38話
詰んだよ!詰んだ!これ絶対詰んだ!
コロシアムで?剣闘士大会があって?優勝賞品が異国の魔法の部屋!?
つまり教室が商品ってことですか!やばいじゃないですか!優勝しないといけないじゃないですか!
なのに、なんだよ!モノ・ジ・トリまでは分かるよ!つまり個人戦かペア戦、2対2、3対3な訳でしょ?でも、なんだよヘキサって!6人かよ!なんで急に増えるんだよ!しかもなんだよノナって!9人かよ!足りないよ人が!
もし、もしも、だよ?その3つの部をそれぞれ同じ人がエントリーできなかったら……。
……人、足りないよ?つか、私達、戦闘員が8人しかいないんだよ?私、出るの?……死ぬよ?
「その大会って、一人が複数の部に登録したりはできる?」
あ、鳥海も同じところを気にしてるぞ。うん、偉い。
「ん?ああ、できるぞ?当然強い奴が五冠を狙いに行くからな。……お?何、騎士様も出るのか?」
「ああ、うん。ちょっと強者揃い、ってのに惹かれて、ね」
目的はさらっと隠すあたり、こいつのさらっと嘘がつける能力は極めて高いと言えるでしょう。
「しかしよ、モノは1人で出ればいいし、ジは2人だから最悪その奴隷さんと出てもいいが、トリは3人、ヘキサは6人、ノナに至っては9人だぞ?人はいるのか?」
「んー、まあ、当てはあるかな」
まあ、8人は居るよね、8人は。
「お、そうか?ならいいんだが、いやな、うちでも一応奴隷は扱ってるんでな?」
「へえ、例えばどんなの?」
「そうさなあ、戦闘用奴隷も性奴隷も一通り扱ってはいるが」
「戦闘用奴隷のいいのは無い?」
「ああ、騎士様、性奴隷は間に合ってたな」
間に合ってないと思うよ!
……あ、私がそういうのだと思われたのかな?なんか凄く隣で鳥海が気まずそうにしてるけど、よかったね、フルフェイス兜で。さもなきゃ店主のオッサンに怪しまれたぞ?
……そういえば、皆さん、その、そういう方面ってどうしてるんだろうね。
いや、私が気にしてもしょうがないし、私が気にするべきでもないし……うん、今まで通り、普通に知らんぷりしとくけどさ。
「……3日前まではな、異国の奴隷を一人売ってたんだが。戦闘用奴隷として貴族様が買っていっちまってな。剣闘士大会に出すんだと。騎士様も出場するんなら気を付けな?あれは強いぜ?やっぱり異国の奴隷は格が違うな」
……や、やっぱりか。
やっぱり、私たちの学校の生徒が誰か、もう売られて奴隷にされてるんだ。
しかしどうしようもない。多分、剣闘士大会とやらに出されるみたいだから、接触する機会はありそうだけども。
「そうか、それは残念だな。普通の奴隷じゃあちょっとやっぱり。他の店で異国の奴隷は売ってない?」
「いやー、異国人、ってだけで貴重なんだぜ?俺の所に3日前まで残ってたのがむしろ奇跡的だね。大抵入荷した端から貴族様に買いたたかれるからな。貴族様方はどうも異国の魔法の部屋に興味がおありのようだし、そうでなくとも剣闘士大会の優勝賞品の武具は優れた『失われた技術』を宿した業物だって話だしな?優勝狙う貴族様はみんな強い奴隷を欲しがるからなあ。ちょっと知ってる中には残ってねえや」
……ダメか。せめてどこかに売れ残っていてくれれば、購入するという手段もとれたんだけども。
「そうか。ちなみに、今までに何人ぐらいの異国の奴隷が市場に出回ったか知ってる?」
「んー、騎士様よ、そこから先は企業秘密、って奴だぜ?」
……ですよねー。
しょうがない、じゃあこれだ。
「じゃ、情報料」
鳥海も考えることは同じ。店主のオッサンに銀貨を10枚渡すと、オッサンは驚いたように目を見開いた。……あ、多かったのかな、金額。
「へっへっへ、まいどあり。金払いいいねえ、騎士様よ。俺は金払いのいい奴は好きよ?」
「そりゃどうも。で、情報」
「へいへい。出回った異国の奴隷、ね。そうなあ、俺の知ってる限りでは6人、って所だ。そのうちの3人はとある大貴族がまとめて買ったって話だ。……何だ、騎士様よ、やっぱり当たる相手は気になるか?」
「まあね。あと、買えれば買いたいんだけど、やっぱりそれは無理かな」
「貴族様が手放すとも思えねえしなあ。ちょっと厳しいんじゃねえか?」
「そうか、じゃあ諦めるかな」
「そうしとけ。下手に貴族様の目に付くようなことしちまうと面倒くせえしな。……な、騎士様。折角の情報料だ。とっておきも教えてやるよ」
「お、何々?」
「一つ目。剣闘士大会に出るなら、そこの奴隷の姉ちゃんは連れてかない方がいい」
あ、複数あるの?
