34話
そうなのである。
勿論、1Fには生徒が絶対居たと思う。
南棟の1Fは職員室だの校長室だのだから、生徒が多くいた訳では無いけど、保健室には赤十字クラブが活動していたはずだし、放送室には放送部が居たはずだ。
北棟には家庭科調理室や美術室があったから、家庭科部と美術部、あと写真部とかもいたんじゃないだろうか。
更に更に、1Fって地上なわけだから、体育館や部室棟1Fも1Fなわけで。
更に更に更に、グラウンドも1F扱いだとしたら、それはもう、生徒の数って計り知れないよね。
……で、その中に、一体何人のメイドがいたのか。
今の所、私は私以外にメイドが居るのを見たことが無い。
聞いたことも無い。
私以外全員戦闘職でも最早驚かないぞ、私は。
そして、メイドが居たりして、上下関係がはっきりしてればいいんだけども、そうじゃない場合、生徒全員が同列扱いだった場合。
……彼彼女らは、奴隷にされてる恐れもあったりするのだ。特に女子。
そして、その数限りない奴隷になってるかもしれない生徒を逐一助けられるかっていうと……現実的に考えて、ひっじょーに厳しい気がする。
私達には決定的に金が無い。伝手もコネも、権力も無い。
そんな私たちが奴隷解放運動とか、できるわけが無いのである。
最悪の場合、私たちも奴隷END。その場合はスキル使って普通に下剋上できそうな気もしなくもないけど、多勢に無勢になったりしたら目も当てられないしなあ。
という事で、そこら辺を踏まえた上で、私たちはそういう、奴隷身分にされている同級生や後輩や先輩を見つけちゃった時に、どういった行動をとるべきか、っていうのを考えておく必要があるのだ。
行き当たりばったりは危険すぎるからなあ。
「俺としては、できる限り助けたいとも思う。只、それでこっちが危なくなってたらキリがない。だから、あんまり権力とか利権とかに首突っ込んで色々なことはできないと思う」
「そうですね、俺達としては、手の届く範囲で、助けられれば助ける、位の気でいた方がいいと思います」
手の届く範囲、ってのが、どれくらいかっていうのは……まあ、あれだ、私たちが今後どれぐらい先立つもの……お金を手に入れられるか、とか、どのぐらいの地位を得られるか、とか、そういう事になってくるのかな?
「という事は金が要るのか……。まだ奴隷身分になってる生徒がいると決まったわけじゃないが、用意しておくに越したことはないだろう。多分、今一番金になるのは
「私じゃね?」
……え、何皆さんコッチミンナのAAみたいな顔してるんですか。
いや、私でしょ?どう考えても。奴隷ってそんなに安いものじゃないと思うし。
「あのな!僕たちさあ!お前が奴隷にされたりしないようにこういう首輪とかいう訳分かんないテンションの物まで作ってんの!お前それ分かってんの!?」
しかも面白い顔されただけにとどまらず、羽ヶ崎君に滅茶苦茶怒られた。解せぬ。
「いや、だってさ。一度私売って私だけ『転移』で逃げて、売って、逃げて、って繰り返せば無限にお金が稼げるよね?」
ほら、よくあるじゃない、某不思議のダンジョンで店番の目を盗んで泥棒する時にさ、自分の持ち物全部売ってからまとめて全部盗んで逃げる、みたいな……。ああいうノリでさ、どうよ。
……あれ、またコッチミンナのAAみたいな顔されてしまった。
「盲点だったわー」
「そっかあ、舞戸さん、逃げられるんだったねえ……」
さいでか。
「これが一番速いと思います!どうよ!」
「そうだとしても、何故お前はそうやって危ない橋を渡ろうとする……。『転移』するにしても、装備没収されたらその時点でアウトだろうが」
あ、そういえばそうだね。
『転移』はバレッタに依存したスキルだから、コレ無いと発動できないのよね。
