37話
さて、ここまではまあ、歩いて移動した。
ので、まあ、ケトラミさんも連れて移動してたわけですよ。
道が広くて助かったよ。さもなきゃ、ケトラミさん道の途中でつかえて立ち往生だったかもね。
しかし、ここからは流石水の都。
運河を船で移動することになります。
ケトラミさんが船に乗ると船が漏れなく沈没するので、ケトラミさんは待機ですな。
「じゃあケトラミ、お留守番よろしくね。もし何かあったら町の外に逃げちゃってね」
『おう。お前も気を付けろよ』
運河近辺には馬車を置いておいたり、馬とかを繋いで置いたりしておく場所があり、そこを利用することにした。
……すっげえ、シュールである。
馬とかに混じって、軽トラサイズの狼。
馬車よりでかい、狼。
周りの人たちからも注目されて視線がうっとおしいのか、ケトラミさん、丸くなって昼寝することにした模様。
まあ、何かされそうになっても起きないようなケトラミさんじゃないし、大丈夫でしょう。
船は無料で借りられるので、二艘借りて二手に分かれて乗った。
私が乗った方は鈴本と社長と角三君と刈谷が乗っている。
……つまり、うっかり私がなんかえらい事に巻き込まれても斬ったり盾になったり土壁出してブロックしたり回復したりできる割と軽装の人たちという事である。……どうも、ご迷惑をおかけしております。はい。
この町、『デイチェモール』は、5つのエリアに分かれている。
1つは、さっきまでいたエリア。町の西エリアであり、町の入り口である。ここは町の入口だけあって、人通りも多ければ露店も多く、正に町の正面玄関、といったかんじのエリアだ。
町の公的機関は大体ここにあるらしい。
『冒険者ギルド』とかもここにあるかもね。
そして、1つは町の中心。四方を水に囲まれた、この町の町長らが住む高級住宅街である。
貴族御用達のお高いお店なんかもここにあるらしい。
このエリアに入る時には、町の入口で行われたものより厳しいチェックがあるらしいけども、行く予定も無いのであんまり関係ないね。
そして残りの3つは、それぞれ南エリア、東エリア、北エリアとなっている。
南エリアは漁港として使われたり、海の向こうにあるという別な町との交易に使われたりしている。つまり港だね。
……というか、海の向こうに別の町があるの?
……あ、学校で言う所のグラウンドとか体育館のエリアだったりするのかな?頭に入れておこう。
そして東エリアは住宅街。生活に必要なものを売る商店街とかもあり、まあ割と明るいエリアである。
問題は北エリア。西エリアとここだけが、陸地とつながる場所であり、北エリアには町の裏口ともいえる『北門』が存在する。侵入も容易い。
つまり……この北エリアが問題の、『後ろ暗い商人が居るエリア』なのである。
はい。そして現在向かう所も北エリアです。
……なんでわざわざそっちに行ってるかって?ギルドを探して登録なりするのが先じゃないのかって?
そりゃ……先立つものが無いからですよ。
うっかり登録料とか要求されたら無一文なのは貴族的におかしいし、かと言って、何の後ろ盾もないハッタリ貴族なので、真っ当な商店で物を売り買いしていいのかちょっと分からないし。
だったらちょっと後ろ暗いところでお金を手に入れてですね、それを元手に貴族の振りした方がいいでしょ、っていうことですよ。はい。
ということで、船を漕ぎ漕ぎ、なんとか北エリアに着きました。
「暗いね」
「暗いな」
いやー、流石に町の裏側、と言った風情。薄暗い。
このエリアだけ妙に他のエリアと離れている理由がよく分かる。
そして行き交う人々もまた、薄暗い。
……中には身なりのいい、如何にも貴族、って感じの人も居たりして、そういう人たちは大抵仮面を付けているね。
そんでもって、大抵、後ろに首輪を付けた人間を従えて荷物持ちとかやらせてるね。
……うん。よし。
「皆さん皆さん、ちょーっと、一旦待避しませんか?」
「ああうん、俺もそう思ってた。……人目のない水上とかでもいいか?」
「総員撤退―」
とりあえず全員船に戻って、来た道を少し戻る。
元々こっちの方に来る人自体が少ないので、人通りも少ない水の上。
人目をはばからずとも、そもそもはばかる人目がないという理想的状態。
「とりあえず俺達も一応『貴族』を名乗る以上、仮面とかが無いとまずいか?」
「あった方がいいかもね。……で、それよりもマリーさんじゃない?」
……皆さんの視線が、苦しい。
「……非常に心苦しいのですが、マリーさん」
社長の苦い声って、なんか、新鮮だね。うん。そんなに気にしなくていいんだよ?
「了解了解、承知承知。首輪ね。はいはい、付けますよ、お気になさらず」
はい、ぱちこん、と。留め具を付ければすぐ付くので楽だね。外すときには鍵で開けるか、『お掃除』するか、前衛組の怪力で引き千切ったりぶった切ったりすればいいという仕様。
鍵を無くしても壊せるという意味での華奢なつくりでもあるのです。
……いや、流石に普通の人だったら絶対に壊せない強度は持ってるけどね?
