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21話

残酷な描写があります。ご注意ください。

 そもそも、今回の勝利条件ってなんなのか。

 ちょっと考えてみた。


 まず一つに、鈴本が正気に戻り、他の皆さんの怪我も治ること。

 二つ目は、化学実験室を取り返すこと。

 三つ目は、峯原さんたちを再起不能なまでにぼっこぼこにすること。


 多分、三つめは、一つ目と二つ目が達成できた時点で達成できるんじゃないかなと思う。

 皆さん本気出したらぼっこぼこは何とでもなりそうだし。

 問題は一つ目と二つ目だ。

 こういう時のお約束として、術者が死んだり気絶したりすると、その術者になんかされてた人が正気に戻る、っていうのがあるけども、となると、一つ目と二つ目の達成の為に三つ目をやらなきゃいけなくなって、でも三つめ達成の為には一つ目と二つ目が……ああ、無限ループ。


 つまり、私はスキルの力で峯原さんをぶちコロコロするか、鈴本を正気に戻して他の人たちも戦えるようにするか、っていうことになる。


 そして、どっちかっつーと、私がやりたいのはぶちコロコロの方だ。

 鈴本を正気に戻せるかどうか、っていうのは一発勝負になっちゃいそうだし、敵陣のど真ん中に入ってくわけだから、どっちにしろ峯原さんたちの無力化が必要になっちゃう。

 更に、他のぶっ倒れてる皆さんを治す、となると、時間がかかりそうだ。

 皆さんがぶっ倒れてるのは化学実験室の真ん前なので、そこでもたついたらアウトな気がする。

 そしてそれらの理由を吹っ飛ばす勢いで、私は怒っている!滅茶苦茶怒っているのだ!


 ……しっかし、まあ、あれよ。

 正面から向かって行ったらまず間違いなく死ぬ。

 何故かっていうと、実験室の周囲は無表情ーずに囲まれており、そしてそいつら、ふっつーに武装してるのである。

 間違いなく死ぬ。何故なら私は弱いから!

 となれば、まずはあの周りの人たちから何とかしないといけないんだよね……。

 うーん、どうするかなあ。

『実験室に入るまででいいんだったら俺が手伝ってやってもいいぜ』

 困ってたらケトラミさんから救いの手が!

「ほうほう、具体的には?」

『殺気出して威圧すりゃいいだろ?』

 それで無表情ーずが固まってる間に実験室に入れ、とな。

 ふむ。いざとなったらケトラミさんが何とかしてくれそうなので、ま、何とか実験室に潜入するまでは行けるね。

『で、入った後が問題だろうがよ』

「それはまあ、なんとかなる算段が付いてるんだよね。あとはスキル様と私の化け方次第って事で」




 私が今欲しいスキル、それは『変装』スキルです!

 服装を変えるのではなく、むしろ服装は変えずに、目とか髪とかの色を変えられるような。そういうレベルの変装です。

 それさえあれば……私が『異世界人』に化けられれば、勝てる算段が付いてる。

 それも、すっごくメタい上にぎりぎりの方法で。




 必要なものは何だろうか。変装、なんだから、やっぱり鏡とかだろうか。

 鏡鏡……と探したところ、割とそばに小さい池を発見。これでいっか。失敗したらまた探そう。

 池に自分の姿を映して見ながら、念ずる。

「金髪碧眼の白人っぽいボインなお姉ちゃんになーれ」

『おい』

 ケトラミの突っ込み空しく、謎発光。よしきた!

 そして光が収まった時には、自分、望み通りのパツキンブルーアイズホワイト人間になっておりました。

 ただし、サイズはそのままである。小さくはないが、そこまでボインでもない。

 ……くっそ、ケトラミが後ろで爆笑してやがる!

 いいじゃないか、折角変装するんだし、でかいのに憧れたって!




 まあいいや。これで私が異世界人を名乗っても、疑われないだろう。

 少なくとも、生徒だったとは思われないはずだ。

 こんなパツキンブルーアイズホワイト人間が学校に居た記憶は無い。

 あとは小道具として、木の蔓でさかさか編んだ籠を作って、近くに生ってたピンクブドウとレモンイエロー桃を詰める。

 よし。これでオーケイ。

 ということで、突撃開始だー!