「とにかく、舞戸を売るとかいうのは絶対にナシだ。仮に行うとしても、本当にどうしようもなくなった時に、厳重な警戒を敷いて行うものだな。そんな事態が起きないことを祈るばかりだが。少なくとも、売って逃げて売って逃げてみたいに繰り返して行うものじゃないだろ、どう考えても」
そっかー、いい案だと思ったんだがなあ。
「……何の話してたんだっけ……」
「金策でしょ」
「ああ、そうだ、金策についてだったな。そう、金策だが……今一番現実的なのは、舞戸が作った服を売るか、加鳥と鳥海が金属加工で作った物を売るか、あとは……社長の毒薬はちょっと売るのが躊躇われるよな。あ、刈谷の石材加工は大丈夫か。……えーと、他に何かあるか?」
「はいはーい。私とケトラミとハントルをだな、こう見世物小屋的に」
「却下」
手厳しい。
「他にまともな案考えた人は」
「はい。いっそどっかに就職したらどうなの?僕たちスキル使えるわけだし」
「んー、それやっちゃうと、利権とかしがらみに絡まりそうだよね、俺ら」
審議の結果、就職は無しになりました。
メリットよりもデメリットの方が多い。
何せ、私たちは短期決戦を仕掛けたいのだ。さっさと元の世界に戻るに限る。別にこの世界に永住したいわけでもないんだしさあ。
「魔物討伐とかは?」
「あー、ありそう」
「それで稼げる額にもよるけど、それが一番いいかもね」
確かに、この世界大分ファンタジックだし、冒険者ギルドとかあってもおかしくは無いよね。
「じゃあその間私はもの作って売ってればいいのかな?」
「いや、お前は俺達から離れるな。盗まれる」
お、おう。そうでした。
んー、となると、益々めんどくさいなあ、色々。
私は戦力にならない上に、ほっとくとそれはそれで問題になるのだ。
ホントに厄介ですみません。
「じゃあ、奴隷身分になってる生徒がいたら、手が届く範囲で助ける。無理はしない。金策については、基本的には魔物討伐とかがあればそれ。効率が悪かったり、そもそもそんなものが存在しなかったりしたら、もの作って売ろう。それから、舞戸は絶対に俺達から離れるな。……っていうことで、いいか?」
反対意見も無かったので、とりあえず今後の方針はこんな感じになった。
……よし、今から売るもの用意しとかないとなあ。
さて、午後の残った時間は英語のお勉強(『翻訳』スキルの入手ですよ)をさっさと終わらせて、晩御飯の仕込みをしつつ、縫い物に勤しむ。
あんまり性能がいいと現地住民の手に渡った後で私たちと敵対する何かに渡っちゃったりして厄介ごとになりそうなので、染色はそこら辺の草でやってみた。
やってみた、んですが。
……何故か、そこら辺の『鑑定』したら『雑草』って出る感じの、そういう草を使ったにもかかわらず。
効果が付きました。『土耐性(弱)』だそうです。
……あっれ、おかしいな。もしかして、もしかして……私は、今まで『染色』の認識を誤っていたのかもしれない。
それ単体で効果のある草……ミントとか月桂樹とか、そういうのしか、『染色』で効果を発揮しないと……そう、勝手に思い込んでいたのだ。
しかし、しかししかし、『染色』は……どうも、そんなもんは関係なしに、色々効果が付く、っていう、そういうものらしかったのです。
試しにそこらへんに生えてたよく分からん空色の百合みたいな奴とか、私の顔ぐらいのサイズがある薔薇の花とかでも『染色』してみたら、えらいことになった。
それはまー、きれーな空色とか薔薇色に染まった上、付いた効果が『飛翔』と『誘惑』。
……スキル、付いちゃったよ。おい。
尤も、これらのスキルは割とヘボい事がさっさと判明したけども。
空色の百合から得られた『飛翔』は鈴本だの針生だのみたいに空気蹴って飛ぶみたいなことは到底できず、精々高い所から落ちた時に某飛空石よろしく速度を落として落下できるかなあ、みたいな感じだし、『誘惑』に至っては、明確な効果が確認できなかった。
……刺繍とかしたらどうなるか、わからんけどもね?
