72話
とりあえず、鈴本は許した。というか、まあ、しょうがないよ。私はあんまりこの理論好きじゃないんだけど、正常な判断ができない時にした犯罪については咎めるべきでは無いっていうのがあるじゃない。
だからもういいや、っていう。
鈴本だって気持ち悪がった挙句鳥肌立ってたし、まあ、両者痛み分けって所だろう。
……痛み分け、ってか、私が痛みもらいすぎだけども……まあ、その分鈴本には精神的ダメージがあったと考えれば許せるさ。うん。
とこよ達のおかげで肋骨とかが治ったので、私は晩御飯の準備に取り掛かることにした。
鮪は置いておいて、今日は久しぶりに肉。あんまり鮪が続くとありがたみが失せるからね。
しかし、なんだかあんまりこってりしたのは食べられそうになかったんで、冷しゃぶみたくすることに。
それで酸味の強い柑橘類の搾り汁と合わせてだな、あっさりさっぱり行こうと思います。
……ほら、幾ら教室の中が外よりかは暑くないっつっても、冷房係が休養中だからさ……。
あ、休養中でもなんでも、とりあえず肉冷やすための氷は貰いに行きました。
ごめん。でもご飯の為だ。許せ。
休養してる連中も一丁前に肉を食べたがったので急遽作り足したりしたけれども、無事ご飯も終わりました。
……自重してお粥とかにしておかない辺りがこいつらである。うん、自己責任で頼むよ。
「で、とりあえず俺達は2F北西を探索、っていうことになるのか」
寝てた奴らにはいままでのあらすじっちゅーもんをざっと説明した。
それを踏まえて、今後の方針を決めようと思います。
……っつっても、大方もう決まってるんだよね。1F北は穂村君達に任せて、私たちは2Fを探索、っていうのがいいんじゃないかと思う訳よ。
「あー……その前に、だな、舞戸、お前着物って縫える?」
……が、鈴本が言いにくそうに言葉を挟んできた。
「装備が焼失した、んだが……」
……あ。あああ。そ、そうか!
「もしかしなくても羽ヶ崎君も」
「燃えたけど?……っていうかお前、見てる、だろ」
なんか羽ヶ崎君の視線がじっとりしてるけどさ。見たけど、たしかに見たけどね?グロ画像に服も何もないよ。だからそこまで意識してないよ!
しかし……2F北西はモンスターがなんか強かった、というエリアだ。
そこに行くというのに防具なしが2人もいるのは心もとないよなあ。
「北棟西階段も攻略するの?それによっては本当に待った無しで装備作ってもらわないとまずそうだけど」
あー、そうか、2F北東に『転移』して攻略してもいいけど、まだ誰もここ通ってないなら、北棟西階段を攻略していったらまた拾い物があるかもしれないのか。で、そこに性能のいい防具とかもある可能性がある、と。ふむ。しかしそれには防具が必要という。
……とりあえずは、私が低性能でもなんでも防具を作るしかない、かなあ……。
「で、鈴本は着物一式焼失したからそれ、と。あ、刀は?」
「柄に巻いてあった紐が燃え尽きた位か?熱せられる前に吹っ飛んだらしくて、特に問題は無かった。装飾品の類も残ってる」
ふむ、じゃあその刀の紐も用意してあげなきゃいかんね。
「で、羽ヶ崎君は……あのさ、全円スカート」
「やだ」
瞬殺である。
うん、知ってた。
「布面積多い方が性能出やすいんだけど」
「動きにくくなったら元も子もないだろ」
「ひざ丈スカートなら……」
「誰が得するんだよ!」
不毛なやり取りの果てに、こちらも以前と同様の服をご所望という事なので、そういう物を作ることになりそうだね。
