58話
よくよく思い返せば、操作していない時に動いて起こしに来たり、操作してもいないのに一緒にケトラミさんのお腹で寝にきたりしてるぞ、こいつら。
何だ、何なんだ、一体!
……というわけで、聞いてみた。
「動かしてないのに動いてるのは何故だね諸君」
メイドさん人形たちは『しまった!』みたいな顔したけど、駄目。可愛いけど駄目。ちゃんと教えなさい。
すると、困ったような顔をしながら、小さな瓶を持ってきた。
……あー、これか。作ったっきり、出番の無かったミント抽出液!
メイドさん人形の匂いを嗅いでみると、やっぱりというか、ミントの爽やかな香りが付いている。
ふむ、折角なのでミント抽出液を『鑑定』してみると、『MP回復(大)』とあった。
試しにほんの一滴程度舐めてみると、MP空っけつがほぼ全回復した感触。
ふむう、これ、相当に性能がいいな。これは量産した方がいいかもしれない。
しかし、気になることはまだある。
このミント抽出液、ほんの数mlしか無かった……はずなのに、何故か、増えている。
増えてる、って、そりゃ、さ。
「もしかしてこれ、夜な夜な作ってたりとか」
『します!』みたいな顔された。ああもうだめだこれ、なんなんだこのお人形達は!
つまり、このお人形たちは私が寝てからこのミント抽出液を服用(?)して、そこから得られたMPで動き、ソックスレー抽出器を組み立ててミント成分を抽出し、そして何事も無かったかのように全てを片付けていた、ということか!
な、なぜそこまでして……はっ!そうか!全ては私のMP負担を和らげるため!そのためにこの子たちは夜な夜なミントを抽出して……。
な、なんていい子たちなんだ。しかしこれからは特に隠れてそういう事をすることも無いから、堂々とやって下さいな。
ということで、化学実験室の片隅にはソックスレー抽出器がセットされっぱなしになり、そして大きな植木鉢にミントが常時生い茂っているようになりました。
メイドさん人形たちは自分たちを動かすMPが足りなくなってきたら、ミント抽出液をほんのちょっぴり体に染み込ませる。
そして、暇を見てはミントを伐採してソックスレー抽出器で成分を抽出、保存。
植木鉢にミントが無くなったら、私が『生長』で茂らせてあげればよいのである。
正直、メイドさん人形たちを動かすMPよりも、ミントを『生長』させる方がMP効率いいのだ。これは助かる。
それにしても、人形が外付けのMPで動けるっていうのは大きな発見だったなあ。
こういうのはもっと早く報告して欲しかったんだけども、如何せん、私の許可なくミント抽出液を使っちゃったのが後ろめたくて言い出せなかったらしい。
今後はすぐに報告するように、と言っておいた。
今後はもっと自由に動けると分かったメイドさん人形達、凄く喜んでいた。
うんうん、これからもよろしくね。
というようなことをやって、夕食の支度をしました。
今日はまた18人ご飯なので焼き鳥にしました。
皆さん適宜ひっくり返して適当に食って下さい。
後はご飯とみそ汁と野菜の煮物と漬物、みたいなメニューである。手を抜いているが許せ。
そうして皆さん帰宅。
「ただいま」
「お帰りなさいませご主人様軍団」
17人の帰宅はなんとも壮大である。最初は3人の帰宅だったもんなあ。
あの頃から比べたら、えらく進歩したもんである。
「地下オークションに行ってみた。が……やばいな、明日色々重なるらしいから、明日までに金が大量に必要だ」
ご飯食べながら聞いてみたら、それはそれは酷い事に、教室一個、異国人の奴隷2人が明日の夜出品されるらしい。
「教室の最低落札価格が白金貨30枚、異国人の奴隷の相場は白金貨80枚からだそうだ」
……。
よーしよしよしよし、考えよう。
まず、異国人の奴隷2人で最低でも白金貨160枚ぐらい。
それから、教室は白金貨30枚が最低なんだから、その数倍になるだろう。ここでは仮に5倍と考える。
と……白金貨310枚、つきましては銀貨31000枚、よって作るドレスは……62着!
まままま待てよ、い、今作った分って、あれだ、ええと、29着だ。つ、つまり……あと33着!
死ぬわ!これ死ぬわ!
しかもこれ、かなり少なく見積もられた金額である。実際はこの倍欲しい所。
死ぬ!死ぬ!私これ死ぬよ絶対!
ああああああ!どうしようどうしよう!
ここここここうなったらしょうがない、最後の手段だ!
