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40話

 なんかちょっと先行き不安ながらも、とりあえず出場の登録をだな。

 ……ここで問題です。

「ノナは全員参加としても、モノ・トリはどうする?」

「あー、あとジ・ヘキサもかあ」

 そう。例えば、モノは角三君だけが出る、ってことも出来るし、全員単騎で出場してもいい。前者のメリットは、リスクが少ない。もし負けても何かされるのはその場合角三君だけなので、フォローが効く、はず。逆に後者は圧倒的に勝率が上がる。私たちの内誰が優勝してもいい訳だし、もし私たち同士で戦う事になったら割と有利に事が運ぶわけですよ。ただし、リスクもあるし、一兎を追うものなんとやら、になるかもしれない。

 勿論、ヘキサ・ノナは6人・9人だから私達から出せるのは一組だけ、って事になるけどね。

「とりあえずルール読んでからかな」

 受付っぽいところでルールブックを配っていたので貰ってきて読む。

「あ、あなた達、ルールも知らずに出場しようとしてた訳!?」

 ダリアさん、ごめんね。こんな人たちで。


 よし、ルール把握。

 ざっとこんな感じだね。

 ・基本はトーナメント形式、ただし参加人数によっては一回戦をバトルロイヤル形式にすることも有り。

 ・相手チームの全員が戦闘不能若しくは降参した時点で勝利。手段は問わない。

 ・基本的に殺すのは禁止しない。が、勿論推奨もしない。不慮の事故で死んだりしても責任は取らない。

 ・というか、リング上で何かアクシデントが起きても主催側は関与しない。

 ・コロシアム全体および客席を謎バリアで囲っているので、魔法を盛大にぶっ放したりしても大丈夫です。


 ……あれ?勝者は敗者に何か要求できるんじゃないの?そういうルール無いけど?

 よし、とりあえずこの道に明るそうなダリアさんに聞いてみよう。

「え?ああ、そういうのもあるわよ?所謂慣習、って奴かしら?この地域は昔から決闘が多くてね?だから剣闘士大会でもそういう風習が残ってるのよ」

 そうかぁ。うん、実に異世界チックなしきたりだね。

「具体的にはどんな要求が通るんだ?」

「基本的には物の要求なら大抵通るわね。ただ、あまりにも酷い要求すると観客からブーイングが起こって王都にいられなくなるわよ」

 ふむ、つまり理論上、どんな要求でもできるけど、一応良識の範疇で、っていうかんじのあやふやなサムシングなのか。

 でもまあ、つまりそこまでえぐいことはされない、って事かな?

「ま、基本的に観客も刺激が足りなくて見に来てる訳だし?早い話が、多少過激な位じゃ全然ね。えぐく無ければ大抵通るわ」

 ……いや、いやいやいや、その良識が私達と大きく違う、って事も十分考えられる!

 危険だ!これは危険だ!

「具体的にはどんな内容だと通らないんですか?」

「……そうねえ、やっぱり、敗者の家族とかにまで手を出そうとするとブーイングね。でも、敗者本人に対してだったら大抵観客は喜ぶし……あと、色恋関係ならもう、文句なしに大抵大歓声よ」

 皆さん、非常に嫌そうな顔で私を見る。

 やめてくれ、私が悪いんじゃねえ!世間が、この異世界が、つうかこの町の人間が悪いんだッ!




「で、どうする?」

「その慣習が一番のネックですけど、やっぱりできる限り参加人数は増やした方がいいと思います」

 社長もさっきまで珍しく微妙な顔で私を見ていたというに、もう復帰である。

 こいつの理詰めシステマティックな思考は非常に話が進みやすくなって助かるね。

「だよなあ。……もし全員敗退、なんていう恐ろしい事になったらマリー、よろしく」

 そんな恐ろしい事にならないことを祈るしかない。もし全員奴隷とかにされてみろ。私、どないして助けたらええのん?

