27話
今回も多少痛い描写があります。ご注意ください。
前回のあらすじ、蛇に食べられました。以上。
確かに、私死んだと思うんだけど、何故か布団の上で目が覚めました。
ええと、私、誰だっけ?
……え、そこからかよ。自分でもびっくりだよ。
確か私は砂漠で生まれ……てないよ、ええと、なんだ、あれ?頭がこんがらがってるぞ?
目が覚めたものの、頭がこんがらがってるわ、体中が痛いわ、力入らないわ、何故か生きてるわでパニクって居た所、誰かと目が合った。……ちょ、誰かって何だ。
「気が付きましたか舞戸さん!」
「ええとお前……ええっと……うん」
目の前には、疲れた顔をした……ええと……。
やべえやべえ、友達の名前もこんがらがってるぞ。こいつの名前なんだっけ?
「大丈夫ですか、痛いところ、ありませんか?」
「全身……あと頭が、こんがらがってて……これはひどい」
頭を手で押さえ……あれ、手がある。なんでだ?溶けなかったっけ?というか、私、死んだよね?……横っ腹斬られて。
混乱しているにもかかわらず、数秒後には皆さんに囲まれることになった。
落ち着かない。
「舞戸、もう大丈夫なのか」
「ええと、多分。頭こんがらがってるけども」
よかったあああ、というように何人かへなっとしてしまった。
ごめん。しかし現在進行形で私の頭はこんがらがっているため、誰が誰かがよく分かってない。
「とりあえず、私、何がどうなったの?」
とりあえずこいつがリーダーだったよな、と思いつつ、着物着てる人に聞いてみる。
「ヘビに食われた、のは覚えて……あ、こら、起き上がるな。布団から出るな!後で説明と弁明するけど、今お前全裸だから!」
ん?全裸で何か問題でも……問題だらけだよ。あれ、どうしたんだろう私、一般常識が欠落、っていうか、薄れてない?
「……で!お前食われたじゃん」
「知ってる」
「で、なんとかヘビを角三君と鳥海が捌いて、そこから……お前を、出した、んだが……」
……それも知ってる。すごく痛かった。あれ?なんかおかしいよな、まあいいや。どうぞ続けてください。
「お前右手と両足は無くなってた。右足に至っては骨も無かった。腹も溶けて肋骨見えてるし、中身も……まあ、なんだ、その、弁明その1。この時点でお前服着てなかったんだけど、R-18Eじゃなくて、R-18Gだったからノーカンで頼む」
いやいいよそんなん!むしろ大層グロいもんを見せてしまって申し訳ないです。ホント律儀だなー、もー。
「その時点でヘビは死んだ。あとはお前治すのに羽ヶ崎君と加鳥と刈谷がMP全部使って、それでなんとか、まあ、人の形になった。……弁明その2」
「いやいいよ、それは。そんなこと気にしてたら私死んでるんだし」
切腹しそうな勢いなので、遮って止める。
「……で、まあ、それからMP補充してもう少し治したら、傷も殆ど消えたんだが……すまん、右脚と脇腹と……よりによって、顔に残った。あと、髪が。本当にすまん」
本当に申し訳なさそうな顔で頭下げられちゃったもんだからもう、こっちとしては慌てるしかない。
「いやいいって!私が勝手に食べられて勝手に溶けたのを助けてもらったんだから、その位」
……それとも、よっぽど酷いんだろうか。
という事で鏡を見せてもらった所、成程、確かに右目の下らへんから頬にかけて変色してるね。でも表面滑らかだし、引きつれる感じも無いし、大したことないわ。うん。心配して損した。
髪は20㎝位短くなってるけど……禿げてないし、うん、こっちも問題外だね。
一方右足の方はもうちょっと酷く、太腿から脹脛にかけて大きめに火傷の痕みたいのが残っていた。
腹も右足同様、ってところかな。
「というかこの程度なら……『変装』。治れ」
一瞬自分の元々の恰好が分からなくなりかけたけど、うん、大丈夫。分かる。
『変装』を発動させたらぱっと治ってくれました。
うん、引き攣れる感じも無い。
「……どうよ」
「ああ、治ってるよ。良かった」
