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19話

 ということで、遺跡の外に実験室を展開してお留守番です。……結局これかよチクショー!

 うーん、ケトラミさんは広いところでは超優秀なんだけど、建物の中とかではやっぱり無理があるのよね。

 うーん、でも他に小さい番犬雇おうとも思えないしなあ。

 うん、いいや。メイドの仕事なんだから、留守番を全うしましょう。




 はい。とりあえずほっといたサトウキビを何とかしようと思います。

 ……っつっても、正直サトウキビから白砂糖まで精錬できる自信が無い。

 まあいいか、黒糖でも。


 ということで、サトウキビを絞る。

 絞るのには、あれだ、モップ絞る用のバケツ、アレを参考にして針生に作ってもらったサトウキビ絞り用のバケツを使いました。

 うーん、絞るのって重労働。

 まあしょうがないよね。

 絞った汁をひたすら煮詰めて煮詰めて、灰汁とかとっていく。どろっとしたら、撹拌。

 撹拌した液体を鉄板の上に流しておく。で、冷えて固まったら出来上がり。

 ええっと、こんなんでいいんだろうか。

 とりあえず結晶化してくれたみたいで、一応固まった。黒糖ができた、と思う。

 食べても黒糖味がするから、多分大丈夫だろう、多分。

 ……なんとなーく、できそうな気がしてしまったので、『お掃除』してしまった。

 ……上白糖が、できた。


『お掃除』具合によっては三温糖も作れるっぽい事が判明。おお、便利便利。

 とりあえずサトウキビがどこに生えてたのかは知らんが、コンスタントに供給してもらえるならば、これからお砂糖にも困らんね。



 折角なので、サトウキビからサトウキビ二番出汁ならぬ二番搾り汁、つまり廃糖蜜を作る。

 それを『発酵』させたらラムである。

 ……もし、卵とかクリームとか、そういうのできたら、お菓子作りに使おう。

 それまでは……あれかな、果物を漬けておくぐらいかな。

 何てったって、私達高校生だからねえ。全員未成年です。

 お酒は二十歳になってから。ただしお料理に使うときは除く。




 さてさて、そうこうしている間にそろそろご飯の支度を始める時間です。

 今日は牡丹鍋です。〆は雑炊。

 猪捌く所からなので、結構大変ですな。

 でも、この世界に吹っ飛んできてから何体も『解体』してるからね。

 いい加減馴れてきまして、最初に鹿を捌くのにかかった時間位で猪三体捌けます。

 いやー、速い速い。スキル様のお力もあるしね、流石異世界クオリティ。

 この猪の歯は刃物だし、骨はよく分からん金属なので、分けて取っとく。

 後で鳥海に渡そう。

 しっかし、この骨は金属としては使えるんだけども、出汁を取るのにはとことん向かないんだよね。金属出汁がとれてもねえ?

 皮は相変わらず鞣す用にミョウバン食塩水溶液に漬けよう。

 しかし、いい加減これのスキルも欲しい。さくっと鞣したい。

 うーん、もしかして、漬けちゃうからいけないのかな?

 ミョウバン食塩水溶液が道具として認識されないとスキル発動しないとか?

『染色』もそんな感じの発動判定だしなあ。よし。

 ミョウバン食塩水溶液が入ったバケツを隣に置いて、皮に向かって念ず。鞣されろー。

 ……はい謎発光。そして皮は鞣されました。

 訳分からんぞ、この世界のスキル判定!ああ、今までの苦労は何だったんだろう。

 またスキル増えたよ。『皮鞣し』だそうです。そのまんまだね。

 まあいいや、うん、これからはもっと楽になるね。




 とかやってたら、皆さん帰宅。

「お帰りなさいませご主人様ーず」

「あーはいはい、ただいまただいま」

 もはや突っ込みさえ入れられなくなったぞ。


 という訳でご飯と相成り候。

 そして、やっぱりというか、皆さんは遺跡の中に下り階段にあたる物を見つけたらしい。

 つまり、学校でいう所の一階に行ってきた、と。

「よく分からんが、この学校のカギになりそうな部屋……校長室あたりを調べてみたら、この異世界転移の事も分かるかもしれないな」

「ああ、あと、やっぱり一階でも、二階と同じように廊下は川、吹き抜けは湖になってますから、校長室が滅茶苦茶遠いです」

 社長が描いてきたらしい地図を見せてくれる。

 校長室は南棟1Fの中心あたりにあったから、湖を超えるか迂回しないといけないんだよね。

「最悪の場合、お前を遺跡の中に連れてって向こうに引っ越すことも考えてる」

 ……その場合、ケトラミは遺跡に入れないから、お留守番だね。

 ……また私の戦闘力が、マイナス方向にえらいことになるね。

「ま、今の所その予定はない。その予定はないが、湖を渡る予定はある」

 鈴本が社長の地図(2F)を指差しながら、にやりと笑った。

「階段がここにあったんだ、あと3か所あってもおかしくないだろ?」

 つまり、ここからずっと西、モンスターがアホ強いというエリアに、北棟西階段。そして、ここからずっとずっと南に、南棟東階段、さらにそこからずっと西に、南棟西階段が、あって然るべきだろう、と。


 つまり、私たちはこれから、二階の南を目指していく、という事になるね。




 さて、ということでご飯も終わって、きっちり〆の雑炊まで食べて、就寝です。

 念の為外を見ると、案の定ケトラミが『ほら早くしろよ』みたいな顔して丸まって待機してたので、もうこれからはケトラミさんで寝ることにする。

 巨大ハタキではたいて、腹に埋もれて就寝。おやすみなさーい。




 朝です。何やら騒がしいです。

 主にケトラミさんの唸り声で。


 え、えーっと、そーっと目を開けても腹毛しか見えないので、そーっと顔を動かしてみる。

 そーっと見た結果、なんか、生徒と思しき人たちが遺跡から出てきて、こっちに向かってる様子。

 あ、因みに、遺跡はちょっと窪地になってるところにあって、化学実験室はその窪地の傾斜の上に設置してある為、遺跡から実験室までの距離は割とあり、かつ、実験室から遺跡が大層見やすいのだ。