「で、仮面か」
仮面を買うにはお金が要る、しかしお金が無い、お金を手に入れるためには北エリアで物を売らないといけない、けど北エリアに入るための仮面が無い。
……一見どうしようもないようだけども、実は抜け道があったのですよ。
「俺は兜があるのでいらないかなー。角三君は?」
「俺の兜……顔隠れないや。駄目だった」
そう。鳥海の兜は、フルフェイスなのでした。
角三君は駄目だったけどね、しょうがない。
「じゃあ、行ってきますわー」
「くれぐれも気を付けろよ、とくにマリー」
流石の私。信頼されていないというか、滅茶苦茶弱っちいことを信頼されているというか。
「了解。皆さんは適当に観光でもしててくださいな」
というわけで、鳥海と私だけで北エリアに潜入でございます。
戦力的にはまあ、結構不安ではあるけども、どっからどう見ても屈強な戦士、って感じの全身甲冑フル装備な鳥海からわざわざ私を盗もうとする奇特な奴がそうそう居るとも思えないんだよね。
見た目だけで相当得してるぞ、こいつ。
「舞……じゃない、マリーさん、首大丈夫?」
「大丈夫です。どうぞお気になさらず」
街中なのでローズマリーさんモードに頭と言葉を切り替えて歩く。
リードに繋がれた犬よろしく、華奢な首輪からこれまた華奢な鎖が伸びておりまして、それを鳥海がしっかり持っているので引っ張られると首が引っ張られることになるけども、そこん所をきっちり気遣ってくれる鳥海なので、歩調はゆっくり。
よって首が引っ張られることも無く、普通に歩けているのでした。
「……しかし、視線が刺さるね」
道行く人たちが妙に我々をじろじろ見ていきますなあ。ふむ、落ち着かない。
「トリウミ様は目立つ格好をしてらっしゃいますからね」
多分全身甲冑野郎がガッションガッション歩いてるからだよなあ、これ。
音も音だし、見た目が……こう、この薄暗い街と相まって、こう……うん、不気味!
大体、どう見ても街中の恰好じゃないし、明らかに『使ってる』感のある武器と防具だし……。
「んー、これ、俺はマリーさんの方だと思うなー。なんか、視線が俺からはずれてる感があるけど」
何?ふむ、確かに。私の方に視線がきてる、かも、しれない。
おかしいなー、どう考えても鳥海の甲冑の方が……。
……あああ、も、もしかしてっ!
「……メイド服って、もしかして……珍しいんでしょうか」
『アライブ・グリモワール』さんもメイドの存在を知らなかったし!召使いは存在してもメイドが存在しないなら!しないなら!……メイド服も存在しないよなあ、多分。
「いや、多分そっちじゃない、そっちじゃない」
……あ、もしや、門番の兵士さんが言ってたアレか?
『アンタは中々別嬪だ』という。ふむ。そういえば鳥海はあの会話を『地獄耳』で聞いてたんだっけか。うん、成程ね。
……私自身は、そこまで別嬪でも無い。と、思う。少なくとも、視線を集めるレベルの、では絶対ない。
ならば、要因はこれ……パツキンブルーアイズ、だと思うんだよ。
……けども、結構この世界、金髪の人は多いんだよなあ……。
「この町の美的感覚の基準が分かりません」
「んー、ま、確かになんていうか、割と俺達の基準からは上方にずれてるかんじはするよね。……いや、基準っていうか、反応?」
確かに、私達の感覚だと、滅茶苦茶な美人さんが居たとしても、化け物レベルの美人さんでもない限り、じろじろ見たりはあんまりしない、よなぁ……。
「……ま、異文化って事で?」
ま、そういう事になるよね。
のんびり歩いて数分。
『質屋』という看板を見つけたので(多分これも異世界語で書いてあるんだろうと思うけど、『翻訳』のお蔭で読めてる。なんか変な感覚だなあ。)とりあえずその店に入る。
ドアを押せば、からん、と、案外可愛い鈴の音が鳴る。
「いらっしゃい。……おお、中々イイの持ってんな、騎士様よぉ。それ売ってくれるのか?それなら中古でも金貨70……いや、90枚は弾むぜ?」
が、店主のオッサンの台詞は可愛げの欠片も無いッ!
入っていきなりこれかよ!無論、『それ』は私の事である。
荒んでる!荒んでるぞこの町!
「いや、これは売り物じゃないんだ」
早速鳥海、あわてず騒がず訂正。
「そうなのか?……100枚でも、売らねえか?」
「絶対売らない」
「くそ、そうかよ。……ま、そうだな、そんだけの奴隷ともなると、金だけで買えるもんでもねえしな」
さ、さいでか……。もう私は何も言わん、何も言わんぞ……。
異文化って、怖い……。
「……で、この店に何の用だい?買取だろ?」
「ああ、うん。話が早くて助かる。……これなんだけど、幾らで買う?」
鳥海が背負っていた袋から出したのは私が縫ったドレスである。
アホでかい薔薇の花他数種類で染めた赤系統の、それはもうひらっひらでふりっふりで、私は死んでも着たくない類のドレスである。
「ふむ、見よう。……おお、これはすげえな。……何の布だ?シルク……とも、違うよな……何だこれ?」
キュプラです。
ふむ、この世界にキュプラは無いのかな?
