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51話

 係の人に案内されてステージ上に出ると、ぐるりと囲む客席からの視線にさらされた。

 うわー、緊張するなあ。いや、どうせ私を見てるってよりは、もっと強そうなかんじの人たちを見てるんだろうけれどさ。

 自分の周りを見てみたら、なんか凄く屈強そうなオッサンお兄さん方、そしてなんか強そうな魔法使いっぽい方、油断なく鋭い眼光であたりを見回す盗賊とかそういうかんじの方、と、なんか強そうな方がいっぱいである。

 救いは、黒髪黒目は見た限りいない、ってことだな。

 つまり、異世界人……私たちと同じく、この世界に吹き飛ばされてきた人は居なさそうだ、っていう事である。

 変なスキルとか使って妨害されるとアウトなので、これは素直に有難いね。


 そして、開始のベルが鳴る。

 その瞬間、私が弱そうだと判断して突っ込んでくる人多数。

 今の私の格好だけど、空色のローブみたいなのを着て、針生と刈谷が作った杖を装備しているから、見た感じは魔法使い。

 ふむ、下手に魔法を使われる前に近距離攻撃で叩こう、と考えるのは合ってる。

 それは想定していたから……というか、ここで私を見て真っ先に狙ってもらった方が、変に他の魔法使いの魔法との干渉とか無くていいだろうということでわざわざ、針生と刈谷にはこの世界で売っている初心者用の杖に似せたデザインで杖を作ってもらったのだ。

 さて、突っ込んできた人たちの攻撃が届く前に、さっさと『転移』で上空に逃れる。

 できるだけ引きつけてから、とか、絶対しない。

 そんなことで一々危なっかしい事になってたら命がいくつあっても足りやしないのです。

 安全第一で行きますよ。

 さて、下降はシミュレーション通り、ゆったりしている。けども、この尻のもぞもぞ感というか、高い所に居る感じが嫌ですなあ。

 下の方を見ると、私を見失った人たちがきょろきょろしているのが見えた。

 うん、誰も私の行方に気付いてないみたいである。

 そして、誰も私の移動に気付く前に、『子守唄』を歌いだす。

 何度かこの練習もしたけども、その中で効果範囲を自分で決められることが分かったので、範囲をステージ上だけに絞る。

 一応観客席に魔法が飛ばないように謎バリアを張ってあるらしいけど、スキルも防いでくれるかは未知数だしなあ。うっかり観客も寝ちゃうと、私が使ったのは魔法では無くてスキルだった、つまり、異国人だ、ということになっちゃうのである。

 ゆっくり下降しながら歌い始めて、それから十秒程度で、ステージ上に立っている人が一斉に眠って、倒れた。

 ……一斉に、倒れた。

 ……そして、ステージ上に私が着地した時、観客席はざわめきに包まれていた。

 そりゃ、そうである。だって……この第一回戦、バトルロイヤル。

 勝者は、2名、のはずが……1人しか、残ってないんだもんよ。




 ということで、審議に入ってしまった。

 マジごめん。




 審議の結果、全員同時に倒れたと判断し、私が第二回戦をシードで勝ち抜き、第三回戦にいきなり出場、っていう事になってしまった。

 ……なんか、真面目にやってる皆さん、ごめん。




「なんか……お疲れ」

 というわけで早速私は会場の注目を集めることになってしまったのである。

 第一回戦を謎の方法で、しかも前代未聞のシード権まで得て勝ち抜いた、謎の女魔法使い。

 私の評判はこんな感じである。

 やめてくれー!私は魔法使いじゃないんだ、メイドなんだー!

 登録は確かに『魔術師』っていう風に登録したけども!

「ま、ある意味良かったんじゃないか?勝ち上がれば勝ち上がるほど俺達と当たる可能性が高くなるんだし」

「ね。2回戦まではいっぱい俺達じゃ無い人居るからさ。結果的に良かったって。ね?」

 ……それは、そうなんだけども。そうなんだけども……。うん。合理的にいこう。これはかなりラッキーなことだったのだ。

 多少注目を集めちゃうこと位、別にどってこたあないさ。うん。




 そして、第二回戦以降のトーナメントが発表された。

 ええと、私は一番端っこに、他の人よりも一段高い所に名前があるね。あ、勿論その名前って、ダリア、なんだけども。

 これはシード、っていうことで、第二回戦が免除される、って事である。うん、ラッキーですなあ。

 そして、端っこから順に、ダリア(魔術師)、(空白)、フェイラ(射手)、リジャ(剣士)、オルグ(戦士)、エーリア(盗賊)、カドミ(騎士)、トリウミ(ガーディアン)、シャチ(学者)、ワディ(戦士)、アライ(戦士)、ハリウ(盗賊)、スピナー(魔術師)、カリヤ(神官)、ディアナ(魔術師)、スズモト(剣士)

