65話
寝て起きてご飯食べたらまた出発。
今日の目標は1F北西回収かなあ?そこまでいけるか微妙ではあるけども、特に何も起こらなければいけるんじゃないかと思える程度にケトラミさんは速い。一家に一頭ケトラミさん。……いや、うち以外のどこにもやる気はないけどね!
鳥海と私を除いて全員がケトラミライディングの憂き目に遭っている。私は載っていられるだけの腕力とか体力とかが無いので却下されたわけだけども、鳥海はその重装備故にケトラミさん側から遠慮するように言われてしまったわけで。
……まあ、どういう事になったかっていうと、本日最初のケトラミライダーは装備を外した鳥海になりました。南無。
その間、ひたすら羽ヶ崎君と加鳥とメイドさん人形たちとで服を縫い続ける。そんなに猛スピードで縫わなきゃいけない訳でもないから、そこそこのんびり縫ってる。昨日からのんびりやって、そろそろ10着ぐらいになるかな?
そしたらそろそろ相良君達の所に置いてきた方がいいかもしれないね。私たちがお金を彼らに渡しておかないと、彼らが街で活動できないからね。
……多分、職員室と放送室の間らへんにあったはずなんだよ、資料室みたいなのが。
で、多分それって……王都あたりに出回っちゃってるんじゃないかなー、と思われるわけである。
前回はオークションに出てたから手に入ったけども、もし持ち主が売らないと言ったら、教室の確保は非常に困難を極めることになってしまう。
で、資料室は多分、その類になっちゃってるんじゃないかな、と予想できるよね。
……探すだけで、大変だよ、きっと。頑張れ相良君達!
鳥海から連絡がある前に、鳥海自身が『転移』で帰ってきました。やっぱりぐったりしてるね。ケトラミさん曰く、『全速力の8割に抑えてるが?』との事でした。全力疾走したらこいつら死んでしまうね、きっと。
で、ぐったりしつつも鳥海が全員連れて『転移』。
うわーん、ぐったり野郎のくせに、メイドの仕事を取るんじゃない!
移動先にあったのは図書室。うんうん、これは予想通りだ。図書室の中を探索して宝石を見つけて、それ持って外に出れば『図書室』も回収完了。うん、さくさく進んでて中々爽快だね。
ちなみに、宝石は私の縄張りである百科事典の棚の裏に落ちてたんで、私が真っ先に見つけました。うふふ。
そこからはまた、順番にケトラミライディングしてガンガン進んでいき、無事1F北エリアに到達。
……しかし、ここからが問題だった。ケトラミに乗っていった角三君から『交信』があった。教室見つけたのかなー?と思いつつ出てみた。
『……なんか……ええと……どうしていいか分かんないから一旦合流して』
「何故に」
『来てもらった方が早い、と、思う……』
まあ、百聞は一見に如かずという事で、『転移』で合流。
移動したら、灼熱の世界でした。
本当にいきなり、暑くなった。というか、熱くなった。良く見たら地面の割れ目から蒸気上がってる。向こうに火山が見える。多分あれ、活火山のような気がするよ?……さっきまで割と普通に南国の森林地帯だったじゃん!どうなってんの、異世界!
……全員『温冷耐性』持ってるから。だから、砂漠とかはちょっと暑いぐらいで済んじゃうんだ。済んじゃうんだけど……それ、『暑い』に関してだけで、『熱い』に関しては働いてくれないらしい。
なので、ここ、暑い。すっごく暑い。暑いってか、熱い。
それでも、私は良いんだ、まだ。やっぱりというか……鎧着てる人たちが、ね?大変なんだよね……。
「悪夢の再来だ……駄目だ、一旦離脱……いや、もういっそ諦めてまたスキル取った方がマシか……?」
さっそくみなさんぐったりしだした。この暑さだものね。
『だらしねえなあ、お前らは』
「皆さんをケトラミと同じにしてはいけないよ」
尚、ケトラミさんは平気な模様。というか、普通に蒸気出てる地面の割れ目踏んでる。彼曰く、『こんなのドラゴンの鼻息よりマシだぜ?』とのことである。君はドラゴンの鼻息とやらを受けたことがあるのかい?……本当にありそうだから怖いんだよなあ。
そして、結論。ケトラミさんが大丈夫な以上、今まで通りの探索方法をとります。つまり、ケトラミライダーと残り、みたいな感じに。
で、他の人もここでスキル会得を目指す!それしかない!
