24話
メイド人形とスキルの『共有』、という面白い案をいただいたので、実験してみました。
が。
「……ダメとか!ここまで期待させといてダメとか!」
メイドさん人形とスキルの『共有』をすることは叶わなかった。
というか、もう、やり方が分からんかった。
スキルの『共有』にはドッグタグをぶつける必要があるわけだから、ドッグタグを持っていないメイドさんとはスキルの『共有』ができないのだ。
その代わり、他の物は『共有』できた。
つまり、視覚とか、聴覚とか。
……人形にも視覚とか聴覚とか、あるんだ……。
あ、流石に人間やケトラミと『共有』した時のような情報の氾濫は起きなかった。
人形だからね、生物に比べたら、持ってる情報も少ないよねえ。
そして、一度『共有』することで『パス』とやらがより丈夫になったのか、自立思考の時に私の意思を汲んでくれる、とか、私が直接操作しやすくなる、とか、そういう嬉しい誤算が起きました。
いやー、ますます可愛くなってきちゃうなあ、このメイドさん人形たち。
さて、そうなってくるといよいよメイド部隊を形成したくなってくるので、昼食後また探索もといケトラミ騎乗に行ってしまった皆さんはほっといて(どちらかというと私がほっとかれてるわけだが)メイドさん人形を量産する。
ひたすら量産する。最早趣味の世界。
そしてできました、総勢二十体のメイドさん人形部隊。
よし、早速動かしてみる。
二十体のメイドさん人形を全て直接操作で……あ、あれ、やべ、頭がこんがらがる。いかん、中止中止。
……私への負担軽減を考えての直接操作だったんだけど……。自立思考でやってみるか。
よし。二十体のメイドさん人形を全て自立思考で……あ、ちょ、タンマタンマストップストーップ。
へいへいへい、落ち着こう。いかん。今のMP切れる所だった。
やっぱりいきなり二十体、ってのがいけないんだな。うん。よし。
ということで、MP回復茶を飲んで回復した後、動かす人形を三体から始めて、一体ずつ動かす人形を増やしていった。
その結果、自立思考だと十二体、直接操作だと六体が限界だという事が判明。
……練習とMPの具合によっては、メイドさん部隊が実現できるかもしれないが……今は、無理である。
それでも練習すれば、『お掃除』のように何とかなっちゃう可能性が割と高い。
ならば練習あるのみ!ということで、さっきから人形だけで晩御飯の支度をしている。
……人形は小さい為、包丁持つのも両手持ちだ。
なんというか、身の丈に余る位の包丁をぶん回しているのが危なっかしくて、猪の歯から作った果物ナイフを持たせてみた。それでもでっかいんだよなぁ……。
人形用の包丁とかもあった方がいいのかな、いや、でも、そんなちび包丁で切れるものってたかが知れてるし……。
……切る作業は、私だな。うん。
今日のメニューは和食だね。
ご飯と焼き魚と肉じゃがとおひたしと澄まし汁。
魚捌くのは流石に私がやったともうん。
その後の小骨取りも私がやった。念願の『お掃除』による魚の小骨取り!最高!
ほら、『人形操作』の練習もだけど、『お掃除』の練習もしないといけないのだよ。
肉じゃがを煮込む間に私は別の人形を作ってみた。
ケトラミ人形とメイドさん人形はそれぞれ動き方も特徴も違ったから、じゃあ別の人形を作ってみよう!ということだったのである。
ということで全然違う体のつくりの生き物、ということでクラゲの人形をつくってみた。
みたの、だが……。
「……OH」
何度も言うようだけど、水酸基では無い、感嘆符だ。
まさか、まさか……動かないとは!
なんで!?なんで動かないの?
まさかMP切れという事はあるまい。今もメイドさん人形が肉じゃがが焦げないように時々かき混ぜてるし。
それに、ケトラミ人形なら、動かせるのだ。この状況でも。
しかし、クラゲは……動かない、よなあ。
……ま、まさかとは思うけど、まさか、まさか、私、メイドと番犬の人形以外動かせない……なんてこと、ないよね?まさか、ないよね?ね?
……そんなこと、ありました。
はははは、参ったね、こりゃ!いやー、剣士の人形とか作ったらもしや戦力になるのでは!?とか思ったりもしたけどね、駄目だこりゃ。
マジで、メイドと番犬以外は動きませんでした。
もう、スキル発動感が全然無いので、望み無し。
あああ……これも、職業が『人形師』じゃなくて『メイド』だからか?『メイド』だからなのか?
