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170話

「……!……、」

 何かが聞こえて、ぼんやりと意識が浮上する。

「舞戸!」

 うおわっ!

 急にクリアに声が聞こえて、飛び起きたら頭を盛大にぶつけた。

 ……見てみたら、鈴本が顎を押さえて蹲っていた。

 私はどうも、あれに頭をぶつけたらしい。

「舞戸さん、大丈夫でしたか?」

 社長が覗きこんでくるけれど、それどころじゃない。

「元凶は」

「あ、倒しておいた」

 聞けば、ビームの一斉照射で倒したとか。

 ……あああ、お、遅かったか……いや、まだ、間に……あう、んだろうか。

「……何か、あったの?」

「うん。分かった」

 明るい話題ではない、という事を察知したらしく、急にみんな居住まいを正した。

 ……うん、それだけの重さを持った話題だよ、これは。

「魔力が無いと崩壊するのは、私たちの世界でも同じらしい」


 この世界は、魔力が無くなると崩壊するらしい。

 そして、元凶、『虚空の玉』は、その魔力を際限なく吸収することから、この世界の崩壊を招くとされていた。

 それに対して、この世界の住人、神殿が行った、世界を救う方法が、『異世界人の召喚』だった。

 これは、強い魔力を持ち、スキルという、この世界の住人が持たない能力を有する異世界人が、元凶を探し出して消すための能力に優れている、とされたためだった。

 しかし、その内異世界人の意味は変わっていく。

 つまり、元凶を消す存在から、『魔力そのもの』へと。

 異世界人の持つ強い魔力は、それ自体がこの世界の崩壊を防ぐ。

 だから、大人数の異世界人を……それも、殊更に魔力量の多そうな所を選んで、定期的に召喚するようになった。

 ……そして、その異世界人達が居なくなった異世界……私たちの世界では、どうなっているのか。

 それは、勿論……崩壊の危機に、面しているのだ。


 たかだか64億分の300程度の人間が異世界に召喚されただけで、っても思うんだけど、恐らく、私たちの世界は、この世界よりも余程繊細なのだろう。

 或いは、この世界が大ざっぱなのか。

 ……いや、違うか。もしかしたら、過去に私たちの世界から召喚されて、そしてこの世界で死んだ人が、沢山居たのかもしれない。

「理屈は分かんないけど、つまりそれって、俺達が帰らないと、俺達の世界が滅びちゃうって事?」

「それもそうなんだけれど……何より厄介なのが、私たちが、大分、この世界で……魔力を、消費、しちゃったらしい、って……こと、らしいんだ」

 そう言うと、全員、一瞬遅れてから意味を理解したらしい。

 つまり、手遅れである、という。

「……それって、それって」

「ただ」

 ただ、救いの道はあったのだ。

「元凶が、魔力を流してる先が、私たちの世界、なんだってさ」

 ……勿論、それは、酷く残酷な話である。

「じゃあ、元凶、使えないって、ことじゃあ」

「そうなるね」

 元凶が化け物になる理由、それは、消されることで私たちの世界が滅びに向かう事を止めるためだ。

 そう、全ては、世界を救う為、だ。

 それも、私たちの世界を。




「……とりあえず、女神本持って魔王さんの所だな」

 そうね。今できる最善はそれか。

 もしかしたら、残しておく元凶は1つとかでも足りるのかもしれないし。

 ……ということで、女神本を回収する所からだ。

「ケトラミー」

 呼ぶとすぐ来るケトラミさん。そして、要件をもう察しているのか、屈んでくれるケトラミさん。ナイスケトラミさん。

 屈んでくれたケトラミさんの首、リボンの結び目の中に入れた女神本を回収する。

 ……なんで、こういう事にしてたか、って言ったら、そりゃあ……魔王さんに、賭けに勝ってもらおう、っていう、だけの、話である。

「ありがとね」

 本を回収してケトラミさんのリボンを結び直すと、ケトラミさんは私を尻尾で一撫でして、また去って行った。お昼ご飯でも食べに行くんだろう。


 そして、女神本と共に、奈落は魔王さんのお宅へ『転移』。

 ノックして、返事が返ってくると同時に雪崩れ込む。

「どうした、そんなに血相を変えて。元の世界に帰ったのではなかったのか?」

 いつものように、チェス盤と向き合っていた魔王さんに、女神本を差し出す。

「……ああ、届けに来てくれたのか」

「いえ。本当だったら、ユニークモンスターの狼に、50年位かけて持ってきてもらうはずでした。けれど、女神様と相談していただきたくて」

 そこまでで、一旦息を吸う。

「私たちの、世界の、話です」


 そして、ざっと魔王さんに説明すると、魔王さんも深刻そうな顔になった。

「そうか。……そうだな。もう隠していても仕方ないだろう。私は、恐らく……君達と同じ世界の人間だ」

 ……はいっ?

