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16話

 さーて、皆さんも帰ってきたことだし、早速ぼっちじゃないご飯にしましょう。

「とりあえず、土産あるから確認してくれ」

 とのことなので、設置された化学講義室を覗くと、なんと、お土産……食料やらハーブやら、何やら装備のようなものまで、いろんなものが入ってました。

 ええっと、新しい食料はざっと見た所、真っ青な洋ナシ(果肉はペールブルー)、紫の柿、白い林檎、人参色の大根、アホでかいカボチャ、サッカーボール大の玉ねぎ、球形の山芋、あとは生姜とにんにく、バジルとラベンダー。そして特筆すべきはサトウキビと米!米!

 こ!め!

 米です。もう、米です。それはそれは、米です。

 実に講義室の床の八分の一は米で埋まっていた。

 というか、後で見せてもらったら、物理講義室は殆ど全部米だった。

 稲わらは除去されていて、脱穀さえしていないものの、マジで米。

 これだけあれば当分困らないね!

 いやー、米があると心理的余裕が違いすぎるね。

 麦とか芋とか、見たことのある食料も幾らかあった。

 あと、仕留めたばかりだという歯が刃物の猪もあったので、今日はそれで行きますかね。




 早速米を『お掃除』して精米する。八分づきなのは私の趣味だね、きっと。

 こちらを土鍋で炊きつつ、猪の解体をちゃちゃっと終わらせる。

 米が炊ける頃には解体も済んだので、米は木を『お掃除』して作ったお櫃に入れて蒸らしつつ、どうせ土鍋いっぱいのご飯じゃ足りないだろうから、第二陣を炊き始める。

 おろした生姜と醤油、水飴を合わせた調味液と一緒に薄切りにした猪肉をボウルに入れてちょっと放置。

 その横で大根メインのスープをこさえる。

 そしたらさっきの肉と櫛切りの玉ねぎを鉄板で炒めて、今日のごはんです。

 え、メイン?生姜焼きじゃなくて米ですよ?




 そうして夕食と相成りました。いやー、賑やかでいいよね。一人じゃないっていいね!

「さーさー、たんとお食べ」

 言うまでも無く、皆さん食べてますけどね。

「まともな料理とか食べるの久しぶりですわー」

「俺達がやるとこう、米がバリカタかお粥になっちゃうんで……あ、聞いてくださいよ舞戸さん。なので俺達は米を茹でてからお湯を切るっていうご飯の製造方法を確立したんですよ!」

「ああ、インディカ米とかの炊き方かぁ。急ぐ時に便利だよね、あれ」

 増えた2人……鳥海と刈谷は、恒例の反応をしてくれるので、まあ、こちらとしても嬉しい。今まで何食ってたんだって不憫にもなるけど。


「とりあえず、誰か今回の遠征について、さくっと報告お願いします」

「ああうん、ごめん、食うのに忙しいから社長頼んだ」

「俺も食うのに忙しいので羽ヶ崎さん頼みました」

「僕も食べるのに忙しいから角三君で」

 もう誰でもいいから早くしてくれ。

「えー……えーと、どこから話したらいいんだろ、えーと、まず遺跡を探索してたら、装備とか色々あって、それ拾って一日目が終わって、二日目に遺跡の一番奥でよく分かんない渦?みたいなの?見つけて……それに入ったら……あー、もう無理、加鳥、パス」

 そこでパスするのか、角三君よ。

「え?僕?えーと、渦に入った所で、なんか見たことの無い地形の場所に出たんだよね。こっちよりも寒い所だったな。それで、そこを探索してたら物理実験室見つけちゃったんだよね」

 ……物理?

「え、物理?物理って……三階だったよね?」

「そう。つまり、遺跡の奥の渦は、学校でいう三階に繋がってた、っていうことみたい」




 そ、そりゃ大発見だな。うーん、私が手に入れた情報なんて霞むなあ、やっぱり。

「それで、物理実験室に鳥海と刈谷がいたから、合流して、二日目は終わり。三日目に物理実験室と、その割と近くにあった物理講義室と物理研究室を拾って、それからその辺の食べ物とか拾いながら帰ってきた。米は鳥海と刈谷が蓄えてたのをそのまんま接収してきたかんじかな」

 ほー。……あれ?