「あ、言っとくけど、別に負けたら絶対に何か要求されるって訳じゃ無いからね?そういうのしない人もいるし。あなた達、この町で特にしがらみも無いんでしょ?ならそうそう変な事は言われないと思うけど。……男には」

 しかしここでダリアさんから補足が入って、益々複数参加が有益になってきた。

 最後の一言に関しては……皆さん、考えない事にした模様。

 ほら、皆さん、自己評価低いしさ……そこら辺の危険性は考えてないんじゃないかな……。


「それから、ジ・ヘキサに関してはどうする?参加する?」

 うーん、こっちの商品はどこを見ても『乞うご期待!』との事なので、まあ、何とも言えないけども。

「関係ない賞品だっていう保証はない。保険はかけておいた方がいい。出よう」

 出ることの意義は保険だけじゃなくて、練習の意味合いもある。何てったって、私達、対人戦の経験はほとんどないのだ。

 唯一あるとすれば、峯原さんに『人形化』された鈴本VS他の皆さんだったときだけども、それは一方的だったし流石にノーカンだと思う。

 ……あ、も、もしかして、人に危害を意図して加えたのって……私、だけか!?

 峯原さんご一行に毒入りのマズ飯食わせた、っていうのが唯一の……あああ、なんか、私だけ道を踏み外してる気がするっ!

 ……まあいいや。よって、実地経験というものが殆どない以上、それを積む機会には飛びついて行った方がいい。

「よし。じゃあ全員、参加できるだけ全部参加しよう。じゃあ、そうなると次はチーム編成か」

 ジ・トリ・ヘキサに関しては組み合わせを考えないといけないからねえ。

 後衛二人でジの部に出るとかちょっと避けたい。


 ……という事で、何とか決まった。

 まず、ジの部は、鈴本・社長ペアと、角三君・羽ヶ崎君ペアと、針生・加鳥ペアと、鳥海・刈谷ペアで出ることになった。

 回復ができない鈴本・社長ペアは不安だけども、火力はあるから何とかなると思う。

 角三君・羽ヶ崎君ペアはバランス型だ。不安要素は無い。

 針生・加鳥ペアは、針生が攪乱している間にチャージした加鳥がビームぶちかますという出落ち戦法になりそうだね。正に一撃必殺。外せばアウト。

 鳥海・刈谷ペアはびっくりする程防御型だね。相手の消耗狙いでいくのかな。


 次に、トリの部。こちらはダリアさんも含めたチーム編成になる。

 尚、ダリアさんに職業を聞いてみた所、『傭われ冒険者』だそうで、なんか私たちの知ってる『職業』とは違う模様。うーん、これは隠しておいた方が良さげだね。

 ダリアさんは針生と似た感じの戦闘スタイルらしいので、前衛扱いにさせてもらう。

 ということで、鈴本・羽ヶ崎君・ダリアさんのグループ、角三君・社長・針生のグループ、鳥海・加鳥・刈谷のグループに分かれた。

 火力特化が鈴本のチーム。バランス型が角三君のチーム。ただし回復役無し。そして引きつけて防御してビームぶっぱなすのが鳥海のチームだ。

 ……加鳥が入るととりあえずビームぶっぱなす戦法になってしまうね。


 次はヘキサの部。これは6人しか出られないので、ダリアさんを含めて3人お留守番です。

 まず最初に、加鳥を除外。こいつはどう考えても他の所で散々ビームぶっ放してるんだから手の内がバレてるという点で不利だ。回復役でもあるけど、刈谷がいれば多分間に合う、ということで。

 そして防御を削るか、攻撃を削るかで悩んだ末、『両方ちょっとずつ削ろう』ということで角三君がお留守番決定。

 まあ、バランス型は入れやすくも外しやすくもあるってことですね。


 ノナの部は全員参加で丁度9人なのでそのままで良し。モノの部も全員参加。あ、ダリアさんもモノの部に出るらしいよ。




 ということで、申込用紙を記入して(文字を書くのも『翻訳』スキルで何とかなった。このスキルすごい。)登録料を払う。

 一人一口銀貨銀貨3枚なので、しめて123枚。ダリアさんの分までちゃっかり払わされてるよ。

 ……。残りのお金が銀貨47枚になってしまった。

 まあいいや、いざとなったらドレスもう一着売ってお金にすればいい。ドレスは化学実験室にしまいっぱなしだから、部屋を展開するのに一度人目のない所に行かなきゃいけないけども、『転移』があるからそれもさしたる問題じゃないし。




