68話
また多少痛い描写があるので、苦手な方はご注意ください。
さて。命の共有と意気込んでみたものの、命ってそもそもどういう形状してるの?とか、そもそも共有ってできるの?とか思ったんですが、何故か毎度おなじみ、寝てる人を起こすために意識を『共有』した時のような、情報断片空間と言うか、なんというか、まあそういうところに着きました。
しかし、今までと違って、この空間は非常に狭い。そして物が無い。何もない空間に、只、大きめのワイングラスみたいな奴がぽんと1つ。
それはそれは綺麗な細工で、かつ、酷く華奢なつくりをしている。それこそ、下手に触ったら壊しそうな位に。
そして、そのグラスみたいな奴にむかって、天井(?)の罅から水銀みたいなものが降ってきて、グラスに沈んでいく。
その分だけ押し出された薄水色の綺麗な透き通った液体が溢れだしては、グラスの足元に水たまりを作る。
水銀みたいな何かはグラスの4分の3以上を占めていて、そして、現在進行形で……増えるスピードに負けてるけど、減ってもいる。なんとなくこれ、加鳥の『清風』が減らしてるんだなあ、と分かる。なんでわかるんだろう、不思議。
……見る限り、この華奢なグラスないしは液体が命、水銀みたいな奴が怪我、って事になるのかな?
……うーん、多分これ、私のイメージ的な何かだとは思うんだよね。命がこんなに単純なつくりしてたらちょっと面白すぎるというか、ありえん。色々と。
まあ、単純な方が何かする分にはやりやすいよね。私の単純なイメージに乾杯。
さて、だとすると、この降ってくる水銀みたいなのを止めた方がいいんだろうなあ。
そこまでは『共有』のスキルも働いてくれないらしい。だったらこの後は私が働くしかないね。よし。ちょっと手で受け止めてみよう。
しかし、何故か受け止めようとしてみたら、私の手をすり抜けてグラスに落ちた。
……ふむ?これ、触れないな。
ええと、どうしようか。しかし、これが降り続けてたらグラスの中身が無くなっちゃうぞ。
ならば、と思ってその華奢なグラスをそーっと掴んで、そーっと動かしてみたけども、水銀みたいな奴はホーミングしてんのか、っつう精度で絶対にグラスの中に落ちる。
……さて、ここで考えよう。この華奢なグラスが羽ヶ崎君の命だと仮定しよう。
つか、そうでもなきゃこれは一体なんぞやという事になってしまう。
で、だ。命が、少なくともこの空間ではこういう形をとる、んだとしたら……私の命もあって然るべきだよなあ?
ちょっと探してみたら、すぐ後ろにやっぱりグラスみたいなのが置いてあった。というか、意識したら急に現れた、とかいう方が近いかもしれない。
……なんつーか、ころんとしたデザインのグラスだ。グラスっつうか、ガラスの、丸い……湯呑……?
なんというか、全体的に華奢さ加減が足りん。羽ヶ崎君のはすらっとしてて綺麗で華奢なのになあ。まあそれは置いておこう。
あの水銀みたいな奴は私の手をすり抜けたけれど、グラスには入ったんだ。つまり、グラス……命でなら、受け止められるんじゃないかなあ、と。
さて、考える暇があったら動こう。ころんとしたグラスを持ち上げて、華奢なグラスの上で待機。
そして、ちょっと待ってると狙い通り、降ってきた水銀みたいなのは音もなく私のグラスに入った。
その分、私のグラスに入っていた真っ白い液体が零れると、なんか胸の奥の方で痛みが走り、それと同時になんとも言えない不安というか、恐怖感みたいなものが湧き上がってくる。何これ怖い。
……まあ、なんだ。これは逆に言えば今までの仮説の裏付けにもなるんじゃないかな?うん、前向きに考えよう。
うーん、まだ水銀みたいなのは降ってくる。これ以上羽ヶ崎君のグラスから液体漏れたらやばそうな気がするので、仕方ない、私の方で粛々と受け止めておくことにするよ。
さて、私のグラスの下4分の1ちょい前程度までが水銀みたいな奴になりました。
その分元々入ってた液体が零れまして、なんかだんだん力が入らなくなってまいりました。
これはやばいかな、どうしようかな、と思っていたら、どこからともなく、真珠色の液体がほわほわ浮かんでやってきて、天井(?)の罅部分にくっついた。
どうも罅を塞いでくれているらしい。これはもしや、あの『霊薬』とやらかな?ふむ、成程、効いてくれてるみたいだ。よかったよかった。
そして、水銀みたいな奴は降ってこなくなり、加鳥の『清風』が少しずつ、華奢なグラスの中の水銀みたいな奴を取り除いていくのが見える。
……それはいいんだよ。うん。この水銀みたいな奴は減った方がいい。いいんだけども……減った分の、元々入ってた液体が、さあ……増えないのよね。
しばーらく見てたら、遂に華奢なグラスの中の水銀みたいな奴が無くなった。
そしてグラスの中に、下5分の1位まで薄水色の液体が入っている、けども……これは、足りないのではなかろうか?