 ケトラミが無言で毛を逆立てて近づくと、無表情ーずが目に見えて固まった。

 無表情なのに恐怖してるんだなあと分かる。

 よしよし、これならささっと通れそうだな。

 ケトラミさんが凄い形相で無表情ーずの間を闊歩する中を、できるだけ無表情に、何も問題はありませんでした、というように、すたすた通り抜けて実験室前に至る。

 ……怪我まみれの皆さんがぶっ倒れていらっしゃる場所でもある。

 早く『手当』したいが、道具も時間も無いのだ。許せ。

 すぐに方を付けてきますので、暫しお待ちを。


 意を決してドアをできるだけ優雅にノック。

 ……よし。想定通り、室内の空気が固まったのが分かる。

 そりゃそーだ。向こうはドアがノックされるなんて思ってもいないんだし。

 そしてたっぷり1分ほど中でひそひそ話が続いてから、用心深げにドアが開けられた。

「……アンタ、誰?」

 峯原さんじゃない女子だな。まあ、ボス自らがドア開けに来るなんて不用心なことするわけないね。

 さて、ここからが私の腕の見せ所ですよ。

「あら、お客様がおいででしたのね?」

 如何にも、作ったような驚き方……人工知能とかがとりそうなリアクションをとってみせる。

「だから、アンタ、誰なのよ!」

 そして私はにっこりと人工的に笑って、こう言ってやるのである。

「申し遅れました。私、スズモト様にお仕えしております、メイドのローズマリーと申します。どうぞマリーとお呼びくださいませ、お嬢様」

 メイド服の裾をつまんで優雅に一礼して見せれば、一丁上がりだ。




 とりあえず私の処置に困ったらしいその女子は、峯原さんを呼びに行った。

 その間、私は貼り付けたような笑顔のまま直立不動である。

 如何にもゲームで言う所のNPCっぽいしょ?

 ……そう。今回の作戦とは、『異世界人のメイドの振りをして潜入』するという作戦なのだ!

 何故無表情―ずが反応しなかったのか。それはNPCだから。

 何故主人の仲間が怪我してぶっ倒れてるのにそれに興味を示さないのか。それはNPCだから。

 そして、鈴本が無表情―ずの仲間入りをしてても不審がらない。何故なら、NPCだから。

 ……というように、『異世界人』つまりは『NPC』の振りをすれば、『そういうもんなんです』で済ませちゃえるのだ。

 峯原さん達が、この世界についてどのぐらい知識を持ってるかは分からないけれど、とりあえず『全てわかってる』事は無いと思う。

 そして、分からない領域がある以上は、何が起きたって『そういうもんなんです』で済ませてもらえるわけですよ!

 これで不審がられずに峯原さんの懐に潜り込み、味方であるかのように感じてもらえる、と思う。




 ということで、室内に招き入れられました。第一関門突破。

「あなた、メイドさんなの?」

「はい。私、スズモト様にお仕えしております、メイドのローズマリーと申します。どうぞマリーとお呼びくださいませ、お嬢様」

 さっきと全く同じセリフ、全く同じ表情、全く同じ一礼で返すと、益々普通の人間らしさがなくなっていくわけです。

「鈴本君の?へえ……鈴本君、こういう趣味だったんだ……」

 あ、ごめん、鈴本。あらぬ誤解を招いた。


「ね、マリーさん、だっけ?」

「はい」

「あのねー?あなたのご主人様だけど、今私の物になっちゃったんだよね。あなた、どうする?」

 言いながら、峯原さんは側にいた無表情鈴本を引っ張り寄せる。あれだ。挑発してるんだな?これは。主人に対して無礼を働いて見せて、私がどう出るか見てるんだろう。

 ……くっそ今すぐぶん殴りてえええええ!そのドヤ顔むかつくんだよ!

 ……という声と拳は胸の奥にしまっておいて、さっきと同じ、作ったような驚きのリアクションを取って見せる。

「あら!では、お嬢様が私のご主人様になられたのですね?大変失礼致しました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 そう言ってやれば峯原さんたちは、『なるほど、そういうシステムなんだ』みたいな顔をした。

「私、峯原愛っていうの。よろしくね、マリーさん!」

「はい、よろしくお願い致します、ミネハラ様」

 峯原さんは手を差し出してくるが、私は手を出さない。

「ね、マリーさん、握手」

「いけません、ミネハラ様。スズモト様もそうでしたが……異世界の方々は身分の差に寛容すぎます。あなた方は召使いと握手などしていい身分のお方ではないのですから。このような行動はお慎み下さいませ」

 困ったようににっこり笑ってやれば、それで峯原さんはそれで納得したらしかった。

 ふう。第二関門突破である。ちょろいちょろい。


「ね、ね、マリーさんってどこの人?学校に居た人じゃないよね?」

 よっしゃその言葉が聞きたかった!という喜びとガッツポーズは胸の中にしまっておいて、にっこり返答。

「出自は南西の何もないごく小さな村でございます」

「え、嘘、この世界の人なの!?」

「はい。……ということは、お嬢様方も異世界からいらっしゃった方々なのですね?」

「うん、そうなの!……へえー。この世界にも人が住んでたんだねー」

 よし、第三関門突破。あっさり信じてくれやがりました。まあ、そりゃ、こんな白人白人した人が学校に居た訳無いし、信じるっきゃないよね。

「ところでお嬢様方、ご朝食はお済みでしょうか?」

 尚、現在朝八時です。

「え?ううん、まだだけど……もしかして、作ってくれるの!?」

「そのためのメイドでございます」

 にっこり笑って答えてやると、是非頼む、というようなことを言われた。

 ふははははは!あっさり第四関門突破ァ!

