171話
あっさりと痛い描写があります。ご注意ください。
「魔力って、ゼロサムゲームみたいなものなんですか?」
考えたことは社長も一緒だった模様。
「つまり、総和は常に等しいのか、という意味か?」
つまりだな、魔力とやらを増やせるのであれば、何の問題もないじゃろ?って話である。
「いや、そうでは無い。しかし、魔力を増やすのは……時間が掛かる」
「具体的にはどのぐらい?」
「異世界人1人分を増やすのに……今の状態だと、10年、という所か」
つまり300人分位を増やすのに、3000年か。うわー、すっげえ。その間に滅びそうである。
「今の状態、という事は、それは改善の余地があるって事ですよね?」
「うむ。……つまり、がーでにんぐ、というやつよの」
……おい、それ、もっと先に言えよ。そんな方法で済むならさあ!
「おい、フィアナ」
「奈落全土を使えばよかろう。奈落が花畑になるが止むを得ん。……そうすれば、そこまでの時間はかかるまいて。さて、ドミトリアス」
「……私の体は既に元のものでは無いのだ、フィアナ。彼らを犠牲にするつもりか?」
え、ガーデニングってそんなに物騒な物だったっけ?
……あ、あああ、もしかして……。
「桜の木の下には異世界人の死体が埋まっている……方式?」
聞くと、魔王さんが頷いた。女神さんは、桜?と頸を傾げている。あ、ごめん。
「『碧空の花』は、この奈落においてのみ、異界の者を糧に育ち、魔力を生むのだ」
……ええと、じゃあ、あの奈落の、青い花畑は……。
「今奈落に咲いている『碧空の花』は、私の血液や体の一部を養分にしている。……つまり、あそこが……私とフィアナが……最初に、出会った場所だ……」
……う、うわあああああああああああああ!いらんこと聞いちまったああああああ!
やめろ!ホラーだ!ホラーすぎるんだよおおおおお!
「まあ、これでこの世界はもう大丈夫ですね。俺達の腕か何かをもいで埋めて、そこに花を咲かせればいいのでしょう?簡単な事です。回復魔法も全員覚えた事ですし」
あ、やっぱりそうなるよね、うん。
……うん、斬る時は鈴本にお願いしたいなあ。
「……正気か?」
魔王さんは、愕然としている。
……まあ、ちょっと常軌を逸脱しているような気もするけれど、これが最適解じゃないかな?
「それしかないでしょう、合理的に考えて。それで魔力が増えるならいいじゃないですか。奈落の土地は広いですから、奈落中を花畑にして、後は元凶を使い切らなければこれでゲームセットですよ」
ね。
この奈落は広いけれど、十日ぐらい、全員で腕を落として治して埋めて、を繰り返してれば何とかならないかな。
「いや、本来関係ない君達にそんな拷問まがいの事をさせるわけにはいかない。この世界の事は諦めてくれ。私達もそこまでさせたくない」
魔王さんが焦ったようにそう言うと、社長が……社長スマイルを浮かべて、突然、こう言った。
「例えばの話ですが、知っていますか、魔王さん。配偶者の不倫によって離婚する時には結構慰謝料が貰えるのですが」
……来る、来るぞ。何かが、来るぞ。
「勿論、その時に相手に社会的制裁を与える事もできます。相手の勤務先に垂れ込んで、辞職もしくは懲戒免職にしてしまう事もできます」
あ、落ちが読めた。
鈴本と鳥海もなんとなく微妙な顔のまま、社長から視線をずらした。
「しかし、相手が失業してしまっては、慰謝料を払わせることができません。より多くの慰謝料を取ろうと思ったら、社会的制裁は諦めて、相手を飼い殺しにし続け、延々と慰謝料を払えるようにしなければいけません。そういうことです」
……この例えの場合だと、まあ、慰謝料が無いと生きていけない、ってことになる所がちょっと違うけれどね。
「俺は、少なくとも俺個人としては、そこまでこの世界に愛着はありません。別に滅びてもいいです。しかし、この世界から魔力とやらが俺達の世界に送られなくなった場合、俺達の世界も滅びる可能性がある、というのなら話は別です。滅びさせずに魔力を払い続けてもらいます。その為の労力なら、惜しむわけにもいきません」
……まあ、そういう事で、結局は魔王さんも折れた。
そして、女神さんと魔王さんは一緒に頭下げてくれた。
「すまない。この世界を愛する者として、心から謝罪する。本当にすまない。この世界の創造主としては……その謝罪の言葉すら、見つからぬ。せめて、この世界で二度とこのような事が無い様にしよう。……厚かましいが、頼む。……この世界を、救ってくれ」
……さあ、楽しい楽しいガーデニングの時間だ!
