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29話

 おはようございます。

 ぬくぬくすべすべもふもふしながら起床。幸せ。

 さて、幸せ世界を抜け出すのは辛いが、早速朝ごはんを作らねば。

 ……あ。

「ハントルって何食べるの?」

 ヘビだし、肉か?生きてないと食べなかったりする?

『肉ー』

 やっぱり肉、ね。……燻製しか無いけど大丈夫だろうか。

 それより魚の干したののがいいかな。

 困ってたらケトラミがとってきたご飯を分けてくれるとの事なので、任せることにした。ケトラミ先生流石です。




 今日はご飯に味噌汁な朝ごはんです。

 たんぱく質が最近不足気味なので今日あたりになんとか新しい肉を入手したい所でありますなあ。

 それも皆さんの頑張り次第なので私がとやかく言えることでもないのが辛い所でもあります。

 自力でご飯を材料から調達できればいいんだけどなあ。




 皆さんの起床はやや早めでした。

 朝ごはんを食べたら即出発。荒地から草地に入ればもうちょっと色々ありそうだからね。

 朝ごはんを食べ終わる頃にはケトラミさんとハントルの食事も終わったらしいので、実にスムーズな出発となりました。

 何時ぞやとは大違いだね!




 出発してから数時間、お日様がてっぺんに昇るよりも前に草地に着きました。

 広大です。

 木もまばらにしか無く、見通しもいい。

 ともすれば、モンスターからの奇襲を恐れる必要も無い訳で。

 いやー、平和だ。こうも広い草地って、現代日本にはそうそうないんじゃないかなあ。少なくとも私は見たことないぞ。

 ケトラミさんは以前こっちにも来たことがあるみたいで、そんなに新鮮じゃないらしいけども、ハントルの方は興奮しっぱなしである。

 知識としては(親ヘビの記憶を『共有』でハントルに移し替えたので)知ってるけども、見るのと知ってるのはやっぱり違うよね。


 と、まあ、そんな感じにのんびり進んでたんですわ。

 平和だねー、とか、正直ボケてたとしか思えない。

 そうです。いました。モンスター。そしてモロに奇襲を食らいました。

 草地を歩いて一時間。そろそろお昼ご飯かなー、なんてやってたら、来ましたモンスター。

 ……足元から!




「ん!なんか下から来る!」

 鳥海がぎりぎり『地獄耳』と『感知』で察知したため、動けた人もいたけども、咄嗟に動けない後衛がやられました。

 地面から出てきたのは馬鹿でかい植物の蔓というか、根というか。

 あっという間に羽ヶ崎君と社長と加鳥と刈谷を引っ掴むと、地面に消えていきました。


 ……え、私?はい、動けませんでしたけど?

 けど私はケトラミさんに乗っていたため避けられました。というか、避けていただけました。はい。有難い事です。




「……ど、どうするよ、これ」

 よりにもよって、回復役を全員持っていきやがったぞ、あいつ。

「セオリー的には、どこかに本体がいるんだろうな。それを叩けばいいんだろうが……」

「その前にあいつら回収しないとまずくない?」

「まずいよねえ……」

 地中に埋まられたら、ちょっと流石にやばい。

 せめてもの抵抗として、根っこが出てきてた穴を覗きに行ったら、凄い速さでまた根が出てきまして、神がかった反射能力をお持ちのケトラミ先生によってまたしても救われました。

 はい、もうケトラミさんに足向けて寝られません。ケトラミさんで寝てるけども。

「おい舞戸!お前まで捕まる気か!?」

「すまん」

 しかし、ここに誰かが来たら根っこが出てくる、って事は分かったぞ?

 そこから叩けばいいんじゃないだろうか。あるいは、何か仕掛けるとか、できない?無理?


「いっそ全員地中に持ってかれるのはどうよ」

「却下。危険すぎる。昨日のヘビみたいな事になってたら全員死ぬぞ」

「ですよねえ」

 うーん、この状況を打破できるスキルをお持ちのお客様はいらっしゃいませんか?

