53話
はい、朝です。
今朝はご飯食にするよ。味噌汁味噌汁。
……あ、そういえばここら辺は海に近いけども、昆布とかってあるんだろうか?
出汁は干した小魚とか骨とかからとってるんだけども、そろそろちゃんとした出汁も取れるようにしたいなあ。
暇になったらちょっと海岸を見てみよう。
それからお弁当とおやつも作っておきますよ。お弁当はパン食です。サンドイッチです。
おやつは干した果物とポテチです。味は残念ながらうす塩味一択にせざるを得ない。
うーん、大分食が豊かになってきたとは思うけど、それでもまだまだ足りないよなあ。
コンソメとか欲しい。
朝食をとってまたしてもコロシアムです。
少し早目に出たのは、人が多い時間だとすぐ囲まれちゃってうっとおしくなることが予想できるからです。
という事で今日も戦いますよ。
今日はトリの部、つまり3対3の部。
そして、第一回戦がちょっと変わってました。
……障害物走、みたいな?
ステージ上の面積めいっぱい使って、なにやら、そびえる塔のようなものが建設されておりました。
どうも我々はアレを登るようです。
ルール説明を聞く限りでは、ステージの塔の頂上にはメダルが置いてあって、それを入手したチームから順に第二回戦へ進出、ということらしい。
……うん、一応、ね?この塔、高さが相当あって、それでいてまあ、うん、内部に階段やはしごがあって、トラップとかを避けつつそれを登っていく、っていうのがまあ、趣旨なんだよね、きっと。ルール説明っていうか、実況解説者の話を聞く限りでは。
ところが私達、割とそういうのどうでもよくってですね。
……うん、やってみたら早いね。
という事で始まりました、トリの部第一回戦。
私と羽ヶ崎君は適当に待機。鈴本が適当に空飛んで頂上に向かう。
一応、こういうズルをされることは想定されているらしく、塔の外壁からすごい勢いで火炎放射だの氷の矢だのが飛んで来るけど、そんなので一々落とされる鈴本では無い。
避けるなり斬るなりして、無事屋上に到達。
そしてメダルを取って終了。
呆気ない!
因みに、このゲーム、お分かりの通り、チーム内の全員が頂上に到達する必要は無い。
同様にして針生も空飛んで頂上に到達した。
こういうスキルを持っていない鳥海・加鳥・刈谷のグループだけは、真面目に塔の内部を登って行ったらしい。
聞いた話によれば、槍が飛び出す地面だの矢が射出される壁だの落とし穴だの地雷原だの、結構えげつない罠が一杯あったらしい。そこら辺はまあ……力技で突破しちゃったらしいんだけども。
力技って、つまり、加鳥が焼き払った、っていう。
主催者さんごめんなさい。
そして始まる第二回戦。
……しょっぱなから、鳥海グループと針生グループが当たりました。
なんてこったい!
これはもう、お互い消耗を避けるために、針生グループが棄権。ほら、針生も社長も消耗品を消耗したくないらしいので。角三君も眠いって言ってたので丁度いいね。よくないけど。
そして私達は、なんだか見たことのある人たちと当たりました。
はい。覚えておいででしょうか。
エイツォールの門番さん達です。
「ひさしぶりだな」
「誰だっけ」
「さあ……」
あれっ!鈴本も羽ヶ崎君も覚えてなかった!
「随分とご挨拶だな……」
ホント、うちのご主人様達が失礼ですみません。はい。
「モノの部ではそちらの魔術師にやられたが……もう対策もできている」
あ、気づかなかった。そっかそっか、私と同じブロックに居たんだ、へー。
……というかね、君ね。そちらの魔術師、ってねえ……一応私、ローズマリーさんなんだけどね、気づかないのか、気づかないんだな。お前の眼は節穴だ。
しっかし、対策ができてるって事は、『子守唄』も使えないのか。使う気はないけども。
「ここで宣言する!私は勝って、そちらの奴隷にされているローズマリー嬢を頂く!」
門番さんが剣を掲げて声を張ると、観客席が一気に盛り上がった。
うーん、盛り上がって参りましたが、こっちのご主人様達はテンションだだ下がりの模様。
確かになんかこいつと戦ったらケチがつきそうではあるが。
「では!いざ尋常に!」
はいはい、尋常に、尋常にね。はいはい。
開始の合図があると、真っ先に門番さんが鈴本めがけて走る。
そして後方の魔術師は詠唱を始め、もう一人いた剣士が私めがけて走ってくる。
しかしまあ、鈴本も羽ヶ崎君も、私一人で何とかできると判断してくれたらしい。アイコンタクトだけで済ませて、彼らは彼らの敵と戦っている。
ふむ、折角任せてもらえたのだが……別に、時間稼ぎでも構わんのだろう?