……一応、楽しいガーデニングを始める前に、ちょっとだけ相談した。
「これ、何も俺達だけでやらずにさ、他の人達も巻き込んでいいんじゃないの?」
「いや、先輩がスキルで何とかしたとはいえ、それでも俺達に対する風当たりは強い。何もまた風当たりが強くなるような事をしなくてもいいだろう。ただでさえ、血と肉を見るのはもう嫌だ、という人が多いんだ。俺達は大分慣れたが」
まあ、そうなるよね。
責任なんて感じてないけど、わざわざまた恨みを買う事も無いよね、っていう。
「……さて、じゃあ始めるか?」
「そうですね。舞戸さんは種を植える係をお願いします」
え、いや、いやいやいや、私も肥料になるぞ?……と、思って、うん、分かった。
「よし、脱ぐか」
「服まで切るの、勿体ないもんねー」
……私は別に気にしないんだけど、彼らは気にするんだろう。
「一定時間で交代ね」
「そうですね。全員回復魔法も土魔法も使えるんですから」
そういえば、私の『痛感耐性』も、皆さんの所へ行ったのだ。……そう考えれば、まあ、まだ。
それから3時間位、延々とそういう作業をして、全員ぐったりしたところです。
「……あっ、お昼作ってこないと」
「いってらっしゃーい……」
ひたすら種まきして、ちょっと気合入れてやるだけだった私と違い、実際に肥料になった人たちはぐったり状態である。うん、午後は私が肥料になるからさ。
とりあえず一旦『転移』で戻って、お昼ご飯の用意をする。
お昼ご飯は焼き鳥丼と、海鮮丼と、牛(?)丼から選べる丼メニューです。
それに味噌汁と浅漬けが付くよ!
メイドさん人形が勝手に動いてくれるから、かなり楽ちんである。
ご飯とかは勝手に炊いておいてくれるし。私の頭の中が即伝わるから、指示も100%伝わるし、速いし。
いやあ、よくできた子たちである。
メイドさんコンベアーが開始されたので、こっちもこっちでご飯を持って奈落へ移動。
ほら、やっぱり謎パワーで斬った腕がまた生えてくるにしても、ご飯は食べておいた方がいいじゃない。
だからかは分からないけれど、皆さんも良く食べた。いやあ、作った側としては嬉しいね。理由が嬉しくないけどね。
そしてご飯を食べたら、またガーデニングだ、ガーデニング!ガーデニングだ。アレはガーデニングなのだ。決して拷問とかでは無いのだ……。
そして、それは晩御飯時まで続き、そして翌日も続き、その翌日も続いた。
「壮観」
「ね」
「もう休んでもいいよね」
「ね」
満身創痍ながら、私たちはすっかり青い花畑になった奈落の一角を眺めていた。
……うん、この世界は私達の手によって救われたのだった。
奈落を掘り返すと大量の腕の骨が出てくるだろう。
超怖い。
まあ、それはもうどうでもいい。とりあえず何とかなったんだから、それはほっとこう。
問題は、『奈落の灰』だ。
こっちはまだ片付いてないぞ。つまり、死んだ人たちを生き返らせるだけの量がとれるのが先か、元凶が残り1個になっちゃうのが先か、っていう。
それについて、魔王さんと女神さんに聞いてみた。
つまり、元凶の原料は一体なんだったの、という。それが手に入るなら、元凶大量生産からの無限コンティニューも可能なのである。
「ああ、それは余がこの世界を創った時の余りだ」
余り!
「それをドミトリアスに預けておいたのだが」
世界の材料を人に預ける!
「勝手に使いよって」
しかも勝手に使われた!
……この世界の神様は、非常に大ざっぱなようだ。
いや、その大ざっぱさに間一髪救われてるんだけどもね?
