45話
「ホントっぽいね……」
「なんか……やだ」
『カタカナは魔法説』は本当か、それに近い何かだという結論にはなったけれど、なんか不評だった。
主に羽ヶ崎君と角三君に。
でもしょうがないよね、そういう風にできてるんだもの。
さてさて。スキルと言えば、こんなものもありました。
「誘拐先でこんなもん貰って来たんで、欲しい人はどうぞ」
さっきメイドスタイルに服装を戻してローズマリーさんに戻った時に外して鞄に突っ込んじゃって忘れかけていました。
そう。『雷鳴』のブローチと、『隠形』の腕輪です。
「僕と角三君は『ライトニング』が使えるけど、そもそもどういう違いがあるの、それ」
うーん、『雷鳴』と、『ライトニング』。
……音が鳴るだけ、とかじゃないだろうな、『雷鳴』。
これもよく分からんし、そうそう試すのも怖いので、とりあえず羽ヶ崎君預かりになりました。効果が詳しく分かったらまた考えましょう。
「多分『隠形』貰うとしたら俺だったんだろうけど、俺もう自力でできるようになっちゃったからなー」
そう。一番必要だったであろうアサシン針生は、既に自力でスキル入手済みです。
「気配消すとしたら、俺か、社長か……ああ、舞戸、お前でもいいな」
ちょい待ち、私が気配消してどうするんだよ!
「そうしたら少しは目立たなくなるだろ」
……確かに、うん、私は目立つね、なんでだろうね。
「でもそれよりは、気配読みにくくして鈴本の被弾率を減らした方が実用的だと思う」
回復役のMP節約にもなるし、そもそもの鈴本の負担が減るし、攻撃命中率も上がるかもしれないし。
という事で、こちらは鈴本行きになりました。
さて。魔法とスキルの見分け方も暫定これでよし、として。
今回発覚した中でもっとも急を要する問題の登場です。
そう。私の扱いが奴隷っぽくない、よって皆さんを釣るエサにされてしまった、という。
なので皆さんにはもっと私を奴隷っぽく扱う努力をだな、していただかなければいかんのです。
……という事を、ざっと皆さんに話すと、凄く嫌そうな顔された。
酷い。
「正直お前を奴隷扱いするのって辛い」
それは前も聞いた。
「んー、じゃあいっそこの世界の奴隷を買う?」
「買うとして、女は駄目でしょ?」
皆さんが女性の奴隷買って手酷く扱えるわけがないね。
「男買うにしてもさー、年上の奴隷買っちゃうとなんか申し訳なさそうだし、年下買ったらそれはそれで後味悪いだろうし……」
奴隷、というと、一応私達は既にこの町で見ているのだけれど……屈強な筋肉マシマシ男性が首輪付けられているのを見るとなんともこう……耐えがたいんだよね。
かといって、小さい男の子が同じようになってると、それはそれで耐えがたい。
「いや、いっそ女性を買ってですね、舞戸さんと禁断の花園方面に持って行けば!」
「それ、根本的な解決になりませんよ。結局は俺達が奴隷を奴隷らしく扱えない事が問題なのであって、奴隷の有無が問題なのではありません。残念ながら俺達は奴隷を買ったら間違いなく情が沸くでしょうね。人質にされたら結局は同じことの繰り返しです」
刈谷が何か言ってすぐに社長に論破された。
……うん、そうなんだよね。
結局は、私達に必要なのは『情の沸かない奴隷』であって……そんなもんは、無理なのであります。
私達には多分、奴隷を奴隷らしく扱うという事はできない。
「ならやっぱり、舞戸さん以外が奴隷やった方がいいんじゃないかなあ」
「いや、それはいかん。皆さん、よく思い出せ!何故私が奴隷やってるのかを!」
「何故って……そうしないと俺達まで奴隷にされる恐れがあるから、だろ?」
半分正解だが、半分は無回答、と言った所ですなあ。
「忘れてないかい?この世界において異世界人の奴隷はかなりの高値。だからすごく狙われやすくて、だからこそ、『変装』できる私が奴隷やってるんでしょうが」
もしうっかり、皆さんの内の誰かを奴隷って事にしたとしよう。
多分、光の速さで盗まれるぞ。
大挙を成して人攫いの人たちが来るぞ。何故って、異世界人の奴隷だから。
それ言うと、皆さん黙った。
