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1話

 メイドとは何ぞや、と聞かれれば、多くの人が『若い女の召使い』『家事とかやる使用人』というようなかんじの返答をくれるんじゃないだろうか。

 私もそう思う。本当にそう思う。

 ……だからこそ、納得がいかん。

 何故『メイド』が『剣士』だの『魔術師』と混ざっているのか、と。

 そして、何故、私は『メイド』なのだ、と!




 さて。

 私は何の変哲もない只の女子高生である。強いて言うならば、多少『変なやつ』ではあったと思う。思うけど、だから何だ、っていう程度なもんだ、多分。

 勉学もそこそこ。運動もそこそこ。容姿もそこそこ。身長は平均ぴったりより数ミリ高め、体重はそれに付随して大体そんなもん。

 大体そんなかんじの……変哲の無い人間なのである。


 私の変哲のなさはさておき、私自体は何の変哲もなかったけれど、残念なことに学校と周りの人間は割と変哲があったらしいね。

 簡潔に言うならば、学校ごと、異世界に吹っ飛んでしまったらしい、と。

 ……そうとしか言えないんだよなぁ、これ。

 らしい、というのは、まだすべての教室や生徒を発見してるわけでもないから。……そう。この学校、はた迷惑なことに、『教室・場所ごとにばらばらに』異世界に吹っ飛んだのである!




 どうしてこうなっちゃったのかは私にも分からない。

 光って、揺れて、気づいたら、クラシカルなメイド服着てぶっ倒れてた!それだけ!

 ここから何をどう分かれって言うんだ!私には無理だ!


 というわけで、私、一応化学部なんていうものに入っていたものだから、学校が吹っ飛んだのが放課後だったもんで、化学実験室にいた。

 さて、これから今日の実験やるかな、と思った途端の発光現象と地震だったからね。

 とりあえず地震なら逃げ道を確保せねば!とおもってドア開けたら廊下じゃなくて森だったって訳ですよ。

 思わず二度見したね!だって森!森ですよ、奥さん!

 慌てて窓の暗幕開けたら、やっぱり外は森。すごく森。めっちゃ森。

 なんとなく、もう一度ドア開けてみたけど、森。

 もう一度窓の外見てみたけど、やっぱり森。

 明らかにカラスでもスズメでも無いかんじの……鳥っていうか、怪鳥、なんていうものがいたらこういう鳴き声だろうな、っていうかんじの鳴き声がですね……外から聞こえてきた訳で……。

 とりあえず、私は、ドアをそっと閉めた。




 そして問題はメイドだメイド!何故に!私は!メイド服なんていう訳の分からないもんを着てるんだ!さっきまで制服の上に白衣着てたじゃないか!

 と思って実験室内を見回したところ、着ていたはずの制服は無かった。何故だ!

 しかし、制服よりも見つかって有難いのがそこに居た。

 部員である。

 他の部員がやっぱりというか、伸びていた。

 伸びてるけど、メイド服とかいうふざけた格好の奴は居ない。

 いや、それでも恰好は割とふざけてたんだけど。


 その時実験室にいたのは私を含めて4人。

 私と、部長の鈴本と、副部長の羽ヶ崎君と、よくいろいろ爆発させる係の柘植。

 それぞれ、ファンタジーっぽい鎧マントとか、魔法使いっぽいローブっぽいのとか、なんだか刺繍とか入って豪華になった白衣みたいのとか。

 そういった物を着てらっしゃいましたがメイド服じゃない。もう一度言おう。メイド服じゃない。

 メイド服じゃない!

