63話
「私は眠くなったから寝る。舞戸、暇なんでしょ?性能実験でもやってきなさいよ」
との事だったので、早速皆さん巻き込んで実験です。
……いや、なんとなく、見当はついてるんだけどもね。
最初は、何やら新しくできてしまった赤い石の腕輪である。
これは簡単、単純にそのまんま、コピーされたかんじ。オレンジ色の奴と同じように、『交信』できました。
で、問題は3つになっちゃったオレンジの奴。
私と針生と加鳥がそれぞれ1つずつ装備して、実験。
「もしもーし、聞こえますかー」
「聞こえるよー」
「聞こえる聞こえる」
「あれ、針生も聞こえるの?」
「え?うん、聞こえるけど?」
……というようにですね。こちらは……なんか、チャットか何かみたいになってしまった模様。
誰か1人が機動させたら、その色の石が付いた全員に繋がって、その全員で会話できてしまう。
これは何やら非常に便利な予感!
つまり、これをパーティメンバー全員で持っていれば、離れていても意思の疎通ができるのである。
というかだな、これは離れていても話せるわけなんだから、情報室・新聞部組と、デイチェモール質屋組にそれぞれ渡しておけば、非常に便利なことになる訳で……ええと、でも、その前に月森さんを起こさなくては。
「はあ!?これ、まだ『複製』しろってえ!?アンタふざけてんの!?私のMP何だと思ってんのよ!」
怒られた。ま、まあ、そりゃそうである。4回『複製』したら限界が来るのだ。それほどのMPの消費を行っておきながら、寝てすぐに起こされてこれじゃあ、怒るよね、うん。
しかしこっちにはブツがあります。
「そんなあなたにこちら、ミント抽出液」
スカートの裾から、それぞれミント抽出液が入った瓶を抱えたメイドさん人形達がもそもそ出てきて、月森さんに差し出した。袖の下ならぬ裾の下。
「……なによ、これ」
「飲むとMP回復するよ!」
「え、この人形飲み物なの?」
違う、そっちじゃない。
月森さんにミント抽出液とメイドさん人形の説明をすると、ふむふむ聞いていた月森さん、にやー、っと笑ってこう言った。
「分かったわ。好きなだけ『複製』してあげる。ただし!……この人形、1つ頂戴」
言いながら既に、その手にはメイドさん人形を抱き上げている。
持ち上げられたメイドさん人形、急な事態にわたわたもがくが、月森さんは離さない。
……そっかあ、月森さん、これ気に入っちゃったかあ。
「うーんと、これ、一応私のスキルで動いてるんだよね。MPの補給はミント抽出液を与えればいいんだけども、私が離れたら動かなくなるかもよ?」
「んー……うん、それでもいいわ。そしたらそれはそれで」
はい、交渉成立。
ということで、メイドさん人形が3体程、月森さんの所に残ることになった。
なんで3体かっていうとですね……メイドさん人形たちはみんなそれぞれ髪型とか顔とか色々違うので、月森さんはどれにしようか迷っていたのだ。で、最後3体で迷いまくってたから、折角だからということで、3体ともあげちゃうことにした。
こっちはまた量産できるし、気に入ってくれたんならまあ、それもいいかなあ、と思ったのである。
なにより、メイドさん人形はそれぞれ、微妙に個性がある。働き者だったり、遊ぶのが好きだったり、のんびり屋さんだったりする訳だけれど……月森さんが選んだ3体のメイドさん人形達は奇しくも皆、昼寝の好きなぐうたらメイドばかりだったのだ。
これなら仲良くやっていけそうだよなあ、と思ったので、メイドさん人形3体は月森さん専属メイドになったのであった。
いやー、類ってホントに友を呼ぶよね。
