49話
さて。情報室・新聞部組と別れまして、久しぶりに少人数ご飯となってしまった晩御飯。
今日は焼き魚。それに味噌汁、煮物、煮びたし、ご飯。
から揚げとかバーベキューとかが続いたので胃に優しめなご飯にしました。
そしてご飯中、進捗状況を適当に報告し合い、今後の方針を出すわけです。
「とりあえずは剣闘士大会に向けての特訓になるな」
「で、舞戸はモノの第一回戦はそれで何とかなるとしても、トリとノナはどうすんの?」
「ノナは最悪9対8でも何とかなるとしても、トリの方は全く戦力にならなかったらきついでしょうね」
ですよねー。
滞空&『子守唄』という一発屋芸人のようなコンボが決まればモノの部の第一回戦は何とかなるけど、そこで手の内を明かしちゃうわけだから、トリ・ノナの部では使えない。
最悪の場合、ノナの部の方では逃げと防御に徹して隠れてる、ってのも何とかなるかもしれないけど、トリの方では……全く戦力にならないって、ちょっと、いやかなり酷いぞ、きっと。
「最悪でも、回避はできてもらわないと困る。正直、お前に回復を割く余裕はないと思うから」
私がトリの部で組むのは鈴本と羽ヶ崎君。
引きつけて戦うタイプではない。
というかむしろ、ダリアさんという遊撃ポジションに当て込んだ構成になっちゃってるのだ。
前衛を鈴本一人に任せるのは少し心もとない。元々、鈴本は半分遊撃みたいな位地なのだから。
だったら私が前衛とまではいかなくても、遊撃の真似事ぐらいはできないとちょっとバランス悪すぎる。
しかし、私に可能な攻撃手段は限られている。
1つは、人形を展開して針とかでチクチクやってもらう、っていう作戦。
ただし、私が操作できるのはあくまで狼、メイドの二種類の人形のみ。
メイドさん人形にうっかり剣とか持たせると、その時点で最早メイドでは無い、と判断されるらしく、動かせなくなってしまうのである。
なので、メイドさん人形の武装は包丁、鋏、針程度。
……これはひどい。
もう1つは、私自身が空中戦から爆撃でもすれば割といい線行くんじゃないの、っていな所である。
こちらは……多分、上空にひたすら『転移』し続けつつ、毒でもまき散らす戦い方になるのかな?
これもひどい。
うーん……他に何か、っていうと……ああ、そうだ。私、耐性に関しては一番あるのである。
毒も酸も殆ど効かないし、痛感にも耐性が付いている。回復速度も速い。
ふむ、じゃあ、私が盾役やればいいんじゃないかな?
というようなことを言ってみたら、即却下された。
一撃で死んだら回復できないから、とのことである。
うん、ご尤も。
耐性があっても守備力とHPが紙なのでした。
「とりあえず、避ける練習位はしておいていいだろう」
「剣と拳でとりあえず練習すればいい?僕杖で剣やるから、鈴本拳お願い」
「オーケー」
何やら私とチームを組まされる可哀相な二人が意気投合して決めてしまったため、私は翌日から恐ろしく過酷な練習をする羽目になったのでした。
はい、おはようございます。
久々のもふもふすべすべふかふかしっとり。
ケトラミとハントルと挨拶したら、一体と一匹は朝ごはんに出かけていった。いってらっしゃーい。
さて、私も朝ごはんの準備だね。
今日はパン食です。パンと薄切りの燻製肉炙った奴、野菜スープ、果物のジャム、っていういつものパターンです。
という事でその内皆さんも起きてきて、朝ごはんをさかさか済ませました。
そして始まる特訓!
「じゃあ、今から僕が殴るから、避けてね」
羽ヶ崎君、そういうや否や凄い速さで杖を振りおろして頭ぶん殴ってくれました。
「おうふっ」
「避けろって言ったじゃん」
「いや、無理無理無理!見えなかったっての、今の!」
マジで速いの!見えないの!見えない物を避けろって!?無理!
「……じゃあ、見えるようになるまで頑張れ、はい、次」
次は横から来て殴られました。
「次」
次は斜め上。
「……次」
次は左下。
「……あのさあ」
「も、もうやめて……舞戸のライフはもう0よ……」
「『清流』。ほら、ライフ回復したでしょ。次行くからね」
お、鬼め!
しかし、幾ら無理っつっても、やってればスキルになる可能性もあるし、やってみなきゃ始まらんね。
とりあえず羽ヶ崎君をじっと観察しつつ、カンで右に動いてみる。
……右からきてクリンヒットしました。
「……回数重ねれば何とかなるよ、多分」
うん、本当にそうだといいんだけどもね。
しかし、練習とは偉大だ。
なんか2時間位練習してたら、10回に1回ぐらいの割合で避けられるようになってきた。
そうでなくても、クリンヒットは避けられるようになった。
しかし、これはあくまで魔導士羽ヶ崎君の場合。しかも、相当に手加減してくれてるはずである。
本業剣士はもっと速くて鋭い攻撃を繰り出してくるんだろう。
うえー、怖い怖い。
しかし、私が逃げるわけにもいかないのだ。できるだけ、人を一人ぐらいは引きつけつつ、ひたすら避ける、っていう事ができれば、鈴本が一人ずつ撃破していってくれる、と、思う。
……相手の戦力の三分の一が私に引きつけられてくれるか、っていうのは……考えないようにしよう。
「そしたら次は拳な、剣よりは読みやすいと思うが、その分連続で来るぞ」
「っしゃばっちこーい!」
今度は鈴本と特訓だ。
ひたすら繰り出される拳と時々蹴りを避ける、若しくはガードできるように努力する。
うげえ、かなり手加減されてるのは分かるけども、それでもしんどいぞ、これ!
