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56話

 社長の台詞の所為で、会場が騒然とした。

 そりゃそうだ、今回の剣闘士大会の目玉であった賞品が偽物だったとあれば、この大会自体の威信に関わる。

「俺は異国人です。『失われた恩恵』を使えば、それが偽物かどうか分かります。……これは偽物です。異国の魔法の部屋なんかじゃない」

 此処はよく喋る社長一人に任せて、残りは全員傍観の姿勢である。

 下手に全員が被弾することもない。

「な、何を仰るか」

 一方、主催者側の人はちょっと可哀想ではある。でも社長、容赦しない。南無。

「これが本物だっていうなら、ここで証明して見せればいいじゃないですか?できないんでしょう?だったらこれは偽物ですよ」

 混乱の真っただ中なのは主催者側だけじゃない。

「それは本当か?」

 ノナ優勝の9人も、また当事者なのである。

 そのうちの一人が兜を外して見せた。

「……ああ、アライって、お前だったのか!」

「久しぶりだな、鈴本」

 何やら鈴本と面識がある模様。知り合いなら苗字で分かって頂きたかったものである。

「で、そっちの……だれだっけか」

「柘植です」

「柘植の言ってることは本当なのか」

「本当だ。保証する」

 鈴本が言うと、ノナの人たち、皆困ったような顔をした。

「俺らは今、ある貴族の奴隷にされてるんだがな、今回の大会で優勝して、異国の魔法の部屋とやらを持って帰れば解放してくれる約束だったんだ」

 ほほう、つまり、偽物掴まされたら奴隷脱出ならず、っていうことか。

 百歩譲って、偽物かそうじゃないか貴族が分からなかったとしても、今ここで社長が言っちゃってるから貴族騙すのももう難しいしなあ。

 しかしだなあ、アライ君や、その約束、ちゃんと守られるっていう保証はあったのかね?多分ないよな。大丈夫か?

「最低でも私達、何かあの貴族との交渉の材料にできる位の物は持って帰らないと、奴隷のままなのよ」

 こちらはさっき叫んでこちら側を全員ダウンさせた女子である。

 もうMP切れ脱出したのかー、早いなあ。

 しかし、彼女のいう事はご尤も。私達としても、ここでこの9人は是非解放してあげたい所ではある。

 ……ふむ。しかしここはまあ、落としどころがちゃんとあるね。

「主催者さん、賞品の魔法の部屋が無いんだったら、この人たちの望みを叶えるという事で妥協するのはどうですかね」

「……というと?」

「この9人に賞品として奴隷やめる権利を与えれば文句が出ません」

 この場合、この9人を買った貴族が大損だけど、逆に言えばそこの補填だけでこの問題は解決する。その程度ならなんとでもなるでしょ。

 で、その補填の為に主催者側がまた大損するわけだけど、まあこっちは面目を潰されなくて済むっていうメリットがあるから、主催者側としても有難い申し出のはずだ。


 その後も社長が主催者さん達となんやかや話しまくって、向こうがごねたら社長が懐に手を突っ込むことで黙らせ、結局社長の思惑通りになった。

 9人は奴隷から解放されて、その9人を買った貴族には恩賞が与えられることになった、と。

 これにて一件落着。

 ……あ、いや、その、ローズマリーさんが盗品を窃盗した件については……ばれなきゃいいんだよ、ばれなきゃ。




 というわけで、何とも言えない大団円を迎えた私達ですが、とりあえず2F北東エリアに戻りました。

 折角なのでノナの部優勝の相良君(これでアライって、読むらしいんだよ。鈴本がぱっと思いつかなかったのもなんとなく分かるね)うん、相良君をはじめとした9人の人たちも一緒である。9人が持っている情報と私たちが持っている情報の交換と、折角だから皆でご飯食べよう、っていうのが目的である。