……『メイド』だから、なんだろうなあ……。
落ち込んでたら皆さんが帰ってきたのでご飯です。
何やら楽しそうだね、君たち。そんなにケトラミに乗るのは楽しかったかね、そうかね。
しかしケトラミは私の布団だ。君たちには貸さないぞ、絶対に。絶対にだ。
それは兎も角、晩御飯は好評でした。
何せふっとばされてから初めてのお魚。
日本人なら食べたくなるよね、お魚。
ずっと肉だと胃が疲れてしまうというものですよ、はい。
いやはや、美味しいものが食べられるって、やっぱりいいよなあ。
そして、それよりも嬉しかったのは、その後であった。
「舞戸、こっち来い」
食後、片付けも終わった頃に皆さんが見せてくれたのは……なんと!
「……大豆っ!」
大豆でした!大豆!大豆です!
物理講義室に米と一緒に蓄えられたそれは、夢にまで見た大豆の姿!
中には枝豆もあるようだね、ふむふむ!
ケトラミライディングでちょっと遠くまで行ったら大豆の群生地を見つけたとの事。
いやー、ケトラミ貸してホントに良かった!これからもバンバン使ってくれて構わないぜ!
これで、これで味噌汁が飲める!醤油もケチらず使える!嗚呼素晴らしきかな、大豆!
早速大豆を『発酵』で味噌にしてみた。
ああ、素晴らしきかな。大豆と塩があれば発酵するようだ。
という事は麹部分をスキルが担当してるって事なのかな、よく分からん。
分からんけど、麦麹!とか、豆麹!とか意識すればそれぞれちゃんと麦味噌とか赤味噌になったりした。
因みに同じ要領で醤油もできた。
やっほいやっほい!
「あー……まあ、いいか、明日で……」
とかいう皆さんのぼやきが聞こえた気がしたが多分気のせいだ。
乗り回されて疲れたのか、ケトラミさんは丸くなって既に寝てらっしゃいましたので、勝手にお腹を布団にさせていただく。
よしよし、こう腹に埋もれて……あ、ちょっと今日は寒いな、どうしよう。
掛布団だけ持って来ようかな、とか思っていたら、寝ているはずのケトラミさんの尻尾が掛布団のように私に被さった。
……目は閉じてるけど、起きてるな、これ。
「ケトラミ、ありがとう」
お礼を言ったらちょっと尻尾がぱたぱたしかけたし。
ケトラミ布団を心行くまで堪能し、朝が来ました。
さあ、朝ごはんです。
……今日という日は、素晴らしい事に、味噌汁を飲んでスタートできるのです!
素晴らしすぎて泣けてくるぜ!さあ早速調理開始だっ!
メイドさん人形五体を自立思考で動かしながらご飯と味噌汁と焼き魚の朝ごはんを作る。
そうそうこれこれ、こういうのが正に朝ごはんと言えるでしょう。
やっぱり味噌汁だよ。味噌汁がなきゃ、だめだよやっぱり。
メイドさん人形も動かしてる内に慣れてきて、途中から六体を自立思考で動かしながら調理した。
自分も何かしながら人形にMPをガンガン持ってかれるっていうのは、割としんどいものがありまして。やっぱりこれは要訓練ですな。
とかやってたら、まあ、皆さんが起きてきたので、ハタキでぽふぽふやって、朝ごはんと相成りました。
久々の味噌汁は好評でした。
そりゃそうだよ、だって味噌だよ?インスタント・故郷だよ?
「今日から南下を開始しようと思う。舞戸はケトラミに乗って付いてきてくれ。くれぐれも戦闘行為に参加しないように」
「いえっさー」
そして遂に我々は校長室を目指すことになった。
本来なら1Fを通って行った方が新しい発見があっていいとは思うのだけれど、如何せんそうすると遺跡を通れないケトラミを置いていくことになる訳で、私の行動力がマイナス方向にやばい。
よって、2Fの南校舎東階段にあたる遺跡を探し、そこから1Fに移って校長室を探そう、という事になった。
これなら私のマイナス加算を最低限に抑えられるね、っていう。
「で、だ。出発は昼飯食ってから。できれば昨日のうちに済ませたかったんだが、昨日は舞戸が大豆で浮かれまくったからな。今から装備の分配をする」
……ん?