そうでなかったら、勇者召喚された時点で、私たちの世界は滅びの道一直線、分岐点は無い、っていう事になってたんだから。
「であるからして、申し訳ないが汝らが『奈落の灰』と呼ぶものはもう無い」
そうかあ。いや、もう予想はしてたけどもね。
「じゃあ、俺達は元凶を探して拾って、倒して……生き返らせる人生き返らせてー……んで、帰るんだよね。最初に立てた計画通り?」
そうね。元凶1つさえ残っていればいいのだ。
「じゃあ、元凶をまた探しに行くところかあ」
「0かそれ以外かは神殿で分かるんだよね」
だから、まあ、最悪の事態にはならない、っていう。……元凶を使い切っちゃったら私達の世界はやばい。
……いや、実感無いんだけどもさ。
「じゃあ、また元凶消したら『奈落の灰』取りに来ますねー」
全員満身創痍な訳でもあり、できれば休日を挟みたいんだけども、いい加減生き返し始めないと、そろそろ生徒の精神面が限界の模様。
そう言えば、実際に人を生き返す所を見たのは私達と錦野君と錬金術姉妹だけなんだっけ。
証明しないと納得できないだろう。最近私達がずっとここに居るのも、他の人達の不安になってるかもしれないし。
……あー、うん。
まあ、とりあえず世界は救えたんだ。うん。これで、使える元凶が1つ減った以外はふりだしなわけだ。前向きにいこう。
……疲れた!
疲れたんだけど、ご飯は食べないと死にます。
なので、私以外の人達が、私が『共有』した元凶相手に戦っている間に私はご飯を作るよ。……いや、私はさ、ビームがレーザーポインタだから……戦力にならんのです。
地上はそろそろ夕方になりつつあるね。ずっと奈落に居たけど、ご飯を3度3度とってたんで、時間の感覚はおかしくなってない。
さて、今日のご飯は和食でいこうね。
私達が奈落に居た間、グライダはお魚を、ケトラミはお肉を、マルベロとハントルはお野菜を採っていてくれたのだ。
なので今日は焼き魚。
でっかい魚も角三君から貰った『エアスラッシュ』で簡単に捌けるぜ!
それから、ずっとやりたかったねじり梅の人参入りの煮物。……この世界の人参は白いので、紅梅にならないけれど仕方ないね。しかし、一瞬で人参の輪切りがねじり梅になっていくのは最高に気分がいい!
それにほうれん草のお浸しと、茄子の揚げびたし、きゅうりの酢の物とわかめのお味噌汁!
品数多い方が満足感があるもんね。頑張りました。
そして、まあ、当然のように私達のご飯にはデザートが付くよ。
今日はカボチャの茶巾絞りです。最後に一品甘いのがあると嬉しいよね。
デザートは……手がかかる割にあんまり大量に作れないんだよなあ……。牛乳寒天とかなら作れるかな。明日の晩御飯でやってみよう。
「さて、そっちはどうだった?」
「ああ、なんだか拍子抜けする位あっさり進んでる」
元凶は、化け物になってもなんというか……出てきたなあ、と思ったら、じーっ、と皆さんの顔を見て(いや、のっぺらぼうのマネキンだから見てるんだか分からないんだろうけど)、そして、手を振って、どろん、と……消えてしまったんだそうだ。
襲い掛かってくる奴は大抵、剣と盾を持ってる奴か、杖を持った奴の模様。
そういう奴らは『お手合わせよろしく!』みたいな仕草をしてから、襲い掛かってくるんだそうだ。
「それ、大丈夫なのかね」
「良い戦闘訓練になってる」
そうかあ。……あれかな。元凶さん達も、私たちの心づもりが分かったんだろうか。
そう言えば、『共有』した元凶を消す時の痛みは、まだある物の、ずっとずっと柔らかいものになっている。
「そうしたら、舞戸は明日から」
「分かっているとも。最強の布製品は私に任せたまえ」
いよいよ、戦う準備が始まるのだ。今度はもう戦闘になる、って分かってるからな。もう負けねーぞ。
「金属関係は俺達?」
「うーん、とりあえずル○バならいっぱい出せるけど、いる?」
「欲しい!」
……さて、うふふふふふ、明日から、待ちに待った、お裁縫だ。
ケトラミさんの毛、どうしようかなあ……うふふふふふ。