 と、なっている。

 あ、登録の時に結構皆、職業を詐称している。

 いや、だってさ、周りに『侍』とか1人もいないし、『アサシン』とか尚更公言しちゃいかんだろうと。

 それから、聞かれる時も『職業』を聞かれた訳じゃなくて、戦闘タイプは、とか、そういう聞かれ方をしたので。

 ……ダリアさんに職業聞いたら『雇われ冒険者』とか言ってたし、多分、この世界の住民における『職業』っていうのは普通に生業としているものの事を指すんだろうなぁ。


 ……っていうのは置いておいてだよ!

 なんということでしょう!この低倍率を掻い潜っての、仕組まれたんじゃないかと疑いたくなる位の、いっそ清々しいぐらいの……どう転んでも第三回戦、私、現地住民と当たるじゃん!……っていう、組み合わせになってしまった。

「……舞戸さんってさ、なんでこんな運悪いの?」

 哀れみを伴った針生の視線と言葉が刺さるっ!

「逆に考えましょう。舞戸さんと当たることになる人が幸運なだけだと」

 社長が何か言ってるけどさ、それってさ……うん、何も言うまい。

 何も言わん、何も言わんぞ、私は!




 そして第二回戦が始まった。

 一戦目は鈴本VS魔術師ディアナさんだね。

 観客が歓声を上げて見守る中、両者が対峙する。

 うーん、バトルフィールド上に2人っきり、っていうのは結構怖いな。

 相手は絶対に自分狙ってくるんだし、逃げても勝てないし。

「この勝負、私が勝ったら!」

 突如、ステージ上のディアナさんが声を上げると、観客が一斉に静まり返る。

 よく訓練された観客たちだなあ。

「今晩、食事に付き合ってもらおう!」

 ……な、なんか、要求が……かわいい。

 想定外の要求に鈴本が困惑してるのが見て取れるぞ。うん。

『奴隷になれ』とか『その剣寄越せ』じゃなくてこれだもんなぁ……。

 一方、観客は大いに沸いた。

 ま、うん、一回戦ではあんまりこういうの、無かったもんね……。


 尚、観客の歓声にも拘わらず、試合開始してすぐに鈴本がディアナさんの首に刀突きつけて降参させて終わっちゃったので、実際の試合内容は残念極まりなかったのであった。


 次は刈谷VS魔術師スピナー君だね。

「僕がこの勝負に勝ったらその杖を貰おうか!」

 あ、なんか割と想定内の要求だ。うん。こうでなくっちゃね。

 ……ただし、こっちも対戦の内容としては刈谷のレーザーショットで一撃終了だったので、やっぱり特に感想が無い。

 鈴本といい、刈谷と言い、お前ら、もう少し観客にサービスしたらどうかね?