 今日のメニューはご飯に味噌汁、出汁巻き卵、青菜の胡麻和え、生姜焼き、といった具合の、日本の食卓っぽいメニューです。

 ほら、9人の人たちは味噌とか食べられる状況に無かったわけだし、だったらさぞ和食が恋しかろうと思ってこんなメニューになりました。

「凄く美味しいです!味噌とかどこに売ってたんですか?」

 花村さん、という1年生の女の子はさっきからご飯に感激しっぱなしである。

 可愛い女の子が出汁巻き卵とか、もふもふ食べてるのは非常に可愛い。うふふふふ。

「味噌も醤油も作ったのよね、食べたいのにこの世界に無いもんだから」

「えっ、ダリアさんはこの世界の人なんじゃ……?」

 あ、戻るの忘れてた。

 慌てて鏡出して、『変装』を解くと、花村さんも納得の模様。

「作るって、発酵とかさせるんですよね、どうやったんですか?」

「それはね、スキルさ!」

「えっ、そんなスキルがあったんですか!?凄いです!あの、職業は何ですか?不思議な魔法使ったり、槍で剣斬ったりしてましたよね!?魔法戦士とかですか?」

 花村さんは瞳を煌めかせて私に尋ねてくる。

 ふっふっふ、ならば教えて進ぜよう!

「メイド」

「……えっ」

「メイドです」

「え、あの」

「見るかい?どうぞどうぞ」

 ドッグタグを見せたら何とも言えない表情をされてしまった。

 やめてよー、皆なんでメイドだって言う度にそういう顔するんだよー。




 ご飯も好評で、デザートとして寝かせておいたフルーツケーキを出したらこれもまた好評でした。主に女子に。

 いやー、メイド冥利に尽きるね、全く。

「という訳で、俺達は教室を集めてる」

 尚、デザートの用意とかしてる内にこっち側の情報は渡し終った模様。

 私は頭の中身を整理して伝達するっていう事が苦手だから、鈴本みたいなのがいると非常に助かるね。あ、私の場合は最悪『共有』で記憶を垂れ流せばいいのか。燃費悪いけど。

「うーん、そうか。だったら俺らも協力できると思う。今貴族の間に『異国の魔法の部屋』とやらが出回ってるんだよ。俺達、それぞれ長らくいろんな貴族の所で奴隷やってたからな、この世界の貴族事情には詳しくなった」

 そして相良君から嬉しい情報。これで1つ、新たに教室の場所が分かったね。

 長らく奴隷やらされてた彼らとしては非常につらかったと思うけども、それは十分に有益な情報と成り得る。

 私たちはこの世界の事を知らない。

 だから、この世界に詳しい人がいてくれるっていうのは非常に心強い。

「けど……金が無いんだよな。とてもじゃないけど、白金貨100枚なんて手が出ない……って、あ、お前らこの世界の金勘定分かる?」

「分かる。つまり白金貨100枚って、金貨1000枚、銀貨10000枚だろ?」

 つまり、デイチェモールの質屋のオッサンの所でドレスを20着売ると手に入る金額かあ。

 結構な額だなあ。

「金さえあれば教室は買えるのか?」

「いや、地下オークションに近々出るらしい、っていう噂。最低落札価格が白金貨30枚。で……どっちかっていうとこっちが問題なんだけどな?貴族じゃないと、そのオークション、出られないらしい。それで、貴族になるには最低白金貨70枚が要るらしくて……」

 オークション、とな?つまり、おそらく、というか絶対、白金貨30枚じゃあ落札は不可能。少なくともその10倍は持っておきたい所。

 しかし、貴族になる必要は無い。なぜならこちとら、私除いて全員、貴族(笑)っていう事になってるからである。

「そうか、だったら問題ない。俺達は一応貴族っていう事になってる」

「そりゃまた、随分と変なことになってるな、お前たちも……」

 うん、こっちとしてもそう思うよ。


「最悪の場合でも、白金貨100枚ぐらいならなんとかなるアテがある。そのオークションとやらは俺達が何とかできると思う。相良達は情報室・新聞部組に合流して3Fを制圧してもらうか、王都やデイチェモールで売られてる仲間を探してもらえると助かるんだが」

