168話
今まで、私は色々な人から色々なスキルを『共有』させてもらっている。
『暗視』だの『遠見』だの、そもそもの『鑑定』もだし、『萌芽』とかもそうだね。
だから、まあ、『共有』の『共有』もできる、可能性はある。
あるけれど……あんまり、やりたくない、なあ。
鈴本がそう言うのは、まあ、当然の事かもしれない。
鈴本が元凶と『共有』してからその元凶を消してみれば、つまり、比較実験すれば何か分かる可能性があるのだから。
つまり、引っぺがされる感が、元凶の問題なのか、私の問題なのか、っていう。
そして、私の問題なら、鈴本が元凶と『共有』すればいい。そして、それを消せばいいんだ。
……しかし、だな。そうでない場合。
あれ、結構しんどいのだ。あの、大切なものが離れていくような感覚。
それをやる、って分かってて、こいつに『共有』渡したくない。
案の定、失敗した。
ドッグタグ2つをぶつけながら『共有』してみても、鈴本のドッグタグに『共有』は現れない。
とりあえず、全員分やってみたけども、やっぱり失敗続きである。
「……舞戸。やっぱり、嫌か」
そして、挙句の果てに、この、何とも言えない顔で叱られてるんだか謝られてるんだか分からない状態になってます。
「難しいな。お互いの立場になるって。お前としては俺達にそういう役をやらせたくないんだろうが、俺としてもお前にそういう役はやらせたくない」
「それは分かってるよ」
ただ、そこら辺はちょっと割り切れないのだ。
只でさえ、今まで散々、私だけぬくぬくしてたのだ。こういう時位、と思わんでもない。
そうでもしなかったら、対等になれない気がして、私にだけあまりにも負荷が掛からなさ過ぎて、私が苦しい。
それからしばらく、お互い考えた挙句、鈴本が言い出したのが、こういう事だった。
「俺のスキル、全部お前にやるよ。だから、『共有』くれ」
なんというか、それは結構衝撃的な申し出だった。
呆気にとられてたら、鈴本は言葉を重ねた。
「……お前、戦えるようになったら、戦おうとするだろ。できれば俺としては、それは止めて欲しい。だから今まで、渡す気は無かった。けど、やる。やるから、お前も諦めて『共有』よこせ」
鈴本の目が逃げる事を許さない。
「さっき失敗してる」
「それはお前が『共有』を渡す気が無いからだろ?今までお前が俺達の戦闘用のスキルを『共有』できなかったのは、俺達がお前に戦闘用のスキルを渡す気が無かったからだと思う。お前と同じだ」
ほら、とばかりに、鈴本がドッグタグを差し出す。
んなアホな、とも思うんだけど、『鑑定』は正にそれだった気がするし、反論の余地が無い。
「なんなら、僕のもあげようか」
「俺のもいりますか?」
……包囲網が完成していく。くそ、囲まれた!
「んーとさ、もし舞戸さんが全員のスキルもらってさ、それ、俺達全員と『共有』し直したらいいんでないの?」
反論を探していた所、鳥海から致命傷を貰ってしまった。
「それ最強だな」
「最強ですね」
うん、最強なんだ。紛う事なき、最強集団になれると思う。
ビーム出す侍とか、氷魔法ばんばん撃ちまくる忍者とか、そういう面白いのが見られるようになる訳だ。
「うわー、最強じゃん!俺、ビーム出したい!ビーム!ビーム!」
「あ、俺も出したいなー。ビームビーム」
「ええー、それは僕の十八番なんだけど……」
そして……そういう、問題も、ある。
全員が全員のできる事をできるようになってしまった時、個の価値は極限まで下がる。
人間、隙間産業で生きていく、っていうのは結構やりやすい生き方だ。
嫌なこと言うと、人間は多くの場合、誰かの上位互換で、誰かの下位互換だ。
けれど、自分にしかできないことがあれば、誰かの完全な下位互換にはならない。
もちろん、それができるのは自分唯一人じゃなくてもいい。それができる人が少なければ少ないほど、価値が上がるというだけだ。
それが、一切合財、無くなったら。
……それが一番深刻なのは、間違いなく、補正が無い私だ。
一番価値が薄くなるだろう。それこそ、まじで、足手纏い以外の何物でもなくなるのだろう。
皆さんは優しいから、資源としてすら使いにくい、それこそ非常に面倒な事になってしまう。
「OK。いいよ。皆で最強になろうじゃないか」
けども、やる。
非常に理に適ってんだもの、最強。そこに私は関係ない。
私個人のしょーもない不安で、それを止めるわけにはいかない。
この世界は、望めば何でも手に入る世界だ。
どんなことだって、本気で、心の底から望めば、きっと。
鈴本のドッグタグを引き寄せて、軽く回して勢いを付けた私のドッグタグをぶつける。
「『全部』」
金属同士がぶつかり合う、良い音がした。
そして、例の謎発光。
「……成功したな」
見ると、私のスキル欄がとんでもなく賑やかになった。
わー、えらいこっちゃえらいこっちゃ。祭じゃ祭じゃ。
こう、なんというか……今までの文字サイズじゃ収まりきらなくなったらしくて、ちまっこいちまっこい文字でお経のようにずらずらと延々と、スキルが……。よ、読めん……。
「……別に、『お掃除』とか『刺繍』とか、そういうのはいらなかったんだが」
「っつってももう渡しちゃったよ」
お前もお裁縫しろ、お裁縫。
「『解体』したらモンスターが一気にお肉に?うわー、怖いわー」
なんとなく、生きてるものには使えない気がするけども……いや、皆さんが使ったら一瞬でモンスターをお肉にするぐらい訳ない気がする。うわー怖い。
「『子守』ですか。……何に使うんですか?」
「ハントルももう子供ってかんじじゃないしなぁ……」
うん、もう用途は各自で見つけるといいよ!
