30話
とりあえず全員無事に地下から脱出できたところで、さっさと休憩にしたかったんだけども、1つ問題点が。
皆さん……特に後衛の人たちは何やら、HPやらMPやらをドレインされたらしく、お疲れだったんだけども、それ以上にまたさっきの根っこみたいのに来られたら次こそ何ともならない気がするのよね、という。
なので、お昼は放棄して、できる限りこのよく分からん草原を抜けちまおう、という事になったわけなのです。
というわけで、ケトラミさんに比較的軽くて戦闘力があって消耗が少ない針生が乗っかって走って行った。
……どうしてこうなったか、というと、それは『転移』スキルの特性にあります。
この『転移』、一度見た場所に行けるスキルなようなのですが、『見た』ってのがミソです。
つまり、見たならば、行ったことの無い場所にも行けるという事。
つまりつまり、ケトラミさんに乗って全力疾走していった針生の視覚を『共有』しておいて、適当なところでそこに『転移』すればいいのですよ。
勿論ケトラミさんと針生が若干危険だったり、とか、そういう危険はある訳だけど、そういう事態になったら針生の視覚を通してすぐ危機を察知できる私が皆さんごとそこに『転移』すればいいのだ。あるいは、ケトラミさんの脚なら、大抵のモンスターからは逃げ切れるみたいだし、逃げちゃってもいい。
これってチート級のスキルなんじゃありませんかね?
因みに、ケトラミさん単騎で走って頂いてケトラミさんの視覚を『共有』するってのは、人間と『共有』するよりも負担が大きかったので却下。
また、私がケトラミさんに乗っていけばいいじゃない、っていうのも却下。
私は全力疾走するケトラミさんに乗っていられないのです……。
それから数十分後、草原をケトラミさん達が抜けて、森林地帯に入ったみたいなので、ここらで『転移』。
ケトラミさんは兎も角、これ以上走らせると針生が死んでしまう。
流石の補正あり戦闘職でも、全力疾走のケトラミさんに乗っているのはしんどい模様。
やー、お疲れ様です。
森林地帯でも、まあ、地中から何も来ないという保証はない訳だけども、さっきまで根っこが居た所よりは精神衛生上いいわな。
そこで部屋を展開して、おそーくなってしまった昼ご飯もとい、早めの晩御飯を食べました。
あ、本日は久々に生肉が手に入ったので、燻製じゃない肉です。
ソテーにして付け合わせに白い人参とか、芋とかを合わせますよ。あとはまあ、定番野菜スープにサラダに米。
尚、本日の生肉は熊肉です。ただし、燃えてた。
ヒグマのヒはいつから火になったんですかねえ……。
そのせいでまあ、羽ヶ崎君が大活躍でした。ほら、火には水だの氷だのが有効じゃない。
更に、根っこに攫われた後の安否確認の『歌謡い』、あれ、やっぱりというか羽ヶ崎君によるものだった。
『水鏡の歌』なるその歌は、火によるダメージを和らげてくれるという代物らしいね。
……これ、他の属性もありそうだよね。
と、まあ、こんな感じにご飯も済ませて、しかし早めの就寝をするでもなく、時間を有意義に使う為、現在位置の確認を社長が行う事に。
社長は『マッピング』と『遠見』と『探索』を上手い事活用して地図を作ってる訳だけど、今回は綺麗さっぱり道中カットだったため、現在位置が分からないんだよね。
ところが、一応道中の視覚情報の記憶は私と針生とケトラミにある訳で。
なので、そこら辺を共有すればいいじゃない、という事になりまして、私がひとしきり『共有』を使いまくることに。
というか、ケトラミさんがここら辺どころか、このフロア……2Fの東側半分程度は完璧に把握してらっしゃったもんだから、もう、地図作りが捗る捗る。
そして私のMPはごりごり削られていき、社長のMPもごりごり削られていく。ケトラミさんはそうでもなさそうなのが訳分からん。
他の人はMP回復茶を淹れてくれたり、社長の肩揉んだり、ケトラミさんのブラッシングしたりしてました。
……私、びっくりする程労わられないね。まあメイドだからね、しょうがないね。
ということで、2F東半分の地図ができてしまった。
いやー、ケトラミ様様だね。
地図で確認したところ、現在位置は丁度、北棟東の階段……つまり、この間までいた遺跡と、南棟東の階段、これもまた遺跡っぽい何からしいんだけども、まあ、そこの五分の四地点あたりにいるようです。
因みに、ケトラミさんが数十分全力疾走した時に走られた距離がおよそ五分の一。
速いです、ケトラミさん。
ケトラミさんなら、一日適当に走り回っただけで、このフロアを縦横無尽に駆け巡れちゃうわけです。いやー、つくづく私は恐ろしい生き物を番犬にしちゃいましたな。
……しかし、本末転倒、というか、この地図作った意味があんまりなかった!
