60話
なんで福山君がこんな所にいるかって……普通に考えれば。普通に考えれば、多分、福山君も階段遺跡を通って、1Fに来た、って事なんだろうけども……。
うーんと、うーんと……あいつ、1人で階段遺跡突破できる位、頭が回るのか?
……私自身は攻略を皆さんにほっぽり投げたので全く関与していないけども、一応『共有』で羽ヶ崎君の視覚を借りて見ていたからね、知っている。
あの階段の役割を果たす遺跡。どこぞの、ごまだれ~♪なSEで有名な謎解きアドベンチャーゲームも真っ青な、謎解き要素がたっぷりの遺跡なのだ、アレ。
只の階段と侮るなかれ、その謎解きの量と質もさることながら、ひっきりなしに現れるモンスターも脅威。
例え皆さんが攻略した後の、謎解き要素が殆ど解き終わった遺跡だったとしても、モンスターまみれなことに変わりは無い訳で、私たちの後を通ってきたとしても、ちょっと疑わしいというか……、あ、いや、あいつもあいつで一応戦闘能力は高いみたいだし、まあ、ありえない話ではないんだけども、なんか釈然としないというか……。
……ええい、そんなことより、アレをどうするかだ!私たちは素寒貧、無いお金は出せませんが、このままほっとくのもなんとなく夢見が悪いような、そうでもないような……。
……そうでもないなあ、うん。
しかし、一応どの貴族に買われていったか位は知っておいた方がよさそうなので、オークションを見てから帰ることに落ち着きました。
一応、すぐにでも帰れるように、鳥海がお金と競り落とせた異国人の奴隷2人を交換しに行ったので、戻ってきたらすぐ帰れるね。
「こちらが本日最後の出品を飾るのもお分かりかと思われます!異国人の奴隷でも、ここまで整った顔立ちの物は珍しい!」
あっこら、羽ヶ崎君、中指を立てるなとあれ程!ムカつくのは分かるが!
「そしてこの奴隷も見目麗しいだけでは無い!この奴隷に剣を持たせれば、海も大地も切り裂いて見せるでしょう!」
なんだか微妙な煽り文句だなあ、これ。まあ、魔術師よりは煽り文句に困るのは分かるけども。
そして、そんな微妙な煽り文句をされている当の福山君を見ると……何かを探すみたいに視線を動かしてるな。ふむ、誰か探してるんだろうか?
視線を辿ってみようと試みたものの、それは諦めざるを得なくなった。
何故かっていうと、うっかり目が合った瞬間、めっちゃこっち見てきたからである。
おおう、何だね、何だね、びっくりするじゃないか。私はローズマリーさんだぞ?舞戸じゃないぞ?……背格好が似ていることは否定しないけど!
そして、福山君の視線は私に固定された訳では無く、すぐに私の周りに移った。
……つまり、うん。化学部の皆さんです。
私は人違いです、で済むとしても……こっちは……仮面付けててもさ、うん、そういう訳にもいかない。
さて、福山君は皆さんに助けを求めてくるか、それとも。
……後者でした。
福山君は、いきなり自らを繋ぐ鎖諸々を引き千切ったかと思うと、一瞬でこっちに向かって突進してきた。
「っ!」
瞬間、私は横に引っ張られて、なんとかそれを回避。
「まい……じゃないのか、ええと、マリー、大丈夫?」
回避行動は角三君によるものだった模様。
「大丈夫です。どうも」
ただ、腕を引っ張るのは勘弁してほしい。腕が抜けるかと思ったぜ!
他の皆さんも、なんとか回避した模様。まあ、あの程度の突進ならば私でもぎりぎり見きれないことも無いかな位だったし、皆さんに避けられないわけが無いね。
「おい!貴様何をしている!」
「早くステージに戻れ!」
主催者側のガードマンらしき人が2人、福山君をステージ上に戻そうとするけど、それを許す異世界人じゃないんだな。
「五月蠅い!よくもお前ら、人が人を売るなんて、非人道的なことができるな!」
割と簡単に屈強な男性2人を弾き飛ばすあたり、やっぱりこいつも異世界人、補正が多分に掛かっているのである。
そして、福山君は壁にかかっていた燭台を手に取ると、多分、『エネルギーソード』を発動させた。角三君ので何回か見てるから間違いないね。
そして勿論の事、それは光の剣となって現れる。
福山君はその光の剣を掲げてこう言った。
「僕は女神に信託を受けた勇者だ!僕が来たからには、奴隷売買なんてもうさせない!」
ど、どうしてそうなった!