……ああ、そういえばそういうような事、昨夜ぼやいてたっけね。でも味噌には代えられないもんね、しょうがないね。……と開き直るしかない。
すみません、浮かれて出発延ばして。
「遺跡とかあちこちの宝箱とかから色々出てはいたんですけど、峯原さんのごたごたがあったりして、結局今の今になっちまったんですよね」
今やアイテム・インベントリ扱いされている物理実験室に入ると、それはそれは……武器と防具と装飾品と、よく分からんアイテム群の、山ができておりました。
人数分を超えてると思うぞ。
「とりあえず、武器と防具と装飾品と消耗品とその他に分けよう」
との事だったので、わさわさ分けていく。こういうのはメイドの得意分野だぜ。
ただし。
「重い、これ重い、動かない……コンチクショー!」
「舞戸、いいから!お前は軽いのだけ分類してろ!」
みたいな事もあったが。
……これは、私悪くないぞ。身の丈程もある大剣をひょいひょい片手で持つ奴がおかしいんだって、絶対。
とりあえず分類は終わった。
なんとなーく、軽い武器と重い武器、金属の防具とそれ以外、みたいな細分類もできているので分かりやすいね。
「じゃあ、適当に欲しいの取ってっちゃっていいかな?」
「いいんじゃないか?希望が重なったら後で融通した方が早い」
との事だったので、私もいそいそと軽い武器の方を見に行く。
軽い短剣ぐらいなら自分でも使えそうな気がするし。
「え、舞戸さんも武器、要るの?」
「なんや悪いか」
針生がいちゃもんつけてきたが……ああ、そっか。
「君、もしかして、軽い短剣とかって」
「あ、うん、投げる」
……人の弾数減らすような真似は止めよう。
ただ、包丁が一つ紛れてたのでそれは貰う事にした。
何やら変な模様が刻んである包丁だけど、まあ、包丁には違いないだろう。
私の他に装備できる人も装備したがる人もいなかったし。
ほら、包丁ってさ、普通に短剣として使うには片刃だし、鍔無いし、使いづらいんだよね……。
それから防具も見に行く。
私が装備できる防具なんてたかが知れてるよなー、と思っていたら、そうでもなかった。
むしろ、私しか装備できなさそうな代物がいっぱいあったのである。
つまり、まあ、そういうものだ。
……女性専用防具、と言ったら、アレである。
スカートとかドレスとかはまだいい。一番困ったのは……下着です。いや、ここはあえてインナーです、と言わせていただこうか。
はい、インナーです。布面積の狭さから行くと、かなり守備力が低くて然るべきだけど、ほら、何せ、メイド服の下に着ておけるわけで。
ひらっひらしたドレスとかは着る気になれないけれども、これならいいよね、っていう事である。
……というかだな、そろそろ、ワイヤーがちゃんと入った下着が、欲しかった。
ビスチェ、というのかな、これは。胸から腰までがっつりガードしてくれる物で、布の丈夫さもさることながら、縦に何本も走るボーンはしなやかながらもしっかり金属製。つまり、胴体を横からぶった切ろうとする軌跡の刃物に対しては普通の布より強いのである。
それでいて軽いし、そんなに動きも邪魔しなさそうだ。
……そして、これは淡い期待だけど……遺跡なんかにあったんだから、これも良く分からんファンタジー補正が掛かってても、おかしく、無いよね?無いよね?
「刈谷―、これ、ちょっと『鑑定』」
「あ、遠慮します」
……。
持って行ったら、逃げられた。
「いや、あの、『鑑定』」
「いや、俺、そういうのはちょっと……」
……解せぬ。
「社長、ちょっとこれ『鑑定』を」
「お断りします」
「君、そういうの気にする人だったっけ?」
「俺はともかく、舞戸さんは気にするべきだと思います」
……そういう押し問答の結果、「もう舞戸さんが『鑑定』できればいいんじゃないですかねぇ……」という刈谷の言葉により、『共有』再挑戦の運びと相成り、そして試してみたら『共有』で『鑑定』が貰えてしまった。
「……え」
「できちゃいましたね」
まさか、本当にできるとは思わなかったんだよ。いや、だってさ、普通にさ、一度失敗してる訳だし……。
「何か変化とか、あったっけ?」
「あー……うん、俺の心境が大分変わりましたね……」
……そんなに君、下着、いや、防具の『鑑定』が嫌だったのかね。なんかごめん。
……という事で、『共有』の謎もまた増えた。
これ、私に適性のあるスキルだけが『共有』できるんじゃないのかもしれない。
もっと条件とか、あるんだろうけど……分からんので、保留!
『鑑定』してみたら、案の定、インナーにはファンタジーなかんじの補正が掛かっている事が判明した。
うん、なんかさ、軽い鎧ぐらいの守備力あるんだけどさ……まあ、嬉しいけどさ。