 まあメイド服着てたら色々やばかったね。うん、部員って私の他、全員野郎だったもんで。誰が得するんだっていう。





「起きろ!森だ!森だぞ!おら!」

 とりあえず手近だった鈴本をゆさゆさして起こす。

「んあ……あれ……は、おい、舞戸、何だその格好は」

「知るかっ!私が聞きたいわっ!気づいたらメイド服着とったんじゃい!お前だって鎧マントだぞ!まーファンタジックだこと!」

 言ったらやっと気づいたらしく自分の格好見て驚いてやがる。くそう、どうせなら私も鎧マントが良かった。

 あ、そういえば忘れてたけど、私、舞戸と申します。下の名前はいいよね。どうせ誰も呼ばないし。


「で?森って?」

「ドアの外、見て来い。私は羽ヶ崎君と社長起こすから」

 あ、社長っていうのは柘植のあだ名である。『シャチ』だから『シャチョウ』で。

 何故かこのあだ名、しっくりきちゃって定着しちゃったからね。

 今や柘植の事を柘植と呼ぶ人なんて殆ど居ないのだよ。

 先生方ですら、社長って呼ぶからね。しばしば、「社長、宿題出せよー」とか、中々不思議な台詞が飛び交ったりする。


 さてさて。とりあえず残り二人も叩き起こして、現在地が『THE・森』ってなことを認識した後、真っ先に気になったのは残りの部員の安否だ。

 化学部には私を含めて9人の部員がいる。ここに4人しかいない以上、残り5人の行方はすごく気になる。

 多分、残りの部員は情報室あたりで調べ物してたか、廊下歩いてたか、トイレにでもいたんだろうと思うけれど。

 問題は、その5人もこの『THE・森』にいるのか、はたまた吹っ飛ばされたのは私達のいるこの『化学実験室』だけなのか。

 色々気にはなるけれど、気にしていても情報が増えない以上判断ができない。

 というかそれ以前に、部活動中だった我々、そろそろお腹が減って参りました。そして化学実験室にある食料なんて、たかが知れているのであります。




 ということで、情報と食料の調達の為に、『THE・森』を探索に行くことになりました。

 ……私以外がな!


 説明しよう。何故私が置いて行かれたのか。


 1、ロングスカートのメイド服なんて着てたらいざという時動けない

 2、かといって、メイド服の下が即下着なので、それを脱ぐなんてとんでもない!

 3、大体お前は女である以上運動能力が低いんだから自重しなさい


 といったところである。あ、ちなみに私、こういうのを男女差別だとか思わない。

 私が女である以上、女性ホルモンのエストロゲンが筋肉増強を阻害してくれやがるので、どうしたって身体能力は男性に劣る。

 私も体のバネを使った瞬間的な加速には自信があるけど、如何せん持久力とか最高速度とか、そもそもの筋力とかがどーしても、劣るのだ。

 あのひょろっひょろのモヤシの如き羽ヶ崎君ですら、運動能力は私に勝るのだ。腕相撲やったら私が負けるのだ。指相撲ではリーチで負ける。解せぬ。

 まあ、あれだ。『男は外、女は家』っていうのは、生物学的には正しいのだよ。うん。


 それに、何があるか分からない以上、足手まといはいない方がいい。

 ……鈴本が『鎧』なんて着ているのだ。さっきの良く分からない獣の鳴き声みたいな奴を考えても、外が安全とは言い難い。

 よって、私はお留守番係になることになりました。


 出発前に、少しでも武器になる物を持っていこうという話になった。

 此処が化学実験室である以上、薬品の類は良く揃っているけれど、偵察レベルなのだから温存しようという、という事になった。

 これから何があるか分からないからね。


 という事で、掃除ボックスを開けたのだ。

 掃除ボックスには柄の長い箒が数本入っていたはずだから、箒の頭を留めているボルトを外してしまえば只の長い棒になる。ちょっと投げたり殴ったりする分にはいいだろう。

 ……と、思ったのだよ。

 思ったんだけどさ。

 なんと、掃除ボックスには、箒が無かった!

 代わりに、ドッグタグみたいなペンダントが4つ。そして、それはそれは攻撃力の高そうな……一振りの細身の剣と、二振りの杖と……攻撃力の欠片も無さそうな、一本のハタキが入っておりました。


「これ、何だろうな」

 とりあえずドッグタグに注目する鈴本。君は優しい。君がハタキから目を逸らしたのを私は見たぞ。

 ドッグタグは4㎝×7.5㎝位の板が2枚、鎖に繋がってる。色は鉄色。なんだけど、鉄っぽいかんじがあんまりしないんだよね。冷たくない。金属っぽくない、というか。

 何でできてるんだろ。材質が気になるね。

「名前、書いてあるな。これが俺、羽ヶ崎君、社長、舞戸も。ほら」

 それぞれのドッグタグにはそれぞれの名前が書いてあった。そして、名前以外も。

 名前、性別、血液型。そして『職業』。下半分は何故か空欄。裏面も空欄。2枚目も空欄。なんだこれは。

「……俺は職業が『剣士』らしいな」

「僕『魔術師』」

「俺は『学者』ですね。……舞戸さんはどうですか?」

 ふむ。私は何かな。……想像はついてるけどね!

「……『職業:メイド』」

 皆さんの視線が痛い。お願いだから申し訳なさそうにしないでくれ。かえって心にくる……。


 さて、残りは武器である。

「剣は……俺でいいよな」

 ここで そうび していくかい? てなもんで、鈴本は早速剣を装備した。

 若干気まずそうだけど、いいよ、私は気にしないよ。

「杖は僕と社長でいいよね?」

「俺は別に構いませんよ」

 羽ヶ崎君が水色の石が付いた杖を、社長が琥珀色の石が付いた杖をそれぞれやっぱり気まずげに装備した。

「で、私はこれか、チクショウめーッ!」

 そして私はハタキを装備した。多分ひのきのぼうよりも攻撃力低いんじゃないかな。驚異の攻撃力0(推定)だぜ。

 分かりきってたけどね!なんだよメイドって!

 剣士とか魔術師に混ざってなんでメイドがいるんだよ!納得できねえーっ!


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