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39話

「剣闘士大会に出ないと詰む、ってことか」

「だね」

 現在、絶賛海釣りでとれたお魚でご飯中です。

 教室を展開して町の人に見つかったりしたら極めて危険なので、海岸の流木に座ってご飯。アウトドアな感じですな。

 ……あれ、おかしいな。よく考えたら今までアウトドアしなかったのがおかしいんだよな。うわー、感覚のマヒって怖い。

 メニューはシンプルにお刺身とご飯とお味噌汁です。うーん、新鮮なお魚って美味しい。

 釣りなんてやったことなくて、割と適当にやっただけなのに、びっくりする程お魚が取れた。

 これも異世界クオリティなのかしら。

「まさか賞品になってるとはねー、教室。あ、舞戸さん、醤油取ってー」

「あ、針生、次、醤油俺。……教室が賞品になるのはモノ・トリ・ノナの部、か。じゃあジ・ヘキサの部では何が賞品なんだ?」

「そこら辺も含めて、一旦王城に行ってみるしかないと思います。どうせ剣闘士大会に出場しなきゃいけないのに変わりはありません」

 私たちは『世界の欠片』を集めないといけない。それが何なのかははっきりしないけども、多分、バラバラになった学校の教室の事なんじゃないか、っていう事である。だとしたら、教室が他の誰かの手に渡って、どこかへ行ってしまう前に私たちの手中に収めなければならない。下手したら教室が壊されたりしてしまうかもしれないし、もしそうなったりしたら取り返しがつかない。

 そして、その教室を手に入れる手段が……剣闘士大会、なるものの、個人戦、3対3、9対9の部で、それぞれ優勝しないといけない、という……。

 これはひどい。

 つまり、我々は9人の戦える人間を用意しないといけないのですが……私抜くと、8人、なのよ、ね……。

「問題は舞戸か」

「うん、出場させない方がいいと思うんだよね。ルールが今一つ分からないから何とも言えないんだけどさ、多分勝者は敗者に対して何か要求できるみたいなルールだと思う。それで舞戸さん及びマリーさんを持っていかれるとやばいっていう」

「かと言ってそうすると今度は一人足りない、っていうことですよねぇ……」

「俺が頑張って影分身とか会得してみる?」

「いや、登録の時に2人居ないといけない訳だし……ていうか、影分身て、もうちょっとなんか無いの?」

 うーん、ままならんね。一人どこかから借りてくるか、リスク承知で私を出すか。

「できれば一人、どこかから見つけてきたい所だが、さっきの舞戸のリスクは俺達にも言えることだ。俺達が異国人である以上、何かされてもおかしくは無い。それを承知で一緒に参加してくれる人がいるだろうか」

 ……ああ、そうですな。『負けると私が持っていかれる恐れ』はそのまま、『負けて皆さんが持っていかれる恐れ』にも成り得るのです。まあ、奴隷と貴族という身分の差があるけども。

「もしかしたら王城の方に行ったらスカウト待ちの人とか居たりするんじゃない?」

 そうねー、ノナの部とか、人を集めるのも大変だろうし。

 そういう人がいてもおかしくないね。


「じゃあひとまずは王城に行こう。……針生」

「ケトラミライドかー……遠慮したいんだけど俺じゃない人がやっちゃダメなの?」

 鈴本が声を掛けると、明らかに針生は嫌そうな顔をした。

 うん、ケトラミさんに振り回されたら、いくら補正のある皆さんだったとしても間違いなく乗り物酔いするだろうな、とは思うよ。

「舞戸の負担によるな。舞戸、針生より負担が軽く『共有』できる奴っているか?」

「さあ……全員分やったことあるわけでもないしなあ。只、針生と羽ヶ崎君だと、どっこいどっこいだったかな、位で」

 針生はしょっちゅう視線が動くので疲れるのだ。かといって、羽ヶ崎君は羽ヶ崎君で目があんまりよくないし、身長の都合で私からすると違和感バリバリでそれはそれで疲れるのだ。

