74話
何やら私のせいで出発が半日ちょっと遅れたけれど、無事皆さんは北棟西階段を攻略したようなので、満を持して2F北西エリアの探索に出かけます。皆さんが。
……ホントにさあ、思ったんだけど、既に昨日の時点で2F北西エリアの探索には皆さん、出られるはずだったんだよ。私がケトラミさんを布団にするとかいう馬鹿なことしてなければさあ!
ケトラミさんもケトラミさんで私の布団になりっぱなしていたので、例のケトラミライディング法が使えず、皆さんの探索もストップしていた、と。ホント私クズだなっ!
尚、私がぐーすかしてる間に装備の分配は終わっていた模様。
鈴本は着物を見つけたんだけども、そっちの性能って『水耐性』だけだったらしく、相変わらず例の鳳凰の着物を着ている。なんだー、嫌とか言ってたのに着てるじゃん!……うん、ごめん。
羽ヶ崎君は例の薄青い結晶を銀で飾ったような杖になんか乳白色の雫形の石の飾りがぶら下がった。
『魔法効果上昇』のペンダントを杖に付けてる模様。
社長は……何も変わらないんだけど……何やら、新たな毒物を手に入れてしまったとかで、ちょっとこちらとしては戦々恐々するしかない。
角三君はかなり変わったね。鎧が一新されてますますスタイリッシュ。マントが風に靡く姿は正に騎士!……マントだけ後でつくりかえた方が性能良さそうだね。考えておいてもらおう。
針生は軽い鎧を一部変えて、後は投擲具が増えた模様。メインウエポンの短剣はそのまま。
こいつも服を後で作った方が性能良さそうなので考えておいてもらおうかな。
加鳥は……酷い!もう酷い!ちょっと余りにも酷いので説明は後!
鳥海は盾を変えた。ますますでかくなって名実見た目共に壁役になっていくなあ、こいつ。
刈谷も結構変わったね。神官っぽい服の上に軽い鎧を付けるようになった。前までは鎖帷子だったからね。防御力がかなり上昇したんじゃないかな。
で、飛ばした加鳥についてですが、こいつの変容っぷりはますます凄い。ついに、こいつの職業を変えてしまう程度には。
「やっとパーツが全身分揃ったから、やっと全身装備になったんだよね」
そうか、それは良かったね。
……こいつはついに、製造改造も駆使してオーパーツを全身分揃えてしまった。それを全部装備した結果、パワードスーツに全身をおおわれてしまい、外からパッと見た感じがロボットかなんかのようになってしまった。
そして、職業が変わってしまったらしい。『銃士』だったのが、『機械戦士』になっている。……ついに2回目の職業変更者が出てしまいましたが相変わらず私はメイドです。
はい。落ち込んでますけど元気です。はい。
『機械戦士』は強かった。元々単発の火力は一番でかい奴だったけども、もう、その比では無い。大量虐殺向きになった面もあるし、力を絞って一点集中させる事もできる。
加鳥はかように恐ろしい技術も兼ね備えたとんでもレーザー兵器と化していたのである。
私はこいつをこっそり巨神兵と呼ぼうか迷ったけどやめた。別に早すぎっちゃ早すぎだけども腐ってはいないし。
ということで、モンスターが強い事で警戒していた2F北西エリア。
我が部の巨神兵……じゃない、『機械戦士』の独壇場と化し、向かってくるモンスターを悉く焼き払いながら進んでいくことになった。
……えーと。ケトラミライディングしないのか、っていうのに対しては……できませんでした、と言うしかない。
何故かっていうと、ここら辺のモンスター、ケトラミさんを恐れずに向かってくるのだ。そして、数が凄く多いのだ。それこそ、ケトラミで轢殺しながら進むのすら、躊躇われるほどに。
そして、今の皆さんの敵ではないようだけど、やっぱりここらのモンスターは強い。
少なくとも、私だったらタイマンでも勝てない。(私を戦闘の指標とするのはちょっとどうかと思うけども、少なくとも補正無しの人間だったらまず相手にならん、っちゅーことです。)
なにがあれって、悲しい事に、ここら辺のモンスター、速すぎてどう動いたのかが見えないのだ。
気づいたら私の後ろに薄緑の蝙蝠みたいなのが現れてて、おもいっきり首筋噛まれたりした。しかも血吸われた。
……話変わるんだけど、血って美味しいんだろうか?ちょっとその薄緑の蝙蝠捕まえて『共有』して感想聞いてみたかった気もしたんだけども、噛まれて吸われた直後にやっぱり見えない速度でやってきて刀一閃で蝙蝠をずんばらりんしてくれちゃった鈴本のおかげでそれは叶わなかった。
……ま、なんかのんびり話しちゃったけども、首の骨は見えてたらしいし、割と重傷だった模様。羽ヶ崎君談。
そして『毒耐性』があったおかげで大事にはならなかったけども、これ、毒があったようである。
他のモンスターがこの蝙蝠に噛まれたときは思いっきり出血して溶けてえらいことになっていた。
超スプラッター。見なきゃよかったけど後の祭り。
これで喜んだのは案の定社長だけだった。というか、喜ぶなよ、お前も!