けど、何にせよ、これらを売る、ってのは……ちょっと、危険だよなあ。
あくまで、スキルの恩恵は私たち異世界人の切り札にしておきたい。
こっちが持ってる最大のカードと同じものを向こうが持ってたら端から勝負にならない。
ということで、『効果が無い染色剤探し』という、実に不毛な実験を繰り返す羽目になった結果。
なんか、3つ4つ染料を混ぜたら、効果が相殺し合うのか、完璧にに消えるという事が判明した。
よーし、これで向こう側に渡っても安全な製品を作れますよ。
……って所で、まあ、晩御飯の支度する時間になっちゃいました。
なので、大量の染料の確保の為、メイドさん人形5体に籠を持たせて、外に放しておいた。自立思考して、勝手に花や木や草を取ってきてくれるので、実はさっきからずっとやってました。というか、そうでもしないと染料の実験とかやってられないからね。
晩御飯の支度もできた所で、メイドさん人形を回収。
そのころには実験室の隅の方に草花が山になってました。あとは適当に暇そうな鈴本とか羽ヶ崎君あたりを動員して木材をまた取ってきてもらって、それで布作って染めてなんか縫おう。そうしよう。
ということで晩御飯です。
今日は鹿肉です。さっきふらっと出ていった角三君が担いで帰ってきた。
続けて食べてたから熊肉飽きたらしい。
ここら辺の鹿は角がそれはそれは綺麗な、明るい琥珀色の角なのです。加工したら宝石みたいになりそうよね。ただしこの鹿、蹄がスパイク。蹴られたら痛い。
という事で、メニューは白飯とサラダと鹿肉をコトコト煮込んだシチューでございます。
ブラウンソースとトマトベースのブラウンシチューですな。つか、ホワイトシチュー作るためには決定的に乳製品足りないのよね。
……ほんと、どこかに乳牛落ちてないかなあ。
ご飯後は問答無用で生産系のスキルを持っていない連中を動員して木材を集めてきてもらい、それをひたすら繊維にする。
メイドさん人形たちを総動員してできた端から繊維を紡績してもらい、(なんと、針生と加鳥に紡績機をちゃちゃっと作ってもらえました!ちゃんとメイドさん人形サイズです。やったね!)全ての木材を繊維にしたら、できた糸からガンガン織っていく。
折角なので朱子織のキュプラという実用性皆無なものを作ってみたり。ほら、下手に丈夫に作ると防御力が上がっちゃうんだもん。
そして、丁度メイドさん人形達が紡績し終わった頃に私の機織りの方も大体終わるので、染色に入る。
ここで気を付けるのは、絶対に4種類以上の染料が混ざるようにする事。
さもないと無駄に性能のいいものを現地住民市場に流すことになり、危険です。
只、無計画に混ぜていくと全部灰色っぽく濁った色になってしまうので、大体の色分けをして、似た色の染料を混ぜることにした。こうすればそんなに酷い色にはならない。
仕分けはメイドさん人形たちに任せて、私はひたすらMPを回復しつつ、『染色』スキルでガンガン布に色を付けていく。
出来上がる布は綺麗な色ばかりで、なんとも楽しい作業でありますなあ。ただし、MPを回復しながらとはいえ、凄いスピードでスキルを連発している事に変わりは無く、だんだん頭が朦朧としてくるのが難点です。
あれだ。MPのインターバル走をしているかのようなかんじだ……。
実験室の隅にあった草花の山が消え、代わりに色とりどりの布の山ができた所で、今日は就寝。もう無理。もうMP消費することしたくない。
いつもの如くケトラミさんとハントルを『お掃除』してから、ケトラミさんのお腹に埋まり、ハントルを首に巻くパラダイスで就寝。
しっかし、明日からは気を抜けない日々になりますなあ。
がんばろ。