 ケトラミは『お前は隠れてろ』みたいな顔してたので、ささっと背中に乗っからせていただき、背中の毛に埋もれて隠れていることにした。

「ケトラミ、できればちょっと鈴本達を呼んでくれないかな」

 流石に、ケトラミと私だけで対応するわけにもいかないだろうし。

「あおーん」

 言ってみた所、やる気34%ぐらいの遠吠えをして下さった。

 っつっても、軽トラサイズの狼が吠えたら、割と音量が凄い。

 気づいたらしく、化学講義室から武装した皆さんがさくさく出てきた。

 よし。これで後は何とでもなるだろう。私は引き続き埋もれて隠れてます。もふもふ。


「ちょっと、舞戸は?ケトラミに埋もれて寝てたんじゃなかった?」

 ただ、ちょっと私が行方不明みたいな扱いにされかかっていたので、背中から手だけだして振った所、ちゃんと発見されました。

「うわ、絶対あれ、もっふもふじゃん。いいなー、舞戸さんいいなー」

 ふっふっふ、針生が羨ましがってきたが、ここは譲らん。お前はお布団に寂しくくるまっているがいい!


「針生、あれ見えるか?」

 鈴本が針生に頼んだのにはわけがある。

 現在、憶測で午前三時ごろ。つまり、まだ暗い訳です。

 しかし、針生君は『暗視』スキルを持っているため、非常に夜目が利くのです。

 元々目がいい、っていうのもある。

「前方から人が……えーと、17人」

 17人……すごーく、聞き覚えがあるぞ?

「あー、それ、多分情報室に居た人たちだわー。うわー、嫌だわー」

「俺達、見殺しにされかけてますからねぇ……俺、こういう時、どういう顔をすればいいか分からないの」

「見殺しにされかけてるんだし……別に笑わなくてもいいと思うなぁ」

 そっかー、情報室にいた人たちが来たとなると、ちょっとひと悶着ありそうな感じがするね。




「どうする?このままいくとエンカウントするが。俺としては、鳥海と刈谷を見殺しにしようとした奴らなんかに出会いたくはないが、こちらが持っていない情報を向こうが持っているという可能性もある。鳥海、刈谷、どうする?判断はお前らに任せる」

「んー……ま、会いたくないのもあるけどさ、多分それって、向こうの方が俺達に会いたくないんじゃないかなー、って。だったら会っちゃっといた方が、後々めんどくさく無くない?」

「俺はどっちでも大丈夫です。はい。俺達を突き飛ばしてくれた人を一発殴りたいのはありますけど、はい」

 刈谷よ、その役目、私が引き受けようか?あ、いや、間違えた、ケトラミに委託しようか?

「いや、ちょっと待ってよ、あのさあ、なんか如何にも普通に会って普通に会話して終わり、みたいな想定してるけど、あいつら人をわざわざ見殺しにするような奴らで、モンスターに出会ったらパニくる女子が大量にいるんでしょ?下手したらこっちの食料強奪とか、実験室強奪とか、しかねないんじゃないの?」

 羽ヶ崎君の何とも言えない意見に、何とも言えない空気になる。

 いやー、だって、否定したいけど否定できないじゃない。情報室の人達がさ、インドア系人間からは何を略奪しても許される、とか思ってたら嫌じゃない。

 相手が何考えてるかなんて分かんないからさ。

 ……いや、流石に普通ならそれは無いと思うけどね?でも、今はちょっと普通じゃない。モンスターうじゃうじゃのサバイバル世界なのです。

 精神状態が異常になってる、そして集団心理で全員が狂気を高め合ってるような笑えない事になってたしても、全然おかしくないのだ。

 福山とかいう前例もいるしなあ。

「あ、あと、現実的なことを言うと、あいつらは全員戦闘職で、数は17。こちらは一人非戦闘員がいて、数は9です。交戦したら被害は免れませんが」

 ぐ。社長が私にとどめを刺しに来た。

 ぐぬぬぬ、そうなのだよ、もし交戦、なんてことになったら、数で負けてる上に、足手纏いが一人、ここに居るんですよ。

 うーん、どうにかしたいけど、どうにもならんなあ。

「ケトラミ、あいつらと君が戦った時、君、どのぐらい怪我する?」

 と、ケトラミに一応聞いてみる。

『俺があんなのに怪我させられるとでも思ってんのか?』みたいな顔してるけど、魔法とかで凍らされて足止め食らってる間にめった刺し、とかされそうだよなあ。

『そんなヘマはしない』との事ですが、こいつ、自信過多な所がある気がするのよね。


「……よし。ケトラミ、交戦することになったら、舞戸を連れて逃げろ。舞戸から離れるな」

「がう」

 ま、こういう事になるってのは分かってたさ、流石に。

 という事で、ケトラミはいつでも逃げられるように体制を整え、他の人はいつでも戦えるように、構えた。

 小声で歌って、『祈りの歌』と『願いの歌』を発動させておく。……一応、見た感じ向こうの人たちには掛かってないみたいだから、やっぱりこのスキルは妙に私の意向に沿った指向性があるみたいだね。




 そうしてじりじり、私たちの間に長いんだか短いんだか分からん時間が過ぎていった。


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