ということで、MPをガンガン回復させてガンガンMPインターバル走してくれた月森さん、メイドさん人形達と布団に入ってご満悦のお昼寝タイムに入ってしまった。
しかしまあ、これでこっちの欲しかったものは揃ったので、後は配って歩くだけである。
まずは、三枝君。
彼はこのチームのリーダー的な位地になってしまったらしいので、連絡を取る時の係になってもらおう。
ざざっとこの『交信』の腕輪の性能を説明して、他にも月森さんにコピーしてもらった物を渡しておく。オレンジの腕輪は私達との連絡用、水色の腕輪はそっちのチーム内で使って下さい、ということである。
また、三枝君にオレンジの腕輪のオリジナルを渡しておいた。
『複製』できる月森さんの近くにオリジナルがあった方がいいからね、こういう事になりました。
それから、月森さんに『転移』のバレッタも増やしてもらったので、今度は相良君達デイチェモール質屋組に『交信』の腕輪と一緒に渡しておけば、彼らの助けになるね。
で、それはいいんだ。帰った時に渡せばいいんだから。
問題はこっちです。『神殿は私達が元凶を消した時に元の世界に帰してくれるのか』。これです。
色々やってたらお昼ご飯の時間になったらしいので、お昼をここでごちそうになりつつ、『アライブ・グリモワール』さんから得られた情報をこっちにも伝えておく。
その上で、聞くわけです。「お客様の中に、『神殿は私達が元凶を消した時に元の世界に帰してくれるのか』をご存知の方はいらっしゃいませんか?」と。
結果。
無論月森さんも含めて、誰も知りませんでした。
というか、勇者とか女神とか、そもそもの神殿とかが初耳っていう。
そりゃそうだ、神殿があるのは1Fらしいし、彼らが行動してるのは3Fなわけだし、もはや、知ってたらそいつが元凶なんじゃないかと疑うレベル。
まあ、期待はしてなかったからいいんだけども。
それから、こっちの進捗状況を聞きました。
どうも、3F北の教室は多分全部取り終わった、との事。早いなー。それで、彼らはこれから南に向かう所だったようだ。
危ない危ない、丁度このタイミングで会えてよかったよ。さもなきゃ、どこ行ったか分からなくなるところだった。
……連絡ができるって、当たり前のように思ってたけど、実は凄く貴重で、凄く素晴らしい事なんだよね。
携帯電話というものに頼り切っていた私たちは、ここんところを反省している訳なのでした。
これからはちょくちょく連絡を取ることにして、私たちはまたデイチェモール質屋へ『転移』。
こっちは放送部カップルがジョージさんの買い出しに付き合ってて、出払ってたけど、まあ、用があるのは相良君だ。相良君にオレンジの腕輪を渡しておくアンド説明。
それから、歌川さんに『転移』のバレッタを渡しておいた。これで彼らも結構自由に動けるようになるからねえ。
で、こっちでも聞いてみた。「お客様の中に、『神殿は私達が元凶を消した時に元の世界に帰してくれるのか』をご存知の方はいらっしゃいませんか?」を。
……うん、こっちはこっちで、神殿とか勇者とかは知ってても、そこんとこまで知ってる人は居ませんでした。
まあ、そうだよね……。割と花村さんとかも、色々無視して植物生やしまくってるから、ちょっぴり期待しないでもなかったんだけども。
「あ、そうだ、俺達も聞くことがあったんだった」
ほう、相良君も変な本と話したりしたクチ?
「……なあ、今って、この世界の年号で何年か知ってるか?」
「知らん。……何かあったのか?」
何故にそんなことを藪から棒に。
「多分、この世界の年号って、メディレフィアナ118年だと思うんだけど、な?」
なんだ、知ってるならわざわざ聞かなくても良くないかい?