 全員ドッグタグを突き合わせて考える。

 ……あ、なんか私の、増えてる。『子守り』だってよ。あれか。ハントルは子供だからメイドの仕事判定が出たのか。そうかそうか。

 というのは置いといて、全員分スキルを見てみよう。

「針生、『影渡り』って何よ」

「あ、それ?影から陰に移動できるってやつ。ただ、影ってからには、周りが明るくないとダメで、地中とかには使えないと思う。明るければ別だけどさー」

 ぬうん、よりにもよって、光魔法が使える奴も全員地中に持ってかれてしまったからなあ。

「鳥海の『感知』で分からないか?」

「あーうん、さっきから試してはいるんだけど、ちょっと遠すぎるみたいで。ごめん」

「いや、いい。この場合しょうがない」

 うーん、頭突き合わせてもちょっと打開できないよなあ。

「せめて安否が分かれば……あ」

 皆さん忘れてるんだろうけども、あるんですよ。安否確認の方法。

 とりあえずすっかり平和ボケして掛けていなかった『祈りの歌』を歌う。

「ああ、成程」

 これに気付いて、地中に攫われた人の内の誰かが『歌謡い』を習得してくれれば、安否はわかるんだけども。

 ……ダメ、かなあ。

 あーくそ、こんなことになるなら、もっと早く全員に『歌謡い』を習得させておくべきだったっ!


 居てもたってもいられないような長いような短いような時間の後に、不意にぽん、と、足元に空色の模様が浮かんだ。

「これって」

「……多分、無事、なんだろうなあ」

 水色、っていうだけで、なんとなく羽ヶ崎君のような気がするぞ、これ。

「どうする?地中に行っても、とりあえずは無事みたいだけど」

 このままここに居てもしょうがないしなあ。だったら、さっきの根っこに我々も攫われちゃった方が楽でいいかもよ?っていう。

「……よし、腹を決めよう。さっきの根っこに捕まろう。舞戸はここで待機」

 ま、また私だけお留守番ですか!?やだー!




 それも当然っちゃ当然でして、ケトラミさんが入れない地中における私の戦闘力は5以下。ゴミにも劣ります。

 しょうがないから私はお留守番ですな。

 せめてもの抵抗として、一番視界が安定してそうな針生の視覚を『共有』したまま地下に潜って頂く。

 この場合、視覚だけに情報を絞ってあるので持ってかれるMPもほどほどなんだけども、こういう遠距離での『共有』は初の試みなので心配ではある。

 なんでそういう心配なことをわざわざやるか、っていう事なんだけども、だってそうでもしないとホントに私、只のお留守番なんですもん!

 まあ、この場合ケトラミさんの聴覚を借りた時もそうだったけども、一方的に針生の視覚を私が傍受するようなもんなので、針生に負担がない、っていうのが決定的でして。

 それでこの度の暴挙に出ようという事でございます。はい。




「じゃあ行ってくる」

「お気をつけてー」

 そうは言いつつも、私の視覚は既に針生の物なので、私が手を振っているのが見えるというカオスっぷりである。

 尚、周りが一切見えていない私の為にケトラミさんとハントルが働いてくれてます。ホントに有難い事です。はい。


 早速穴をのぞき込むと、根っこが出てきて、皆さんが攫われた。

 うわ、これ、変な感じだ。

 自分はケトラミの上に乗ってるだけなのに、視界は根っこに捕まれて穴の中をガンガン引っ張られていく光景、っていう不思議。

 映画を見てるような感覚とも違う、何とも言えない感覚。

 そして案の定、遠くなっていくにつれて消費MPも増大。

 うげえ、これはきつい。しかしやめるつもりは毛頭ございません。

 MP回復茶をガンガン飲んで回復していく。

 そして地中の奥深く、根っこに引っ張られていった先は……。

「これ、詰んでね?」

 生きてはいるみたいだけどもぐったりした後衛と、きっちり拘束された前衛の皆さん。根っこは現在進行形で増える一方。

 しかし、流石は戦闘力の高い皆さんであった。ゴミとは違うのですな。

 最初に根っこの拘束を解いたのは角三君。『エクスプロージョン』で自分の周りを爆発させて、根っこを吹き飛ばした。

 荒っぽいなー。

 続いて針生もなんかよく分からん方法で(こいつは客観じゃなくて主観でしか見えないからマジで何やったのか分からんのです)脱出。

 鈴本と鳥海も無事救出。後衛の皆さんにくっついてた根っこも切るなり吹き飛ばすなりしたみたいだけど、こっちは依然としてぐったりのままである。

 しかしそれでもまあ、魔法使う気力はあったらしく、刈谷が『光球』で明りを付けたので一気に視界が良くなる。これで『暗視』の無い人たちも動けるね。




 後衛を後ろの方まで引っ張って行ったあと、前衛さん達が動き出した。

 目標は根っこの本体らしい、木の幹みたいな、でっかい塊。

 ……っつっても、一番動くのが早かったのが針生なので、他の人の動きがよく分からん。

 断片的に見えた色々から推測するに、針生がナイフ投げたり短剣で斬ったりしている間に鳥海が引きつけておいて、角三君がガンガン突っ込んでいき、鈴本はヒットアンドアウェイを繰り返す、ってかんじだろう。

