69話
死者は出なかったんだけど、死んでてもおかしくなかった、否、むしろ死んでないのがおかしい鈴本と羽ヶ崎君、そしてそのおかしいことになった原因の一端である刈谷は朝になっても目を覚まさなかった。
そして、目を覚まさない人たちは他にもいる。
そう、自習室にいた、寝ている人たちだ。
この人たち、どうしようか困った揚句、とりあえず全員校長室に寝かせてあるらしい。なんで校長室って、カーペット張りでかつ物が少なく、そこそこの広さがあったかららしい。
「舞戸さん、この人たち起こせる?」
ちなみに、加鳥は朝になったら起きた。加鳥まで倒れちゃうと回復できる人が居なくなるから、ってんで凄く大変だったろうになあ、なんか申し訳ない。
「やってみる?『共有』」
という訳で、ずっと寝ている人たちの内、なんとなく顔を見たことがある気がする女の子と『共有』……しようとして、びっくり。できません。
「ま、舞戸さん?どうしたの?」
何度か頭突きしつつ『共有』しようとしてみたんだけども、なんかに阻まれる感じで、一向に『共有』できないっ!あ、あれか!?羽ヶ崎君相手に変な『共有』しちゃったからか!?
「加鳥ちょっと借りるよ!」
「え、ちょ」
「『共有』!」
「痛っ」
加鳥に頭突きかましながらやってみたら、いつもの情報過多空間がこんにちはしたのでさっさと離脱。
ふむ、私側の問題じゃなさそうだな。という事は、この寝てる人たち側の問題、ってことで。
「なんかダメっぽいね。阻まれる感じがする。この人たち、何かが覆ってるよ、多分」
実際、触ってみると、すごーく薄い不可視の膜に覆われてるかんじなのだ。うーん……これ、寝てる人の内の誰かのスキルなんだろうなあ。
「ええと、それはいいんだけど、舞戸さん、いきなり頭突きするのはやめてくれると嬉しいかな?」
「あ、ごめんよ」
加鳥がおでこさすってるの見たら凄く申し訳なくなってきた。
ごめん、妙な『共有』の後遺症かと思ってちょっとテンパってしまった。ほんとごめん。
起きてる人たちを招集して、早速この膜について談義。
「膜?なんてあんの?気づかなかったわー」
穂村君含め、全員膜の存在には気づいていなかった模様。確かに滅茶苦茶薄い上に、手触りが不思議とかいう事も無いからね。ということで改めて確認して、そこから談義に移りますよ。
「これ、誰かのスキルなんじゃないか、っていう事だったよね。だったら、スキルを使うのを止めさせる、とか?」
そういう事ができればそれが一番手っ取り早いんだよね。つまり、某RPGでよくボスが打ってきて非常にうっとうしいあれ、ほら、アレだ。○てつく波動。
ああいうのが使えればいいんだよ。そしたらあんな薄っぺらい装甲1枚位きっと剥げるよ。
守備力あげて攻撃力2倍にして魔法対策したのに○てつく波動一発で全部台無しになるんだもんさ!
「んー、そういうスキル覚えられるとしたら誰かな?俺はパスかな、ガーディアンだし」
それ言い出したら残ってんの科学者と騎士とアサシンと銃士とメイドですけど?
「あ、そういえば穂村君って職業何?」
「え?俺?俺はねー、『武闘家』」
あ、もっと駄目じゃないかな、これ。
「……舞戸がハタキではたくのは駄目なの?」
……あ、そうだった。私のアイデンティティである『お掃除』を忘れていた。こりゃいかん。一応やっておこう。よし。「『お掃除』」ぽふぽふ。
……あ、なんか消えたんじゃね?これ。
正に案ずるより産むがやすし。
とりあえず寝てる人の膜を片っ端から消していって、その後で『共有』して起こす、という作業を繰り返したのでMPからっけつです。も、もう嫌!