「……だってさ。新境地開拓の為、誰かやる奴いない?」

 針生よ、君はそんなに全力疾走ケトラミライドが嫌なのかね。私は嫌だが。

『頼むからその甲冑の兄ちゃんは勘弁してくれよ?そんなの乗せて走れってか?』

 あ、ケトラミ側からも申請が。そうだよね、重いのは嫌だよね。

「ケトラミが鳥海は嫌だって」

「重いから?」

「重いから!」

 いや、元々の体積の話じゃなくて、甲冑の話だから……。

「んー……じゃあ針生と鳥海以外でじゃんけん。負けた奴が乗る。はい、最初は」

「パー」

「パー」

「パー」

「パー」

「グー」

「チョキ」

 ……。ちなみに、グーを出したのは角三君で、チョキを出したのは社長である。

 流石です、皆さん。


 その後実に高度な頭脳戦が数度行われた結果、裏の裏を読みすぎた社長がケトラミライディングすることになった。

 行ってらっしゃーい。




 さて。そうして社長と視覚を『共有』して得られた視界から『転移』を使って合流。

 ということで、現在王城の前の岩陰に居ます。

 王城まで推定2km。のんびり私ペースで歩いても10分程度のものですな。

「じゃあ、デイチェモールに入った時と同じように、マリー、頼めるか?」

「了解でございまーす」

 王城の審査はデイチェモールより厳しいらしい。

 もし何かあったら口の達者な鈴本か鳥海に参戦してもらうという事で合意して、城門へ向かった。


「止まれ!そこの狼を連れた一団よ!」

 やっぱりそういう扱いなのかあ。まあそうだよね、どう見ても一番目立つのケトラミさんだものね。

 さて、先手必勝という事で、私がすすすと進み出ると、門番らしい兵士たちのがちょっとどよめいた。

 ……え、もしかしてこういう時に奴隷が出てくるのってまずかった?でも出てきちゃったものはしょうがないからね。

「こちらは異国のとある有力貴族様のご子息様方にあらせられます」

 とりあえず手近にいた兵士さんに話しかける。内容はデイチェモールの時と同じだけど別にいいよね?

「あ、ああ、そうか。して、そちらは」

「ですから、とある有力貴族様の」

「ああ、違う、後に控えておられる方々では無く、その、そなたは」

 え、私ですか?

「只のしがない召使いにございます」

 見りゃわかるだろうよ、おい。

「そ、そうか……うむ。して、この国へはどのような用で?」

「こちらで行われるという剣闘士大会に参加なさるとの事です」

「ふむ、そうか。ならば急ぐといい。大会への参加申し込みは今日の夜までだ」

 おおお、そ、それは何ともぎりぎりセーフだったね。

 本当の本当に詰むところだった。あぶねえあぶねえ。

「申し込みはどちらで行っていますか?」

「ここを抜けてまっすぐ行くと巨大なコロシアムがある。そのあたりで受付をやっているから、まずはコロシアムを目指して行けばいい」

 ほー。そんなに大きな建物ならば、そんなに迷う事も無いかな?


「ご親切にありがとうございます」

「う、うむ。……あ、あの、だな」

 あれ、何かまだあるの?なんかまずい事言ったっけ?あるいはしたっけ?と内心冷や汗ものであるが、表面はきょとんとしておくに留める!

「その……そなたは召使い、という事だが、自由な外出は許可されているか?」

「……は?」

 門番さんの背後で、同僚らしい人達の内の一人が口笛を吹いたのが聞こえた。

 な、なんだなんだ?

「い、いや、その、もし今日の夜暇なら、しょ、食事にでもどうかと」

 ……えっ。

 えーと、うーん……ただ飯は嬉しいんだけども、9人分のただ飯って訳にはいかないだろうしなあ。他の皆さんほっとくわけにもいかないし。

 というか、自由な外出を許可されている召使い、ってのも居るのか。そっか。勉強になります。

「いえ、私はご主人様方の奴隷ですので。遠慮させていただきますわ」

 というかそれ以前に、見知らぬ人にごはんに誘われるとか異世界怖い。

「ど、奴隷!?そなたが!?」

 なぜかそこに驚いた門番さん、つかつかと同僚の方へ歩いて行って、何やら相談中。

 ……やばい。やばいやばいやばい。何かやらかしたかもしれない。

 今の、奴隷って言ったらまずかったのか?

 ど、どうしよう。とりあえず援軍を頼む為、皆さんの方にジェスチャーを送ると、鳥海と鈴本が来た。

 そして3人で待っていると、門番さんがやっとこさ戻ってきた。

「金貨180枚なら出せる。こちらの奴隷を売ってくれないか」

 ……それかよ!

「断る」

 あああ、こういうやり取りにすっかり慣れてしまった鳥海は落ち着いたもんだけども、鈴本の方はキレかけてる!

「な、ならば金貨185枚で」

 値段の上げ方がしょぼい。デイチェモール北の質屋のオッサンは20枚とかポンポン上げてきたぞ?

「断る。幾ら積まれてもこいつは絶対に渡さん。……通っていいか?」

「……貴殿は剣闘士大会に参加するのだそうだな。どの部に出る?」

「教えてやる義理は無い」

 うわあ、にべもない。これは本当に怒ってるなあ、こいつ。

「……いいさ。俺も剣闘士大会には出る。その時貴殿に勝利し、その時この女性を頂くことにしよう」

 こちら側に緊張走る!

 なんだそれ!出場しなくても貰われちゃうのか私!……あ、そっか、奴隷は貴族の所有物だからそういうのもアリなのか?