そして、沈黙の後に出たのが、これである。
「舞戸って、なんで『変装』してるのにこんなにこの世界の奴らに人気なんだ?」
「ブルーアイズホワイト人間が好きなんだよ、きっと。君たちもそうじゃないかい?」
「そうじゃない、違う、そうじゃないんだ、俺が言おうとしているのは」
「いやー、洋モノはちょっとそんなに好きじゃないんですわー」
「あ、分かります分かります。なんかわざとらしいっていうか」
「そういう意味で聞かれてるんじゃないでしょ!?」
「俺はブルーアイズホワイトなら人間よりドラゴンの方が好きですね」
「お前は黙ってろよ!」
『僕は舞戸の髪の毛、黒い方が好き。お揃いだもん』
「え……正直どうでもいい……」
言ったらなんか会議の場が紛糾した。
なんかごめん。
「話、戻すぞ」
はい、すみません。
「こう言うのもなんだが、お前って……決して悪くはないが、決して絶世の美女とかではないよな」
決して悪くないかは置いておくにしても、うん、自分でもそう思うよ。
「いきなり売ってくれとか言われるのって……なんかおかしくないか」
うん、それもそう思うよ。いやはや、何と言うか、絶対にこれ、奴隷制度があるからとか、そういう理由だけで解決しないよね。
「だからさ、金髪碧眼が大人気なんじゃないのかね、この世界って」
「じゃあ、お前の考えだと、お前が金髪碧眼じゃなくなれば前みたいにいきなり売ってくれとか言われなくなるって事だな?」
「逆にそれしか考えられないっていうか」
「よし。……どうせ剣闘士大会まで大分あるんだ。休憩がてら実験と洒落込もうじゃないか」
忘れちゃいけない、ここに居るのは類が友を呼んだ集団。実験大好きっ子集団なのでした。
しかし、まずはお腹が空いたのでご飯にしましょう。
皆さんは屋台で買った軽食食べたりしてたらしいんだけど、私はと言うと、一昨日の夜から何も食べてないのです。
いや、殆ど寝てたんだけどさ。
という事で、私のMPも回復したことだし『転移』で元々実験室があった辺りに移動。
尚、ケトラミはそもそも宿屋に『転移』すると宿が潰れるので、連れてきてない。
多分王都の外でご飯食べてるんじゃないでしょうか。
さて、着いたら教室を展開して、ご飯にします。
熊肉と鹿肉の残りがあるので、盛大に焼きますよ。
肉だけじゃなくてお野菜も焼く!
そう、所謂バーベキュー。タレはネギ塩ベースの香味ダレと、醤油ベースの甘辛ダレを用意。
それにたっぷりご飯を炊けば準備オーケーであります。
そしてご飯の準備とご飯の時間の間に、メイドさん人形たちに働いてもらってる。
繊維は最初にたっぷり作っておいてあげて、後はそれを紡績して、織っておいてもらう。
ちっこいメイドさん人形たちがわらわらわたわたしているのは非常に可愛い。
自立思考で一気に20体動かしながらご飯作ったり食べたりできるようになったんだから、私というか、『染色』と『刺繍』は大したものであるなあ。
私は準備するだけして、後は皆さん各自で焼いて食ってね、ということで私だけさっさとご飯を済ませてしまい、できた布を片っ端から染色して切って縫って、『発掘品』っぽい男性用の服を数着作った。
モデルは社長が今着てるやつ。はい。これ、売る用。
いや、幾らなんでもまたドレスだと質屋のオッサンに悪いかなー、って。
皆さんもご飯を食べ終わったようなので、また『転移』。デイチェモールの質屋さん付近に移動して、さくさくと鳥海に売ってきてもらいます。
これで銀貨1800枚なり。金貨でいう所の180枚、白金貨18枚。
いやー、ぼろ儲け過ぎて怖い。
さて、軍資金も手に入ったので、実験開始です。
実験会場はこのデイチェモール。実験方法は以下の通りでござる。
1、『変装』で恰好を変えて、この世界で売っている普通の女性用の服と首輪を着用し、皆さんのストーキングの元、大通りを少し離れた場所で買い物をする。
2、30分で何回攫われそうになったか計測する。
3、一回の計測ごとに服装を変えて実験に臨む。
うん。割と体張るけど、皆さんのストーキングの元、っていう時点で大丈夫極まりないね!