しかし、これで自習室に居た人たち7名は無事、全員目を覚ましました。
……しかし、目を覚まさせたことを後悔しないでもない。
7名中5名が男子で、その男子の内、穂村君の友達が3人もいて……類は友を呼ぶって事で……つまり、友達って大体類が一緒で。
「秋庭お前何寝てたんだよー!起きないとか超びびったんだけど!」
「しょうがねーじゃん?食料とか無いし?寝てるしかないじゃん?」
「つか穂村お前何燃えてんの!?マジ受けるんだけど」
「やべえ、激写したいのにスマホねえんだけど」
はい。現在、すっごく騒がしい。なんかよく分からない言語が飛び交っている!
女の子2人と残りの男子2人もそれぞれ友達同士だったらしく、くっついていて離れてくれない。
「せ、静粛に、静粛にー!」
しかしこのままだと状況確認も何もあったもんじゃないので、一回黙って頂こう。
発言し始めると流石に全員注目してくれた。……これはこれで居心地悪い。
「えーと、皆さんこんにちはー、私たちは化学部の者です」
そして、言った瞬間、女子2人が身構えた。
……うん、なんかさ、私自身がその内部に居るんでよく忘れるんだけど……化学部、って、まあ、なんというか……つまりだな、特に一部の女子には凄く受けが悪い。
……鈴本なんかは割と面構えがいいんで、その限りでは無いんだけども……ええっと、情報室に居た刈谷と鳥海がモンスター群に突き飛ばされたのも、多分そこらへんじゃないかなあ、と、思う。
ま、まあ、いいや。いざ何かされそうになっても大丈夫だと思う。既にこっそり針生がスタンバってるし。
「今回皆さんのいた自習室を溶岩流から引き揚げました」
「わーわー!」
「ぱちぱちぱち!」
お、おう?何やら穂村君の友達群が妙にノリがいい。なんかよくわからんけど、いい人達だなあ。
「それで、皆さんを自習室から避難させて、現在起きて頂いた所です。それでですね、今までどうやって生き延びてたか、とか、使ったスキルとかを教えておいていただきたい」
「わーわーわー!」
「ひゅーひゅー!……ってのは置いておいて、スキル?使ったのは俺」
お、おう?穂村君の友達……多分秋庭君、というのだろう。秋庭君が挙手してくれたので話がスムーズですなあ。
「『眠り繭』?ってやつ。決めておいた時間だけずっと無敵状態で寝てられるっていう」
……何気にすごいな、それ。動けなくなる代わりに無敵、と。
「なんか教室が揺れて光ってー……気づいたら自習室に倒れてて、で?ドア開けようとしたら開かないし、窓の外見たらなんか赤く光ってて明らかにやばそうだし?でも食料とか無いからずっといても死ぬけど外に出ても死にそうだよなー?ってなって、それでしょうがないから寝てた」
あー、成程。彼らは食料も何もない状態で籠城する為のスキルを持っていたから生き延びられたんだ。
「ちなみにご職業は」
「職業?ああ、書いてある奴?えっとね?『封印術士』」
おう、それっぽい。そうかー、それでああいうスキル会得になったのかー。
「……ねえ、で、私たちはいつまでここに居なきゃいけないの?もう帰っていい?」
そして女子襲来。……正直に言おう。私、この手の女子が苦手である。
一方的に何故か嫌われるっていうだけじゃなくて、勝手によくわからんカースト制を強いてくるあたりでなんかも、仲良くなれる気がしない。
んだけど、まあ、今はそんなこと言ってる場合でもないんだよね。
「引き留めはしないけど、せめて今後の方針決める位までは一緒に居てくれた方がお互いいいかなと思う」
「今後の方針って何?私今日塾あるんだけど」
……うわ。うっわ。やばい。すっごい隔たりを感じる!それも、決して埋まることの無い類の!
「秋庭君、彼女にスキルを使う時に、時間経過があるって説明した?」
「したし!俺が悪いみたいに言わなくてもっ!」
いや、君が悪いとは言わないが……言わないが……。
う、うーん、こ、これが普通の反応なんだろうか?私がちょっと適応速すぎただけなんだろうか?そうなんだろうか、そうなんだろうなあ。うーんと、うん。しょうがない。
「ええと、塾もクソもないんだよね、今。見れば分かると思うけど、ここ、多分異世界」
「異世界って何?ゲームのやりすぎなんじゃないの?頭大丈夫?」
……うん、ゲームのやりすぎの所は否定できねえ。
「見てもらった方が早いね。はい」
ドアを開けるとそこは溶岩流です。というか君、一度窓から見てるんじゃなかったの?