つまり!この地図を作るにあたって、私はケトラミから2F東半分位の視覚情報を全て!全て!す・べ・て!『共有』して社長にたれ流したわけです。
つまり、今の私は『転移』で2F東半分ぐらいならどこへでもいける、って事ですよ。
……何なら、今から遺跡、行くか?ん?ってなもんですが、それは流石に色々やばいのでやめよう。
地理が分かっても、今現在そこがどうなってるかはまた別の問題なのだ。
遺跡周りに何か居ないとも限らないし、安全策をとっていこうと思うよ。
それでも現在地点が分かる、っていうのは大事なことだ。
特に、私と社長とケトラミ以外の人たちは現在地が分かってなかったわけだし、ま、そういう意味では地図を作るっていうのはいいことだ。
流石にあの情報量を他7人にも『共有』するとか、考えただけでも頭痛と吐き気に襲われそうです……。
そして地図を作ることに意味があるとすれば、そこに書き込みをどんどんしていけるって事。
現在、地図上には麦の自生地とか、変に強いモンスターと戦闘した地点とかが書き込まれている。
ケトラミの情報だけだとどうしてもそういう所が抜けるんだよね。
それから、ケトラミの視覚情報からはあんまり教室の情報が得られなかった。
ケトラミは最近はずっと、化学実験室があった辺りの森を根城にしてたらしい。つまり、南側に来たことがあるのは結構前。
そして、ケトラミさん、その時には教室なんて一つも見なかったそうな。
遺跡だけはあったみたいだけど、それも多分色々変わってるんだろうなあ。
……なんとなーく、なんとなーく、この世界の秘密に一歩迫れた、ような気がしましたよ。
さて。ここで地図の作成及び現在地点の確認もできた訳ですが、まだ寝るには早い。
……という事で、ちょっと棚上げしていた問題に首を突っ込もうという事になりました。
つまり、『アライブ・グリモワール』の読解です。
とりあえず、開いてみることに。
「なんだこれは」
「何語?」
ってなりますよねー。あー良かった、読めないの私だけじゃなかった。
「じゃあ『鑑定』を中身に対して行ってみたら?」
まあ、そうなりますよねー。
「……駄目です、全然読めない」
「こっちも駄目ですねぇ……舞戸さんは」
「本の題名も分からなかったのに読める訳ねーだろチクショウめ!馬鹿にしてんのかお前ら!」
とりあえず『鑑定』できる面子で本の中身を『鑑定』しようとしたものの、誰一人として、一文字の解読も出来ず。無念。
「っつうか、『アライブ』って時点で、読むもんじゃないんじゃないの?」
あー、話しかけたりしてみたり?うん、よし。
「こんにちはー」
……変化無し。くそ、この本、本のくせに生意気だな!
「いっそ燃やしてみるか!」
「取り返しがつかないことはやめろ」
ですよねえ。
「じゃあ、『共有』してみる?」
本と『共有』。
絶対危険だろうという人と、生物よりはマシだろうという意見に割れたけど、私の賛成票にて実行が決定。
「いいか、無茶するなよ?危なくなったらすぐ戻れ。様子がおかしかったら外部から干渉するからな?」
「おーけいおーけい。じゃあ行って来まーす」
MPを全快にしてから、本の表紙に頭突き、そして『共有』。
この感覚ももう慣れたもんである。
……お、これは……すっごく楽!秩序だった情報!そして全然膨大じゃない情報量!なによりも、このウェルカムな雰囲気!