という事で、社長が旅立っていきました。頑張れー。
そしてこちらで我慢大会を続ける事十数分、スキル会得よりも早く、社長から『交信』があった。
『人を見つけました。合流してください』
一応、社長の視界を借りてるので、確認。……ええと。ええっと、一応、一応社長がそういう幻覚見てるとかの可能性があるので、確認はとろう。
「それ、マジで人?」
『人です。俺のクラスメイトです。早いとこお願いします』
……私は学校に燃えてる人が居た覚えは無いけどなあ?
合流して見てみても、やっぱりその人、燃えてた。
というか、炎でできた鎧を着ているかんじ。うーん、これもスキルなのかな。うん、そうだろうなあ。こんな所からスタートしたりしたら、こういう変なスキルでもない限り、生きていくことがそもそも難しいよなあ……。
「ということで、俺のクラスメイトの穂村です」
「穂村でっす!よろしくぅ!」
この挨拶の間も、燃えている。熱いので全員近寄れず、遠巻きに眺めてるかんじになってしまうね。
「こんな奴ですけど割と頭のつくりはマシです」
「うっわ、シャチョー、酷くね?こんな奴って、酷くね?」
訂正。熱くなくてもちょっと遠巻きに眺めてるかんじになると思う。
「ええと、とりあえず、穂村君?でいいのかな?その燃えてるのは何?」
一応聞いてみた。スキルだとは思うし、そうでもなきゃ色々おかしいんだけども。
しかし。
「え!?なんでメイドさんとかいんの!?メイドさんとかすげえ!ねえねえ名前なんていうの?」
なんか寄ってきたので、その分後退するしかない。
「あ、やっぱり訂正します。頭のつくりはマシだと言いましたが、アレは嘘です」
社長が遠い目してるのは珍しいなあ、とか思いながら、私も遠い目をするしかなかった。
「これは『火炎操作』っていう奴らしいんだよねー。火の海に落ちたらさー、俺、火とか操れるようになってて?」
外国語っぽいけど、まあ意思の疎通はできるかな、レベルにまで穂村君が落ち着いてくれると、割と話は筋道が通っていて分かりやすかった。ふむ、頭のつくりは……残念なだけなようだ。
いや、残念ってだけで相当残念だけども。
「だから火吐いてくるトカゲみたいな奴とか、火でできてるでっけえ蛾みたいなのとかには絶対負けねえ自信あんだわー」
そうかあ、まあ、火でできてる蛾に関しては、火を操れるなら敵にすらならないね。
「穂村はこの世界に飛ばされ……いや、落とされた時、どこにいたんだ?」
鈴本が言い直すあたり、『アライブ・グリモワール』さんは慕われてるよなあ。
「あー、確か、自習室の前らへんあるってた気がすんだけどなー」
ふむ、じゃあ、この付近に自習室があってもいいって事だよね?