「お前らドッグタグ貸せくださいっ!」
やったことは無いが、できるはずだ。何てったって、貰う事は出来た。だったら、あげることができたっていいじゃない、『共有』だもの。
「まずは鈴本からね。『繊維錬金』『糸紡ぎ』『機織り』『裁縫』『染色』……くっそ外れか!」
なんということでしょう、鈴本にはこれらのどれも分け与えることができませんでした。
「次はお前だ羽ヶ崎君!『繊維錬金』……おお!『糸紡ぎ』『機織り』『裁縫』『染色』……あああ、でもいい!この際繊維作るだけでいい!ありがとうよろしく」
「え、ちょっと、え、何?僕が繊維作るの?」
「あたぼうよ」
「僕繊維とか作り方知らないんだけど」
しかしお前のドッグタグには『繊維錬金』なるスキルが刻まれた。諦めて作れ。
「やればなんとかなるよ、はい木材」
「……『繊維錬金』」
羽ヶ崎君が諦めて繊維を作り始めたけど……。
「ちょ、タンマ」
「何」
「君、それ、何の繊維作ってる?」
「え、木材から繊維っぽいの取り出せばいいんじゃないの?」
……。成程。彼らには一旦セルロース取り出して配列変えて繊維と成す、みたいな発想は無い訳だ。
「OK、私が悪かった。ええと、キュプラ作って」
「何、キュプラって」
……授業でやっただろ!家庭科でも化学でもっ!
そこから化学の教科書引っ張り出してきてキュプラの説明をすること5分で羽ヶ崎君は立派に繊維を作ってくれるようになった。なったんだけども……何故か、私が作った時とは違い、廃棄物が出る。つまり、繊維を作った残りかすが出てしまうのだ。
何故だ。うーん……まあ、この程度なら別に問題ないんだけどね。
それから他の人たち全員と『共有』を試みた所、なんとか加鳥が『染色』を覚えてくれた。
……しかし、まあこっちもこっちで色々ありまして、元々それ単体で効果がある植物を染料の原料にしないと、特殊な効果が出なかった。しかも、発色が……なんか私がやった時と違う。
まあ、これに関してはむしろ今は有難いので、適当にそこら辺から花村さんが生やした花でガンガン『染色』していってもらうよ!
ということで、私はひたすら切って縫う機械と化した。
さっきよりも作業工程が簡略化されて非常に楽。メイドさん人形たちはノーコストで紡績して織ってくれるので、こっちもまた楽。
また、メイドさん人形たちはMP消費量を増やしていけばそれだけ速く布を作れることが判明したので、その為のミント抽出液を社長に生産してもらっている。
そして、消費するMPが大きい工程を羽ヶ崎君と加鳥に任せられちゃうっていう事は非常に楽。
そうして寝る前の2時間程度で、なんと服24着を生産することに成功!これで最低目標までの残りは9着!おお、これなら明日の夜のオークションとやらにはいっぱいお金を持っていけそうですなあ。
そしてまたケトラミさんは諦めてお布団で就寝、そして起床。
起きたら平常運転で5時前位でした。
昨日のように三度寝することになるのはちょっと効率的ではないので、花村さんと歌川さんと海野さんには放送室で寝てもらいました。
ほら、放送室って床が木でもリノリウムでもない、カーペット敷きだから、冷えにくいんだよね。
なので今日は朝早くからご飯の支度ができるという事で、ご飯の朝食にしますよ。
卵を箱で買ってから卵焼きが作れるようになって私は満足です。
強いて言うなら、卵焼き用のフライパンが欲しい。
今度鳥海あたりにつくってもらおう。
朝食を食べたら、今日も切って縫うマシンと化しての作業開始!
「割と何回もこの光景見てるけど、何度見ても舞戸さんの縫うスピードがおかしいんだよね……」
ははははは、それはスキル様様と言った所だね。どうやってこのスピードで縫ってるのか自分でもよく分かってないもん。
私の隣ではメイドさん人形たちがせっせと繊維を糸に、糸を布にしていて、更にその隣では羽ヶ崎君が木材を繊維と廃棄物にしている。
そして外では、鈴本や角三君や相良君達が木材の伐採を行っていて、そして女の子たちは花を咲かせて摘んで咲かせて摘んでを繰り返している。花村さん様様。凄い効率、凄い速さ。
他に仕事の無い人は、食材集めに出ている。
そろそろまたお肉が足りないかなあ、と。
お野菜に関しては私が『萌芽』『生長』で生やせるようになっちゃったからいいんだけども、肉は生えてこないんだよね……。
そういった作業をお昼まで続けたら、服が40着できました。速い!