という事で、銀貨30枚を携えてお買いものレッツゴーなのです。
……いやさ、やっぱり、足りない物って出てくるので、折角だから買い足しておきたかったのです。
主に、瓶とかの容器と、あと、油!サラダ油が遂に切れたので!油買いたいのです!というか、今まで油を節約する調理法ばっかりだったのですよ。そろそろ揚げ物食べたい。
あとは一応塩とかも買い込んでおきたいしなあ。香辛料も欲しい。
他に珍しい食べ物あったら買ってこようね。
まずは実験の為に服を3着購入!
ここで そうび していくかい?ってことでお店で着替えて、実験開始。
まずはそのまま、金髪碧眼からです。
しかし実験もだけどさ、買い物だ、買い物。
市場を見ていたら、結構色々な食材が売ってたりして面白い。
香辛料も種類があるみたいだ。よーし、実に異世界に来て初めてのお買いものらしいお買いものだ。張り切っていきましょう。
「はい、30分経過」
「え!?」
な、なんと、特に誰に声を掛けられるでも、誰に攫われるでもなく、普通に食用油と香辛料買って終了。
あ、あれ?……しょうがないので次行きます。
次は茶髪翠眼。
これはさっきまでの『変装』でやってたタイプだね。
そして塩です。
塩は味噌とか醤油とか作るのにも使うから、そろそろ尽きそうなのです。
この際たっぷり買い込んでおきましょう。
「はい、30分経過したよ」
「ええ!?」
あ、あれ?またしても何事も無く終了?
うん……実験にならないよねえ、大丈夫なのか?これ。
最後はあみだくじで決めた、ピンクの髪に赤い目というド派手な格好です。
そして瓶です。
社長が毒物作るのに瓶使いまくるので、調味料とか入れておく瓶が無くなっちゃったのです。
しょうがないから買いますよ。
「はい、終了」
「えー……」
何と、これも恙なく終了。
実験にならないじゃん!
とりあえず買った物置きたいので、2F北東に『転移』してから教室を展開。
「結果発表~」
何やらノリノリの鳥海が黒板に文字を書いていく。
『一回目:6回 二回目:5回 三回目:5回』
「よって有意差は見られませんでしたので全部結果は同じって事だね」
「っつーか、凄いね、これ。5分に1回ペース位で変質者出るんだ。あはははは」
ま、待て待て待て!い、いつの間に!
「いや、お前が一々捕まった所でカウントしてたら危ないし、30分があっという間でしょ。だからそれっぽくなったところでカウントして捕まえておいたから」
なんだよ、それっぽくなったところ、って!
「ちなみに主に働いたのは俺でーす!いえーい」
やっぱり働いたのはアサシン針生だったか。怖い怖い。
「で、結局分からなかったな」
「ね」
私は塩と油と香辛料と瓶買えたから満足ですが。
「でも分からないとこれ、対策のしようがないですよ」
「だな。こいつを一人でほっとくと、5分に1回ペースで攫われるんだろ、こいつ」
改めて凄い数字だなあ。5分に1回かあ。
しかし、結局何が原因なんだか分からんのです。
「……いっそ現地住民に聞けばいいんじゃないの?」
それができれば苦労しないよねえ。
何よ、君は町行く人に「私、綺麗?」とか聞いて回れるのか?あ、それ別の何かか。
そういう聞き方すると「ポマード!ポマード!」とか言われて終了するのか。いや、この世界に都市伝説って存在するんだろうか?