ケトラミだの鈴本だの、ましてやヘビだのとやるより、よっぽど楽だ。
あれかー、元々『共有』って生物相手にやるもんじゃないのかもね。
よしよし、とりあえずこの本の目次とか、どっかに無いかな。
一ページ目、一ページ目……。
あ、これかもしれん。
『汝は』
……ええと、これは一体どういうことかな?
次のページ行くか。
『汝は』
え、ちょっとまて?よし、次、次行ってみよう。
『汝は』
……。
あのさあ、汝は、って、さあ。
それしかないと意味を成さないよね。
疑問符付いてればまだしもさ、マジで汝は、しかないんだもん。
主語と述語を使えと学校で習わなかったのかこの本を書いた馬鹿は。
4ページ目も同じじゃないだろうなと思いつつ次に行くと、そこには衝撃の内容が!
『汝は何者ぞ?』
……ええと、もしかして、私の愚痴を反映したのか?これ。
そう考えるとなんか可愛いなあ、こいつ。
しかし、あれだ。会話しようとしてくる本とか、地雷の匂いしかしない。
こういうのは大抵厄介ごとを連れてくると相場が決まっている。
具体的には会話相手の生命力を吸い取って、とかだな……。
……やめよう。よし、帰ろ。離脱離脱。
ええっと出口出口……。
……出口を見失いました。
まさかの本の中で迷子。
本はというと、相変わらず『汝は何者ぞ?』のままである。
うーん、ホントにやばくなってたら外から皆さんがひっぺがしてくれるか。
……じゃあ、しょうがない。付き合ってやるか。
「只のしがないメイドですよ」
名前は言わない。下手になんかの黒魔術の媒介とかにされたら嫌だし。
名前ってほら、なんかそういうのにつかわれそうなイメージがですね。
『メイドとは何ぞや?』
「召使いのことですよ」
こいつ、メイドも知らないでやんの。
一体いつの本だ?これ。
『召使いが何を求む?』
求む?求むとな?それは……うん、あれだな。
「ギャルのパンティ」
……いや、ほら、こういう時のお約束かなあ、と思って。
『ギャルとは何ぞや?』
いや、あのね、私も悪かったけど、察してくれい。
「冗談だよ。求むものね、はいはい……うーん……え、何?求めたらくれるの?」
『左様』
……えっ!?えっ!?え、マジで!?えー、なんかヤバい匂いしかしないけど……じゃあ、うん。
「……いくつまで、とか、制限ある?」
いや、これは真っ先に聞くでしょう。
うん、私、強欲は美徳だと思ってるよ。
『お一人様三点限りだ』
……スーパーの特売みたいに言わんでも。
つか、この本ホントは色々分かってるんじゃないのか?ギャルのパンティ云々とか。
なんか怪しくなってきたなあ。
「でも、お高いんでしょう?」
『代価は既に支払われている』
「払った覚えねーぞこの詐欺師」
『汝との対話が代価である』
……ええっと、つまり、つまり。
「話し相手が欲しかったの?」
聞くと、暫くずっとページは変わらずそのままで、ようやく切り替わったと思ったら、
『対話とは知的活動でありそれを求むのは知性を持つものとして当然のことである』
つまり、話し相手が欲しかったのね?
……か、可哀相な奴!わざわざ素直に肯定しない辺りとか、なんか急にこいつが可愛く思えてきた!
「そっかそっか。え、まじで何でもくれるの?」
『知性によるものに限る』
「……と、いいますと?」
『例えば、知識』
……ああ、成程。そういう形の無い物、ってことかな?
あ。
「ちなみにスキルとかってそれに」
『含まれる』
……ほうほうほう!それが三つ!夢がひろがりんぐ!
これで最強のメイドになれるって訳ですね!
でも、ま、こういう時のお約束って、あるよね。
「ちなみに、契約とかもそこに」
『含まれる』
「そっか。じゃあ一つ目。くれる物を増やす権利を下さい」
……しばーらく、本が沈黙した後、やっとページがめくれて、そこには何やら震える文字でこうあった。
『その発想は無かった!』
……この本作った奴馬鹿だなっ!