そうして、角三君と刈谷を除く全員が全員の全てのスキルを手に入れるというとんでもない状況になった。
祭じゃ祭じゃ。
「ちょっと試してみたいな。舞戸、いいか」
「おうよ」
鈴本がドッグタグの中に『共有』があることを確認して、申し出てきたので構える。
そして一回頭突きをモロに食らってK.Oされたりもしたけれど、すぐに羽ヶ崎君に治して貰い、まあ、2度目で『共有』の動作確認に成功した。
……あ、いつもの空間だ。
「舞戸、これでいいのか?成功してるのか?」
「あれ、君も動いてるよね」
何やら、『共有』スキル所持者同士でやると、両者共に動ける模様。
そして、負担も軽減。あー、こりゃ便利だ。
……と思ったんだけども。
「これ、きついな」
あ、慣れてない人にはきついのか。はっはっは、なんか優越感。
「じゃあ一旦離脱しようか」
「……どうやって離脱するんだ」
「こうね、自分を自分の中に引っ込めるかんじで」
なんやかやとアドバイスしながらなんとか離脱にも成功。
離脱後、とりあえず全員それぞれに『共有』の動作確認を行い、それぞれが正常に動くことを確認できた。
さー、これで大分、情報の伝達が楽になったぞー。
「角三君と刈谷、どうする?」
そして、この問題に直面。折角のスキルの試し撃ちするんだったら、全員揃ってやりたい。
……けど、まだ死んでるしなあ。
「……生き返すか」
「よし、じゃあちょっと行ってくる」
生き返さないとスキルの分かち合いができないので、生き返さないとだ。
「舞戸、お前はだめ。ちょっと僕がやってみるから」
羽ヶ崎君がそう言うけど、あれは……あれは、ちょっと、やらせたくない。
そう言う顔してたのか、私の顔見て羽ヶ崎君がちょっと笑った。
「あのさあ、お前忘れてるみたいだけど、僕、全部知ってるから」
……あ、うん。
そうでした。そうだったよ。
火竜に燃やされた時に状況説明として『共有』で色々垂れ流すという愚を犯したから、羽ヶ崎君には色々とグラスの中身のやり取りについては筒抜けなんだった。
「やり方分かんなかったらお前に聞く」
結局、そう言って羽ヶ崎君は角三君の寝てる部屋に行った。
そして、ずっとやってみたかったらしく、刈谷を起こすのは針生がやる事になった。
MP切れ起こして寝てるんだとしたら、MP貸さなきゃいけないかもよ、とは伝えてある。
こっちも分からなかったら私に聞いて、としか言いようがない。
それから少しして見に行ったら、寝てる角三君と、その横で行き倒れてる羽ヶ崎君、針生に布団をかけている刈谷を発見した。
「あ、舞戸さん」
「調子はどう?」
まあ、布団敷いてる時点でそこそこ元気なんだろうけど。
「むしろ調子はいいぐらいです。ご心配おかけしてすみません」
刈谷はもう大丈夫そうだね。
多分、角三君も大丈夫だろう。すよすよ、と穏やかな寝息を立てている。
……あ、もぞもぞし出した。
……あ、あああ、角三君が羽ヶ崎君を抱き枕にし始めたぞ。
ああああああ……これは……。
まあ、結論から行くと、羽ヶ崎君の骨は折れなかった。流石の補正だね。
ただし、まあ、起きた。角三君も起きた。あの針生ですら起きた。
つまり……羽ヶ崎君が寝起きで混乱して、氷魔法をぶっ放しちゃったんだよね。
……なので、まあ、全く以て関係なかったはずの、ただそばにいただけの……補正無しの私だけまた負傷するという、非常に悲しい目に遭ってきました。
最早様式美!
