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43話

多少残酷な表現があるので、苦手な方はご注意ください。

 はい、コロシアムです。

 昨日……じゃないのか、もう一昨日になっちゃうのか。うん、一昨日に見た時よりも大分人が減ってますな。

 というか、まず人の種類が違う。

 一昨日は壁殴り代行してくれそうな筋肉の持ち主たちがたむろしてたんだけど、今は子連れとか、カッポゥとかが多いですな。

 コロシアム周りは噴水があったり花壇があったりベンチがあったり、更には飲み物とか軽食を売ってる屋台もあったりして、憩いの場として相応しいつくりになってる。

 だからこの人員配置はおかしくないね。

 というか多分、剣闘士大会前だったから、一昨日がおかしかったんだよ。多分。


 というのは置いておいて、早速目的を果たさねばなるまいて。

 私がこのコロシアム前に来た理由は、ここが一番遮るものが無くて、かつ、王都・城下町の真ん中らへんにあるからです。

 つまり、この王都中に、声が一番届きやすいのです。

 あとは、高さが欲しいからまずは人目に付かない物陰を探そう。

 ふむ、人気のない一角の、これまた人気のない枯れた噴水の陰が丁度好さそうですな。

 よっしゃよっしゃ。そこに歩いて行って、しっかり目に焼き付ける。これが私の命綱です。

 そして、上空を見上げる。

 ……空が綺麗だなあ。うん。こちらもしっかり目視。

 そしたらば、後は勇気だけだ!ということで、深呼吸。

 よし。では早速。はい、いきます。『転移』。

 移動先は……上空300mちょいあたりでGO。


 視界が急に青に染まって、町が遥か下の方に見える。おお、綺麗だね。

 しかしそれもまあ、一瞬の事で、すぐに落下が始まる。

 あばばばばばば、予想以上に怖いよこれ!お尻がむずむずするとかいうどころじゃないよこれえ!

 すぐにでも地上のさっきの噴水裏に『転移』したかったけども、けども、しかしここでやらねば『転移』のMPの無駄!よし、息を大きく吸いまして!さあ来てくれ!

「『ケトラミー!』」

 叫びます!そして呼びます!声は大きく響き渡った。王都の何処にいたって、聞こえたはず。

 只、問題なのは……今、なんか叫んだら、MP流出感があった、ってことなんだけども……い、いや、大丈夫だ。ほら、ロングパニエに『移動系魔法消費MP減少』付いてるし、MP増えてるし、大丈夫だよ、ね?MP足りないとか、無い、よ、ね?

 よし、では、では、さっさと地上に『転移』しますっ!

 これで大丈夫!これで大丈夫なはず!

 ……発動、しません。

 十分だったはずなのに、何故かMP切れの模様。

 ……うそん。


 地上がどんどん迫ってくる。

 やばい、やばいやばいやばい。ちょ、まじか、こんなことで死ぬのかこれ!

 いやいやいや、そういえばエプロンに『落下ダメージ減少』とかあったから大丈夫、あ、いやいや、大丈夫じゃない!だいじょばない!今エプロン外してる!外してたよ!