 そして、次です。

 そう、槌戦士アライ、とは、異国人の……私たちのお仲間の、奴隷にされている人なのである。

 さて、針生はどう戦うのだろうか。


 特に要求の宣言があるでもなく、ゴングの合図とともに両者が動き出す。

 先手はアライさん。巨大ハンマーの一撃で、ステージには亀裂が走り、石のブロックで作られていた床が割れ砕け、それ一つ一つが凶器となって針生を襲う。

 しかし、どっちかっていうと、これ、針生にとっては有難い状況。

 アサシンの身のこなしを使ってその浮いた瓦礫一つ一つを足場にして、不規則に飛びながら間合いを詰めていき、そしてナイフを数本投げてすぐ離脱。

 離脱した場所には次の瞬間ハンマーがめり込んでおり、そして凄まじい力でまた振られたハンマーが針生を何度も襲う。

 ……っつっても、あれだ。うん。

 どんな攻撃も、当たらなければどうということはない、のである。

 針生は正にそれを地で行く戦闘スタイル。アライさんにとっては最悪の相手だったかもしれない。

 そして、数分後には的確に鎧のつなぎ目を貫いた数本の投げナイフによって勝敗が付いた。

 ここは針生の勝利である。

 アライさんには悪いけど、私たちも勝利が欲しい。

 後できっと助けてあげるから、今は勘弁してください。


 ……あ、因みにステージは、土魔法の使い手が数人がかりで修復したので、5分ぐらいでもとに戻りました。




 そして次は社長と戦士のワディさん。

 ……これは、おそらく剣闘士大会始まって以来、最悪の戦闘だったに違いない。

 初手で『アースウォール』を使った社長、ワディさんの四方を壁で囲む。そう、まるで公衆電話の電話ボックスの様に。

 そして、ワディさんが対応する前に、その中に毒入りのフラスコを数個投げ入れたのである。

 そして酷い事に、その電話ボックスの天井に当たる部分をすぐに追加。

 ……中身が全く見えない電話ボックスの中からワディさんの絶叫が響き渡り、それをのんびり眺める社長。ドン引きの観客。

 そして戦いらしい戦いもせずに、勝利を決めた社長。ドン引きの観客。一部の観客のみ熱狂。

 ……これはひどい!




 次は角三君と鳥海の試合だ。

 これはどっちかが棄権すればいいから楽だよなあ、とか、思っていたらそんなことは無かった。

 合図とともに角三君疾走。一気に間合いを詰めたかと思うと、次の瞬間には剣が鳥海のスタウトシールドとぶつかり合って派手な音を立てた。

 そこへすかさずハルバードを薙いで攻撃に転じる鳥海。

 バックステップでかわしつつ、鮮やかな剣技で鳥海を攻撃していく角三君。

 天才的なセンスでそれらをいなし、かわし、時にはカウンターを繰り出していく鳥海。

 観客は静まりかえってこの戦いに注視していた。

 息を呑んで観客が見守る中、ついに、鳥海のハルバードが鳥海の手から離れる。

 この長い戦いを制したのは角三君だった。

 勝負が決まった時の観客の沸き方と言ったらなかったね。


 両者の戦いは剣闘士大会始まって以来の名勝負と後々まで謳われることとなった。

 剣闘士大会始まって以来の迷勝負と謳われることになった社長とは大違いだね!



 

 その後のオルグさんとエーリアさんによる戦いは、なんというか、甘かった。

「俺が勝ったら嫁に来い!」

「私が勝ったら嫁に貰ってもらおう!」

 から始まったので。

 ……うん。オルグさんが勝った。幸せそうで何よりです!


 そして最後は気になる、弓使いフェイラさんと、剣士リジャさんの戦いである。

 勝った方が私と戦うのです。できれば弱い方に勝って頂きたい。

 ……勝負が始まると、さっきの角三君VS鳥海の時とは違うハラハラ感があった。

 なんか、これ、二人とも……割と駆け出しだったようだ。

 会場が優しく見守る雰囲気になりつつも勝負は決し、リジャさんが勝者となった。

 ……剣士、かあ。これは……どうしようかなあ。




 ここで一旦お昼休みになるので、私たちはお弁当を食べながら対策を練ることにしました。

 主に、私の。

 ……というか、この時点で私達の内の誰か一人が優勝することは確定したようなものである。

 だって、第三回戦、殆どが私達なのである。

 不正?なんのことでしょう。真っ当な手段で、きちんとルールに則って、その上でこの素晴らしい状況なのだ。不正のふの字も無いね!


 ということで、問題は私だ。

 現状、勝者がほぼ全員私達なので誰も何も敗者に強要してないけども、これ、慣習的には負けたらどうなるか分からない、みたいなところなのである。

 私が無事に勝てれば色々と心配も無いし、それがベストなんだけども……。

 さて、どうしたもんかな。

「剣士相手とはいえ、相手は駆け出しなんだからなんとかなりそうだよな」

 確かに、鈴本とかと比べると、大分避けやすそうな太刀筋ではあった。

 速さが足りない、っていうのもあるけど、もっとなんかこう……読みやすいのである。

 どこから来るかな、って、なんとなく分かりやすい太刀筋で来てくれるのである。

 だったら私でもなんとか神回避連発できるかもしれない。

「避けまくって消耗したところで攻撃するとかすれば?」

 羽ヶ崎君の言う通り、そういう戦法がいいんだろうけども、残念!私にまともな攻撃手段なぞ無い!

「とりあえず子守唄作戦もう一回試してみればいいんじゃないですかね。相手がこっちの手を読み切れたとは限らない」

 そうねー、多分そうなるんだろうなあ。

 それ効かなかったらもうアウトである。

 そしたら攻撃手段が包丁か、『お掃除』か、コンロの強火か……みたいな世界になってくる。

 それは何としても避けたい。

 避けたいけども……うーん。向こうがこっちの手の内を読み切れてないことを期待するしかない、のかなあ。


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