 地獄の底で後悔するがいい!




 そしてさくさくと朝食の準備をしていく。

 手際の良さを峯原さんたちが褒めてくれるので、にっこり笑って痛み入ります、とか言っておいた。

 ふっふっふ、貴様自身の地獄への旅路の準備だ。手際がいいのも当然でしょうよ!




 メインはお野菜と肉のスープである。トマトベースのミネストローネ風。

 パンは作り置きがあるから軽く炙ればオッケー。

 ジャムは……案の定、なんか減ってたけど、気にせずそれも木の小さい器に入れて木のスプーンを添えて出す。

 更に果物も切って盛り付けて出す。

 冥土made by maidである。とくとご賞味あれ。

「朝食の準備が整いました。どうぞお召し上がりくださいませ、お嬢様方」

 にっこり笑って言ってやれば、峯原さんたちは席に着いた。

「いただきまーす!」

「あっ!こらっ!」

 早速食べようとした女子の一人を、峯原さんが押しとどめる。

「ほら、さっき言ったばっかじゃん!ほら、アレ!」

「アレ?……ああ、そっか、あ、でも……」

 成程。鈴本に毒見をさせたいけど、作った私が見ている以上、それもやりにくい、という事だな?

「お嬢様方、私は食後のお茶の準備をしておりますので、何かございましたらお呼びつけ下さいませ」

 一礼して薬品庫に入ると、峯原さん達は安心したように鈴本に毒見をさせ始めた。


 此処でのミソは、調味料は薬品庫に置いてあるという事と、社長が作った毒はやはり薬品庫に置いてある、ということ、そして、峯原さん達は鈴本を毒見係にしていて、そして鈴本には『毒耐性』があるという事である。

 ……もう、お分かりですね?




 私は実験用手袋を二枚重ねにして両手に嵌める。

 そのまま『手当』の準備をしたり、盗まれたもののチェックをしたりしていたら、実験室の方からうめき声と悲鳴が聞こえた。

 薬品庫のドアのカギはこっち側からかけっぱなしにしておいて、窓から出て庭に回ってから実験室を覗いてみれば、峯原さんたちが血反吐や臓物の欠片らしき塊を吐きながらのたうち回っていた。

 うわー、流石社長。えげつないもん作るなあ。

 流石にここまで凄いとは思わなかったぞ?一応、瓶に『ぎりぎり死なない』って書いてある奴を選んだんだがなあ。

 そして凄いのは鈴本だ。

 全員分の毒見をしているだろうに、ケロッとしている。流石は『毒耐性』。

 それらを確認してから、庭に積んである木材を二本手に取って表へ回る。

 案の定、峯原さんたちは外に出ようとしていたので、ドアを閉めて、木材でつっかい棒をしておく。もちろん前後両方のドアだ。

 ドアを掻く音が響いていたが、構わずぶっ倒れてる皆さんの『手当』をする。

 あーあ、こういう時回復魔法が使えればなー、って思う。


 全員分『手当』すると、そのころには実験室内が静かになってた。

 念の為窓の方から覗いてみたら、動かなくなった峯原さん達と、未だ無表情の鈴本がいるばかり。

 よし。とりあえず室内へ。

 峯原さんの脈をホントに念の為とってみたら、なんと!まだ生きてた!

 どうやら気絶してるだけのようだ。すげー。こいつらの生命力と社長の技術力に乾杯。

 止めを刺そうか悩んだが、それはやめておくことにした。

 やっぱりできれば殺したくはないからね。


 とりあえず、峯原さん達の武装を剥いで、布でがっちり縛って拘束しておく。

 それは外に出しておいて、ケトラミに見張っててもらう。

 くれぐれも峯原さんに接触しないように、ともちゃんと言ってあるから大丈夫だろう。

 その間にぶっ倒れてる皆さんと室内を『お掃除』して、皆さんを室内に運び込む。

 一応実験室に内側から鍵をかけて、ミッションクリア!

 ふう、メイドもやればできるんだぜ?


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