 ということで、無事登録も終わり、私たちは暇になったわけですが、ここで問題発生。

「ちょっと、ねえ、あなた達、今どこに泊まってるのよ?」

 ダリアさんの疑問もご尤もで、旅をしている私たちが泊まるところを知っておかないと、いざという時に連絡が取れないのである。

 しかし、素直に『転移』して人の居ない所で教室展開してそこで寝てます、とは言えないしなあ。

「野宿だが」

 ……うん、まあ、それが最適解よね。うん。

「はあ!?ありえない!あなた達、何の為に宿屋っていうものがあると思ってるのよ!」

 ああ、うん、そういうのあったね。

「でも今はどこもいっぱいだって聞いたぞ?」

「そりゃ、大通り沿いのお高い所は、ね。いいところを知ってるわ。付いてきて頂戴」


 ということで、ダリアさんについて歩くこと10分。コロシアムから数本裏道に入った、こじんまり、かつ、どんよりとした裏道に、小さな宿屋があった。

「ここよ」

 ダリアさんが早速その中に入っていくので、私たちも付いて入る。

「ほら、爺さん、お客さん連れて来たわよ」

 ダリアさんがカウンターに声を掛けると、寝ていたらしいお爺さんがはっ、と顔を上げた。

 うわあ、店番が寝ててもいいのかい?

「おお、いらっしゃい、いらっしゃい。何名様かね?」

 私たちを見るや否や、相好を崩して帳簿を付け始めるおじいさん。

「9名だ」

「ふんふん、じゃあ3人部屋が3つかな」

 部屋の鍵と思しきものをカウンターの裏からとって来ようとするお爺さんを、慌てて鈴本が呼び止めた。

「悪いが、うち一人は女性だ。3人部屋3つの他に1人部屋1つ、付けてくれ」

 うん。私は正直ここんところ、非常にどうでもいいのだが、割と皆さん、私と部屋を分けたがる。まあ、あらぬ誤解が生まれても皆さんに申し訳ないしね。


「え、ちょっとちょっと、あなた達、奴隷に一部屋取るつもり?」

 びっくりしたようなダリアさんの反応を見て、これはやっちまったらしいぞ、と、皆さん気づいたらしいが、方針を変えるつもりはないらしい。

「こいつはちょっと特別なんでな」

「って言ったって、奴隷よ?いくらなんでも、節操無さすぎじゃないの、あなた達」

 え、これって節操無いうちに入るんですか!?逆じゃなくて!?

「……っていうか、この奴隷、『そういう』奴隷なんだと思ってたけど、違うの?」

 ダリアさんが不審げに私を見て、皆さんを見る。

 ……皆さんはぽかん、とした後、すぐにあからさまな嫌悪を示して反論しだした。

「違う……!」

「やめてよ、変な想像しないでよー」

「何!?僕たちがそういうのに見えるって事!?馬鹿じゃねーのぶち殺すぞ!」

 ダリアさんの言葉に、総員全否定。そ、そんなに嫌かね。いや、私も嫌だが。

 そんな鬼気迫る表情で必死に否定せんでも……。ダリアさんがびっくりしちゃってるじゃないか。


「……という事で、こいつの部屋は別に取りたい」

「ああ、まあいいよ。よし、じゃあ4部屋で銀貨20枚だな」

 ……あれ、なんかぼったくってない?一部屋銀貨5枚、って……うーん、そんなもんか?

 まあ文句も言えないしね。有難く私は一人部屋を与えてもらった訳です。お金なら結構簡単に稼げちゃいそうだと分かったし、使う所ではガンガン使っていきますよ。

 しかしあれだなー、ここに9泊するとなると、180枚も銀貨使うのかー。こりゃ、明日にでもまたデイチェモール北の質屋さんに行かないとダメかな?


