28話
ヘビの腹から出てきた謎の箱から本が出てきました。
が。
読めません!
日本語どころか、多分地球上のどこの言語でもないと思う。
見たことの無い文字で延々と綴られた文章らしき何かは見ているだけで頭が痛くなってくる代物だ。
まあ、分厚いから漬物石替わりにはなるかもしれないね。
っていうのは冗談で、多分スキル使えばなんとかできると思うのよ。
という訳で、早速『鑑定』。
結果。
『*鑑定不能*』
……この野郎。
この場合、私よりも『鑑定』のレベルが高そうな社長か刈谷に頼めば分かるのかもしれないけど、生憎二人ともお昼寝中だ!
となれば、よし。『共有』してみるかな!
……いや、やめとこう。
どう考えてもそれは地雷の予感しかしない。
せめて皆起きてから、二人に鑑定してもらってからでも遅くは無い。
なんなら、私以外の人ならこの本読めたっておかしくないのだ。
よし、大人しくお昼ご飯作って待ってよ。
ということでお昼ご飯は炒飯とスープです。
気分的には餃子も付けたかったんだけども、今ある生肉がヘビ肉しかないんだよね……。
できれば猪か鹿で行きたい所である。
皆さんも起きてきたので、お昼ご飯を食べつつさっきの本を出してみることに。
「……ということで、ヘビの腹から出てきた箱から出てきた本です」
「へえ、じゃあ見てみますか。『鑑定』」
社長が早速炒飯食べながら『鑑定』してみた所。
「……あー、駄目か。駄目みたいです。『○○○○・グリモワール』としか出てこないですね」
グリモワール……魔導書?
ふむ、とりあえず魔導書らしい、という事は分かるなあ。
「あ、じゃあ次は俺がやってみます。『鑑定』」
刈谷も同じく『鑑定』してみた。
「あ、うん。運がいいのかな、分かりましたよ。『アライブ・○○○○○○』って出てきたんで、これ、『アライブ・グリモワール』なんじゃないですかね」
……生きた魔導書?
すっげえ怪しいにおいがぷんぷんするぞー。
そうこうしながらご飯も終了。とりあえず本は誰も読めなかったので置いといて、まずは砂漠を抜けよう、という事になった。
このままだと生肉が……あ、皆さんヘビ肉を食べるのに抵抗は無さそうなんだけどね?バリエーションは欲しいじゃない。
というか、この気温の中にいつまでも居るとか、正気の沙汰じゃないっていう。
ということで、また砂漠を行進しております。
流石に昨日……というか、昨夜?のヘビみたいなのは出てこず、まあ、補給物資扱いの雑魚を蹴散らしつつ、ガンガン進んでいきました。
進んでいったんですが。
「……おい、舞戸、どこ行くんだ、そっちじゃないぞ」
なんか、妙に行きたい方向がありまして、妙にそっちに足を向けちゃうのです。
いや、足っていうか、ケトラミなんだけども。
「あー……なんか、こっちに何かあったような気がして」
「……ヘビか」
「ヘビかな」
「ヘビでしょうね」
……うん、多分あのヘビと『共有』しちゃった後遺症だとは思うんだよね。
ただ、問題なのがだな……。
「なんかそこに大事なもの隠してたような気がするんだよ」
会議の結果、とりあえず私がなんとなく行きたくなる方向に行ってみることにした。
寄り道大好きな集団で良かったです。
「あ、ここだ」
砂漠のど真ん中に、でっかい岩を発見。そしてその岩にあった割れ目から侵入してみると、そこにでっかいヘビの抜け殻を発見。これはビンゴでしょう。
「大事なもの、だったよな」
「うん。すごく大事で大好きなものだったような気がする」
岩の割れ目は割と広くて、暗い。
入り口から入る光だけじゃ奥まで見えない。
「暗―い見えなーい」
「あ、じゃあ俺が明るくしますよ。一瞬眩しいんでちょっと気を付けてください」
刈谷が何かもにょもにょしたなあ、と思ったら、ぽやん、と光の球が幾つか宙に浮いた。
『光球』というらしいそれで内部が照らされると、やっと全貌が見えた。
ヘビが隠していた『大事なもの』も。
「……あー……」
「うん、これは……どうする?」
皆さんの困惑もご尤も。
そこには蛇の子供がおりました。
親ヘビと同じく、真っ黒なヘビで、目だけがルビーみたいに赤い。
思わず触ってみたら、妙にいい手触りで癖になりそうなするする感。
サイズは0.5m位の長さ。太さは親指ぐらい。蜷局巻いたら両手乗りサイズだね。
凄く……可愛いです。
「で、舞戸、それ、どうすんの?飼うの?」
飼う、のがいいんだろうか。親ヘビは殺しちゃった訳だし。
けど、自然の流れに任せた方がいいのかもしれないし。
でもそれも無責任だし、かと言って飼うのが責任とれてるかっていったらそんなことも無い訳で。
うーん……。ああ、そうだ。
「えーと……本人ならぬ本ヘビに聞いてみちゃダメでしょうか」
皆さん渋ったが、拝み倒して許可を取った。
まあ、一回それでえらい事になりかけてるしね。
ま、今回は反省を生かしてうまくやりますよ。
「おいで」
子ヘビをうまく腕に巻き付けて、頭に額をくっつける。あ、ひんやりする。
では、『共有』。
……あれ、そんなにしんどくないな。
生まれて間もないから持ってる情報が少ない、とかなんだろうか。
それとも、爬虫類だから作りが単純、とかそういう?
