生が頭抱えてるけど私は知らん。

「知らんけどこの世界ではそうらしいんだよね、どうも」

 まあ、この世界は異世界だし、こういう事があってもいいと思うんだ。というか、そうでもなきゃとてもじゃないけどやってらんないよ。

「じゃあ、膨大な魔力とやらと、異物で満杯になった器を綺麗にする手段と、命があれば生き返る、ってことですか?」

「『アライブ・グリモワール』さんの話だとそうだね」

 信憑性は割とあると思う。未だにあの本なんなんだかよく分かんないんだけどもね。

 ……いや、ほんとにあの本何なんだ?今度話しに行くときはそれも聞いてみよう。気になりすぎる。




「あ、言い忘れてたが俺の職業が変わった。『侍』だと」

 そして急にこの鈴本の宣告である。お茶吹くかと思った。やめてよ!

「俺も変わりましたが……『狂科学者』だそうです」

 社長は……狂ったか、遂に。

「俺『忍者』!」

 針生はアサシンから忍者に。……君、忍べるの?

 ということで。加鳥も合わせて4人が2回目の転職?となったわけですが、私は一向にメイド……ん?

 あれ?

 あ、あ……ええと、よし。これは多分夢だ。

「とこよ!私の顔抓って!」

 とこよに頼むと、すぐに飛んできてそのふかふかの手で一生懸命抓ってくれた。うん、あんまり痛くないけど、夢じゃない気がしてきた。

「……おお、よかったな、舞戸」

 ドッグタグをのぞき込んだ鈴本が苦笑いしている。他の人も覗きこんでは「あーやっぱり」みたいな顔をしていく。

 うん。……うん。ええと、ですね。ドッグタグに、1文字増えました。

『メイド』が、『メイド長』に、なっておりました。

 ……やったぜ!私『メイド長』っ!メイド脱出おめでとう私!

 なんか、メイドさん人形達がみんなドッグタグのミニチュア付けたから、っていうのに関係ありそうだなあ。

 ふふふ、しかし、これで私もきっと戦力がアップしているに違いない!だって『長』だよ?『長』。それはそれはきっと、きっと何かが変わっているに違いないっ!ならば実験だ!

「鈴本!右ストレート頼むよ!華麗に避けてくれるわ!」

「そうか、じゃあ遠慮なく」

 遠慮なく、の、く、が聞こえた瞬間ぶん殴られてた。

 ……駄目だ、見きれない。つか、見えない。

 ドッグタグを確認してみるも……増えたスキルも特にない。

 ……ええと、私、転職、したんだよね?




 結論から言うと、『メイド長』になったものの、私自身の性能、特に変わって無さそうでした。攻撃力は皆無、防御力は紙、敏捷力もそれなり。

 ど、どうしてこうなった!ぬか喜びを返せ!


 ……ただ、私自身の性能は変わってなかったんだけど、2つ、明らかに変わったスキルがあった。

 1つ目は、『共有』。これ、多分、元々こういうスキルだったんだと思う。今までの使い方が変だったんだ。

 これ、メイドさん人形達となら、触れていなくても、離れていても、視覚聴覚意思記憶その他諸々が共有できる、というもの。

 この使い方をすれば私はメイドさん人形達の司令塔になれるって事だ。

 つまり、このスキル、多分、『メイド長』として『メイドさん』達を纏める為のスキルだった、ということ。

 ……だったらもっと早く『メイド長』にしておいてくれよドッグタグさんよおっ!


 っていうのは置いておいて、2つ目。

 これは……『お掃除』。明らかに消費MPが減って、効果範囲が広くなった。

 今やケトラミさんの全身を綺麗にするのに普通サイズのハタキ3振りで終了だ。

 けど、相変わらず消す対象のイメージは難しいし、地面を単に掃除するんじゃなくて消したりするような時には、凄くMP食う。

 つまり、消す物の質量だか体積だか分からんけど、それに比例したMP消費である事に変わりは無い模様。それでも相当減ったと思うけど。


 もしこれから私が戦闘するとしたら、この効果範囲が広がった『お掃除』と、メイドさん人形達の連携がカギになるんじゃないかなあ、と思われる。

 っつっても、メイドさん人形達自体の戦闘力はみみっちいもんだしなあ……。

 メイドさん人形を強化したらいいんじゃないかと思って薄い金属板でメイドさん人形用の鎧を加鳥に作ってもらったんだけど、装備させた瞬間に『メイド』の領域から外れたらしく、動かなくなってしまった。武器を持たせた場合も然り。

 ……そ、それでも遠くまで目と耳が届くようになったと考えれば、まあ、いいと思うんだ!

 これから私が役立つようになる、かも……しれない。うん。もしかしたら。メイビー。


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― 新着の感想 ―
[良い点] メイド長! [気になる点] お盆(金属トレイ)、フライパン、包丁、ハタキ槍、お鍋、チリトリ、デシリットルビーカーとかフィンガーボウルとか混ぜ棒とかまな板とかブラシとかとか。 [一言] とり…
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