これでえーと、昨日から93着のドレスや礼服、時にふざけてナース服だのウェイトレスの制服っぽいのだの、そういうのを作ったわけです。あ、メイド服は作ってない。なんとなく。
それらを全員で抱えて、デイチェモールの質屋のオッサンの所に『転移』。
あ、この『転移』に関しても、オッサンに既に許可を取っているらしい。つまり、人目に付かない店の奥に直接押しかける許可、ということである。
オッサンはもうこういう不思議現象には慣れちゃったらしい。そりゃそうだ、18人もの異国人と付き合ってたらそうなるわ。
「よお、いらっしゃい。……うお、こりゃまた随分な量だな!」
「93着です」
「93、93かあ……貴族だけでなく裏ルートで他所の市場に流してもいいな、こりゃ。そしたらまたぼったくれるなあ……うひひひひひひ」
もうオッサン、ぼったくる気を隠そうともしない。最早私達、同業者みたいなものだからね。
「で、幾らで買い取ってくれるの」
「一着銀貨500枚で93着……で、銀貨46500枚だが、おまけして47000枚で買ってやる。どうだ?」
銀貨47000枚は白金貨470枚。ふむ、これだけあればなんとかなる……かもしれない。いや、まだ不安だけども。
「じゃあそれはそれで。で、次はこっちなんだけど」
こっち?まだ売るものあったっけ?
「これ……ま、まさか剣闘士大会の賞品じゃねえか!?」
「そうだけど?」
……ああ、そういえば、あったね、剣闘士大会の賞品のなかに、『防御力上昇』がお情け程度に付いただけのマントが。しかも6つも。
「ま、まじでいいのかよ!?こんなもん売っちまって!」
オッサン、超興奮状態。そんなにか、そんなにこれ、凄いものなのか?これ以上の物、簡単にぽんぽん作れるこっちとしては残念なだけなんだけどなあ。
「まあ、買わなきゃならない物がいっぱいあるから。で、これは幾らで買う?」
「そ、そう、だな……うん、よし。一枚金貨250枚でどうだ!?」
金貨250枚=銀貨2500枚。
……。あれ、おかしいな。私が作った服の5倍の値段で売れるぞ?
「よし売ったー」
「まいどあり!へへへへへ……これは高く売れるぞー」
金貨250枚×6で金貨1500枚=白金貨150枚。
うーん、ぼろ儲け。
「ああ、じゃあついでに俺達が貰った指輪も売っちまおうか」
はい、相良君達がノナの部優勝賞品としてもらっていた指輪、あれ、相当程度の低い『最大HP増加』か『最大MP増加』だったので、そんなもん付ける位なら私たちが遺跡で拾った指輪付けてた方がいいぞ、ってなりまして。
これも売っちゃえ、ということですな。
「本気か!?これも剣闘士大会の賞品だろ!?」
「9個あるけどいくらで買う?」
「ぐぬ……よし!こっちは9個纏めて金貨2500枚でどうだ!?」
なんてこったい、凄い値段である。金貨2500枚=白金貨250枚。
大分ぶっ飛んだなあ。
「よーし、売った」
これで白金貨がええと……870枚かあ。……ぼろ儲けだなあ。
「毎度あり!っくー、ホントに俺はツイてるなあ、今やこの界隈じゃあすっかりこの手の『失われた恩恵』の装備はウチの専売特許みたいになっちまってるから儲かってしょうがねえよ」
「そんなに売ってて他所に目付けられたりしないの?」
「ああ?大丈夫だろ。異国人の貴族様御用達ともなりゃあ、そうそう怖くって突っかかってこらんねえだろ、多分」
だ、大丈夫かあ?その異国人の貴族様たちからメイドを盗もうとした馬鹿はいたぞ?
と不安に思っていたら、オッサンはにやりと笑って声を潜めた。
「ここだけの話な、王都の方ではすっかり噂になってんのよ。……異国人の貴族様から奴隷を盗むと氷漬けにされる、ってな」
あっ、そうかー。口コミ効果はあったわけだね。
多分、剣闘士大会の主催者側が例の人攫いたちのアジトで私が拘束しっぱなしてきたオッサン共3人とエンカウントしてるらしいから、多分そこの事情聴収あたりから漏れたんだろうなあ。
「でも、それも結局は噂だろ?だったら俺達、交代でこの店に泊まって守ってやってもいいな、どうせ寝る場所は欲しいと思ってたし」
それでも不安に思ったらしい相良君、凄い事を言い出した。
「え、え!?マジか!?」
オッサンノリノリである。そりゃそうだ、異国人は『失われた恩恵』の塊なんだからさ。
「ああ、俺達9人が貴族になれたら、適当にここの店守ってやるよ。今の俺達にとってこの店とアンタは生命線だからな」
まあそうかー、この店とオッサンが無くなると、私たちはお金の入手経路が一気に無くなってしまう。それに相良君達は王都とデイチェモールの市場を監視するのも仕事だからね、ここに拠点を置くのは悪くないのか。
「よし、分かった。ウチなら9人泊まるぐらいのスペースはあるぜ。なんならアンタらが貴族になるまではウチに匿っといてもいい。どうだ?今日からでも泊まらねえか?」
おお、それもいい条件だな。相良君達もこれに同意。今日のオークションが終わったらまっすぐここに来て、今日からここに住むことになった模様。
質屋のオッサン、別嬪な女の子が4人も住むことになって大層嬉しそうである。
しかし間違うことなかれ、彼女たちはその拳の一振りでオッサンを屠れる程度には、強いぞ。