「鳥海と刈谷って、情報室にいたんじゃないの?」

「え、あー……うん、俺達確かに情報室スタートだったんだけどさあ……」

「周りがリア充ばっかだった為、キモオタ死すべしとばかりに我々がモンスターの生贄にされまして」

 えっ、なにそれこわい。


 ちょっと何言ってるか分からなかったのでそこんとこを詳しく聞けば、情報室スタートの人は、鳥海と刈谷を含めて全部で18人という大集団だった模様。

 そして、情報室内の探索が済んで、全員武装して、全員で外の探索に出かけた。

 ところが、出くわしてしまったのが偶々ゾンビ系というか、なんつーか、見た目が大層キモいモンスターの群れだったらしい。

 そのモンスターの群れに怯えた女子たちが騒いでパニックに。

 そうこうしている間にモンスターは襲い掛かってくるし、女子はパニクるばっかで戦力にならないしで、あっという間に劣勢に。

 そうこうしている間に女子と一部の男子が逃走。

 しかも、只逃走しただけならまだ良かったのに、他の生徒を身代わりにする形でモンスターの群れに突き飛ばしてから逃げたものだから、突き飛ばされなかった生徒も含めて、益々劣勢に。

 ということで、特に逃げずに、かつ突き飛ばされなかった生徒もまともに戦える状況ではなくなり、突き飛ばされてモンスターに囲まれまくった生徒……つまり、鳥海と刈谷を見殺しにして、そいつらも逃げるしかなかった、と。


「そんな状況でどうやって君らは生きのこったのよ」

「あー、なんか俺の職業が『僧侶』でしてぇ……あたり一帯を浄化できたらしくて、それでなんとか」

 成程。モンスターがゾンビ系ばっかりだったのが不幸中の幸いだったのね。

「ただ、その後刈谷がなんでか気絶しちゃってさあ……しょうがないから俺が担いで何とか逃げて、川挟んですぐに物理実験室が見えてたんで、そこに避難したって訳!そこは無人だったから丁度良くてさ」

「周りに米が大量にあったんで食べるのにも困りませんでしたし」

 成程、そんなに状況は悪くなかった、と。

「それからは俺と鳥海で細々と生活をですね。ハイ」

「俺が『戦士』で刈谷が『僧侶』だったから、まあ、バランスも良かった、ってのもあるかな?」

 ああー……。うん。なんか、不幸中の幸いが重なりまくってんなあ、こいつら。




「さて、舞戸、そろそろ説明してもらおうか。あのでかい狼はなんだ。あと、あの黒板の怪文書もなんなんだ」

 あー、ついに来てしまった。うーん、なんか嫌だなあ。嫌だけどしょうがないね。


 ……ということで、ざざっと説明をしたところ、『福山を見つけたら殺そう』みたいな結論になった。

 せめて生け捕りにしてあげてほしい。




「じゃあ、お前、移動手段ができたんじゃない?」

 ……ああ、そうです。そうなのです!

 私、ケトラミに乗っけてもらえば、皆さんと同じかそれ以上のスピードで進むことができ、かつ、ケトラミはどうもえらく強いらしいので、恐れて大抵のモンスターが寄ってこない為、安全も割と確保できるのです!

「ということは、お留守番係解任?」

「……でもいいんじゃないかと、僕は思うけど。お前ここに残しておいたらまた福山みたいなの来るかもしれないし。他の人、どう?」

 おお、羽ヶ崎君の援護射撃だ、珍しい。……福山君効果が大分効いてるんだろうけどさ。

「俺もそれでいいと思う。ただ、舞戸の本領が発揮できるのは室内だっていう事も確かだろうし、そこんとこはバランス見て、だな。あと、えーと、ケトラミ?だっけ?あいつの様子見るのも必要だろうし」

 鈴本からもOKが出て、他の人からも特に反対意見が無かった為、次回の外出に私も付いていくことになりました。ヒャッホオオオオオウ!やっとお留守番解任だぜえええ!




「ところで舞戸さん、いくつか確認したいことがあります」

 ご飯も終わって、片づけに入ろうかという所で、社長が急に挙手。はい、どうぞ。

「このシャツなんですけど、なんですか?これ。『最大MP上昇』っていう効果が付いてるんですが」

 ほうほう、よし来た。説明して進ぜよう。


 ということで、染色の研究成果について発表すると、特に魔法を使う羽ヶ崎君、社長、加鳥、あと刈谷あたりに大層評判が良かったので、新しく何着かまた縫う事になった。

 うーん、その内HPが増えるやつとかも作りたいものである。




「あと、俺達が遠征中に、『歌謡い』のスキルが増えましたよね?」

「あーうん、増えた。攻撃力上がった?」

「はい、攻撃力が増加しましたね。あれは『祈りの歌』とも重ね掛けできるみたいなんで、これからもお願いします」

 あ、そうだそうだ。これも聞いておこう。

「えーと、刈谷と鳥海と合流した時、刈谷と鳥海には歌の効果が掛かってた?」

「あ、うん。掛かってた。っていうか、遭難二日目ぐらいからずっとあったから、コレ何だろうねー、ってやってた」

 ……えっ。




「それは初耳だな、おい、ちょっと、加鳥と針生は」

「え?うん、俺らもなんか二日目あたりからずっと出てたよ?こっちに合流してから舞戸さんのスキルだって分かったけど」

 ……えええええええ!?

