173話
夜寝る前、皆さんの進捗を聞いた。
「今の所、消した元凶は……18、ってところか?」
うお、結構やってた。
見つけた元凶は一旦私の所に来て、それを『共有』して返す、っていうのをやってたんだけどさ、思ってたよりも多かった模様。
「大丈夫なの、君達はそんな探索と戦闘の連続で」
「戦闘訓練は必要ですし、探す時はコンパス頼りで乗り物ですから」
社長がそう言うと、応えるように「きゅー」と、テラさんの声が外から聞こえた。
おお、そうかね、そうかね。
「どちらかというと、俺達としては舞戸さんが『共有』した元凶を消す事で舞戸さんへの負担が大きくなっていないかが心配なんですが」
「それこそ大丈夫だよ。元凶から出てきたマネキンさんと『共有』してから、そんなに痛くも無くなったし」
ただちょっと、どうしようもなく懐かしくて切ない気分になるだけなのである。特に問題は無いよ。
説明すると、社長も「ならいいんですが」と、納得した模様。
「霊薬も作ったので、明日から人を生き返らせられますよ!」
刈谷は仕事が主に回復だから、戦闘訓練の傍ら、専ら霊薬づくりに勤しんでいた模様。
「そこで相談なんですが、舞戸さん。……舞戸さんが命を『共有』できそうな人は、その程度いますか?」
……成程。うん。そういう事か。
分かった。
つまり、私は、この面子の中だったら、グラスの中身のやり取りにさほど抵抗は無い。
但し、某福山君とかとやれ、って言われたら、ちょっとお断りする。
流石にお断りする。
……つまりだな、自分を削ってもいい、と思える人は居るか、っていう事だ。
そしてそれは『人造命』の節約、つまりは『奈落の灰』及び元凶の節約になるのだ。
「そうだなあ、明石は死んだみたいだけれど、あの子は私が担当するよ。残りの演劇部の人達は、明石が生き返ったら明石に『共有』を『共有』して明石にやってもらってもいいと思う」
尤も、強制はできない。
できないけれど、明石なら、まず間違いなくやるだろう、という確信はある。私はその程度には、明石を信頼しているのだ。
「相良は俺がやろう」
ジョージさん組の相良君は、鈴本が担当することになった。そしたら、そっちは相良君が何とかしてくれるかもしれない。
というかだな、『共有』の『共有』ができればいいんだよな。多分……誰か一人ぐらいは、死んだ人に命分けてもいいよ、っていう人が、居るんじゃないんだろうか……。
……つくづく、錦野君は死ななくて良かったね。彼、友達が少ないみたいだから……。
「よし、じゃあ、明日はその呼びかけか?」
「いや、いきなりそれをやると、間違いなく混乱します。最初は俺達の手の届く範囲でやるべきでしょう」
それもそうだね。
スキルの『共有』なんて、下手にやったら派閥とかを作りかねない。
……いや、作ってくれても構わんよ?構わんけど、それは……めんどくさい。なんとなく。
ということで、明日の予定も決まった所でおやすみなさい。
はい、おはようございます。
今日も一日元気に過ごしましょう。
朝ご飯はパンケーキでございます。卵白泡立ててふかふかにした奴。
それにバターと、蜂蜜をたっぷりかけて食べようね。
他のメニューは、切った果物と、野菜サラダ、焼いたベーコンと、それからスクランブルエッグ。
ちなみに、蜂蜜はマルベロが今朝見つけてきた。
2F南西にあるでっかい木に、これまたでっかい蜂の巣が付いていたのだ。
そして、出てきたのはこれまたでっかい蜂の大群。
……しかしだな、蜂って……小さいから、脅威なんだと思うよ。
だって、私のハタキだけで何とかなっちゃったのだから。的がでかいし、寄ってきたらすぐ分かる。
相手の針のリーチよりも私のハタキの方がリーチが長いという奇跡。
そしてだな……蜂にとっては運の悪い事に、私は『毒耐性』持ちなのである。刺されても死なない。