何やら頭のネジが更に数本飛んだらしい福山君だが、周りの人の反応はちょっと私たちの想定と違った。
「な、なんだと、勇者だと!?」
「確かに、神殿で新たな勇者が導かれたという話は聞いていたが……」
……どうやら、この世界、勇者とか女神とかもいる模様。
そうかー、全然そういう話聞いていなかったもんだから、そういうのもあるとか思わなかったなあ。
そうか、福山君はそんなに頭ぶっ飛んでる訳では無い可能性がある訳だな。
にしても、勇者かあ。覚えておこう。
「おい、お前!化学部の鈴本君だろう!」
おっと、ここで鈴本ご指名である。そういえばこいつら、1年の時は同じクラスだったなあ。
「隣にいる女の子は、誰だ?なんで首輪なんて付けてるんだ」
こら、危ないから剣こっちに向けるのはやめなさい。
「こいつは俺達の奴隷だが?」
鈴本は今MPインターバル走やって疲れてるからなあ。あんまり機嫌がよくないぞ。
「お前……!よくも、奴隷なんて酷い事をさせられるな!」
だからね、福山君よ、そういうちょっと面倒くさいことは言わないでくれるかな。
それから、『エネルギーソード』を伸ばすのもやめなさい。こっちに届きそうでしょ、危ないなあ。
「……舞戸を誘拐して見殺しにすることは酷い事じゃないのか?」
ほら、いい加減腹立ったらしい鈴本が君の傷口を的確に抉りにかかったぞ。これは君が悪いぞ、福山君。
「それとこれとは……話が違うだろう!舞戸さんは……舞戸さんは、そもそもお前たちが、酷い事してなかったら!」
「責任を転嫁するなよ、舞戸は酷い事をされているから助けてくれと言ったのか?」
「舞戸さんの立場でそんなこと言えるわけなかっただろ!だから僕が……」
「誘拐して、そのまま見殺しにしたんだよな?」
なんか鈴本、福山君を煽りまくってるけども……微妙に楽しそうですらある。
うん、まあ……気持ちは分かるよ。
「……確かに、舞戸さんを、舞戸さんを死なせてしまった!」
ごめん、死んでない。
「けど!もう二度とあんな事が起きないように!僕は強くなった!」
そうかね、それはお疲れ様です。
「ここで悪事を見たからには、お前たちも許してはおけない!」
なんというか、ここまで聞いてて思ったんだけども……多分、非常に性質の悪い事に、福山君にとって、私を攫って見殺し(死ななかったけど)にしたという事は、結果こそ最悪の物であったにしろ、過程は間違った物じゃなかった、っていうことなんだろう。
そして、その結果、私が死んだ(死んでないけど)事に関しても……多分、防衛機制的なものなんだとは思うんだ。自分が人を死なせる原因になってしまった、っていうのは、やっぱり相当クると思う。
それから逃避する為だとは思うんだけど……福山君は、私が死んだことを、『美談』にしてしまおうとしている。それは、私としては許せない。
ましてや、その自分を棚に上げて、皆さんを悪者扱いするなんていうのも、許せない。
『エネルギーソード』で打ちかかってきた福山君は、鈴本を狙いに行った。
でも、そんなことで一々やられる奴でもない。
見えない速さで抜刀したと思ったら、『エネルギーソード』の媒体になっていた燭台を一閃して斬り飛ばし、そのまま福山君の首に刀を突きつける。
「強くなった、んだったか?これで?……笑わせるなよ」
呆然としている福山君に、鈴本はそれ以上何をするでもなく、刀を鞘に戻した。
「いいか?これでも足りないんだよ。俺達8人居たって、それでも足りないんだ。強くなった、なんて、思うな」
何となく、鈴本が私の右脚のあたりをちらりと、見た気がする。一度溶けて無くなった場所である。
……気にしなくて、いいのにさ。
「……なあ、鈴本君、その女の子は、舞戸さんの代わり?……どことなく似てるよね、舞戸さんに」
大人しくなったなあと思ったら、何言い出すんだお前。
流石の鈴本もそろそろ頭がパンクしそうだから止めてあげてくれないかね。
というか、ローズマリーさん的にはどういう顔すればいいのよ、これ。
そして、福山君が遂に頭爆発した。
「君も、舞戸さんが好きだったのか?」
……多分、たっぷり5秒は固まったと思うよ、皆。
「やめろ、気持ち悪い」
そして、能面のような表情でこの回答である。流石です。
「そう考えると色々納得がいくんだよ」
いくなよ。お前の納得、行く方向間違えてるぞ。
「舞戸さんの代わりを探して奴隷を売るオークションなんかに来てたんだろ?」
「だからやめろ気持ち悪い」
とことん気持ち悪い方向に納得がいく奴だなあ!お前以外納得いく奴誰もいないぞ!
「でも、やっぱり奴隷なんて間違ってるよ。人が人を売り買いするなんて」
「人の話を聞け」
ぽん、と肩に手を置かれたので振り返ると、いつの間にか鳥海が落札した奴隷2人を連れて戻って来ていた。そして、「舞戸さん、大変だったんだね……」みたいな目をされた。うん。ね?こいつ、ホントに人の話聞かないでしょ?
「僕たちは確かに、理不尽な目に遭ってる。けど、だからって人の道を踏み外しちゃいけないと思う」
「聞いてるのか」
ダウンしている刈谷を加鳥が背負って、羽ヶ崎君に角三君が肩を貸したことで準備万端である。
鈴本さん、いつでもどうぞ。
「だから、君達がこれ以上間違わないように、僕がここで止める!」
「よし!もう無理だ!帰ろう!鳥海頼む!」
「ではアデュ~。『転移』」
というわけで、デイチェモール質屋に移動しました。
「おう、お疲れ、どうやら落札できたみてえだが……お、おい、大丈夫か?なにかあったのか?えらく疲れてるみたいだが……」
オッサンの労いが心にしみるぜ、全くよう!
「……ちょっと、ああ、何か……人知の及ばない何かに、遭遇してしまってな……」
……一応、一応、移動してから全員で確認してしまった。
確かに、ドッグタグには『翻訳』スキルがあるのに……。あれは一体何語だったんだ……。