「私はここの2階の角部屋に居るから、何かあったら尋ねるか、カウンターの爺さんに伝言を頼んで頂戴ね」

 成程、ダリアさんはここを住処にしてるんだね。それならここはダリアさんとの連絡も取りやすいし、いい物件なのかもしれないね。

「ああ、分かった。ダリアさんも俺達に用があったらこっちに来てくれて構わないから」

「ええ、分かったわ。あ、そうそう、ここの夕食は午後7時からだから、遅れないようにね」

 現在時刻、午後5時。ふむ、2時間程度、暇な訳ですな。

「じゃあちょっと部屋割り決めついでに一回全員集合。今後の方針とかも決めたいからな」

 ということで、借りた部屋の内の一つに全員集合。

 おお、如何にもファンタジー世界の宿屋さん。ベッドとチェストと簡素な椅子と机があるぐらいで、後はインテリアと言ったら、ラグとカーテンぐらいか。

 うーん、このシンプルさ、嫌いじゃないです。

 ……ただ、ちゃんと掃除しようよ。埃溜まってるよ。ここ、どれだけ人が来てないのよ。

 耐えきれないので『お掃除』してしまった。うん。さっぱり。

「部屋割りはトリの部の編成でいいか」

「うん、いいんじゃないかなあ」

 なんか部屋割りはあっさり決まってしまった。まあ、こいつら、特に誰と誰が仲悪い、とかも無いしなあ。割と全員仲良しだから、こういう時いいよね。


「……で、だ。なんとなく、この町の奴隷の扱いが見えてきたわけだが……このまま、マリーを奴隷にしておいてもいいんだろうか?こいつを市民扱いにするのはまずいか?」

 強いて言うなら、奴隷は見た目が分かりやすい。首輪をつけていれば奴隷とその主人だと分かりやすいもんね。だからご主人様方の身分を保全するためには私が奴隷であった方が効率が良い、んだけども……。

「……正直、これ、精神的にくる」

「ああうん、俺も」

「友達を奴隷扱いするとか無理……もうしんどいよー」

 ですよねー。こいつらは優しすぎるのである。もっと合理的に割り切っちゃえばいいのに、それができない。

「私のことはお構いなく。結構楽しいので」

「こっちが先に参るから。……ああもう、お前、逆に僕たちを奴隷扱いするって考えてみた?」

 ……ああ、それは。

「無理です。絶対に嫌です」

「だろ!?」

 うーん、でも、どうせ誰かが奴隷やってないと、下手すると全員奴隷にされてしまってゲームオーバーなのである。

 そこんところは全員分かっているようで、まあ、渋々納得した。

 というか、そうするしかないんだから、初めから納得していて頂きたいものである。


「次に、金の問題か。マリー、どうだ?」

「問題ないかと。デイチェモールでまた少し物を売れば十分にお金が手に入りますので」

「じゃあまた明日あたりにでもデイチェモールに戻るか」

 そこに反対する人もいなかったため、とりあえず明日の行動は決まりだ。

「よし、じゃあ次。大会まで大分時間があるが、何する?」

「王都で奴隷売ってるところがあったら片っ端から調べて異国人を買い上げていく、ってのが目下の目標かと思うけど」

 けど、王都にそんな商売やってるところがあるものだろうか。

「まあいいや、そこら辺も適当に明日からやっていこう。ああ、そうだ。後、くれぐれもマリーを攫われないように気を付けよう。こいつ、仕入れ値で金貨200枚位になるらしいから、買い戻すとしたら金貨300枚はかかるぞ、多分」

 う、うわー……そうか、考えてみたらそうだ。うっわ、うっわ、絶対に攫われないように気を付けよう。

 やばい。もし攫われて『転移』のバレッタ外されちゃったらもう打つ手なしだ。

 そもそもどこで売られるかも探さなきゃいけないし、金貨300枚は……デイチェモールの質屋さんでドレスを6着位売ればなんとかなるか。

 いや、でも、そもそも私がうっかり攫われると皆さん『転移』できないから、デイチェモールとの往復でまた時間がかかる。

 そして私が居ない間に今度は皆さんが奴隷にされる恐れもあるのか。うわー。考えてみたら私が攫われるリスクって滅茶苦茶高いわ。気を付けよう。


 と、まあ、そんな感じで夕食時になったので全員食堂に集合。

 ナチュラルに私も着席しちゃった為、そこでまたダリアさんと宿屋のお爺さんを驚かせてしまい、またひと悶着あったりしたけども、まあ何とか夕飯にはありつけました。

 夕飯はスパイスの効いた鹿肉の煮込み料理とバゲットとチーズ、そして野菜のグリルとあったかいポタージュスープ。

 いやー、美味しいです。あ、そういえば、この世界に来てから初めて自分が作った物じゃない物食べたわ。いやはや、人が料理してくれるのっていいね!楽で。




 と、まあ、なんというか、そういう風にちょっと浮かれてたんですけども、それが命取りだったっていうか。

 ……ご飯食べた辺りから記憶が曖昧でして。

 はい。目が覚めたら知らない天井がありました。

 一瞬宿の部屋かとも思ったけど、なんか違う。

 とりあえず起き上がってみたら首が引っ張られる。

 どうやら新たな首輪が装着されていて、そこから伸びる鎖が見事に壁に繋がれている。

 ……攫われた模様です。はい。


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