そうして、でっかい蜂の巣をそのまま持って帰って来て、蜂蜜をたっぷりととったのでありました。
ちなみにこの蜂蜜とバターは、メイドさん人形達が持ってテーブルの間を飛んで、声を掛けるともらえる、っていうシステムになっていた。
良い部下を持ちました。本当に。
朝ごはんが終わったら、私たちは演劇部の居る教室に行った。
シュレイラさんから貰ってきた『深淵の石』を持って。
「……あ、お前らか」
出てきたのは紫藤君だったけれど、なんというか、やつれた。
「明石を生き返らせに来ました」
しかし、そう言った瞬間、いきなり生気が戻ってきた模様。
「これだ」
そして、紫藤君は教室の中に私達を招き入れると、布に包んだ宝石を持ってきた。
それは明るいピンクがかったオレンジの石だった。あー、うん。『鑑定』しなくても分かるよ。明石だ、これ。
「お布団ありますか?」
とりあえず紫藤君にお布団を一人分敷いてもらって、そこに宝石を乗っける。
そしてその宝石に霊薬をぶっかけると、とりあえず明石の死体ができた。
「明石ぃ!」
「あ、まだ生き返ってないです。触らないで」
情緒不安定な紫藤君を押しとどめて、『深淵の石』を明石の胸の上に乗っける。
そしてそれを私の『滅光』で撃つ。
……ぽふん、と音がして、『深淵の石』が灰色になる。
うん。さしもの『滅光』も私の手に掛かればこの様よ。
そっちは成功したので、早速明石と『共有』。
……おや。明石のグラスは綺麗だなあ。
サンドブラストで描かれた花の模様と、口に向かって広がる形が華やかな印象だ。
そこに私のグラスの中身を入れると、入れた瞬間から明るいピンクがかったオレンジになる。
パールのような光沢があって、なんというかやっぱり明石っぽい。
徐々に中身が増え始めているのを確認して、離脱。
そして、明石には悪いけれども、確認の為、『共有』で叩き起こさせてもらう。
「ふあああああああああ!」
そして、起こした瞬間、明石が飛び起きて私に思い切り頭をぶつけた。
「痛いぃ……」
……私も痛い。あ、血が出てら。頭割れたらしい。自分で治しておく。
そして、明石は一頻り痛がった後、ぱっ、と顔を上げて、私を見た。
……そして、ぱあああ、と顔を輝かせたかと思うと。
「まーいとーぉっ!」
文字通り、跳躍込みで、飛びついて来た。
「ぎゃーっ!」
「舞戸っ!舞戸っ!」
そしてぐりぐりと抱き付いてくるけれどそれは抱き付いてるんじゃなくて絞め殺そうとしてるの間違いじゃないのかお前グワーッ!
「ごめぇん……」
「君がランキング1位だよ……」
何のランキングかって?私の骨折りランキングだよ。
背骨ボーナスが入って鈴本が一位だったけれど、明石は背骨どころか骨盤までべきべきにしてくれたのでもう君がナンバーワンだ。永遠のナンバーワンだ。
背骨も骨盤も、ってなると流石に自力で治せなくて、刈谷に治して貰った。毎度お世話になります。
「明石!お前って奴はどうして!」
「え、うん、ごめん……えっと、えっと」
そして、そっちはそっちで明石が紫藤君に怒られていた。
無茶やって怒られてるってよりは、戦略の悪さを怒られてるみたいなんだけど、紫藤君は涙と鼻水をだばだば流しながらお説教してるので、全く効力が無い。
……いや、別の方向にあるのかもしれないけれども。
こういうのに弱いらしい明石がおろおろしている。
うん、そろそろ話したいんだけどいいかな……。
暫くしたら、紫藤君以外の演劇部メンバーも集まって明石祭が始まりかけたので、慌てて止めた。
そして、『共有』の『共有』についての相談をする。
ついでに、グラスとその中身、命と肉体、霊薬と『深淵の石』と『人造命』あたりについても。
「あ、それ、分かるよー。だって私、今舞戸と離れたくないもんっ!」
命とカルガモ化現象、ベアーハッグ現象等々の関連について話したところで、明石がそう言って私にまた抱き付いてきた。
やめろ!もうやめろ!
