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176話

 宴は恙なく終わった。

 ご飯はまあ、あれだよ。ビュッフェスタイルにした。さもないと色々間に合わなくて。

 そして大体はまあ、から揚げだったよ。分速130から揚げをマークしたよ。

 から揚げの他にも色々作ったけれど、やっぱり一番売れ行きが良いのはから揚げだね。

 老若男女問わず人気、から揚げ。

 ……いや、女子にはデザート類の方が人気だったかもしれないね。そっちも結構すぐ無くなった。

 特にプリンは……いや、それは原因が分かってるから何も言うまい。

 そして今、それも終わって全員眠りについた。

 いや、眠れない人もいるだろうから、『拡声』で『子守唄』をガンガン流して全員寝かせた。

 よっぽど耐性がある訳でも無かったら、寝てるだろう。

 そして私はというと、片付けものも終わって、今から寝るよ、っていう所だ。

 明日の朝ごはんの仕込みも終わったから、ちょっとゆっくり寝坊できるね。

 ケトラミさんで寝るのもこれが最後になるね。

『舞戸―、僕もー』

 ケトラミさんを綺麗にしてたら、ハントルがずりずりやってきた。

 うん、この子もすっかり大きくなったし、強くもなった。

 置いて行ってもケトラミもグライダもマルベロもいるし、大丈夫だろう。

『舞戸様!私も混ぜてください!』

『折角なので!』

『暑くしませんから!』

 多分それは無理だと思うんだけれど、折角だから一緒に寝ることに……暑い!

 いいや、うん、我慢しよう。

『アラ、いーわねえ。アタシもお邪魔しちゃおっかしら』

 そしてグライダも側に来て脚を折り畳む。

 うーん、星が綺麗な夜だ。

『……寝ねえのか』

『寝るよ』

『だったら早く寝ろ。体に障るぞ』

 分かってるよ。

 ただ、寝ちゃうのがちょっと、勿体なくもあるんだ。




 つっても、寝ました。

 おはようございます。朝です。

 起きたんだけれど、もうちょっと寝てられそうだったから布団……というか、ケトラミさんでうだうださせていただく。

 もふもふをしっかり堪能したら、ちょっと勢いを付けて脱出。

 ……うん。これで最後である。

 狸寝入りを続けているケトラミさんの意思を汲んで、ここは黙ってお別れしよう。


 朝ごはんはパンかご飯かで選べるようにした。

 最後のご飯になるからね。

 おかずはそれぞれベーコンエッグだったり、味噌汁だったりスープだったりおひたしだったり漬物だったり……うん、まあ、色々あるよ。


 朝ごはんも終わって『メイドさん食堂』は閉店した。

「ええと、とこよたちは残るんだよね?」

 聞くと、メイドさん人形達はこくこく頷いて見せる。

 ……彼女たちはこの世界に残ってなんやかややるつもりでいるらしい。

 うん、世界征服狙ってるんだってさ。頑張れ!

 しかし、まあ、この戦闘が終わるまではご一緒願うので、スカートの中に待機してもらう。

 ……周りでは、いろんな人が、戦闘の準備をしていた。

 そして、私は非戦闘員に『眠り繭』を掛けていく仕事を始める。

 最初こそ驚かれたけれど、その内全員大人しくスキルを掛けられてくれるようになったので楽だった。

 まあ、「死にたくなければそうしてください」って、社長に言われたからなあ。

 そりゃ、大人しくなるね。

 ……さて。私はハタキとメイドさん人形と、MP回復薬の準備だ。

 私と、私とパスが繋がっている人へのMP補給は、メイドさん人形を通して無限に行える。

 メイドさん人形がMP回復して、そのMPを私が輸送する、っていう事になるね。

 ……一応、部内では、全員とパスが通ってるらしい。『共有』なのかな。

 それから明石もだね。……これはグラスの中身の『共有』だろうなあ。

 明石は演劇部全体へパスが繋がってるらしいから、実質ここら辺は無限MP軍団、という事になる。

 そこら辺の用意もしたら、あとはもうやる事が無くなった。

 ……私がやる事は大したことじゃない。

 どうか皆さんご無事で、と、祈ることとMPを供給する事と回復薬を投擲することとメイドさん人形で索敵する事位しかできない。あ、あと、加鳥に召喚してもらったル○バを動かす事。