これ、血液とかとは絶対違う何かだけども、人間の血液ならば最低でも半分は欲しい所。という事は、これだってもうちょい欲しくないかね?……っていう、思考以前に、なんか本能的にこれはやばいぞ!と感じるのですよ。なんでだろーね。不思議。
じーっと見てても、一向に中身が増える様子は無い。あ、因みにころんとしたグラスの方は、なんか、増えてる。水銀みたいな奴が自然とグラスの外側に滲むように押し出されて(このグラスの材質ってどうなってんの?)元々の真っ白い液体が少しずつ増えてる。
うーん、これは、あれだろうな、自力で回復できる余力が私にはあるけど、羽ヶ崎君には無いって事だろう。この回復量って、液体の量が多い方が多そうだ。
……うん、よし。さっきからちょっと気になってたことがある。
私のグラスで水銀っぽいのを受け止める間、私のグラスは羽ヶ崎君のの上に位置していた。つまり、溢れた分が……羽ヶ崎君のグラスに全部入ってたんじゃないか、と。
それって、ヤバくないか?と、思ったんですが……なんか、見る限り、大丈夫なんじゃないかなあ、というかんじなのです。
私のグラスの中身、透明度0%なかんじの真っ白い液体なんだけども、羽ヶ崎君の方の薄水色の透き通った液体は依然として透き通っていて、濁りの欠片も無い。
……試しに、真っ白い液体を一滴ほど、ちょっと羽ヶ崎君のグラスの方に入れてみよう。
えい。
……あ、凄い。入る前は真っ白なのに、グラスに入った瞬間透明水色になる。うーん、これ、グラスがなんか働いてるんかな?
……ふむ。じゃあ、グラスの中身は混ぜるな危険じゃないって事かな?じゃあ、混ぜても平気だよね?塩素出たりしないよね?漂白剤じゃあるまいし。
ええっと、よし!めんどくせえ!やっちまえ!