「だったら俺達は後者かなあ、歌川、どうだ」

「うん、私の友達も何人か多分、奴隷にされてると思うの。早く助けてあげたい」

「他はどうだ?」

 相良君が残り7人の人たちにざっと聞いてみた所、まあ反対意見も無く、彼らは彼らの経験と知識を生かして奴隷救出班になることになった。




「じゃあ、次は相良達の方か」

「ああ、大した情報でもないんだが……まず、俺と歌川、花村は同じ貴族の所で買われた」

 そういえば、デイチェモールの質屋のおっさんもそんなこと言ってたよなあ。

「で、日がな一日持ってるスキル使わされてたな。一応衣食住は保障されてたが、扱いは酷いもんだったよ」

「酷いんですよ!私と歌川先輩なんて、貴族の人に夜の御伴までさせられそうになったんですから!」

 ……あ、させられそうになった、っていうことは、させられなかったってことかな?どうしよう、ここんとこ、凄く聞きづらい。

「あ、大丈夫です。させられそうになったときに一発殴ってやったら、それ以来腫物を触るみたいな扱いになったので!」

 あ、それはよかった。

 ……うん。なんとなーく、この世界における異国人の奴隷の扱いが分かったぞ。

 つまり、あれだ。

 一応所持してるし、奴隷なんだけど……下手に触ったら、死にかねない。

 しかし、それによって得られる価値……つまりスキルの価値は、プライスレス。

 そういう爆弾として、彼彼女らは扱われていたって事か。


「というか、何でお前ら脱走したりしなかったんだ?」

 あ、それは疑問だった。ぶん殴って大人しくなる貴族なら、もう二三発ぶん殴って解放させればよかったんじゃないだろうか?

「ああ、それは簡単だ。奴隷には脱走防止用の首輪が付けられてる。アレは貴族が設定した範囲外に出たりすると爆発するようにできてるらしい」

 ほほう、そういう便利な首輪があったなら、私が攫われたときにもつけられてておかしくなかったんだけどなあ。

 まあ、凄く高価なものなのは確かだろうし、それにその真偽を確かめる為に賭けなきゃならないチップが自分の首、ってのはちょっとリスキーすぎるか。

「だから逆らうのもアウトなのよね、本来。花村さんは思わずぶん殴ってやったらしいんだけども、いつ爆発させられるか分からないんだもの。私は精々スキルでその都度硬直させるぐらいにしてたわ」

 因みにこの歌川さんが、我々がノナの部で負けた理由となったあのスキルを使った子である。

 彼女の職業は『歌姫』。そのスキル『魔声』は、自分の声に意思を乗せて、相手に強制力となって働きかける事ができる、というもの。

 ノナの部での戦いでは、『戦闘不能になれ』という意思を乗せて発声したため、ああいう結果になった、と。

 これで私が初スカイダイビングした時にMPが流出しちゃった理由が分かった。

 つまり、私はあの時ケトラミに対して『はよ来い!』という意思を乗せて、チョーカーの『魔声』を発動させちゃってた訳だ。

 成程、どおりでケトラミ、めっちゃくちゃ速い到着だった訳だよ。


「貴族が殺すのは惜しいと思わせるだけのものが私たちにあったから、私たちは殺されずに済んでた訳。もしちょっとあの貴族が短気だったら、私達の首、もう飛んでたかもしれない」

 ふむう、それは何ともヘビィな話だな。

 貴族としては、大枚はたいて買ったプライスレスな奴隷を殺したくはない。

 けど、もしその奴隷の価値を、奴隷による不利益が上回っちゃったなら、いつ殺されたっておかしくない。

 殺すデメリットは大きい、けど、殺せない訳じゃ無い、っていうことか。

 これは、やっぱり早急な救出が必要だよね。


「俺と歌川と花村は同じ貴族に買われていたが、他は全員ばらばらに別の貴族に買われてたんだ。でも剣闘士大会を前にして、俺と歌川と花村を買った貴族が他の貴族から今野と加持と椎名を買って、鏑木と海野と池田は市場に流れてたのを新しく買ったらしい。それで9人揃ったんだが……まあ、警戒されてて、お互いに接触できたのは本当に今朝の事なんだよな」

 その貴族、ノナの部で優勝したら即、また奴隷を市場にリリースするつもりでいたらしい。

 その位、複数の異国人の奴隷を所持する、っていう事はリスキーなことだと考えられてるんだね。

 ふむ、これからの立ち回りに必要な情報が多かったな、割と。

 しかし……うん。奴隷にされていた人たちは、そんなに酷い目には遭ってなかった、酷い目に遭いそうになったら抵抗できた、っていうのが……凄く、救いだなあ。


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