 え、えええ……ええと、それは、それは……どういう事だ。

 この世界、少なくとも3000年前にはできてたんじゃないの?つまり、魔王さんは紀元前の生まれで……。

「そして、時間軸もきっと、同じなのだろう」

 ……ああ、うん、理解した。

 そういう事か、女神本が言ってたのは。全員、それぞれ、この世界に落とされたときの、私たちの世界の時間に戻る、っていうのは……全員同時だからだな!?

 全員理解……ええい!角三君と針生の理解が遅い!頭突きじゃ頭突き!

『共有』で解説すると、一瞬で理解してもらえるから楽でいいね。

「私はこの世界の時間で言うと3000年ほど前にこの世界に来た。しかし、君達は違うだろう。それでも、『勇者召喚』で、ある特定の瞬間、或いは、そこから数秒の間のみから勇者たちは召喚されている。それは、この世界で『勇者召喚』を行う為の門のような物が、私が来た時代……つまり、君達がこの世界に来た瞬間の、私達の世界とつながっているからだ」

 魔王さんは、ここまで言うと、少し言い淀んだように止まり、そして、息とともに続きを吐き出した。

「それは恐らく、私がこの世界と私達の世界のゲートを開いてしまったからだ」

「……それは、何故」

「不可抗力だ。その時の私は確か、何の変哲もない男子高校生だったからな。……何と言ったか、その、道に穴が空いているだろう、それを覆う蓋があるが……」

 ……。それ、マンホールの事かな?

「その蓋が外れていて、そこに落ちた。そして、気づいたらこの世界に居た。……恐らく、本当に偶々、色々な偶然が重なりあって、この世界へのゲートが開いたのだろう」

 それで、3000年、この世界に居っぱなしたのか、この人は。

「……まあ、それで私はフィアナに出会い……紆余曲折あって、こうして3000年程生きる道を選んだ訳だが」

 そこ聞きたい!どうやって3000年も生きてるのか知りたい!超知りたい!

 ……知りたいけれど、それは、後だね。

「……元凶を消さねば、君達の級友を生き返らせることはできない、しかし、元凶を消してしまえば、私達の世界は滅びる、のか。……そうだな、後の事は、フィアナと共に話そう。私一人では手に余る」

 魔王さんは、そう言うと、床に手を翳した。

 すると、床から美しい……金属細工のような、繊細な絹糸でできているような、奇妙に美しい羽筆のような物が出てきて、魔王さんの手に収まる。

「私の魔力では、精々形をとらせる事しかできないだろうが。……フィアナ、賭けはお前の勝ちだったな」

 そして、女神本の頁をめくり、白紙の上に何かを書いていく。

 すると、その文字が光を放ち、それはやがて、本自体を飲みこみ、そして、私たちの視界も飲み込んでいった。




「久しぶりだな、ドミトリアス」

 凛とした、美しい女性の声が聞こえて目を開く。

「舞戸、礼を言うぞ。余をこやつと引き合わせてくれたのだからな」

 それは、流れる黄金の髪を腰まで伸ばし、白い薄絹を重ねて纏った……美女だった。


 筋肉は確かにしっかりと付いているけれど、それも引き締まった美しい体を作っている訳で。

 薄く小麦色に焼けた肌は健康的な印象で、この女神に良く似合う。

 そして、肩や腰のラインは女性のもので……何より、そのでっかいパイオツと、凛々しくも美しく整った顔立ちは、どうしようもなく女性のものだ。

「100年で」

 そして100年、を強調して言いながらにやり、と細められた双眸は青く、成程、高く青く澄んだ空のようだった。

 美しい。成程、美しい。そして逞しい。

 雄々しさと凛々しさと美しさを凝縮したような……正に、女神!ぐらっぷらー・女神!