とぽとぽとぽとぽとぽ。
はい、私のグラスの中身を羽ヶ崎君の方に入れてます。
しかし……うげえ、やばい、これはやばい!中身減ったらやばい!これはやばい!なにがやばいのかよくわからないけど本能が『やばい』と警報を発している!しかし私は人間!理性で動ける生物だっ!ということでなんとか本能を宥め賺して中身を少し移す事に成功。
それと同時に、華奢なグラスが少しずつ正常な状態に戻って来てるんじゃないかなあ、ということも分かる。あ、自力で中身を増やせるようになったらしい。少しずつ薄水色の液体が勝手に増えていくのが分かる。
……しかし、私の方のグラスの中身が減ったら眠くなってきてしまった。せめてちゃんと離脱して羽ヶ崎君の様子を見るなりしたいんだけども……それができない程度には眠いので、寝ます。おやすみなさーい。
目が覚めたら、布団の上でした。
……あれ、体が重いな。風邪ひいた時みたいな重さだ。
起きるのが億劫なのでちょっと首だけ動かしてあたりを見てみると、すぐ隣で鈴本が寝ていた。
……そういえばこいつ、死にかけてたらしいけど、大丈夫なの?億劫とか言ってられないので布団から出て見てみたら、割と普通に息してた。
……あー、よかった。
鈴本は羽ヶ崎君よりも酷かったらしいからね……本当に、刈谷は凄いよ。
鈴本の向こう側では刈谷が寝ていた。MP切れだろうなあ。お疲れ様です。
で、私の反対隣りに、羽ヶ崎君が寝ていた。
確認したら、普通に息も脈もある。
焦げたり一部無くなったりしてたけど、それが嘘みたいに綺麗になってる。
羽ヶ崎君の布団の横で加鳥が布団も敷かずに寝ていた。ああ、頑張ったんだなあ、こいつ。
お疲れ様、という事で、私が使ってた布団を横に敷いて、その上に転がして乗せて、掛布団を掛けておいた。
化学講義室の外に出ると、ケトラミさんが真っ先に私に駆け寄ってきた。
『おい、お前大丈夫なのか』
「ん?平気よ?多分MP切れだったんじゃないかなあ、と」
『ハントルに聞いたが、お前一時やばかったらしいぞ』
え、そうなん?ケトラミを見ていると、毛の間からひょっこりハントルが顔を出した。
『舞戸、どんどん流れてっちゃうんだもん』
「ながれて?」
手を伸ばすと、ハントルが腕を伝って肩辺りに収まった。
『えっとね、流れて出てっちゃうの、舞戸が』
……ええと、そうかあ、ハントルには分かったのか。
「まあ、私は大丈夫だから大丈夫。ええと、他の人は?」
『ぶっ倒れた奴らは講義室に居たので全部だったみたいだな。残りは実験室に居るんじゃねえか?さっきまで食事に行ってたから分かんねえ』
さっさと顔見せてやれよ、との事だったので、早速実験室へ。
「おじゃましまーす」
「あ、舞戸さん、もう大丈夫なの?」
反応したのは針生のみで、他の人は……寝てた。時計見たら……あ、うん。夜中の2時だ。あーあーあーあー、うん、随分寝てたんだなあ、私。
「私は大丈夫。君達は?」
「怪我はメイドさん人形たちが治してくれたから大丈夫。……というか、俺らはそんなに大した怪我もしてなかったから」
……今一瞬聞き捨てならないセリフを聞いた気がしたけど、それは後で本人……というか、本人形達に聞くことにして。
「私が見てない間に何があったのさ」
「え?でかいトカゲが」
「すまんが覗くよ。『共有』」
説明聞くのも面倒なので、直接記憶を見せてもらう事にした。
……ふむ、全員自習室から寝てる人たちを運び出したところで、溶岩流からでかいトカゲみたいな、恐竜みたいな変なのが出てきた、と。
それでまあ、順調に交戦していって、遂に止め、ということで鈴本が刀刺したら……それが、爆発炎上して……鈴本と、傍にいた羽ヶ崎君がああいうことになってしまった、と。
で、よりヤバかったのは勿論鈴本の方で、そっちは……うん、正直、記憶覗いたことを後悔しました。
グロ画像だ。グロ画像だよ、これ。
羽ヶ崎君の方も相当だったけど、こっちはもうグロとか通り越してる気がするレベルだよ。
……無いの。腹から下。腹から上も炭化してたりなんだり。
……良くアイツ生きてたな!
まあ、それも刈谷のお蔭なんだよね。
ヤバい方から回復だ、という事になって回復し始めたはいいんだけども、とても既存のスキルじゃ間に合わなかったらしい。
それで、新しいスキルを得て、それ使ったら……今度はMP切れで刈谷がぶっ倒れてしまった、という。
それで少しでも回復要員を増やしたくて、私を呼んだらしい。
怪我は全員したらしいけど、それでも死者は出なかった、とのことで、とりあえず安心するしかない。
本当に、皆生きてたのが奇跡だなあ、これ。