ちなみに、それから半日程度、角三君はどこに行くにも羽ヶ崎君の後を付いて歩いてた。
私はカルガモを連想した。
「ビーム!」
「俺もビーム!」
「でも僕が本家ビーム!」
そして、夕方になって、角三君と刈谷とも『共有』を行い、やっと他のスキルの試し撃ちが始まった。
場所は3F北の平地。ビーム撃ちまくるからね。人が居ない方がいいもんね。
「うおおおおおお!ビーム出た!何これ!」
「うわー、これは快感ですわー」
何やら皆さん、真っ先にビームを撃ちたかった模様。
「俺は『お掃除』が気になるんですよ」
「やってみれば?ほら、どうせ皆、スキルの試し撃ちしまくったら汗と埃まみれになるだろうし」
そして、社長は『お掃除』が気になるらしかったので、ハタキを貸そうと差し出した。
「いえ、俺は俺のやり方でやってみます。あくまで『狂科学者』ですから」
何やら不穏な事を言ったなあ、と思ったら、羽ヶ崎君の所まで社長は歩いて行き。
何かやったなあ、と思ったら、どばあ、と、フラスコの中身をぶっかけた。
「何すんの!?」
「除菌しました」
「うわ、アルコール臭い」
……。
余りにも気になったので、全員に『お掃除』をやってみてもらった。
まずは鈴本。
「『お掃除』!」
刀一閃。
そのまま『お掃除』は斬撃と化し、地面を一直線に消していった。
「『イレイズビーム』みたいだな」
「でも方向が定まりにくいね」
……不評。
次は羽ヶ崎君。
「『お掃除』」
その瞬間、ばっ、と空気が冷たくなった。
……ええと。
「……空気中のごみが、凝結した水分と一緒に落ちてきたみたい」
空気清浄器!
次は社長。
さっきのは流石に、無い。
「行きます。『お掃除』」
すると、社長の持っていたフラスコに、透明な液体が満たされた。
「消毒用のアルコールみたいです。洗剤や漂白剤も出せそうですね」
流石社長!ぶれねえ!
「『お掃除』」
そして次は角三君だ。
剣を振ると、その剣が何か透明な物を纏う。
振り下ろされた剣は、地面を消すようにして地面に潜っていった。
「あ、使い勝手、いいかも」
鈴本のにタイプは似てるけど、こちらはよっぽど使い勝手がいい模様。そういうのもあるんだね。
「じゃー、次、俺ね。『お掃除』!」
そして針生が『お掃除』する。
も、特に何も起こらず。
「……何か起きた?」
「……あー、うん。なんか、気分がリフレッシュされた……。すっげえ爽やかな気分。これ、毒とか麻痺とかも消えるかも」
……それはようござんした。
「じゃあ、次は僕かなあ。『お掃除』。それいけー」
それいけー、とは、何事ぞ、と思ったら、マジでそれいけー、だった。
ル○バ。ル○バが召喚されてた。
うぃんうぃん言いながら地面を掃除している。かわいい。一台欲しい。
「んじゃ、『お掃除』っ!」
そして鳥海も『お掃除』。
……お、なんか、鳥海の前に大きな盾みたいな形をした、透明な、揺らぐ空気みたいなものが出てきて、消えた。
「今の何?」
「あー、ぶつかった物を消す盾、みたいな」
お、それは中々のアタリでは?
「けど、出てる時間が短いから使いどころが難しいかも」
ああ、そういう欠点もあるのか。そりゃ難しいね。
そして最後は刈谷だ。
「ええと、『お掃除』」
その瞬間、ぽやん、と光の球みたいなものがでてきて、それはふよふよと空中を漂ったかと思うと、傍にいた鳥海にぶつかって消えた。
「……あ、なんか綺麗になってる」
これが一番私の『お掃除』に近いかなあ、と思ったら、状態異常も治せることが後から発覚。
うーん、高性能。
「結局、全員やってみても色々違うね」
同じスキルでも、殆ど効果が同じだったり、微妙に作用が違ったり、『お掃除』みたいにバリエーション豊かだったりする。
だから、私たちのスキルは、こう、全員が全員のスキルを手に入れた、っていう事では無く、全員が全員のスキルの数だけ、新しいスキルを手に入れた、っていう方が近いかもしれない。
なんにせよ、こう、模索が必要ですなあ。
……こうして、私達は現状、最強の集団になったのであった。