「どう考えてもその姉ちゃん連れてたら負けた時に持ってかれるからな。あ、剣闘士大会のルールは城下に行った方が早えな。ま、頑張れや」
……つまり、剣闘士大会のルールで、賞品とかとは別に勝者は敗者に何か要求できるっていうのがあるのかな?あるいはルール無法とか?
「で、二つ目。あんまり異国の奴隷について嗅ぎまわらねえほうがいいぜ?貴族様を敵に回していい事なんかねえし、騎士様自身が異国の出だって言って回ってるようなもんだからな」
お、おうっ!?
フルフェイス兜の全身甲冑なのに異世界人だってバレてる!?
「で、三つ目だ。……騎士様が売ったドレスだがな、相場は銀貨500枚からだ。あのな、相場知らねえって時点でどう考えても世間知らずの王侯貴族様か異国人だって言ってるようなもんだぞ?」
……。非常に参考になります。今後はもっと気を付けなきゃいけないね。
けど、それ言っちゃっていいの?
大分ぼったくってたって自分から言ってるようなもんだけども、それ、いいの?
「それ言っていいの?」
「ん、まあ騎士様なら笑って流すだろ?」
ああうん、笑うしかないよね、確かに。
「それに、だ。俺は貴族が気に食わねえ」
ごめん、こっちも一応貴族(笑)です。
「だからよ、騎士様には剣闘士大会に出て貴族の奴隷をコテンパンに伸してもらいてえって訳だ。な?利害は一致してんだろ?」
「そんなことで?」
「こちとら娯楽はそんなことしかねえ、って事。な、騎士様よ、頑張ってくれや」
どう考えてもなんかしか裏がありそうだけど、まあ、利害は一致するんだろうなあ。
それにこれは中々有益な情報だ。
貴族相手にも商売しているであろう人も、貴族に対していい印象は持ってない、と。
何かに使えるかもね。
……しかし、私達は当たりのお店を引いたわけだな。
うん、私の運はそんなに良くないから、これきっと、鳥海の方の幸運だな……。
「異国人だとバレたついでに聞いちゃおうかな。あのさ、こういうドレスって、表通りで売っても問題ないもんなの?」
一旦バレちゃったならもう開き直れ、という事らしく、割と好意的なオッサンに甘えて、この際色々聞いちゃうことにしたらしい。
「むしろそっちを推奨されてはいるがな?表通りだと買いたたかれるぞ。さっきのドレス、銀貨250枚で買ったが、あれが表通り価格だな。ここで売るなら倍出してやる」
あら、じゃあそんなにぼったくられたわけでもなかったって訳か。
「へえ。それは有難いね。じゃあさ、ここに居る人たちが仮面付けてるのってなんで?」
「そりゃ、奴隷の売り買いは表立ってはできねえからな。仮面付けて、建前上誰だか分からねえようにしてるのさ」
建前って大事だもんね。そうかあ、この世界でもそういう面倒くさいことはあるんだなあ。
「仮面の相場っていくらよ」
「大体銀貨1枚から5枚って所か?」
ふむ、じゃあお金は余裕を持って足りそうだね。
「俺が異国人だってばれて何か問題ってあるの?」
「奴隷にされる……って事はねえか、奴隷連れてる訳だし。そうさな、やっぱりカモられるのが一番の問題か?あとは……うん、貴族様の利権関係に巻き込まれるかもしれねえな」
おおう、それはやばいよ。カモられるよりもやばいよ。