「……この世界って、どうも、俺達が来たあたりが丁度俺達でいう正月みたいなもんだったらしくて……つまり、118年は始まったばっかなんだよ」
「それで?」
「で、だ。俺達、店番したりする事もあるんだがな?……店にある金、大抵、メディレフィアナ118年製なんだ」
ここで、何とも言えない沈黙が流れた。
……うん、それは……聞かなかったことにしておこう。うん。この世界の闇に足を踏み入れてしまいそうである。
うん、この話は無かった事にしよう。
「つまり、贋金を作ってる可能性がある、っていうことですね」
しかし流石空気クラッシャー社長。見事に言ってしまわれました。
「でもこの店の中にそういう設備ってあるんですか?」
……。ここでこの質屋さんの店舗について。
この店舗、表半分は店舗、裏は住居、っていう造りをしている。1階の半分が店舗と倉庫、もう半分が水回りと食堂になってて、で、2階は丸ごと住居空間。これがまた贅沢なことに、8畳ぐらいの部屋が6つもあるんですな。
で、そのうちの1部屋はジョージさんの部屋で、残り5つの内4つに相良君達が住んでて、最後の1つは物置状態。
さらに、地下室もあるんだけど、これは専ら、食品の貯蔵に使われている。
……で、この世界のお金って、硬貨なんだよね。で、この通り、硬貨を鋳造するような設備も無いんだから、まあ、ちょっと贋金作るのは難しいよね、っていう。
「外部から贋金を仕入れている可能性はありますけど、そういうのってありました?」
「いや……っつっても、まだここに来て2日だからな、分からないが……というかだな、この店、どこに金しまってあるんだ?」
は?……いやいやいやいや、それはちょっと問題じゃないかね?
「ジョージさんの部屋じゃない?私、買取の時にジョージさんが部屋にお金取りに行くの、見た事あるけど」
あ、そういえば私たちがドレスとか散々うっぱらった時も、お金出てくるまでにちょっとかかったね。
まあ、大金お店に置いておくよりは、住居空間の方に金庫でも作っておいて、そこに入れておいた方が安全かもしれんけど。
「あ、私、ジョージさん起こしにお部屋入りましたけど、金庫もお金も無かったです!」
お、おおう!?花村さんから恐ろしい情報が入ってしまった!
……じゃ、じゃあ、まじで、お金……どこから出てきてるの……?
「ちょっと!花村さんっ!駄目でしょ!女の子があんなオッサンの部屋に入っちゃあ!」
「ええー、だってえ、私一発なぐったらジョージさん吹っ飛ばせる自信ありますし……」
「そうだけど!そうだけども!あなた、危機感っていうものが足りてないのよっ!」
「そ、そんなこと言ったら舞戸先輩なんてもっと危機感足りてないじゃないですかあ!」
……こっちはこっちでなんか女の子2人がなんか言ってるなあと思ってたら、飛び火した。
「そ、そうよ、舞戸さん、あなたの危機感にも私、一言物申したいのだけれど」
「毎朝皆さん勝手に起きてくるから大丈夫!寝てるところに入ったことないし」
「それもだけど、逆よ!入ってこられたらどうするのよ!」
……はて、入って……ん、いや、待てよ?
「入るも何も……出たら即私寝てるなあ……」
ケトラミさんを布団にしようとすると、満天の星空の下で寝ることになっちゃうのよね。
「はあ!?ちょ、ちょっと!大丈夫なの、それ」
「既にケトラミさんには助けてもらってるしなあ」
何かが接近してきたら唸り声をあげて教えてくれるのだ。なんと高性能なお布団であろうか!
そうだ、峯原さんの時も教えてくれたし、黒いでかいヘビの時にもケトラミさんが教えてくれたから何とかなったのである。
うん、なんと安全なお布団であろうか!素晴らしすぎる!
……この後もなんか色々歌川さんに言われたけども、最終的には『大丈夫、何かあってもこっちにはケトラミさんという心強い布団もいるし、プラスして8人も戦闘職がいるので!』で通った。
なんかすごく頭抱えられてしまったけども……寝てる私に何かしようと思ったらまずケトラミさんの壁を突破しないといけないし、ケトラミさんが吠えたらすぐに8人の戦闘職が飛んで来るし。突破するの無理じゃね?
あ、強いて言うならあれか、遠距離攻撃には対応できないのか。
うーん。ここら辺、その内対策できるといいなあ。