「お分かり?」
「は!?何今の!?ここどこ!?」
「いや、だから多分異世界とでも思わないと色々辻褄が合わな」
「何よこれ!?何のドッキリなの!?」
……うん。もう一度言おう。私……この手の女子が、大層苦手である。
「まーまー、長澤さん、玉城さん、落ち着いて落ち着いてー。ね?ね?」
そしてここに救世主穂村君登場!ああ、こいつが輝いて見えるぜ……。
「穂村君……」
そして急に大人しくなる女子。うーん、あれかあ、毒を持って毒を制す?
何やら穂村君達が間に入ると話が急にスムーズになることが分かったので、通訳をしてもらう事にした。
……で、この世界の事とか、元の世界に帰る方法が分かってることとか、まあ、そういうことを一通り話して聞かせたのである。
うん。もう、この辺りは穂村君様様である。すごいんだ。こいつ、セルフで『翻訳』持ってるんじゃないの?というか私は持ってるよなあ、『翻訳』……。
「で。他にも人がいるから、その人たちと合流するのもありだし、あなた達はあなた達でなんかやってもいいし。必要なものがあるなら協力するよ、っていう」
「それなんだけど、俺は舞戸さん達とは別行動かなー?って」
穂村君は別行動するつもりのようです。
「多分、舞戸さん達、俺と一緒にいるとなんか疲れるっしょー?」
……お、おう、そうなんだけど、そう言われるとなんか……なんか罪悪感が。
「あ、別にいいっていいって。単純に合わないだけだし?だったら無理して一緒に生活してなくてもいいじゃん?って」
いやはや、私は穂村君の認識を改めなきゃいけないな。色々見透かされ過ぎだもん。なんかそういうスキルでも持ってるの?君。
「で、秋庭と折田と石原も見つかったし、俺達は俺達で行動すればいいかなーって」
「成程。じゃあ、そちらの……長澤さんと玉城さんは?」
「私たちも穂村君達と一緒がいいかなー。変な人たちと一緒に居なきゃいけなくなったら嫌だし」
そうか!それはありがたい!変で結構です!ありがとうございます!ありがとうございます!
「で、そっちの男子2人は?」
「え、僕たちは……どうしよっか」
「どうしよっか、って、おい……あー……なんか、人数多い所、無い?そこに入れてもらえるなら入れて欲しいんだけど」
ふむ、聞いてみるかな。三枝君に『交信』だ。
『はい、もしもし』
「あ、三枝君?舞戸です。ええっとね、そっちに男子2人行っても平気?人数多い所に入りたい、って言ってるんだけど」
『うん、いいよ。こっちも増えたし、今更2人ぐらいじゃ変わらないよ』
あ、増えたんだ。
「どうもです。じゃあ後で連れてく。場所はどこら辺?」
『中庭の吹き抜けの北側の面あたりになるのかな、ここら辺は』
「了解。じゃあまたあとで」
『はーい』
よし、これで後は穂村君の行動先を聞いておいて、腕輪渡せば大丈夫かな?
「穂村君はどうする?このまま1F北を回る?」
「んー、まあ、気ままにぶらぶらと」
おいおい、大丈夫かこいつら。命の危険があるって説明したよな?というか、穂村君は……見てるよな?死にかけた連中2名程。
「んっとねー、この辺りにまだ、俺のトモダチ居そうなんだわー」
聞けば、自習室に居たんだけどトイレに行ってた友達がまだ居るそうなのである。
「だから、そいつ探したい」
ふむ、ならば彼らには1Fの残りを任せちゃうのがよかろうね。
まあ、そこら辺の細かい話はまたあとで。
何故かっていうと、鳥海に呼ばれたからである。
「舞戸さーん、なんか羽ヶ崎君がなんか呼んでるんだけどさ、なんかすっごい不機嫌っていうか……なんかしたの?ん?」
……来たぞ、やっぱり。