「……お嬢さん、お名前は」

「ローズマリーです」

「素直に名乗るな、アホ」

 あ、ごめん。

「……さあ、通れ。十日後またコロシアムで会おう。ローズマリー嬢も、またきっと十日後に。王都『エイツォール』へようこそ」

 ……こうして何とか、王城の門も通れました。

 いや、なんつーか……予想してたのと違う意味で厳しい審査でしたよ。何?キレやすさのチェックかなんかだったの?今の?

 あーあーあー、コラ!ケトラミさん!吼えないの!唸らないの!門番さんびびってるでしょ!

 あーあーあーあー!羽ヶ崎君!中指立てないの!

 あーあーあーあーあー!社長!頼むから毒物の散布はやめて!




「疲れた」

「お前も大変だな、おい鳥海、デイチェモールでもこんな感じだったのか、もしかして」

「似たようなもんだったけどね、なんかタイプが違った」

「そうか……それにしても、奴隷制度があるとは聞いていたから覚悟していたが……不愉快極まりないな。マリーについても何か対策した方がいいか」

 いや、違うって。疲れたのは君たちのせいだって!

 それにしても……なんかめんどくさい事に巻き込まれた予感。




 とりあえず城門を通ると城下町の大通りに出た。

 ここをまっすぐ行けばいいらしいから楽なものだね。

 うん、というか、もう見えてる。見えてるよ、コロシアム。

 ものすごくでっかいね。うん。あれなら見失う事も無いね。


 さて。ということで着きましたコロシアム。

 うん。何やらあたりには実に屈強なオッサン、お兄さんズがたむろしています。

 女の人は……居るには居るけど、殆ど居ないね。

 そして……魔法使いっぽい感じの人って、居ないね。女の人も盗賊とか戦士っぽい人が多い。オッサン&お兄さんは言わずもがな。

「よお、そこの兄さん達。剣闘士大会に出るのかい?」

「ああ」

 ……お、何やらささっと皆さんが動いて、一瞬で私を包囲する形に展開したぞ?

「おいおい、別にその姉ちゃんを取って食おうって訳じゃねえって。落ち着け落ち着け」

「ああ、それは悪かったな。既に何回かそういう事があったから」

 そう言いつつも、皆さん包囲網を崩さない。……こういう時、私どういう顔したらいいのかね?何とも複雑である。

「まあ、その姉ちゃんならしょうがねえか。その姉ちゃん、仮面でもつけさせといた方がいいんじゃねえか?……ってのはいいんだ。なあ、兄ちゃん達。人数が足りないなら俺を雇わねえか?そこそこ腕に覚えがあるぜ?」

 おお、なんと。もしかしてここに居るのってみんなスカウト待ちの人たち?

 だったら話は早いね。ここで誰かひとり雇ってノナの部に出ればいい。

 ふむ。問題は誰を雇うか、なんだけども。

「おい、こいつを雇うなら俺の方が強いぜ?俺にしとけよ」

「いやいやいや、だったらウチにしとき!安くしとくで!」

「こんな奴雇うなら僕の方がいいですよ!腕は確かです!」

 ……こんな感じに、すっかり囲まれてしまった。

 うーん、どうしようか。

 ちょっと皆さんを見てみると、社長と刈谷の目線が『鑑定』している動き方をしていた。

 ああ、そういう事。

 私も『鑑定』してみると、明らかに強い人とそうじゃない人の区別位までならなんとなくついた。

 そしてその中でも、特に強いっぽい人は。……うん。社長と刈谷とも見ている方が一緒だから間違いないだろう。

「あの人にしましょう」

 ダントツに強いっぽいその人……綺麗な赤い髪の女の人は、人ごみの少し外側に黙って立っていた。

 そして社長が指差すと、ゆっくりと人ごみをかき分けて近づいてくる。

「あら、アタシをご指名?」

「ああ。幾らで雇われる?」

「銀貨30枚でどーお?」

 鈴本がこっそり私の方を窺ってきたのでOKサインをこっそり出す。

「分かった。よろしく。……マリー、金出してくれ」

「かしこまりました。……銀貨30枚です。どうぞよろしくお願いいたします」

 袋から銀貨30枚を出して、その女性に近づいて手渡す。

 にこやかに銀貨を女性は受け取ると、鈴本に手を差し出した。

「アタシ、ダリア。よろしくね」

「よろしく」

 言いつつ、鈴本は握手しようとしない。のは……あー……うん。あれだ。峯原さんので握手がトラウマになってるらしい。戸惑うダリアさん。ごめんねダリアさん。

 な、なんか先行き不安だけども、とりあえずこれで戦闘員が9人になったわけだ。よし、登録してこようじゃないの。


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