31話
さて、『アライブ・グリモワール』との交渉が始まりましたよ。
「で、いいんだよね?」
『承知しかねる』
「でもいいってさっき言ったじゃない」
『そのような条件は提示していない』
「契約はもらえる物に含まれるって言ったでしょうがアンタ。ね、くれる物を増やす権利は契約という知的なものだからもらえるんだよね?」
『しかしそれは間接的に最初の条件を破っていることになり認められない』
「最初の条件って『お一人様三点まで』でしょうが。一点一点がセット商品じゃいけないなんてどこにも書いてなかったぞ」
『常識的に考えて』
「常識なんてものは立場によって幾らでも変容し得る以上常識的に考えるなんていうことは広義では全く意味を成さない!そもそも契約に常識もクソもあってたまるか!」
『良識の範囲内で』
「良識も常識と同じだボケ!むしろ悪化してるね!」
『モラルが』
「くそくらえだ!」
……というような、非常にどうでもいい感じのやり取りを延々と繰り広げた結果。
『もう勘弁してくれ……』
よれよれ、っとした文字がページの端っこに出てきた。
「よしきた示談に応じよう。10:0でお前が悪いってことでいいな?」
勝った。
「じゃあ、くれる物は全部で7つ」
『是』
「ただし、『知的活動において利用される・知的活動によって利用されるもの』でありながら、お前が私に渡せないものを私が希望した場合、それはノーカンで、かつ、くれるものが一つ増える」
『是』
「私は『くれる物を増やす権利』、またはそれに準ずるものを希望しない」
『是』
「同じものは希望しない」
『是』
「くれる物は私にしか渡せないけど、私がそれを誰かに渡すのは自由」
『渡せるものならそれも可能であろうな』
「以上でいいね?」
『もうそれでよい……』
よし、こんなかんじにかなり有利に条件を取り付けました。
一見平等に見えるけど、多分かなりひどいんじゃないかな。
だってさ、私、絶対に『ノーカン』扱いになるもの、1つ既に知ってるのだ。
よし。じゃあ所望していこうじゃないの。
しかしさっき提示したルールから行くと、どう考えても『向こうが分からなかったり、私に渡せなかったりしそうで、かつ、本当に私に渡せちゃっても損にならないもの』を希望していくのが良さそうだ。つまり、ノーカン狙いで、かつ、ノーカン狙いが外れても損しない、っていうぎりぎりのライン。
……よし、でもまずは、そんなことは関係なしに聞かなきゃいけないことがある。
「私たちが元居た世界に帰る方法を教えて」
『汝らが世界の欠片を集め、元在る形へと成せ。さすれば道は開かれん』
あ、この本急に喋り方(というか、書いてあるわけだから文、なんだけども)堅苦しくしやがった。おかげで分かりにくいな、色々と。
しかし、世界の欠片、って、何よ?
……けども、ここで質問一つ使っちゃうのは勿体なさすぎる。余裕があったら聞こう。
じゃあ、次だ。
「この世界の『スキル』を習得できる条件について、詳しく説明して」
『スキルとはそのものを映す鏡なり。相応しきスキルは元よりそのものの中に在り。ものの姿が変われば得られるスキルもまた変わる。特に、人は変わることのできるものなれば』
……えええっと?つまり?必要な条件かつ適正があれば手に入る、っていうのは、元々あるスキルが見つかってるだけで、繰り返しまくってると手に入るスキル、っていうのは、私たちが変わることで手に入ってる、ってことなのか。
ああ、じゃあ、多分……同じスキルでも繰り返しても手に入らない人も、大して繰り返さなくても手に入る人も、いる、ってことなんだろう。
うん、納得。
よし、次。三つ目。
「じゃあ、職業について詳しく説明して」
『職業もまたスキルと同じ、そのものを映す鏡。ただし、職業はそのものの往く道を映す鏡なり。道から外れることは許されぬ。その者が分かれ道に出会い、そのうちの一つを選んだ時、そのものの往く道もまた変わる。案ずるなかれ、道が一筋しか見えぬという事は、汝の、汝の道への想いの強さの証明である故に』
わっかりにくいんだよ!本のくせに!
多分これは、あれだ。結局はその人の適性、って事なんだ。
これも『分かれ道』になることはあるけども、スキルみたいにすぐ変えられるものじゃないんだろう。
で、最後のは……元気づけてくれたんだろうか。私が他の人みたいに職業が変わらない事に対して。
いいや、次々。
四つ目だ。……そろそろいいかしらん。
「ギャルのパンティの仔細な情報を求む」
『卑怯な!』
「分からないなら私にあげられないね、じゃあノーカンね。で、くれるもの一つ増やしてね」
ということで満を持して四つ目テイク2。
「この世界に元からいる人達はどこにいる?」
あえて人たちの存在自体を聞かないのがポイント。いなかったらノーカンでもらえる物が増えるし、いたら質問数の節約になる。
『下層世界に。特に下層世界の中心、湖の中心にて栄える』
下層……うーんと、1F、ってことか。ふーん。これから行くところだ。
じゃあ次。
「この世界の常識と、私たちの常識で決定的にマズい齟齬ってある?」
『汝らの常識が分からぬ故、答えかねる』
「よっしゃノーカンで+1ね。じゃあ、この世界の身分制度について私たちの区分も含めて詳しく」
『王は神に従い、貴族は王に従い、市民は貴族に従う。奴隷は王に、貴族に、民に従い、神に抗う者。汝らは異界の者。身分を定められるならば、汝が召使いである故に、汝の仕える者らは市民、若しくは貴族として扱われるであろう』
奴隷制度があるのね。これが知りたかったんだなー。うっかり奴隷にされるとやばいしね。
私たちは……うん。大丈夫そうだね。私がメイドでいれば、少なくとも私を従える皆さんは市民以上、って事になる訳だ。よしよし。
では次に行きましょう。
「この世界のお金について、通貨単位とか物価とか、私の今履いてるロングパニエを基準にお願いします」
『ロングパニエ……?とな?……ううむ……』
あ、困ってら困ってら。よしよし、ノーカンにしてしまえ。
『……よし。この世界の通貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、魔鋼貨、宝玉貨の7種類なり。それぞれ十枚で一つ上の貨幣一枚と等価となる。汝がロングパニエ?ならば、特殊なエンチャントもある、珍しい布でできている……およそ銀貨120枚分、といった所か。銀貨100枚もあれば一家族が質素に一月生活できる。他には……』
ええと、まだ色々続いたけど、ここは割愛。
ただ、なんか言うとすれば、ここが一番為になったかもしれない。
じゃあ、次だ。えーと、残りはあと3つか。
ノーカン出せたらもっと増えるけど、あんまり欲張っても良くないね。
……じゃあ、そろそろいいだろうか。メイドとしての役割、情報収集は十分果たせたかな?
「私を強化してほしい。せめて、皆の足を引っ張ることの無いように」
これが、私の一番の望みである。
『理解しかねる。ノーカンで』
……ええええええええええ!?ナンデ!?




