71話
お昼ご飯が終わったら、男子2人を三枝君の所に預けに行きますよ。
大体の場所は分かってるので、『転移』後、鳥海がケトラミライディングしてそこまで行って、その後戻って来て男子2人を連れてまた『転移』するということに。
いやはや、もはや『転移』は私の専売特許じゃないんで、こういう時に一抹の寂しさを感じますなあ。
その間私はジョージさんの質屋に縫った服を置きに行きます。ここら辺で置きに行かないと相良君達の資金が尽きるからなあ……。
という事で、やってきましたデイチェモールの質屋。
「あ、舞戸先輩!いらっしゃいませ!わ、お洋服持ってきてくれたんですか!?」
移動したら花村さんがお出迎えしてくれた。可愛い。
「うん。とりあえず縫えた分がこれなんで、お金の足しにしてくださいな。して、こっちはどんな調子?」
「特に変わりは……あ、つい昨日から、ジョージさんに本格的に店番を任されるようになったんです。ほら、歌川先輩、凄く美人でしょ?だから看板娘になる、って言って。事実、お客さんがいっぱい来てるんです!」
ほー、成程、あのオッサン中々やりますなあ。
ふむ、確かに美人さんや美少年(らしいよ?この世界の人規準だと)がいっぱいいるお店だったら利用客も増えるよね。
「で、さぼれるようになったジョージさんが市場の方に出て、異国人の奴隷が出てないかチェックしてくれてるんです。顔が広いらしくて。そっちには海野君と池田先輩が付いて行ってます」
それでいいのかジョージさん。
「舞戸先輩たちの方はどうですか?」
……えーっと。
「自習室を見つけたよ。そこで何人か人も見つかったから、情報室の方に2人行くことになってる。他の人たちは1F北を探してくれるってさ」
……死にかけた人が居た事とか、むしろまだ鈴本と刈谷が目を覚ましてない事とか、そういう事は言わないでおくことにした。
目が覚めてから報告すればいい。花村さん達は花村さん達で頑張ってるんだし、あんまり不安にさせるようなことは言わない方がいい……というか、うっかり言葉にしたらなんか目を覚まさなくなりそうというか、なんというか、縁起が悪そうというか……。
……ええい、なんか言いたくなかったので言いませんでした!はい!
「それじゃあ、私はここら辺で帰るね。他の人たちにもよろしく」
「はい!また来てくださいね!」
ということで、私、帰還。
私の帰還と同時位に鳥海が戻ってきて、男子2人を連れてまた『転移』していった。元気だなあ。
さて、そしたら私は、穂村君達が1F北に残っても大丈夫なように生活用品を何とかしましょうかね。
メイドさん人形達を集めて、またしても……うん、何も言うまい。
只言えることは、たった6人。たった6人分の服と布団を一式作ること位、大したことは無いぜ!って、言える位には……私の経験値は上がっている模様。
実際、そこまで苦労せずに6人分の生活用品を揃えることができました。
我ながら速いね!最近はメイドさん人形達もまるで服飾職人かの様に滑らかに働いてくれるからますます速い。
特に、ミニチュアのドッグタグを作ってもらった3体がよく働くなあ。
やっぱりあれか?ドッグタグとか名前とかって、あると性能に関係してくるのかな?