「ちなみに、どんな効果が付いてると嬉しい、とかある?」
これ重要だぞ。言わないと真っ白けのただの『防御力上昇』にするぞ。羽ヶ崎君はともかく、鈴本の着物でそれやったら相当面白い事になるぞ。
「炎耐性……」
「炎耐性……」
……あれが君たちのトラウマになったのはよく分かった。
「他は?」
「ん、後は任せる。というか、さっきの炎耐性も本気にしなくていい」
「羽ヶ崎君は?」
「MP増やしたいけど、まあ、あとは鈴本に同じ、で」
ありゃ、何でもいい、が一番困るんだけどもなあ。
まあいいや、色々作ってみよう。着替えがあったっていいんだし、そろそろ『調合士』の活用もしたかったのよね。
……最近、『失われた恩恵』無しの服ばっかり作ってたからさあ。
どっちみち明日は私の出番がなさそうだから、今晩夜なべして作っちゃったほうが良さそうだなあ。
ということで、夜なべ開始。
取り出したりますはこちら、私を食べてくれちゃった黒大ヘビの鱗。
正式名称は『大黒蛇の鱗』らしいね。
……こういう言い方したくないけど、ハントルの親の鱗です。ハントルの了承は得てるし、そこら辺あの子は妙にドライなんで心配はないけども、一応、拝んでから使う事にします。
このつやつや真っ黒な鱗を染料にするとどうなるのか。
単体で使うと、『魔法耐性』と『防御力上昇(大)』が付く。
そしてそこに同じ糸で刺繍していくと、『魔法耐性』が『魔法無効』になるのですよ。
……うっわあああああ!すごいじゃないかこれ!すごいじゃないかこれっ!
ただし、この『魔法』ってくくりが……ええと、まあ、お察しの通りというか、スキルは無効にならなかった。普通に『お掃除』で糸くず消せちゃったんだもの……。
けど、『火魔法』では燃えなかったし、まあ、かなり役に立つはずだ。
しかし、この『大黒蛇の鱗』。なぜか他の植物とかと合わせて『染色』してみると、とたんに効果が無くなってしまう。
ふーむ、やっぱり格が違いすぎますよ、ってことなんだろうか。
ユニークモンスター由来の素材ともなると、同格かそれ以上の素材と合わせないといけないのかもね。
……しかし忘れてはいけない。私は何にもしていないが、皆さんは頑張った。死にかけが2人も出る程度には。
……そう。あの溶岩から出てきたというでっかいトカゲみたいな恐竜みたいな奴の死体が、外には転がっているのだ。これについてはもう皆さんの許可は得ている!さあ!いざ入刀!
ぽん。
例の解体包丁使ったらまあ、うん、自分でも嫌になるぐらいさっくりと解体されてくれた。楽でいいなあ。
うん、肉に皮に鱗に牙、骨、目玉、モツ、血、鰭……と、まあ、バリエーションに富んでいてなかなかいい具合ですなあ。
こっちは素材とするのに全く罪悪感も何もないので、まあ、楽しく素材にさせていただこう。
さて。このトカゲ。……中々に訳分からんかった。
まず、血。燃えてる。
……引火する、とかじゃなくて、もう、恒常的に燃えてる。燃えてるんだけども、一向に減る気配がない。
なんだこれは。あ、この血は『解体』した時に包丁が気を利かせてくれたらしくて、頭蓋骨とかを器にして溜まっていました。
で、これはなんかやばそうなので社長辺りにパスすることにして、瓶に入れて保存。
……おかしいなあ、密閉されてるのに中で火が踊ってるよ。これは一体どういう仕組みなんだろうなあ。おかしいなあ、おかしいなあ……。
そして用があるのは鱗だ、鱗。これ、鑑定してみたら、『竜の鱗』って出たのである!
