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35話

 朝です。

 今日は現地住民と接触する可能性がある日です。

 気合入れていきましょう。

 という事で気合入れて朝ごはんの準備です。

 ご飯に味噌汁に野菜の煮物です。いやー、こういうもの作ってると、味噌とか醤油が使えるというありがたみがよく分かるよね。


 皆さんも気合入ってるらしく、いつもより早く起きてきた。

 一番乗りは珍しく角三君。時刻は5:37!

 ……だんだん早起きに切り替わってきている皆さんを見ると、これ、私がもっと早起きしないといけなくなる日が割と近い気がする。

「おはよう」

「あ、おはよ……あのさ、俺、今気づいちゃったんだけど……」

 ハタキではたかれながら角三君、何やらお困りの様子。

「……現地住民に会うとき、ケトラミ、どうすんの?」

「……あー……」


 か、考えてなかった。


 という訳で、ケトラミさんに聞いてみる。

「ねーねー、ケトラミは現地住民と交友関係にあったりとかするかい?」

『するわけねえだろ、むしろ敵対関係だ』

 それ、大問題じゃないのかね!?そんなに誇らしげに言う事じゃないんじゃないかね!?

「ケトラミ現地住民に攻撃されるの!?」

『だろうな。ま、どっちかっつーと俺が一方的に人間虐殺する側だけどよ。大抵の魔法は効かねえし、そこら辺の鈍刃が通る毛皮してねえし』

 お、おおう。そうかね、そうかね。

 確かに、下手すると……いや、しなくても、我々の中で、単騎で一番強いのは角三君じゃなくて、ケトラミさんなのか。

 ……うん。なんてったって、ケトラミさんだからな。

 普段無益な殺生しないから霞んでるけど、どうも本気になったらここら一帯の生物狩りつくせるらしいしなあ。

「しっかし、だとすると君、どうすればいいかな。あんまり私達から離れられるのも困るんだよね。ほら、下手に現地住民と軋轢増えても嫌だし、はぐれ生徒とエンカウントすると厄介そうだし」

 もしうっかり、生徒とエンカウントして、生徒にケトラミが殺されないとも限らないし、逆もまた然り。

 ケトラミは何かと面倒な立ち位置なのだ。

『あー……それについてだがよ、あんまり気乗りしねえが、ほら、なんつうの、お前のご主人様の眷属の振りしてやってもいいぜ』

「うん……うん!?」

 え、ええ、ケトラミさんが!?ケトラミさんが!?……なんか意外だ。

『それなら俺が街に入ろうが、城門の外で待ってようが問題ないだろ?世話係としてお前が付いててもおかしくない』

「お、おう」

『なんなら、ほら、なんだ。……お前が付ける予定らしいじゃねえか、首の』

「できれば付けない予定でいたいんだけどなあ、うん。首輪ね」

『あれ付けてやってもいいぜ。どうせ一振りでぶっ壊せるしな』

 ええええええ、ケトラミさんが!?一匹狼っぽいかんじの、プライドの高そうな、ケトラミさんが!?

「ま、まじでか」

『なんだよ文句あんのか』

 ケトラミさん、毛を逆立てるけども、それ、照れ隠しだって私には分かってるぞ。このツンデレさんめ!

「文句ないっす!……ええっと、じゃあ、その方向で行こう。よろしくね」

『おう、よろしくされてやるよ、しょうがねーなあ』

 いつの間にか、ツンデレ狼のデレ率が上がっていることを発見した朝でした。


「あとはハントルか」

『んー?僕は舞戸の首にくっついてるからいいの』

 私としてもハントルの肌触りは好きだからそうしてもらいたいんだけどね。

「その首に色々付く可能性があるのよね」

 首輪とかね。

 というか、武装すると『魔声』のチョーカー付くから、ますます首周りが混みあうんだよね。

『えー、じゃあ、脚にくっついてるからいいの。スカートに隠れるでしょ?』

「残念ながら脚に色々仕込む予定なんだよねえ……」

 その為にメイド服も改造します。皆さんが遺跡に潜ってる間の待ち時間に終わる予定。

『えー、じゃあポッケに入ってるからいいの』

「悪いけど、ポケットには物入れちゃいけないのよ。穴が空く予定だから」

 はい、例のメイド服の改造ですが、メイド服のスカート部分のポケットの奥に穴を空けまして、そこから太腿らへんに仕込んだ包丁とかハタキとか、取れるようにしておこうと思うのです。少しでも戦力を、と思ってだね。