 あああ、な、なんとかこれ、生き残る手段を模索しなければ、と、思考を巡らせる間にも地上はぐんぐん迫ってきて。

 そして、不意に、視界の端から美しい鈍色が掠めてきて。

『ウィンドウォール!』

 頼もしい声と共にもふっ、とした見えない壁……というか、クッションに支えられて。

 その後すぐにさらにもふもふ、としたものに着地した。衝撃は大分クッションに殺されてたから、大したものでもなく。

『馬鹿かテメエは!わざわざ人呼び出しておいて投身自殺か!?』

 ……どうやら、間一髪、ケトラミが間に合って助けてくれた模様。

「な、ないすきゃっち」

『ナイスキャッチじゃねーよテメエ、俺が来てやらなかったら死んでたぞ!?』

 で、ですよね。ほんと、ケトラミ先生には頭が上がりませんです、はい。

 うわー、まだ心臓バクバクいってるよ。走馬灯見えたよ。

 うん、二度と私、上空には『転移』しないよ……。




 目立ちたくなかったのに、着地と同時にものすごい数の視線にさらされた。

 そりゃそうだね、何てったってケトラミさんだもんね。

 いきなりこんなでっかい狼がすっ飛んできたらそりゃ、みんな見るよ。

 まあいい、そんなこと気にしてる暇はない。

「ケトラミ、今皆さんが居る場所って分かる?」

『分かるも何も……さっきまで俺はあいつらと一緒だったんだが』

 とりあえずはここに居ても注目されるだけなので、そっちに向かってもらう。

 勿論全力疾走からは遠く及ばないけど、それでも相当に速いと思う。

「そこで何が起きてる?私はいかない方がいい?」

『何が、って……あー……すまん、よく分からねえ。が……多分お前が行ったら万事解決、っていうか……』

 おや、ケトラミさんにしては珍しく歯切れが悪いなあ。どしたん?

『あいつら止められるの、多分お前だけだわ』

 ……ん?そ、それは……どういう事だね?




 ケトラミさんが流して走って(それでも私は必死にしがみついてやっとだったのです!)遂に皆さんの居る場所に到着。

 そこはコロシアムから南西へと走った所にある港でした。

 その港の外れの方は、寂れた印象。うーん、ごろつきのたまり場になってるかんじがしますねえ。

 そして、ケトラミさんの配慮によって、結構離れた所で停止。

『あのな、ここから先、ちょっとお前が顔出していいのか俺に判断つかねえわけよ』

「そんなにグロいの?それともエロいの?」

『状況がよく分かんねえんだよ。俺も途中からしか見てねえし』

 そっか、じゃあしょうがないよね、それに狼のケトラミさんには人間の事情は分かりにくいのかもしれないし。

『だから、なんかお前、遠く見る技、あるだろ。それ使ってこっから見て、判断しろ』

 あ、そういえばそんなのもらってたね。忘れてたよ。

 よ、よし、じゃあ……『遠見』。

 一気に遠くの景色が拡大されるようによく見えるようになって……そこにあったのは……地獄絵図でした。


 目に入ったのは、血に塗れて恐ろしく冷たい表情を浮かべながら刀を振っている鈴本。

 刀で斬られまくってるのは、後ろ手に手錠をされた人。

 そして鈴本の隣にいるのが、斬られた人を片っ端から治していく刈谷。こちらも恐ろしいまでの無表情。

 あ、何か話してるな。

 そしてもう一閃。その人は容赦なく胸を掻っ捌かれた。

 その傷は容赦なく、刈谷に治される。

 また何か会話して、更にもう一閃。今度は腕が切断される。絶叫が響き渡り、ガンガン血だまりが広がっていく。

 そして返り血でまたしても血に塗れる鈴本。

 淡々と回復させる刈谷。

 あー、これ、あれか。拷問かあ。

 ……すっげえ地獄絵図!