どうせ向こうもすぐに片付いてこっちに加勢してくれるだろうし。
しかし、そもそも任せてくれた、っていう事は……そういう事だとも、思うのよね。私はその信頼に応えたいところでもあるよね。
向かってくる剣士に対して槍ハタキを構えると、剣士に全然届かない位置で槍を左から右へ振るう。
勿論、剣士は意味が分からない、みたいな顔をしているけど、まあ見てなさいって。
槍を振るうモーションの途中で剣士の左隣に『転移』。
突如現れた槍に反応して、剣士は慌てて剣で受け止めようとするけれど、それが狙いである。
ここまでは読めていたので、もう『転移』した直後には『お掃除』を発動してあるのである。
先読みできれば私のポンコツスピードでもなんとか間に合うのだ!
丁度『お掃除』が発動する時に槍の房飾り(ハタキ)が剣に触れる。
私は剣を切断するように、薄く剣を削り取る形で『お掃除』。
そしてそのまま槍を振りぬけば、一瞬で間合いを詰めた私が、槍で剣士の剣を切断したかのように見える、という訳です。
はー、ここまで実に、シミュレーション通りである。
というか、逆にシミュレーション通りじゃなかったら終わってたよ。
切断された刀身が地面に落ちて甲高い音を立てると、会場が一瞬静まり返った後、沸く。
そしてここでシミュレーションとは違う事が起きた。
シミュレーションだと、この剣士、すぐ『エネルギーソード』とか、サブウエポンで反撃してくるのでバックステップでかわさなきゃいけなかったのだ。
しかし、折角バックステップしたのにこの剣士、切断された刀身をぽかんと見ているだけである。
しょうがないので呆気にとられている剣士の喉元に槍を突きつけてやれば、やっとそこで我に返ったらしく、諸手を挙げての投了である。
……まさか、時間稼ぎのつもりだったのに倒してしまうとはなあ。
そして鈴本は門番さんの剣を弾いて刀を突きつけていたし、羽ヶ崎君は魔術師の喉に氷の刃を浮かせて突きつけていた。
ということで、私たちは無事に勝利をおさめた訳です。
が。
「明日また、ヘキサの部に出るのだろう?」
「教えてやる義理は無い」
「そこでまた勝負だ、次こそは必ず勝つ!」
……何やら非常に暑苦しい事になっていた。
やめてよー、これ以上こいつらの表情氷点下にしないでよー。
似たような戦法で私は順調に時間稼ぎ位は役目を果たし、最終的には鳥海たちのチームと決勝で当たって、まあ、向こうが棄権したのでこっちが優勝。
どっちが勝っても大して変わらないからまあこれでいいんだけども、何やらまた本気の勝負を見たがっていた観客はがっかりだった模様。
しかし私がいる状態で本気の戦闘なんぞやったら、私、こいつらに殺されてしまう。
こいつらもそれが分かっているから棄権という形にしたんだろう。なんかごめん。
あ、そういえば。鳥海が『地獄耳』で観客席から色々聞いたことを後で教えてくれました。
「やっぱ俺含めて剣士戦士騎士勢は人気だわ。なにこれこわい」
……うん、まあ、「強くてかっこいい」っていう単純な憧れみたいなものから、「是非嫁に貰ってほしい」っていうタイプの熱烈な声もある訳で、聞いてる鳥海は微妙にげんなりしながらにやにやしている。
あれだな。自分の批評は聞くと精神削られるけど、他の人へのあれこれは聞いてて楽しいんだな。他人の不幸は蜜の味なんだな!
……因みに、私に対する評価もあったらしい。
なんでも、モノの部では謎の魔法で前代未聞のシード権を得て、トリの部ではミスリルの剣を切り飛ばした、と。
……そういえば私、魔術師だったのにうっかり槍使って剣斬り飛ばしちゃったのか。あー……うん、うん。何も考えないでおこう。
どうせ明日のヘキサに私は出ないし、ノナの部が終わればこの王都にもいなくていいんだし。
うん。明日は……加鳥と角三君と一緒にお留守番してよう。そうしよう。
そういえばちょっと思いついたことがあったので、コロシアムを逃げるように出たら、王都の市場に出かけます。
うん、折角明日が休日なんだから、久しぶりに美味しいものでも作ろうと思って。
ええと、買ったものは主に卵とバター。
ふむ、ここら辺もその内自給自足できるようになるといいんだけどね。
鶏と乳牛を飼うのはかえって面倒だろうか。
そういえば、ここでも相当視線を集めたんだけども。
……誰かが寄ってくるたびに社長が懐に手を突っ込みながら近づくと、その人たちが逃げていくことが判明したので、その方法で快適にお買いものできました。社長曰く、「心外ですね!」との事。いや、無理も無いと思う。
帰って鳥のグリルと蒸し野菜のサラダとスープとご飯の晩御飯を食べて、皆さん早めに就寝。
やっぱり連日連戦だから疲れるよね。お疲れ様です。
さー、明日はお留守番の日、そして楽しい装備修復とおやつ作りの日です!
何作ろうかなあ。