 余りの美女の登場に、私たちは言葉を失った。

 なんていうか、色々と……びっくりすぎたんだよ!

 筋肉ムキムキの女神とか言うからさあ、絶対こう、『わが生涯に一片の悔いなし!』みたいな容姿してると思うじゃない。

 なのにこんなに美女!それはそれはもう、ギャップと、ギャップ以上に、実物の美しさがだな、こう、もう衝撃でしかない!

 ……しかし、美女の登場と共に、魔王さんがふらり、と倒れかけて、女神さんに抱き留められる。

 ……逆!なんか、逆!

「しようの無い奴だ。ただ本に口でもつければよかっただろうに、無理をしおって……む」

 そして女神さんは魔王さんの頭に手を翳したものの、顔を曇らせた。

「仕方ないだろう、私の魔力ではお前の魔力を取り戻すことなどできない。今は只の人だと思え」

 魔王さんは女神さんの腕から抜け出す。

 女神さんは……急に、何を思ったか、拳をまっすぐ突き出す。

 風を切る音が聞こえた。

「……成程な。肉体も流石に鈍ったか」

 これで鈍ってるらしい。もう呆気にとられ過ぎて何も言えない私達の前で、女神さんはそのまま上段蹴り、旋風脚、を一気に見せてくれた。見事なキレと、体の軸のぶれなさ。

 ……ああ、成程、これが……これが女神かあ……。


「……さて、フィアナ。聞いていたか?」

 そして、やっと本題に入る。

「ああ。……まさか、アレがこう、化けるとは」

 アレ、っていうのは、元凶の事だろう。

「恐らく、『虚空の玉』の、魔力の行き先をどこにもしなかったのが原因だろうな。そして、勇者召喚に応じて、『虚空の玉』の魔力の行き先もその世界に連結されたんだろう。……幸いだったな、そうでなかったら、もう私達の世界は滅んでいたかもしれない」

 そ、そうだね。

 女神と魔王さんのおかげで、今、『虚空の玉』、つまり元凶、っていう、救済手段がある訳なんだから。

 これ、無かったら、本当に私達の世界は滅びの道まっしぐらだったのだ。

 ひえー!あっぶね!

「褒めろ。ドミトリアス、余を褒め称えよ」

 女神が胸を反らして自慢げな顔をする。あ、よかった。中身は女神本なんだな。

「フィアナ、その前に解決策を考えられないか?彼らが元の世界に戻らなければ世界は滅びる、と、その世界が言っている。急がねばなるまい」

 あ、褒めてあげないんだ。

「余が完全であればな、人1人2人を生き返らせる事もできぬ訳では無い。この世界も舞戸たちの世界も、余の魔力を分け与えればよいだけの話だ。……しかし、余は今、只の人と変わりない魔力しか持たぬ」

 そう言って女神さんは考え込んだ。

 魔王さんも隣で考えている。

 ……2人の考える時の仕草は、そっくりだ。本当に仲良しなんだなあ。


「『虚空の玉』から俺達の世界に送られる魔力量を増やすことはできませんか?そうすれば、1つ残しておけばいい事になります」

 社長は臆することなく発言する。

 私もこの気概と動じない心を見習いたい。

「そうだな。それが妥当であろう。余らの世界に舞戸達を付き合わせるのは、筋が通らぬな」

 あ、そうか。私達が帰っても私達の世界の魔力は足りないから、元凶を通してこの世界の魔力を私たちの世界に送らないといけない訳だけれど、そうしちゃうと、元凶ができてから勇者召喚が行われるようになるまでの間に元凶が吸った魔力の分が足りなくて……この世界が滅ぶのか。

 いや、それは勿論、この女神と魔王の自業自得というか、まあ、そういう事なんだけれど。

 ……ああああああ、くっそ、この世界なんて、嫌いになれれば、っていうか、好きにならなきゃよかったんだよ。

 吹奏楽部の人達みたいに、こんな世界滅びちまえ、ってできたら、すっごく楽だったんだよ!

 なのにさあ……この世界に、好きなものができちゃったんだ。

 だから、できれば滅びて欲しくないけれど、そうすると私達の世界が滅ぶという罠!

 ……なんとかならんもんか。


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