「じゃあ、自習室は見つけた?」
「え?あんの?」
あ、それ以前の問題だった。
「……穂村は今までに教室見てないの?」
「え?あったの?知らないんだけど」
……う、うーん……せめて、目撃情報だけでも、欲しかったぞ……。
という訳で、一旦暑苦しく燃え盛る炎の鎧を鎮火していただきまして、化学実験室にてお茶を出してます。
教室展開した時はまた頭のつくりが残念仕様になってはしゃいでたので、落ち着かせるまでがまた大変で……っていうのはいいや。語るだけ不毛だ……。
「……という訳で、俺達は教室を集めてるんですよ」
穂村耐性がある社長がいままでのあらすじっちゅーもんを説明してくれました。
なんとなく他の人たちは気分がもう暑さ及び熱さに負けてばててた。なんだろう、この接してるだけで疲れる人種ってのは、どうにかならないもんなんだろうか。彼ら自身が悪い訳じゃ無く、私達との相性が悪いだけだとは思うんだけども、さ。
「へー……じゃあ、大変じゃん?自習室、下手したらあの中じゃないの?」
……ほお、あの流れる溶岩の。
「……え?アレ?溶岩?ホントに?」
「え?うん。俺がここに来た時さあ、あそこら辺に居たんだよね?で、それからそこら辺一周したけど、自習室無かったし?」
……もし、もしも、だぞ?考えたくないけど、もしも、だぞ?……自習室がマグマダイブしてたら、もうこの世に存在しないとかいう事になってたら……う、うわ、考えたくない!そしたらマジで神殿とやらに行って、元凶とやらを消して、ってなるのか!?
一応、その問題の溶岩流とやらを見に行きました。
「ほら、アレ」
うん、遠くの方に赤く光る流れがあるね。見てみないと何とも、という事で、皆さんがちょっと付近まで行って見てみた。私は針生の視界を借りて見てただけです、すみません。
「うわ、熱」
しかし、付近は当然、熱い。近づけたのは『炎耐性』のある角三君と、穂村君だけである。
「あー……うん、うん……沈んでても分かんないよ、これ」
教室がもし、マグマダイブしても平気な素材でできていたとしても、ちょっと取り出し方が分かんないですなあ、これ。
というわけで、また実験室に帰って来て作戦会議……の前に、お昼ご飯。
こう暑いと食欲も無くなりそうだけど、昨日の鮪はまだあるのよねえ……。冷房(謹製羽ヶ崎君)の効いた部屋でお刺身ならまあ、辛くも無いか。
「え、鮪?」
「鮪」
「なんで鮪?」
「昨日海でとってきた」
「海とかあんの!?」
暫く火を吐くトカゲの肉ばかり食べていたという穂村君、凄く鮪に感激していらっしゃった。……うん、うん、辛いよね、それ、どう考えても。
味付けも無し、只火で焼いただけのトカゲの肉だけで、今までずっと生きてた、って……うん、うん。もはやちょっと頭が残念とか、気にしないよ。いっぱいお食べ。
「……で、溶岩流の中に教室が無事な状態で沈んでいたとしたらどうやって取り出すか、あるいは、溶岩流の中に教室が無い事をどうやったら確かめられるか、だな」
無理難題もしくは悪魔の証明、かあ。多分、そういうスキルが手に入れば楽なんだろうけど……。
「穂村がマグマダイブして見てくればいいんじゃないですかね」
「ちょ、流石に俺も!死ぬって!それは死ぬって!」
「火、操れるんじゃないんですか?」
「火とマグマは別っしょ!?」
あ、そうっすか。微妙に不便だな、こいつ。
「鳥海の『感知』では引っかからないの?」
「え、うん、さっきからやってみてはいるんだけども……んー、どうもうまくいかないんですわ、これが」
まあ、溶岩の中に在るものを『感知』するって、相当だよね。
「いっそ、溶岩せき止めて溶岩が引くの待ったら駄目?」
成程。それならなんとか……
「何でせき止めるんだ、岩とか金属とか使っても溶けるぞ」
そうでした、相手は水でもなんでもない、溶岩でした。
結局色々話してみたけども、上手い事そういうスキルを入手する、以外にまともな案が出なかった。
「あー、くそ、溶岩がなくなればな」
「なくなったら苦労しねーよ……」
机に全員で突っ伏していると、不意に、私の脇腹あたりがつんつんつつかれた。
そっちを見てみると……。
「……OH」
メイドさん人形たちが、巨大ハタキを運んできて、それの柄で私をつついていました。
……そうか、やれってか。