まあいいや。とりあえず呼びながら探してみよう。
「おーい」
「はーい」
……レスポンスが滅茶苦茶早いです。
ちょっと予想外だったぞ。
返事のあった方に行ってみると、小さいヘビがにょろにょろしてた。
「こんにちは」
「こんにちは。誰?」
誰、とな。……うーん、何と説明したらよいものか。
「あー、しがないメイドです。つい昨夜、君の親に食べられて死に掛けました」
「でも生きてる」
「うん」
「じゃあ母さん死んだの?」
「うん。私も死にたくなかったからね。恨んでくれてもいいよ」
「そっか。別にいいの。いつかは誰かに殺されるの分かってたし」
子ヘビは特に怒るでも悲しむでもなく、にょろにょろしているばかりである。
ちょっと肩透かしをくらったような。
「君が母さん殺したの?」
「決定打は私だったと思うよ」
答えにくい質問ではあるけれど、ここで誤魔化したら嘘だろ、と思うから正直に答えた。
この子ヘビが妙にドライなかんじで答えやすい、っていうのもあるね。
「ふうん、じゃあ君強いんだ」
案の定、子ヘビは特に何というわけでもなく、にょろ、と首を傾げるようにしてそんなことを言うだけである。
ドライだな。うん、ドライだ。
「いや、弱いよ」
「弱いのに母さんに勝てたの?」
「仲間がいるんだ」
「ふうん」
子ヘビは割と話したがりだったので、まあ、気が済むまで話に付き合う気で、話してたわけですよ。
そしたら爆弾が落ちてきました。
「……そういえば君が殺したのに、君の中に母さんいるんだね」
「えっ」
子ヘビの視線に従ってふりかえってみると、ハイ、いました。大ヘビです。
「……どうも」
心臓バクバクいいながら一応挨拶してみると、『はいはい』みたいな感じでぺろんと顔を舐められた。
あ、これケトラミと同類の気配。
「……何故ここに」
お前死んだだろうが。
……あ、もしかして、これ、記憶なわけですか?親ヘビの記憶が親ヘビの姿を成してここにあるという。
「そういうこと。ここにあるのは母さんの記憶。母さん持ってきてくれてありがと、なの」
子ヘビはするりと私の腕に巻き付くと肩に登って、そこから体を伸ばして親ヘビを頭の先で突いた。
突いたらそこからふわふわ親ヘビの姿は消えていって、後に残ったのは子ヘビだけだった。
「母さん、貰ったけどいいよね?」
「どうぞどうぞ」
そう言われてみれば、確かに頭の中に不自然な個所や自分の物じゃない記憶が無くなってた。
これで頭こんがらがり状態は脱却できた、ってことかな。
「……それで、さ。子ヘビ君。君、どうする?」
「どうする、って?」
「私達と一緒に来る?それとも砂漠にいる?」
「んー……一緒に行く。君、変わってるから面白そうなの」
そ、そうか。そう褒めるなよ、照れるだろ?
……ってのはさておき。じゃあ遅くなったけど自己紹介だ。
「じゃあ、名前。私は舞戸」
「舞戸。分かった。よろしく」
「子ヘビ君の名前は?」
「特にない。要るなら舞戸が付けてよ」
なんだなんだ、モンスターっていうのは基本的に名前が無いのか?
……どうやって個体識別してるんだろうなぁ……。
「じゃあ……よし、君の名前はハントルで」
由来はハンめートル蛇。
命名もできたので離脱。
離脱してすぐにハントルと目が合った。
目が合うとハントルはするする腕を上ってきて、私の首に落ち着いた。
「舞戸さん、それ、どうなったんですか結局」
あ、すみません。皆さん置いてけぼりだったね。すまんすまん。
「うん、なんか一緒に行くことになったんでよろしく」
『よろしく!』
……喋った……。あれか、『共有』すると喋るようになるのか、こいつら。
ということで、仲間が一匹増えたのでした。
寄り道もほどほどにして、早速また南下。
ひたすら歩き続けてついに、砂漠の終わりが見えた。
そのころには日も暮れていたので、砂漠と草原に挟まれた荒地で部屋を展開。
今日はここでお泊りですな。
ハントルの手前、ヘビ肉を食べるのがためらわれたので、晩御飯は燻製にした肉を食べます。
ヘビ肉に関しては皆さんとハントルと相談した結果、荼毘に伏す事に致しました。
骨や鱗は、むしろ使ってくれとの事だったので、こちらで何かに使わせてもらいましょう。
今日は外で寝ても多分砂まみれになったりしなさそうなので、ケトラミさんを布団にさせてもらう事にした。
早速『お掃除』してから腹に埋もれると天国が待っている。
ああ幸せ。
……と、幸せ堪能してたら、なんか首筋が冷たい。
目を開けてみたら、ハントルがくっついてた。
あれ、おかしいな、君用に実験室に寝床を作ってあげた気がするんですが。
『僕も舞戸と寝る!』
との事なので、一応ケトラミさんにお伺いを立てたところ、
『好きにしろよ、一匹弟分が増える位今更変わらねえよ』
との事だったので、これからは一頭と一人と一匹で寝ることになりました。
ぬくぬくふかふかとひんやりすべすべのコラボレーション。