再生繊維の化学技術が無いあたり、この世界、相当に技術が進歩してないと見える。
建物も中世風だったし。
まあ、それを補う『スキル』があるんだから、そうもなっちゃうか。
「さあ。そんなことまで知らない。流石に」
まあ、相手が分からないことならはぐらかした方が利口だもんね。鳥海も知らんぷりをする。
……いや、ふり、っていうか、多分あれ、マジで分かってないな。うん。
「んん、まあそうだよな。……んー、ま、あれだ。これ、発掘品だろ?見たことの無い繊維だし、色も今の技術じゃ出すのが難しい鮮やかさだ。デザインも珍しい」
お、おう?発掘品じゃないよ?メイド・バイ・メイドだよ。
メイドメイドして分かりにくいけど、つまり私が作ったもんだよ?
……というか、この世界の染色技術って、低いんだなあ……。
いや、確かに、スキルで染めると媒染剤無しで、そのまま色鮮やかーに染まっちゃうんだけどさ。
デザインに関しては、北棟東階段から発掘されたドレスを参考に作ったから間違ってはいないね。
しかし、見てすぐ『発掘品』って断定するぐらいだし、街で普通に売ってるドレスのデザインと遺跡のドレスのデザインは大分違う、って事かな。材質と染色、って事なのかもしれないけど。
ふむ、勉強になりますね。
「こりゃ、古代の技術の粋を集めて作られたんだろうな……なのに状態はいい。多分これも『失われた技術』の恩恵受けてんだろ?んー……これ、一体どこから発掘したんだよ?」
「秘密、ってことで」
あくどく光るオッサンの目にもひるまず、冗談めかすように鳥海はさらっと躱して見せた。
うーん、私はこいつのこういう、瞬時に状況を判断する能力とか、それを実行する度胸とか、ポーカーフェイスを貫く精神力とか、尊敬しております。
「……ま、それもそうだな。うん、聞いて教えてもらえるようなもんでもねえし。……ん。よし。これなら銀貨250枚出そう。どうだ?」
お、『アライブ・グリモワール』さんのロングパニエ予想価格を大きく上回る額だ。
うーん、絶対に効果が付かないように気を付けて作って、『鑑定』もして確かめてるのにこの額でいいのか?
……あ、もしかして、この人、『鑑定』とかできない?効果もスキルもなにも付いてない、って事に気付いてない?うん、なんかそんな気がしてきた。
「マリー、どう思う?」
え、あ、私ですか?
「よろしいのではないでしょうか。当面の路銀にはなります」
銀貨250枚=質素な家族2.5か月分の生活費。
仮面7枚位は買えるでしょう、多分。
「よし、売った」
「よし。まいどあり。銀貨250枚だ。確認してくれ。……それにしても、奴隷に意見を聞く、ってのはどうなんだ?」
え、まずかったですか、今の。
……って、そりゃそうか。奴隷に意見聞くご主人様なんているかよっ!
さあ、どう切り抜ける、鳥海!……いざとなったら逃げればいいだけなんだけどね。
とか思ってたんですよ。そしたらですよ。
「あー、うん、こいつはちょっと特別。頭もいいし、頼りになるし。ちょっと訳ありで奴隷なんだけども」
「ふうん、成程な。ま、そんな別嬪さんが只の奴隷ってのもおかしいわな。ま、深くは聞かねえよ。……にしても、頭もいいとなると、訳あり云々は抜きにしても益々欲しいな。金貨200枚でもダメか?」
「絶対だめ!」
こんなやり取りがあったので、まあ、なんかちょっと嬉しかったです、はい。
そっかー、私は頼りになるかー。嘘でも……なんかちょっと、うれしいぞ。
「しかし、騎士様よ、遺跡に潜れる位強いってんなら、十日後の建国祭の剣闘士大会には出るんだろ?」
なにそれこわい。
「……いや、こっちもつい最近この町に着いたばっかりで」
「あ、知らなかったか。いやな、十日後に建国祭があるのは流石に知ってるだろ?で、城下のコロシアムで名うての戦士が集まって、強さを競うんだがな。……今回は優勝賞品が豪華でな。あちこちから人がそれ目的で集まってるもんだから、騎士様もそうかと思ったんだが」
「へえ。……ちなみに、賞品は?」
「お、興味あるのか?ふむ、そうさな。剣闘士大会はモノ・ジ・トリ・ヘキサ・ノナの5つの部に分かれてるんだが、それぞれ賞品がな、例年通りの武具とかもあるんだが、それは副賞品扱いでな。……モノ・トリ・ノナの部では、目玉が、異国の魔法の部屋、なんだとよ」
……はい、詰んだああああああああああ!