「……角三君は」

「あった」

 ……ええっと、ええっと……だ、だめだ。私には理解できない。

 なんでこいつらには掛かって福山君には掛からないんだ。あれか。仲間意識が無いと掛からないのか?

 逆に仲間意識がありさえすれば、誰にでも、どこにでも掛かるのか?

 ……これはもう、確かめる手段も無いので保留になった。

 とりあえず言えることは、案外私も役に立っていた可能性がある、っていうことである。




「あ、あとそうだっ!皆さんっ!誰でもいいから『歌謡い』のスキル覚えてくれえ!もう必要ないかもしれないけどさ!」

 そうです。今回のお留守番で気づいたことは、『歌謡い』みたいに、遠くにいる仲間にも掛かるスキルがあると、安否確認ができて大層安心です、って事である。

 私もお留守番係解任なので必要ないかもしれないけど、一応その事を伝えると、あっさり了承が得られた。

 情報伝達の手段が無い事には皆さんも頭を悩ませていたらしい。

「さて、問題は誰が覚えられるか、って事だが」

 うーん、皆特に音痴でもないので、やろうと思えば誰でもできそうな気もする。

 順当にいけば後衛の誰かかな、とか思っていたら、角三君から恐ろしい提案があった。

「ちょっと気になったんだけど……このスキルって……合唱したら、どうなるの?」

 ……知らないことがあったなら、実験でしょう。




「はい、じゃあいくぞー、さーんはーい」

 全員で歌えそうな曲が非常に少なかった為、とりあえず校歌から歌ってみる。

 ……女声に対して男声の比率が大きすぎてバランス悪いことこの上ない。

 バランスは悪い物の、なんか歌ってる内に部屋が光り出した。

 そしてちょっと揺れたかと思うと……浮いた。

 全員びびって歌うのをやめると、そのままふわっと着地。

 ……なんだかよく分からなかったけど、うん。もう校歌は歌わないでおこう。


 その後も全員で知っている数少ない曲を片っ端から歌いまくっていた結果、合唱してもあんまり変わらないことが判明した。

 うーん、『歌謡い』スキル持ちが合唱したら何かあるかもしれないけど、普通の人と合唱してもあんまり変わんない、ってことなのかな。

 でも校歌は……浮いたしなあ。うーん、分かりません。




 そして全員をハタキではたいた後、いざ就寝、となった時、事件は発生しました。

 ……布団の取り合いです。

 第一次布団戦争、勃発。いや、多分、第一次どころじゃないんだろうけど……。

 そう。2人増えたから、布団が足りなくなっちゃったんだよね。

 着替えには気が回ったけど、布団までは流石に用意しなかったからなぁ……。

 しょうがないから私の布団と鞣した毛皮を進呈して、私はケトラミの腹に埋もれて寝る事にしました。

 そしたらなんかそれはそれで私の布団をなんとなく使いたがらない皆さんでの押し付け合いがあったらしいけど、それはどうでもいいや。


「ケトラミーっ」

 大きな声で呼べば、どこからともなくケトラミが走ってやってきた。

 その間僅か十数秒。呼べばすぐ来るのでホントにこいつは便利だなあ。

「お布団になってくれい」

 ね?ね?とお願いすると、やっぱり『しょーがねーなー』みたいな感じで丸くなって座ってくれるので、早速腹に埋もれてみたけど、なんか、ちょっと獣臭い。うーん、これは問題だなあ。

「ケトラミ、お掃除してもいい?」

 と聞くと、『好きにしろ』みたいな顔をするので、遠慮なくハタキでぽふぽふやらせていただく。

 ……表面積が表面積だったからか、妙に疲れたぞ。

「よし、ではおやすみー」

 自分もハタキではたいてから再び腹に埋もれると、今度は非常に寝心地のいい寝床になっていた。手触りもなんかちょっと違うかんじ。

 極上の羽毛布団よりも軽くてやわこくて、そしてなおかつ温い!

 これで眠れるってだけでもう、幸せであります。

 うーん、やっぱり私、メイドでよかったかもしんない。


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[良い点] 男は包容力か……。 [気になる点] 体臭はきおつけやう。
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