 成程、ひたすら鳥海が重装備なのはこういう事なのね。

 もしこれ、鳥海が引きつけてなかったら、角三君は兎も角、鈴本と針生はあっという間にやられるだろうなあ。

 知っての通り、鈴本の防御力は補正含めても私とどっこいかもうちょい上、程度だし、針生は軽量化に特化しちゃったが故の防御力の低さ。

 2人とも攻撃を受けないことを前提の装備・戦い方だね。

 角三君はバランスとれてていいな。

 盾を上手く使って自分の分は自分で捌いてる。攻防一体型っていうことですな。

 鳥海よりもより接近した位地に陣取っても何とかなってるのはバランスの良さのおかげだろう。

 多分、単騎なら角三君が一番強いな。『跳躍』を手に入れたことで高高度の敵にも挑めるようになって益々パワーアップだね。

 バランスなら角三君、一発一発の火力なら鈴本、手数なら針生、耐久性なら鳥海、ってことかな。


 そうこうしている間に段々と根っこは弱っていったようで、振り回される根っこの勢いも衰えてきた。

 そのころには後衛もぐったり状態を脱却したようで、魔法なりよく分からんレーザービームなりで援護射撃している模様。例の如く針生は後衛の人たちの様子なんてつぶさに観察してくれやしないので、針生の視覚から得られた情報しか得られない私としてはよく分からんとしか言いようがないです。


 最終的にはエネルギーフル装填したっぽいかんじの加鳥の『レーザーショット』でフィニッシュでした。

 その威力たるや、もう、前衛たちが刃物でちまちまやってたのがアホらしくなる感じの威力でした。

 もうこいつは後衛ってよりも、後方固定砲台みたいな扱いした方がいいな、きっと。


 と、まあ、こういう風にして、実は初めて皆さんがまともに強いモンスターと連携プレイで戦ってるのを見た訳ですが、正直予想以上でした。

 バンバンありえない高度まで飛ぶし、ありえない方向転換するし、ありえない速度で移動するし、もう、なんか色々ありえない。

 君達人間卒業しちゃったのかね?っていうかんじでした。

 益々私の普通っぷりが際立ちますなあ。皆さんが私にお留守番させたがるのも分かるよ。

 ……はい。戦闘力たったの5もございません。ゴミ以下です。ごめんなさい。




 しかし、それから皆さん、困った様子。

 そう!帰り方が分からん模様。

 っつっても、残念なことに私が手に入れられる情報は視覚情報だけなので、何をどう会話してるのかは分かりません。

 ……さて、しかしお困りの様子には違いあるまい。

 ここでご主人様の送迎もメイドの仕事だとは思わんかね?思わん?え、執事の仕事?メイド風情には過ぎた仕事?いや、私はメイドの仕事だと思うよ。思う事にするよ。

 という事で、試してみましょう。このバレッタについていたスキル。『転移』。

 何をどう転移するのかは分からんけども、成せばなるよ、きっと。


 一応MP回復茶をがぶ飲みしてから、集中。

 目標はここ。対象は地中に居る皆さん。

 よし。では参る。『転移』!




 結果。

 *つちのなかにいる*

 というか、まあ、地下に居ます。多分。

 なんかケトラミとハントルごと来ちゃったので、このスキル、自分の周りのものも巻き込んで移動できるスキルみたいね。

 というか、そうじゃなきゃ詰んでたんだけどね。

「あれ、舞戸さんなんでここに居るんですか」

「お迎えに上がりましたよっと。はい。集合集合」

 全員ケトラミさんの周りに集まってもらっておいて、もう一回『転移』。

 そして一気に地上へ全員ワープ。

 一応点呼も取ってみる。

 よし、全員いるな。欠けてる物とかも無さそうなので、結果は成功といえよう、うむ。

「ああ、もしかして髪飾りのスキル?」

「うん」

 一応スキル使う度に消耗してたりすると厄介なのでバレッタを確認。

『鑑定』もしてみたけども、異常も無さそうです。

 まあ、その分MPをごっそり使うんだけども。

 月桂樹染めのロングパニエ履いてなかったら、多分片道切符だね、これ。

 あと、多分運ぶものが増えるほどに消費MPは増えていくんだろう。

 行きより帰りの方が疲れた。

「……便利だな、これ」

「でしょ」

 まあ、これで一気にいろんなところに行けるようになったのだ。

 存分に活用していこうと思います。


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[良い点] よかよか。 [一言] 回復シーツとかを被らねば。
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