 一応エプロンの方にもポケットはあるんだけども、そっちにハントルが入ると、なんか入ってるのがバレバレなのよね。

 ……とか思ってたんですが。

『舞戸は僕連れてくの嫌?』

 とかいう可愛い事を言いながら、ハントルがつぶらな瞳でこっちをじーっと見つめてくるのです。

 うう、可愛い。可愛いんだけど、さあ。

「何かあった時の事考えるとね、ちょっと怖いかな。ハントルはまだちっちゃいし」

 如何せん、こいつまだ子供なのだ。何かあったらケトラミは兎も角、ハントルは逃げ足が遅い。もし私にくっついていて、振り落とされでもしたら、一巻の終わりなのである。

『僕だって舞戸守るくらいできるよ!』

「いやね、単純にハントル自身の安否がさあ」

『見てて!『しゃどうえっじ』!』

 どうやら子ども扱いがお嫌いな様子のハントルは、言うや否や、黒いナイフのようなものを三つ程空中に浮かべて、飛ばしてみせた。とんだナイフみたいなのは、側にあった木に深々と突き刺さってから消える。

 ……この黒いナイフみたいなのには見覚えがある。確か針生がこのスキル使ってたはずだ。

 ただし、針生が使ったときはもうちっとナイフがでかかったし、一度に5つ位出てたけど。

 けど、攻撃魔法を一切(コンロの強火とかは攻撃魔法とは言えないのでノーカン)使えない私としては、ありがたいかもしれない。

 ハントルのサイズは小さいし、魔法を発射する自立思考型の道具、と捉えれば……連れてくメリットは十分にあるか。うん。

『ね?僕も役に立ちそうでしょ?』

 ね?ね?と、ハントルは小首を傾げながらにょろにょろと縋るように腕にくっついてくる。

「うん、そうねー……うん。分かった。ハントル入れられるような所、考えてみる。もし無さそうだったらケトラミに埋もれて隠れててもらう事になるかな」

『うん!やったー』

 はしゃぐハントルをケトラミさんに預けて、一体と一匹は朝ごはんに出かけました。

 ……うん。よし。メイド服の改造図を頭の中で作りながら、私たちも朝ごはんにしますかね。




 そして遂に出発の時がやって参りました!

 目指すは2F南の東側階段になっているであろう遺跡です!

 皆さんが遺跡に入っている間、私は誰かの視覚を『共有』しておく。そんで、遺跡を抜けて1Fに着いたら、私はケトラミとハントルを連れて『転移』して合流。

 遺跡の中を通れないケトラミさんもこれで1Fに行けるという訳です。

 遺跡までの移動は一昨日と同じく、ケトラミに乗った針生との視界を『共有』して以下略。


 ということで、いざ出発、ってなっても、残念なことに出発した感が出ない。

 見えているものはひたすらに速いスピードで流れていく外の景色なんだけど、自分は室内に居るので全然出発した感が無い。

 多分、私と針生以外の皆さんはもっと出発した感が無いと思う。




 と、多少間抜けな感じになりながらも、やっぱりというか、2F北の東側階段……私たちが前使った遺跡と同じ感じの遺跡が見えた所でケトラミさんが停止した。

 それを見て、部屋を片付けて『転移』。

 MPをごっそり持っていかれるのが難点だけども、まあ何とか、遺跡前のケトラミさんと針生に合流。

 いやはや、速いですなー。

 しかも体力も針生以外あんまり使わなくて済むという。

 この後遺跡探索にも連れていかれる針生は可哀相だけど、ケトラミさんなんかはこの後私と待機だしなあ。私のMPの価値はたかが知れてるので、やっぱりというか、時間対リスクのパフォーマンスが滅茶苦茶いいです、この移動法。




「じゃあ行ってくる。ちゃんと『共有』した?」

「ああうん、今私が見えてるよ……。上から」

 自分のつむじが見えるって変なかんじだね。

「ああ、お前、背低いもんね」

「私は平均値だよ!この野郎!殴るぞ!」

 はい、現在羽ヶ崎君と視覚を『共有』中です。

 針生にしなかった理由は、酔いたくないから。

 ……前回のVS根っこの時はまあ、短時間だったしそんなに酷くなかったんだけど、今回は数時間に及ぶ遺跡探索。

 アサシンなんかの視覚使ってたら、3D酔いするわ!

 という事で、後衛の視覚を間借りさせてもらう事にしたのです。

「じゃあ、待機頑張って」

「そっちも探索頑張ってねー」

 私の眼には手を振る私が見えるわけですが、まあ、そこの意識をうまーくこう、調整していくと……よし、できた。

 遺跡に入っていく皆さんと、手を振る私が両方見える。

 ただし、情報量が増えすぎて変な感じであるが。

 そのまま羽ヶ崎君の視覚の方を絞っていくと、上手い事、向こうの様子を見ながら、こっちは作業していられるようなかんじになった。あれだ、作業しながらテレビ見てるかんじ。

 ということで、私は早速メイド服の改造に勤しみます。

 ふっふっふ、ついでに刺繍とかもしてガンガン装備を充実させてくれるわ!