……ということで、加鳥にはひたすらドッグタグのミニチュアを作ってもらっています。メイドさん人形全員分。
いやだってさあ、メイドさん人形達が羨ましがるんだもの……。
性能が上がるならいう事無いし、加鳥本人が申し出てくれたことだったので、ありがたくお願いした。
……加鳥も疲れてはいるようなので、申し訳なくはあるけども。
という事で、おやつ時には穂村君達の旅立ちと相成りました。やっぱり、穂村君達は1F北エリアを探索することになったようです。
なんでも、友達が1F北にまだいるとか、1F北の一番東端の家庭科調理室に居るはずの家庭科部に好きな女の子がいるとか、なんかそういう理由らしいです。はい。
……それから、一番大きいのは、私たちが一緒に居てもお互い疲れるだけだよね、っていう事。
こういう時だからそういう事言ってないで一緒に居た方がいいのかもしれないけど、元々スピード勝負で教室を探したい所ではあるんだ。
ここは彼らの無事を祈りつつ、別れようと思う。
……というのと、まあ、1F北エリアのユニークモンスターはもう既に1体倒したので……割と、安全なんじゃないか?っていうメタ推理的な要素もある。
この辺り、ケトラミなら知ってるのかもしれないけど、ケトラミはそういう事をあんまりしゃべってくれない。
けど、この推理を発表した時に尻尾が『当たりだぞ』っていう風にふりふり動いたので多分大丈夫だろう。
……割と、メイドさん人形と言い、ケトラミと言い、顔っつーか、表に出やすいなあ、色々と。
あと……非常に個人的な理由になるんだけども……うん、できれば、家庭科部は他の人に任せたいな、と、思っていたので……うん、渡りに船。
っていうのはいいんだ。いいんだけど、旅立ちの準備(主に食料の分配だね)をしている時に、思い出しました。スキル貰ってない!
という事で、ざざっと穂村君達に説明。
「戦闘力の欠片も無い哀れなメイドに愛の手をー」
説明したら皆さん協力してくださいまして……うん、長澤さんと玉城さんもだよ。びっくりしたよ。
うん、で……秋庭君から、『眠り繭』を頂くことに成功。うん、収穫はこれだけだったけど、むしろ気持ちの方が嬉しかったよ。ご飯は世界を救うよね、ホントに。
『眠り繭』は、自習室の人たちが籠城するのに使ったスキルだ。
目覚める時間か条件を決めておいて、後はひたすら無敵状態で眠り続ける、というだけ。使いどころがあるかどうかは……正直微妙な所ではあるよなあ……。
「連絡入れるから!んじゃっ!」
「服とか食料とかありがとー!」
そうして、食料の分配も生活用品の支給も終わって、自習室と何やら騒がしく彼らが旅立っていったら、急に静かになってしまった……。なんか寂しいような、ほっとしたような……。
さて、私たちはこれから2F北西から西、南西、南、っていう風に移動していこうと思うよ。
3Fは三枝君達、1Fは相良君達と穂村君達に任せたから、残りは北東を除く2Fと4F、あと体育館とかそっちの方、って事になるかな。
しかしそれより気になるのはまだ寝ている2人。
未だ、刈谷と鈴本、目覚めず。
……しかし、そろそろ起こさねばなるまい。流石にそろそろ限界だぞ、こっちとしても。
という訳で、とりあえず刈谷の方をゆすゆす揺すってみると、案外簡単に起きた。MP自体はもう回復しきってたらしい。
「おはよ」
「おは……あっ、鈴本は」
「生きてるよ」
ほれ、と隣を指すと、そこで寝ている鈴本を見て刈谷は安心したらしい。一旦起きたのにまた布団にばったり戻ってしまった。
「よかったですー、グロ画像じゃなくなってる」
あ、うん、本当にお疲れ様です。君のお蔭でこいつは生きている。
「ところで君、起きられそう?無理そうだったらまだ寝ててもいいけど」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えてもうちょっと寝てていいですか?すみませんなんか」
すみませんすみません、と頭を下げつつ布団に潜っていき、刈谷は静かになってしまった。寝たらしい。速いな。やっぱり新しいスキルとやらは相当負担が大きかったんだろう。夕ご飯まではまだあるから、ゆっくり休んでいてください。
そして、問題はこっちである。
「おーい」
鈴本をゆっさゆっさ揺すってみるが、こちらは全く目覚める気配が無い。しかしこのまま寝かせておくのもなんかアレなので、またしても『共有』。
こんにちは断片情報空間。
一回ここには来た事があるので、大体見当を付けながら進んでいけば割とすぐに寝ている鈴本を発見。
「起きられる?大丈夫?」
早速揺すってみるけど、反応が無い。……あー、これはもしや?