気を付けよう。
「そうか、ありがとう。じゃ、また何かあったらまた利用させてもらうよ。で、これね」
鳥海が袋から銀貨を20枚取り出してカウンターに乗せる。
「情報料と口止め料ね」
「……抜かりねえなあ、騎士様」
「ま、このぐらいは頭働かないと」
「ったく、大したモンだよ、アンタ。……じゃあまたのご来店をお待ちしておりますぜ」
店主のオッサンに軽く頭を下げつつお店を出る。さ、さっさと仮面を買って、皆さんと合流だ。
とりあえず裏通りの露店に、いかにも仮面、って感じのデザインの仮面を並べて売ってる人がいたので、声を掛けてみる。あ、声を掛けるのは私じゃなくて鳥海です、もちろん。
「それ幾ら?」
「どれでも1つ銀貨3枚だよ」
……ふむ、現在所持金、残り銀貨220枚。
うん、大丈夫だろ。
「ふーん。よし、じゃあここで買ってこうかな。マリー、屈むの面倒だから適当に見て取って」
「はい、かしこまりました」
如何にも奴隷を扱うようにわざわざ言うのは、つまり私に怪しまれないようにうまく『鑑定』して渡してくれ、ってことだね。うん、中々やるじゃないの。
よし。とりあえずまとめて『鑑定』してみて、呪いとか掛かってないかを確認していく。
……変なバッドステータス付いてるようなのもあるね。なんだよ、『不運50%増』とか『痒み5%増』とか。うん。そういうのは避けていくよ。
ということで、7枚選びました。鳥海も適当に演技して合わせて、如何にも自分で選びました、みたいな感じに上手く振舞った。いやはや、こいつ、中々の役者です。
「ねえ、これ7枚買うからさ、銀貨1枚まけて20枚にしてくれない?」
「7枚も買ってくれるのかい?へえ、じゃあしょうがないな、よし、銀貨20枚だ。まいどあり」
……おお、しかも値切るとは、ナイス鳥海。銀貨1枚分得した。
もっと値切れたのかもしれないけど、まああんまり値切るのもどうかと思うし。
うーん、異世界のお買いものって難しいよね。
さてさて、皆さんはどこにいるかな?
多分西エリアにいるんだろうなあ。観光でもしてて、って言ったし、他のエリアにわざわざ行く理由も無いし。
とりあえずケトラミの所に行ってみると、ケトラミに凭れたり埋もれたりしながら待っている皆さんがいた。
くそう、ケトラミは私の布団だぞ!いくらご主人様だからってなあ、私の布団は渡さんぞ!
「あ、お帰り」
「ん、ただいまー。仮面買って来たよ」
……よく考えたら、これからまた北エリアに行くでもなしに、仮面って必要だっただろうか?
まあいいや。良く見たら西エリアでも奴隷を連れた仮面の人ってちらほら居るし。
これから先、顔を隠さないといけない状態になるかもしれないし。
「ん、お疲れ。で、どうする?そろそろ昼飯時だが」
「うーん、一回町を出て作戦会議かな。ちょっとやばいかもしれない」
ということで、昼ご飯は後回しで、とりあえず町の外に出ることになりました。
「おお、さっきの。どうした、もう町をでるのか?」
あ、さっきの兵士さんである。どうもこんにちは。さっきぶり。
「ええ、少し海を見てこようとのことで」
笑ってそう答えると、特に怪しむでもなく送り出してくれた。
ちょろいです。