しかし羽ヶ崎君との特訓の成果は確実に出ているらしく、こちらも2時間ほど練習したらなんとか、動きをしっかり見ていれば3割位避けられるようになった。
ふむ。……しかし、スキルにはならない。
これだけやってスキルにならないんだから、これ、スキルにならないんだな、多分。
しょうがないから、プレイヤースキルを磨くしかない。チクショー。
お昼ご飯を作って食べて食べさせて、そしてまた特訓が続く。
今度は鈴本が刀の鞘で殴りかかってくる。
こちらはしっかり動きを見ていても駄目。も、避けようと思ったら当たってるのである。
当たる瞬間にすっごい神業で勢いを殺してくれるので、当たってもそんなにダメージにならないのが救いではある。
それでも打撲傷だらけになって羽ヶ崎君に『清流』で治してもらいつつ、ひたすら夕方まで避ける練習なるものを行った。
もうスキル会得は諦めて、ひたすら自分自身のプレイヤースキルを磨くことに専念した結果、なんとなーく、なんとなーく、気を抜かずに頑張れば……鈴本の手抜きの剣なら、実に6割ほどを避けられるようになったのである。
……人間には無限の可能性があるね、ホントに。
それから剣闘士大会まで、ひたすらに特訓を行った。
一旦避けられるようになると楽しくなってきたので、そんなに苦でもなかったのが救いだね。
ダメージは食らいまくったもんだから、『回復速度大上昇』なるスキルが手に入ってしまった。違う、そうじゃない。そうじゃなくて、避けられるかんじのスキルをくれよっ!
あとは、ひたすら皆さん、連携の練習を行っておりました。
私を組み込んで効率よく戦闘できる、っていう条件を見つけるのにかなり苦労したけども、うん。割といい戦い方を見つけちゃったのです。
それは、『お掃除』。これで相手の武器の刃とかを消してしまえれば完璧である!
……ただし、これ、ハタキ持って戦い始めて、『お掃除』なんぞやったら異世界人だとモロバレである。
これについてはモノの部の第一回戦の子守唄作戦にも言える事なんだけど、これについては解決済みです。
そう。怪しまれなければいい。つまり、『あれはスキルでは無くて魔法または単なる攻撃だったんだよ!』『な、なんだってー!?』って、できればいいんでしょ?
ならば子守唄作戦の方は簡単。私が杖持って出ていけばいいのである。
魔法使いの振りしてちょっと歌って寝かせば何とか誤魔化せると思うのよね。
え、誤魔化せない?そこは異世界クオリティだよ。いざとなったら杖についてる『失われた恩恵』です、って言い逃れできるし。
そして、トリの部のお掃除作戦について。
こちらは、加鳥が素晴らしいものを作ってプレゼントしてくれました!
それは、すっごく軽い不思議金属でできた、槍です。
槍。すっごく槍。ただし、その本質は槍にあらず。
その槍、穂先に……房飾りが、付いてるのである。
はい。もう分かりますね。
これを私はハタキとして、使うのですよ。カモフラージュとしては完璧な域。
しかも、リーチが長いハタキなので、『お掃除』もしやすい!
そして、こちらの槍、穂先が刃物になっているパルチザンタイプの槍でして。
なので、いきなり相手の武器が消し飛んでも、「斬って飛ばしたんですよ!」と言い逃れ……できる、と、思いたい。うん。
そして、剣闘士大会までにこの槍ハタキの扱いにも慣れ、トリの部用の動きやすい服も作っておいた。
この服については、もう防御力に特化しまくった服である。
動きやすい上着とシャツ、そして細身のおズボン。靴はひざ下のブーツにしました。
そして、それらは真っ白な布地に金色の刺繍がされている。
この金色の糸は、『調合士』のスキルによって得られた知識で作った。
糸を紡ぎながら『祈りの歌』を『調合』することで、なんということでしょう。ぱっとしない生成りの繊維が、輝く金色の糸に!
……歌を調合する、って、どういう状態だよ!とは思った物の、おかげで凄く凄く防御力の高い不思議な服ができたので良しとしよう。
効果は『守護』だそうな。
これを装備した時の私の防御力、なんと、鎖帷子装備の刈谷と並ぶ第3位に!!
うわー、凄いぞ、異世界クオリティ。
そして皆さんの装備に私が手を加えたり、新たな装備を加工スキル持ちの皆さんが作ったり、というような事も行い、ついに剣闘士大会の日がやってきてしまいました。
……大丈夫でしょうか。