 ……あれ、割とできる気がする。いや、気のせいか。

 少なくとも、直接の戦力じゃないからなあ。

 ……あと、アレだ。私が、室内の安全を任されたのだ。

 それは私が守ってみせる。

 何故なら私は『メイド長』。

 主人の家を守るのも私の仕事である。




『全校生徒に連絡します。各自、スタート地点にスタンバイしてください。繰り返します。スタート地点にスタンバイしてください』

 放送が流れて、私たちはそれぞれの戦場に赴く。

「舞戸さん、頑張ってね」

 加鳥がにこにこしながら私の肩を叩いて、グラウンドへ向かう。

 こいつは人型光学兵器で戦うらしい。うん、狙撃するよりも効率良さそうだもんね。

「舞戸さん、その、MP。お願いします」

 刈谷はぺこん、と頭を下げつつ、1F南の保健室へ。後で移動するらしいけれどね。

 こいつのMPは生命線だ。私が絶やさないようにするとも。

「んじゃ、お互いがんばろ」

「……ええと……がんばろ」

「怪我しないでねー」

 鳥海と角三君と針生が手を振りながら西グラウンドへ向かう。

 この3人は安定してるし、多分大丈夫だと思うけれど、怪我には気を付けて欲しい。

 尚、シューラさんは既にグラウンドだそうだ。

「舞戸さん。撤退の判断は舞戸さんに任せます。危ないと思ったらすぐ撤退してください」

 社長は3F北の教室から魔法と毒で北グラウンドを狙撃する予定だそうな。

 おおこわいこわい。

「じゃ、ヘマしないでよね」

「あまり気負うなよ」

 羽ヶ崎君と鈴本も西グラウンドに向かう。

 ここ2人も強い。強いのは分かってる。

 ……ただ、不安なのはしょうがないだろう。

 強くても、前回死んだり死にかけたりしてるんだから。

「……よし」

 誰にともなく声に出す。

 ……私の戦場は、違う場所だ。

 それぞれの場所でベストを尽くすしかない。

 私は私に与えられた仕事をこなすだけだ。




 私が待機するのは、3F南の教室だ。

 私はここで、『眠り繭』の非戦闘員たちの安全が確保できるようになるまで、この巨大ハタキで毒蛞蝓共を消し続け、そして、安全が確保できたら彼らの『眠り繭』を解除。

 その後、彼らには籠城していてもらって、私は校舎の中の化け物をできる限り消し続ける。

 それだけだ。

『これより、校歌を斉唱します。校歌の斉唱終了直後に開戦となる見込みです。繰り返します。これより、校歌を斉唱します。校歌の斉唱終了直後に開戦となる見込みです。……健闘を祈ります。……がんばってね!怪我しないでね!』

 放送部2人の声が聞こえた後、校歌の録音が流れてきた。

 合わせて歌う。この部屋で歌うのは私一人だ。残りは皆『眠り繭』だからね。

 一人だけれど、ドアの向こう、窓の外から、微かに他の人達の声も聞こえる。

 3番まである校歌を歌い終わると、浮いた教室は全てがかちりと組み合わさって、元の1つに戻る。

 ……そして、その一瞬で。教室は化け物で埋め尽くされた。

 ……やってやる。




「行け!ル○バ!」

 加鳥から貰ったル○バを放つと、それらは化け物を消しながらのんびり進む。

 のんびり、進む。

 ……実にのんびりだけれど、まあ、ありがたい。

 私は巨大ハタキで当たるを幸い、というかんじに蛞蝓だか海牛だかわからない奴らを消していく。

 毒なんか食らっても痛くもなんともないので、ダメージ覚悟の特攻も実質ダメージ0に近い。

 1分とかからずに教室内の化け物は殲滅できた。

 窓の外を見たら、そっちも激しい戦闘になっていた。

 ……そして、何より。

「……嘘だろ、ケトラミさん」

 ケトラミさんが戦ってた。

 グライダとマルベロもいる。ということは、ハントルもいるのかもしれない。

 それから、シューラさん他ドラゴンズも。

 ……その戦いっぷりに危なげな所は全くない。

 ああ、本当にケトラミさんは、強いんだ。

 それに、危なくなったら逃げる位の事はやってくれるだろう。その心配は無い。

『こっち見てんじゃねえ!お前はお前の仕事してろ!』

 あ、怒られた。

 ……加勢したい気持ちもあるけれど、私が加勢しても何にもならない。

 私を通して消費されていくMPをメイドさん人形から補給しながら、廊下に出る。

 廊下も化け物でいっぱいなので、それも当たるを幸い方式に片っ端から消していく。

 巨大ハタキの真価発揮だね。

『舞戸さん!もし手が空いていたら、応援をお願いします!』

 ……何故か、社長から連絡が来た。

『了解!』

 ……まさか、この化け物にてこずって……るのか!?

 何かあってからだとまずい。

 ハタキを槍のように構えて突進。

 北棟への渡り廊下は外だ。けれど、ここを通るのが早い。……走って抜ければいいだろう。

 ハタキを構えて渡り廊下に出た途端。

 ……交通事故だった。

 交通事故です。10:0で私が悪いかんじの交通事故です。

 目の前に急に現れた、アホみたいに強い例の化け物に、ハタキがぶつかっていた。

 ……化け物からしたら、変な人間が急に現れたんだと思う。そして、痛くも痒くもない攻撃をされた、と、思っただろうか。

 或いは、気づかなかったかもしれないね。あまりに弱すぎて。

 ……そして、このチャンスを逃す私じゃない。

「『お掃除』ィッ!」

 叫べば、ぽふん。と。

 ……他の人が散々倒すのに苦労する化け物も、一瞬で消える。

 消える。

 ……いよっしゃあああああああ!なんかよく分からないけれどやった!私はやった!