「舞戸っ舞戸っ!うにゃーん!」
そして結局、私の膝を枕にして寝っ転がることで両者折り合いを付けた。
うん、じゃないとまた私の肋骨が折られるから……。
そして明石をごろごろさせつつ、希望者を募った。
「あっ、そういう事なら私がやるよっ!」
そして明石は私の膝に居ながらずびし、と挙手してくれた。そのせいで私はアッパーカットを食らう。
いい加減にしろよお前!
「舞戸に分けてもらったんだもん、次は私が分ける番だよっ!」
……まあ、その心意気や、良し。
私も、まあ、明石になら、そこまで心理的な壁無しに『共有』を『共有』できるはずだ。
ということで、やってみた所……全てのスキル、とは、いかなかった。
『共有』の他は剣術系統がちょっとと、アクロバットなかんじのが少し、明石の所に行った。
明石からは『~の舞』系のスキルを貰えた。
~の部分は風、とか、水、とかだったりする。
これは、仲間全員の~系の技の効果を上げる、っていうスキルの模様。
……しかし、全部は無理だったか。うん、まあ、そこまで期待はしてなかったけれど。
明石の場合、あと持ってるスキルが『演技』と『観察眼』だけ、だからなあ……尚更である。
それから、紫藤君は鳥海と『共有』を『共有』したらしい。
こっちも全部、とはいかなかった模様。特に紫藤君は魔法使い系で、鳥海は戦士系だから、相性が悪かったのかもしれない。
それでも『共有』の『共有』は一応、いろんな人ともできそうだ、という事が分かったので、どんどんやっていこうと思うよ。
次は、ジョージさんの所である。これはジョージさんがジョージさんのお店だった建物をそのまんま『複製』して立てたお家だ。
「……ああ、舞戸さんじゃない」
お邪魔すると、歌川さんが宝石を磨いている所だった。
「馬鹿よね。ジョージさんは美咲を庇って死んじゃったし、美咲は私を庇って死んじゃったわ。相良君と加持君も」
深緑の石と、薄桃色の石と、濃い青の石と、赤紫の石を並べて見せてくれた。
「相良はこれか」
鈴本は濃い青の石を拾い上げると、手に持ったまま霊薬をかけた。
「……え」
歌川さんが驚いたような表情をして。
「……き、きゃああああああああ!」
それはそれは良い声で、悲鳴を上げた。
「なんで全裸なのよそいつ!」
……それは多分、相良君が死んだときに装備が燃え尽きてたかなんかだと思うよ。
うん、そういえばこういうアクシデントもあるんだよね。
今まで多少全裸でもなんでも気にする所じゃなかったから気にしてなかったけれど、思えば数回、私はこいつらの全裸見てる気がする。
いや、だから何だ、っていう話なんだけれど。
……以後気を付けよう。
アクシデントはあったものの、無事相良君も生き返った。
鈴本に少し無理をさせた気もするんだけど、後でゆっくり休んでもらう、っていう事で勘弁してもらおう。本人もいいって言ってるし。
『共有』は、歌川さんと相良君に渡した。歌川さんへは私が、相良君へは鈴本が。
歌川さんが花村さんを生き返して、相良君が加持君を生き返らせるんだそうだ。
……ジョージさんがあぶれている!
ジョージさんを!ジョージさんを忘れないでね!ジョージさんをよろしく!
結論から言うと、ジョージさんは花村さんが無理を押して生き返らせた。
恩は返さなきゃいけませんもんね、と、花村さんは照れ気味にジョージさんの隣で満足していたそうな。