そうしてのんびりと(っつっても相当な速さで)行進していき、途中でお昼ご飯も食べ、そしてまた進み、日が暮れるころ……音楽室っぽいのを見つけた。
とりあえずドアをノックするけど、返事が無い。
待っても全く返事は無い。
人がいる気配も無い。
……もしや無人?と思ってドアを開けようとすると、鍵が掛かっている。……おおう。
窓の方に回ってカーテンの掛かってない窓から覗いてみると、人は居ない。できる限り色々見てみたけど、人は居ない。しかし、全ての窓にも鍵がかかっているのである。
……これ、密室だよ!
「どうしてこうなった」
「あー……ほら、この世界に落ちてきた時に、この教室には誰も居なくて、で、鍵かけてあった、とか……」
……ここは一応、合唱部の部室になってたはずなんだけども、我々、誰も合唱部に知り合いなんて居ないので、合唱部の活動日とかも分かりません。よって、その仮説があってるのかも分かりません。
「もう死んで風化してるんでしょうか」
「社長―、縁起でもないこと言わないでよー……」
例え……考えたくないけど、死んでたとして、流石に死体の欠片ぐらいは残ってないとおかしいんだよなあ。
「ま、いいや。入ろ入ろ」
そして針生が扉をがらりと開けて中に……ん?
「待て、そこ、鍵が掛かってなかったかね?ん?」
「あ、ピッキングしちゃった」
……君もアサシンから泥棒とかにクラスチェンジしたらどうかね?
とりあえず全員音楽室の中に入ってみたものの、やっぱり誰もいなかった。ということで、早速この教室の宝石を探す。……すぐ見つかったよ。
「あった」
「あったぞ」
「あったー」
……んっ?声を上げた人全員が、宝石を持っている。私も、持っている。
ええっと、これはどうしたことかな。3つは偽物で1つが本物、とかなのかな?ま、いいや。『鑑定』。
『平野由香:死因『餓死』』
これは。
顔を上げてみると、社長と刈谷が同じような強張った顔で、2つの宝石を眺めていた。
「……おい、どうした。説明しろ」
鈴本が説明を求めてくるけど、これを、これをどう説明していいのか分からない。
「……これは……墓標です、多分。名前と、死因、が」
社長がやっと絞り出したように説明すると、『鑑定』できない人たちも皆そろって同じように強張った表情になってしまい、暫く誰も何も喋れなかった。
「合唱部は3人だけじゃなかったはずだ。この近くを探そう」
ようやく鈴本が声を出し、私たちの明日の方針が決まった。
合唱部は、私の記憶が正しければ、合唱コンクールのAグループにギリギリ出場できる、とか言っていたはず。
合唱コンクール高等学校部門のAグループは出場人数が8名以上からだったはずで、指揮は先生がやってたにしろ、伴奏は誰かがやってたと思うから、9人。
……最低でもあと6人、居たはずである。
室内を探しても他に宝石も人も無かったから、外、だ。
「とりあえず今日は全員もう休もう。捜索は明日からだ」
鈴本が号令をかけて、全員音楽室を出て、展開した実験室に入る。
……実験室に居なきゃいけないのはご飯作らなきゃいけない私だけなんだけど、なんとなく、皆さん、皆で一緒に居たいんだろう。
思い思いの場所に座るなりなんなりして、ぼんやりしながらご飯ができるのを待っていた。
私もぼんやりしながらご飯つくったので何作ったか覚えてない。で、皆さんと一緒にぼんやりしながら食べたので何食べたかもよく覚えてない。
殆ど何も喋らずに全員でご飯を食べ終えて、全員『お掃除』で綺麗にして、少し早かったけど、全員寝ることになった。
私も片付けてから寝る事にしたんだけど、寝付けない。
色々考えちゃって寝付けない。
外はモンスターがあまりに多いので、ケトラミさんと一緒と言えども外で寝るのは危険、という事になり、今日は1人寂しくお布団で寝ることになってしまった。
……メイドさん人形達はこの異質な空気を読んだのか、各自のお布団(各自で作った模様。気づいたら棚の上にメイドさん人形サイズの布団が並んでいた)で寝ていて、こっちに来ない。
ハントルはケトラミさんと一緒にご飯に行ってしまったので、居ない。
気づいたら化学講義室のドアを叩いていた。
叩いて少し間をおいてからドアは開いて、ちょっとびっくりしたような顔の鈴本が出迎えてくれた。
「どうした?」
「今日こっちで寝てもいい?場所ある?」
言うと、鈴本は何か言いたそうな顔を一瞬したけど、すぐに中に入れてくれた。
「あれ、舞戸さんどうしたの?」
「今日だけこっちに泊めて」
他の人も不審がるのは一瞬で、すぐにもそもそ布団を移動させて私の分のスペースを作ってくれた。
私は私で持ってきた自分の布団をそのスペースに敷いて、そこで就寝。
他の皆さんも各自勝手に就寝。誰かが何かを喋る訳でもないんだけど、静かなんだけど、人がすぐ近くにいるってのは予想以上に落ち着くもので。
……今度はあまり色々考えずに眠れそうです。おやすみなさい。