 しかし、喜びも束の間。

 新手が襲い掛かってくるので、全力疾走してそのまま渡り廊下を抜ける。

 小躍りしたい気分だけど、そんな場合じゃないひゃっほー!

 そのままハタキが当たった海牛だけ消して、とにかく社長の居る所まで走る。

「無事かーッ!?」

「舞戸さん!ここの化け物をお願いしてもいいですか?その後は保健室へ」

 何故か、そこには化け物がまだいっぱいいた。

 そして、社長は他の人達を庇うようにして一人、毒塗れになっていた。

 うん、問題なさそうだね。

「こいつらは薬品や毒物への耐性が高いみたいです。それから、刃物の上ではほぼ無敵と言っていいでしょう。物理的な攻撃は全般的に効きにくいです」

 全部化け物を消し終わったら、社長がそう教えてくれた。

 プラナリアみたいなもんらしい。斬ったら増えるとか、嫌すぎる。

 まあ、外の化け物に対して弱すぎるとは思ったんだ。

 なんというか、私と最高に相性のいい(相手にとっては最高に相性の悪い)化け物だったらしい。

「保健室の人達も困っているかもしれません。お願いします」

「了解!社長も、気を付けて!」

 教室を出て、また化け物を『お掃除』しながら進む。

 ……あああ、どうしよう。どうしよう!

 今、私は戦闘で役に立っている!役に立っている!繰り返す!戦闘で役に立っている!

 ……不謹慎だって?いいや、喜ぶね!

 やっと、私の出番だああああああああ!


 そのまままた廊下や階段の化け物を一掃していって、保健室に駆け込む。

「無事かーッ!」

「舞戸さあん」

 そこではやっぱりというか、バリア張って化け物の侵入を防いでなんとかやっている刈谷達がいた。

「はーい、皆さんを困らせる化け物は『お掃除』しちゃおうねー」

 そして、保健室の化け物も一掃。凄く!気持ちいいです!

「うわあ……舞戸さん、どうもありがとうございました。あの、ついでに廊下とかも」

「OK!1Fに外の人達が避難できるように綺麗にしておくね!」

 避難経路に毒を吐く蛞蝓がいたら面倒だもんね!

 さあ!綺麗にするぞ!綺麗にするぞ!


 それから15分ぐらいで、校舎全体をお掃除して回った。

 もう海牛か蛞蝓みたいな奴は居ないと思われるので、『眠り繭』を解除する。

 その部屋にメイドさん人形を2体程置いて行って、何かあった時の為の連絡路にする。

 多分、もう居ないと思うけどね。

 それから窓の外を見る。校舎から放たれる魔法や矢が、化け物を攻撃していく。そして、そっちに気を取られている隙に、外に居る人たちがまた攻撃を加えて。

 そして人型光学兵器がビームを放つ。おー、良い眺めだ!

 ……あ、テラさんと角三君が見える。それから、あれは針生と……あ、うん、鳥海もいるね。

 今凍ったあれは、多分羽ヶ崎君の仕業だろう。という事は……鈴本も見つけた。

 皆、戦っている。

 前回より、ずっと安全に、苦戦せずに戦ってる。

 ……うん。良いかんじだ。

 本当に前回とは大違いだ。

 何かあったら逃げられる、っていうのもでかいかもね。心理的な余裕が違いすぎる。

 私も窓から申し訳程度にお手伝いしたり、保健室の手伝いをしたりした。

 ……無茶やって私が死んだら迷惑以外の何物でもないから、渡り廊下で外の化け物を張るのは止めておいた。

 元凶があるんだかないんだか分からない今、そういう事やっちゃいけない。

 ……けど、たまーに、窓のすぐそばに陣取ってくれてる化け物が居たりすると、窓開けてハタキではたいたり。


 ……そうして、戦闘は数時間続いた。




 最後の化け物が消えたのだ、という事が感覚で分かった。

 そして、校舎が光り始める。

 校舎全体が歓声に包まれるのに、数秒と掛からなかった。

 ……私達は、勝ったのである。


「舞戸!」

 外に出ると、もう皆さんお揃いであった。

「長かったですね」

「ねー。でも、前よりずっと楽だったなあ」

 あちこちで喜び合う人たちが見える。

「疲れたんだけど」

「……死んでない?俺、死んでない?」

「生きてますよ、大丈夫です」

 放送室からは、例の二人の喜びの声とロミジュリ劇が流れてくる。

「俺結構やったよ!多分7体は倒した!」

「んー、多分俺もその位やったかなー」

 あ、明石がこっちに突進してくる。逃げた方がいいかもしれない。

 ……逃げるまでも無いな。これは。

「舞戸、お疲れ」

「うん。そっちも。お疲れ様」

 校舎を包む光は強さを増していく。

 懐かしい気配がする。

 私たちの世界は、もうすぐそこなのだろう。




 強い光が収まった時、私の目の前に広がっていたのは。




 ……草原であった。




 ……具体的に、言おう。

 ここは2F南エリアの草原である。

 私以外にあるものは、ええと、ケトラミさん他モンスターの皆さん。メイドさん人形達。あと、草。そして空。

 それだけである。

 ……置いて行かれたらしい。


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