こことは場所が別だと思うので、一旦離脱して、もう一回『共有』。
今度は、似ているけども別の場所、そう、グラスが一個ぽんとある例の空間に出ました。
鈴本のグラスは割と直線的というか、鋭角的というか。
なのに人工的なかんじはしなくて、細工は凄く繊細で、うん、なんか、鈴本っぽい印象を受ける、すらっとしたグラスでした。
……私の丸っこさはなんなんだろう、一体。
そして見てみると、案の定というか、グラスの中身が少ない。4分の1あるかな、位。
しょうがないんで、私のグラスを引っ張り出して、またしても中身をとぷとぷ移し替える作業である。
今回は私のグラスの中身も満タンでは無く、精々いいとこ9分目位なので、移せる量も大したもんじゃないんだけども……これ二度とやりたくねえって思ったけども思った時から1日と経たずにまたやる羽目になるとは!
あああああああ!やだよー!痛いよ怖いよー!
うわーん、もう絶対これやらない!二度とやらない!なので頼むから二度とこういう死にかけにならないでください!頼むから!
今回は滅茶苦茶眠くなることも疲れる事も分かっていたので、まあ耐えられた。なんとか離脱して、貧血みたいな感覚と戦いつつ、もう一回鈴本と『共有』。今度はさっきの情報断片空間である。
さっきと同じ道を辿ればすぐに寝てる鈴本を見つけられたので、ゆさゆさ揺すると、今度こそあっさり起きてくれたらしく、情報量が凄まじい事になったので、それに合わせて離脱。
……も、もう寝たい……。
しかし一応、死にかけてた人なんだから、容体の確認はしてから寝よう。
離脱して鈴本を確認すると、目は開いてたんだけど、なんかぼんやりして焦点があってない感じである。
「……おーい、大丈夫?」
上体を起こさせてみても依然としてぼんやり状態だったので、ぺしぺし顔を軽く叩いてみると、ぼんやりしたままこちらを見て。
……お、恐ろしい事に。おっそろしいことに!……普段のこいつからは全く想像がつかないような毒気の無い笑顔を浮かべたかと思うと……何故か正面から座った状態でベアハッグかけてきやがった。
ベアハッグ、かけてきやがった。
ベアハッグとは……相手の胴体を抱き込んで締めることで相手の背骨から肋骨にダメージを与えるプロレス技である。相撲でいう所の、鯖折り。
……この時の私の衝撃を考えていただきたい。
ちょっと命(仮)分けてあげてなんとか目覚めさせたぜ!って所で、いきなり胴体を締め上げられた私の衝撃を!
「いぎゃああああああああ!折れる折れる折れる折れる折れる!ギブギブギブギブギブギブ!」
せ、背骨が!肋骨が!折れる!折れる!O!RE!RU!
最早、頭真っ白。思考力ゼロ。もうどうしていいか分からず、しかし私は学習する生き物だ!
こういうどうしようもないときは反射でもなんでも、とにかく『共有』するに限る!とヘビの時に学びました!
「くらえあああああああ『共有』ううああああああ!」
鈴本の側頭部に頭突きしながら『共有』で痛みとか諸々をほんの一瞬流し込んで、すぐ離脱。もう向こうの情報を一切シャットアウトして、こっちから流すだけ。
すると鈴本、一瞬硬直したかと思ったら、やっと締めるのやめてくれた。
力が緩んだ所でもう魂抜けそうになりつつ、なんとか鈴本の顔を見ると、ぽかんとしつつも、目に理性が戻っていた。
「……おはよう」
精一杯の皮肉を込めて笑顔で挨拶したところ、こいつは急速に状況を理解したらしい。
「……え?」
そして表情がぽかん、から、驚愕、になって、そして焦りというか嫌悪感と言うか、なんかそんな感じになっていった。
「え?は?はあっ!?ちょっと待て、なんだ今のは!というか何故俺はお前なんか抱きしめてるんだ気持ち悪い!」
ひ、ひどい……。
「すまん。この通りだ」
羽ヶ崎君から事情を聞いた鈴本が謝ってきたけど、両手をついて謝ったって許してやらん。
とこよ、みなも、さくらの3体が私をもふもふすりすり『ヒール』して罅が入った肋骨とかを治してくれるのが本当にありがたい……。
ほんとにいい子たちだのう、どっかの誰かと違ってよおっ!