いやいやいや、でも怪談ぐらいはあってもいいかもしれない。
口裂け女だって元はというと3枚のお札の話が本だとかいう説もあるし。しかしポマードってこの世界に
「おい、舞戸、聞いてんのか」
「うん、ポマードはこの世界に無いと思う」
「よし、聞いてなかったんだな。ローズマリーに『変装』してからデイチェモールの質屋前に『転移』してくれ」
……あ、聞いてなかったけど分かったぞ。
質屋のオッサンから、情報を金で買うんですね?
という訳で、『転移』。
「いらっしゃい……うおお、何、随分大所帯じゃねえの。何、なんかまたあったのか?」
「情報を買いたい。金は金貨一枚出す」
鈴本が金貨をカウンターに乗せた。
「いつも通りの大盤振る舞い、ありがとよ。で、何だ、買いたい情報っていうのは」
オッサンが言うや否や、鈴本に襟首引っ掴まれて、オッサンの目の前に引っ張り出された。
「こいつって、そんなに美人か?」
……なんか、もうちょっと、無かったのかね、君。私の身にもなってくれい。どういう顔したらいいのよ、私。
「美人だろ、とびっきりの」
そ、そうかね、あの、さっきから私、どんな顔していいか分からないんだけども!
「そうか。ついでにじゃあ、こいつはどんな感じだ」
私をぺいっ、と横に避けて、次に引っ張り出されたのは羽ヶ崎君。南無。
「美男子だよな」
「じゃあこいつは?」
……というように、全員の顔面偏差値についてオッサンに聞いた所、なんか……過剰に盛られた評価が返ってきた。
『全員美男美女揃いだよな、羨ましいこって。なんなんだ、嫌がらせか?ああん?』とのこと。
一応。一応、弁明しておこう。
私が思うに、皆さんって、そこまで美男揃いでは無い。
いや、決して悪い訳じゃないけどさ、こう……なんというか、つまり、このオッサンの評価に疑問を抱く位なのである。
なのに、何故このオッサンはかようにとち狂った判定を下したのだ。
「お世辞か……あ、まだアレ、残ってたな」
鈴本が綺麗な小瓶を取り出すと、オッサンが慌てた。
「アホ!本当の事言ってるわ!こんな所で『真実の雫』なんか使うな!勿体ない!つか、嫌味か、嫌味なのか!アンタら!」
あ、それが『真実の雫』なのね。そして、オッサンは嘘を吐いている感じでもない、と。
……うん。そうね、私が聞くのがベストね。
「あの、異国の方はみなこのようにお美しい方ばかりなのでしょうか?」
「ああ、なんか異国人は美形揃いだよな。それもあって異国人の女はアホみたいに高い値段で取引される、って訳よ。ま、尤もそんなことよりも異国人の持ってる『失われた恩恵』が目当てなんだけどな」
よし、分かった。
皆さんもなんか察したらしい。
ということでお礼もそこそこに退却。
『転移』で2F北東エリアに戻ります。
「補正か」
「補正だろうね」
「補正以外に考えられません」
「どうせ補正掛かるならもっと分かりやすくかかれよ。なんなの、これ」
結論、補正のお蔭です。
異世界人には多分、『現地住民から見ると凄く美しく見える』補正が付いてるんだと思われる。
或いはなんか、そういう謎パワーが働いてるとか、現地住民の美的感覚が狂ってるとか、まあ、何でもいいけどさ。
……うん。なんか、なんか……やるせないね。凄く。
「さて、じゃあ残る問題は舞戸の戦闘力か」
さて、ここでやっとこの問題である。
「……え、舞戸の戦闘力って……どうにかなるの?」
角三君が的確に私の傷口を抉ってくる!
「どうにかならなかったとしてもどうにかしないと俺達は詰みですから」
社長が目を合わせてくれない!
「期待はしない方がいいんじゃないの?」
羽ヶ崎君の視線がどうしようもなく冷たい!
……いや、皆さんが悪いんじゃないけどさ……けどさ……。
「やっぱり、実践が一番なんじゃない?」
「僕たちも実際に戦ってみて戦い方上手くなったし、能力が低くても技術と知識でどうにかなるものはあるんじゃないかなあ」
あ、あれ、雲行きが怪しいぞ?
「……よし、舞戸。武装したら表出ろ」
……あ、やっぱり?