そうか、トカゲか恐竜だと思ったけど、こいつは竜だったんだな!というか、ドラゴン!そうかあ、ドラゴンかあ。
……想像してたのとなんか違った。まあ、コモドドラゴンだってドラゴンだ。うん。
まあいいや。ということで、これで布を染色してみたら、それはそれは綺麗な猩猩緋になりまして。そして『調合士』で分かっていた通り、『火無効』が付く。
……魔法じゃない火にも対応、ってことか、これは。
そしてそれと同じ糸で『刺繍』すると、『熱無効』『火魔法効果上昇(大)』が付く模様。
……火魔法が使えるのって私だけで、しかもそれってコンロの強火レベルだから後者は意味が無いけど、前者の方は素晴らしいね。これが本当だとしたらマグマダイバーもできるんじゃないかな。
そして気になる『竜の鱗』と『大黒蛇の鱗』を混ぜた『染色』の結果は……なんか暗紅色になって、『火耐性』『魔法耐性』『防御力上昇(中)』。うん、なんか混ぜたら性能が落ちた。相性とかもあるのかね。
逆に、刺繍の方はかなり奮った。
黒蛇の布に竜の糸は『魔法無効』『防御力上昇(大)』『火無効』。
竜の布に黒蛇の糸は『熱無効』『火無効』『火魔法適性』『火魔法効果上昇(大)』。
ふむう、これは今の所最も優れた素材と言えよう。
よし、とりあえずこれで装備作るかな。細部は色々調節しないといけないだろうけど、重ね着だってできるんだし、色々試してみればいいよね。
気づいたら朝になっていた……。びっくりした、寝る前に朝が来ちゃったよ。来るの早くないかね?
まあいいやいいや。鈴本と羽ヶ崎君の分の防具はできちゃったもんね。
まだ裾上げとかはあるけども、それはすぐ終わるし、どうせ今日は私の出番無さそうだし、今日は昼寝して過ごそうそうしよう。
朝ごはんは準備が楽なパン食にさせていただいた。最近ご飯も続いてたし、丁度いいかな、と。
「鈴本と羽ヶ崎君はご飯終わったら裾上げとかあるからちょっと体貸してね」
「もうできたのか、仕事が速いな」
ふははははは!もっと褒めてくれてもいいぞっ!……うん、まあ、そういう風に言ってられるのも今の内だと思うけどね!
「という訳で、現時点で最高の性能を持つ防具です。魔法も熱もなんのその。防御力も頑張って上げました。じゃ、裾上げしたりするから着てね。はい」
鈴本と羽ヶ崎君にそれぞれ装備を渡すと、2人とも、固まった。
「……おい。その、なんだ」
「……あの、さあ、えっと」
おや?普段は歯にオブラート着せぬ2人が珍しく絶句してるぞ?おっかしいなー。おっかしーなー。
「舞戸」
「ん?」
鈴本がばつの悪そうな顔をしている。
「昨日の肋骨に罅入れた事、まだ恨んでるのか」
「いやーとんでもない。最高の性能を持たせようとしたらこうなっちゃったっていうだけだよ」
答えると、そうか、とかなんとか、珍しくもごもご口ごもるみたいに言う。
「僕のは鈴本のとばっちり?」
「なんだね、とばっちりって。人聞きの悪い」
別に君のはおかしくなかろ?
……よし。説明しよう。鈴本の着流し。
これはひどい。黒の着流しに緋色の帯だ。しかもがっつり刺繍入れてある。
いやー、この刺繍が苦労したんだよね。頑張ったよ?鳳凰。
……鳳凰。
どうも鈴本はこれが気にくわないらしいんだよねー。がんばったのになー。酷いなー。
で、羽ヶ崎君の方は、シャツとおズボン、そして漆黒のコートである。
もうこれだけだと真っ黒けになってしまうのでしょうがない、シャツは灰色、月桂樹染めの『最大MP増加』仕様にしてある。
赤色部分は裏地にしか使ってないし、目立つ刺繍もしてないんだから感謝して頂きたいもんだ。
……うん、まあ、布面積増やそうとするとさ、どうしてもずるずるしがちなんでさ……多少気障なデザインになってしまった事は認めるけどさ。
「これ、着るのか」
「最高の防具だぞ、ほら、着ろよ」
「着るの?」
「早くしないと裾上げしないぞオラ」
追い立てるようにして無理矢理着せてみると、なんつーか……妙に迫力出たね。うん。本人たちは嫌がってるけど、割と似合うぞ。
そして、とりあえずこいつらは熱とか火とか魔法とかではそうそうダメージ食らわなくなったと思う。うんうん。私としては多少面白い恰好になったとしても怪我しないでくれるのが一番だよ。
ということで諦めてください。