 そして少し離れたには氷のケースに入れられて、更にそこに水を注がれて水責めされている人と、水責めにしている羽ヶ崎君。こちらも無表情。

 さらに隣では、狂気を感じる笑みを浮かべながら二つのフラスコの中身を交互に飲ませている社長。多分あれ、片方毒で、片方解毒剤か回復薬なんだろう。

 そしてそこから離れた所に、縄で縛られて猿轡を噛まされた人たちが角三君、針生、加鳥、鳥海に見張られている。あー、あれ『封印手錠』の順番待ちなんだろうな……。


 確かにこれ、私が出ていったら一発で解決、するわ。多分。

 少なくとも、皆さんのあの狂気は止まる気がする。


 ということで、早速てくてく歩いて地獄に向かいます。

 てくてく歩いていったら、見張りやってる人は気づいてくれたんだけど、拷問やってる人は気づいてくれない。

 しかしとりあえず見張りには黙っておいてもらうようにジェスチャーで示す。

 更に進んで、とりあえず血塗れの鈴本の袖を後ろから軽く引っ張る。おーい、気づけー。

 引っ張った瞬間、凄い殺気と共に振り向かれたので思わず一歩後退してしまった。

 そして、鈴本はというと、私を見て一瞬怪訝そうな顔をしたものの、すぐに気づいたらしく、殺気を出すのをやめて、何とも言えない表情になった。

 刈谷も私に気付いたらしい。表情が和らいだ。

 さて、彼らが何か言う前にこっちから言わないと設定が作れないからね。

「どうもこんにちは。マリーは助けてきたから安心してね」

 何てったって、私今、茶髪翠眼の、特にホワイトじゃない、しかもメイドですらないおねーちゃんなので、うっかりマリーとか呼ばれちゃうと困るのである。


 マリーさんが自力で脱出できた、っていう事は知られない方がいい。

 不意討ちは強い。それは脱出の過程ですごく実感した。

 多分、不意討ちじゃなかったらあのオッサン達に勝ててない。

 だから、ここでマリーさんが自力で脱出できちゃった、ってばれちゃうのはちょっとまずい。

 非常に非力で無能で、薬盛られても気づかずご飯食べる程度にアホな、この世界の人間。

 そういう設定だと、今後非常にやっていきやすい。

 弱いと思ってきてくれれば、まだ勝機があるのだから。


「ああ、助かる。報酬はどれぐらい払えばいい」

 鈴本はとりあえず話を合わせてくれるので、こっちも合わせていこう。

「そうねえ、それは別に形のあるものじゃなくてもいいのよ?例えば、私がマリーを助けるまでに何があったか、っていう情報、とか」

 とりあえずは現状把握がしたいのよね。なんでこんな地獄絵図になってるの、とか。

「ああ、そうだな、まずは……うん、お前はマリーからも聞いてると思うが、あの宿で薬を盛られた、っていうのは知ってるよな?」

 はい、知ってます。おいしかったです。

「俺達もアレで眠らされて、起きたら昨日の昼だった」

 えー、私、起きたの、今日の朝だったんだけども……。これも皆さんの補正の内なのか?早起き補正?

「それからマリーも店主も居ないことに気付いて、手分けして探してた。その過程でお前と会った訳だが」

 あ、そうなんだ。そういう設定なのね、はい、了解。

「それでお前にはマリーの身柄を頼んだ。その後、夜になってから……こいつらから、手紙が人づて人づてで届いた。マリーを渡す代わりに俺達の内だれかの身柄を奴隷として差し出せ、っていう内容で」

 ……あー、読めた、読めたぞ、その先

「武装解除して腕に魔法を使えなくする手錠をかけて拘束した状態で、ここに来い、っていう指示の通りにして俺が出ていって、マリーの身柄と引き換えになる隙に他の皆で奇襲をかける予定が……マリーは渡せない、ときたもんだから、隠れてた皆がまあ、キレた」

 お、おう……それはちょっと見たかったなあ。ぶち切れた皆さんは、さぞかし鬼神の如き戦闘力だったでしょうなあ。

「俺はあとからケトラミが刀持ってきてくれたんで、参戦して……数分で片が付いたからな、その後はまあ、さっきまでやってた奴をやって、マリーの居場所を吐かせようと思ったら……お前が来た、と」

 うん。理解した。地獄絵図のできるまでを理解したぞ。

 この世界の女性よりも、異国人の男性のほうが多分価値が高い、っていうことも理解したぞ。当然だね。

 それから、うん。これが一番厄介かもしれないけども……皆さんが、奴隷一人の為に奴隷になる事を厭わないだろうと他人に思われる程度には……私が奴隷っぽくない扱いを受けてる、っていうことも、しっかり、理解したぞ。

 ……対策、考えなきゃなあ。


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