機能はどうかわからんけど、少なくとも見た目だけならいくらでも元に戻せるからね。
「……で、お前、さっきから何か変だが、どうした?」
「あーうん、なんか頭ごちゃごちゃで、色々混ざってるような、繋がってないような……そんな感じで」
不審げに見られたけど、だってそうなんだもの。
「……お前、どうなったか説明できるか?……いや、思い出したくなかったら無理にとは言わない」
「あ、それは大丈夫。ええと、丸呑みされて、それで、あああ、うん、その後までは覚えてるんだけど……そこらへんから、ごっちゃになってる」
ええと、体動かなくて、滅茶苦茶痛くて、頭働かなくなって、それで……そこからなんか、記憶が断片的だな。えっと、動けなくなって、その隙に角三君にバッサリ横っ腹斬られて、骨も鳥海に砕かれて、でも相変わらず溶けてて、斬られたとこから食べたもん出され……。
あ。
「ああああああああああああ!!」
「うわ、どうした」
「思い出した思い出した思い出した!」
そう思い出した瞬間パズルのピースがパチパチ正しく嵌るように色々整頓されて、頭がすっきりしました。
「お前、鈴本!ええと、羽ヶ崎君、社長……柘植。角三君で、えと、針生、加鳥……鳥海、刈谷。合ってるよね?合ってるよね?」
「え、ちょっと舞戸、今まで僕らの名前忘れてたの?」
羽ヶ崎君が何とも言えない顔してきたけど、私としては色々すっきりしたところなので気にならない。
「思い出した、というと?」
社長に聞かれて、もう一度頭の中をかき混ぜてみて、やっぱりそうだな、と納得する。
「私、ヘビと色々『共有』しちゃったんだ」
「間違ってたら言ってね。えっと、私が呑みこまれてから、皆さん、ヘビのスピードに翻弄されてた訳ですね」
「……うん」
角三君は何か思う所があるらしい。
うん、前衛が一番翻弄されてたからね。
「魔法も効かない、剣も通りにくい、で苦戦してたら、急に止まってのたうち回り始めた。で、角三君がヘビの横っ腹ぶった切って、鳥海が骨もメキャメキャやって、そこから私を引っ張り出した。合ってる?」
「合ってる合ってる。んー……ちなみに、俺が骨メキャメキャやったのって、どっち側の腹?」
「右」
鳥海の質問に答えると、おお、というような顔をされた。うん、正解でしょ。
「その後は?」
「死んだから分かんないなあ」
そう言うと、あからさまに皆さん、ぎょっとした。
「……え、舞戸さんが?」
「いや、ヘビが」
まさか一度死んでたの?というようなかんじの針生の誤解を解くべく、さっさと申告。
「……どうもね、私、胃の中でヘビと『共有』しちゃったんだよ、多分、リミッターかけずに全力で際限なく。そしたら、ヘビの記憶と私の記憶がごっちゃになっちゃって、まあ、それでさっきのパニクりぶりだったという」
そうか、意識朦朧として際限なく『共有』しちゃったせいで、私がヘビの記憶とかを得てしまったように、ヘビは私の痛みとかをいきなり流し込まれたんだ。そりゃ、動き止めてのたうち回るわ。
在りもしない手足が溶ける感覚、って、ヘビからしてみたらどんなんだったんだろうなあ。
そして私は……意識が無くなってからも『共有』は続いたらしく、死んだ記憶が妙に頭にこびりついて離れてくれない。
……後遺症が残らないことを祈るのみです。
「正直、お前にしたらとんでもない話だろうけど……お前が呑まれて『共有』してなかったら、勝機が無かったと思う」
鈴本が妙に暗い顔でそんなことを言う。
あらら、じゃあ私が呑みこまれたのも悪くなかったって事ね。
……うん、悪くなかった、っていうかさ、まあ、無意味に呑みこまれて足引っ張っただけじゃなかった分、救いようがあるよね。
「……お前が『共有』できなかったら、ケトラミと福山のアレみたいになってたんだもんな。アイツと同じ事だけは絶対にしたくない。お前抜きでもああいうユニークモンスターの類、何とかできるようにならないとな、って思った」
……まあ、その気分は分からんでもない。
けど、そんなに気負わなくてもいいと思うんだよ?