 皆さんが遺跡の中を探索しているのを見つつ、こっちはこっちで針を動かし、メイド服の改造が終わりました。

 まず、ポケット。スカートのポケットとロングパニエに上手い事穴を空けて、そこからスカートの中に手を突っ込めるようにしました。

 で、太腿にバンドとガーターで鞘ごと包丁を固定。左右に一本ずつですな。これをポケットに手を突っ込んで取り出せるようにしたわけです。

 ガーターは遺跡から発掘されたものです。これも守備力上がる装備の一つだね。

 ……なんというか、意図せずして私の下着事情がどんどんせくしー路線になってる気がする……。

 他に、右の太腿にはハタキ、左の太腿には毒の入った試験管もそれぞれセット。

 更に更に、それらを取り出すのに邪魔にならない位置に、メイドさん人形を4体セット。

 これはけっこうしっかりロングパニエの内側にシートベルトよろしく固定してあるわけですが、こいつらは自立思考させれば勝手に抜け出して出てくるので問題なし。

 そして問題のハントルの隠れる場所ですが、パフスリーブの内側になりました。

 エプロンの肩紐のフリルで隠れる位置にスリットを入れて、そこから出入りできるようにした。

 というか、そこからなら顔を出しててもそんなに目立たないのです。エプロンの肩紐のフリルに隠れるっていうのもあるし、ハントルが黒いからメイド服のワンピースに溶け込むっていうのもある。


 そして刺繍である。

 ロングパニエの裾には既に月桂樹の糸で刺繍がしてあったけども、そこに更に空色の百合の糸と、薄紅色の蒲公英の糸で花の刺繍を足す。

『染色』に関しては色んな染料混ぜて使うと付与効果が無くなるんだけども、刺繍に関してはそういう縛りがあんまりなさげです。

 少なくとも5種類の糸までは効果が無くならず増えていくことをとりあえず確認済み。

 これでロングパニエの効果は『最大MP増加』『最大MP1.5倍』『移動系魔法消費MP減少』『操作系魔法消費MP減少』という長ったらしいものに。

 まあ、つまり、『転移』と『人形操作』がしやすくなった、っぽいのですよ。はい。


 他にもエプロンにも空色の百合の糸でちょろっと目立たないように刺繍を足して『防御力上昇』の他に『落下ダメージ軽減』なる効果を付けたり、メイド服自体に灰と炭で染めた糸で、やはり目立たないように刺繍を入れて『家事系スキル効果上昇』なる変な効果を付けたりした。

 ロングパニエは隠れるから結構派手に刺繍入れたけども、他はできる限り目立たないような刺繍の入れ方をしました。

 手札はなるたけ明かさないに限る。




 とかやってたら、ふと思い出したのです。

 私、ケトラミさんの首に付けてるリボンに刺繍入れたよね?と。

 ……あの時何故スキルにならなかったし。

 ケトラミさんのおリボン見て、なんとなーく、その理由が分かったような。

 あれだ。出来が悪い。

 ケトラミさんには申し訳ないが、結構出来が悪いぞ、この刺繍。

 そうかー、ケトラミさんのおリボンの後も色々作って、レベルアップしたから『刺繍』スキルになった、ってことなんだろうか。

 ……だとしたら、この『刺繍』って、誰にでもできるって訳じゃなさそうだね。少なくとも、少し裁縫やった位じゃ、入手できなさそうだ。

 ちょっと申し訳なくなったので、ケトラミさんのおリボンを作り直した。

 ごく薄い緑の葉っぱみたいので染色したリボンに空色の百合の糸で刺繍を入れた。

 これで付いた効果は『俊足』。……あれ、1つだけ?まいっか。

 ケトラミさんのリボン作り直したらハントルもおリボンを欲しがったので、漆黒の菊で染めた布に同じ色の糸で刺繍した細くて小さいおリボンを結んであげた。

 効果は『闇属性魔法効果上昇』である。これで『シャドウエッジ』をバンバン使ってください。




 さて、そうこうしている間に羽ヶ崎君視線では大分遺跡探索が進み、ついによく分からん渦みたいなものを発見。

 そこに飛び込むと視界が歪み、歪み切ってからまた戻り、戻った時にはどこかの海辺になってました。

 おー、綺麗。

 そして、羽ヶ崎君視点の方で、羽ヶ崎君の目の前で針生が手を振って口パク(に見えるんだよ、音声は『共有』してないから)で「こっちおいでー」みたいな事を言っているのが見えた。

 ので、ケトラミさんとハントルを連れて『転移』。

「あ、舞戸さん来たよー」

「やっほーさっきぶりー」

 いい加減疲れるので『共有』を切断。ふいー。家に帰って制服脱いで部屋着に着替えたような感覚でございます。

「よし、舞戸も揃った事だし、休憩したら出発する。あれが多分、王城だろうから」

 私たちの居る海辺から、遠くに小さくどこぞの修道院の如く、海の上に立つでっかい建物が見えた。

「今日の所はあっちだな」

 そしてその反対方向、こっちは割と近くに、海の上の町が見えた。

 ……まさかの海上都市か!


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― 新着の感想 ―
[良い点] はて、書籍で絵になるのかな? [気になる点] 鏡か水鏡が無いと変装魔法が……包丁?
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