もっと複数人いるというメリットを存分に生かした……一人を囮にしておいて、その隙に叩く、とか、そういう事もっとしていいと思うんだけど……できないんだろうなあ、こいつら。
良く言えば優しい、悪く言ったら甘い。
これは問題だよなあ。折角囮に持ってこいの、というか、囮ぐらいにしかならないのがいるのにさ、『私抜きでもああいうユニークモンスターの類、何とかできるようにならないと』だってよ。
……私の方こそ、なんとかしなきゃなあ。
精神的足枷になってる自覚があるぞ。このままじゃ、いつまで経っても足手纏いだ。
とりあえず服を着てくるために布団に包まったまま退却。
布団から出て自分の体を見てみると、なんか感慨深い。
これが一回溶けて治ったのである。
いやはや、異世界クオリティ素晴らしいよね。
それから、首にはドッグタグだけが掛かっていた。これは寝間着に着替えても装備しっぱなしだったからね。
溶けなかったところを見ると、こいつも異世界クオリティな金属製らしい。
一応ドッグタグを確認してみると、『強酸耐性』『毒耐性』『痛感耐性』と、スキルが増えていた。
これでまた食べられても、まあ、割と持つんじゃないでしょうか。
……二度目に来てほしいとも思わんけどな!
とりあえずメイド服に着替えて、また化学講義室に集合。
「とりあえず、今日は出発を昼からにしよう。ごたごたしたし、全員殆ど寝てないし」
ごめん、私だけたくさん寝てました。
「仮眠摂ったら、また南下しよう。それじゃ、解散」
集合したもののすぐ解散になった。この場合の解散は「寝るから出てけ」なので、私は実験室に戻る。
っつっても、私は全然眠くないので暇を持て余すことになった。
おー、窓から蛇の死体が見えますなあ。でかい。壮観です。
しかしあれ、放置していっていいんだろうか?腐ったらあれ、えらい事にならん?
……というか、ヘビにも肉はあるんだよな……ごくり。
ということで、ヘビの解体ショーです。いえー。
結構ヘビ自身の消化液で溶けてたりするんだけど、何分、元々がでかいからかなり残ってる。とりあえず皮とか鱗は……なんか、欲しいじゃないですか。あと、肉。美味しいのかしら。
ということで包丁一本、解体を行います。
折角だから分配された変な模様入りの包丁でやってみよう。
よっしゃ、では、入刀ー。
ぽん。
……あ、ありのまま今起こったことを(略)
つまり、ヘビに包丁を入れたと思ったら、ヘビが肉と皮と鱗と骨と牙とモツと目玉と何か……という風に、分かれてました。
……あっれ、おかしいな、だれか時を止めたりしました?
時計を見に行っても特に時が止まった様子は無いので、多分、私が一瞬で解体したんだろう。
……考えられるのはこの包丁がなんかした、って位か。
まあ、変な模様入ってるし、こういう事もあるかもね。うん、こういうのはもう慣れた。
とりあえず解体できたものをケトラミさんにも手伝ってもらって、物理講義室に収納しておく。うん、いい眺めだ。
さて、問題は蛇の解体が済んだ後にあった『何か』です。
具体的には人間の頭ぐらいのサイズの、金属の箱みたいな奴ね。
多分胃の中にあっただろうに、溶けもせずにその形を保ってる時点でなんか色々おかしいんだけど、まあいいや。
箱ってなもんで、一応蓋と本体に分かれてるのが分かった。
で、鍵が付いてる。
……めんどくさい。『お掃除』で消してしまおう。
はい、消しました。
鍵が無くなればもう開けられるので、遠慮なく開けてみる。
何が出るかな、何が出るかな。
……分厚い本が入ってました。




