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165話

残酷な描写ばかりです。ご注意ください。

「舞戸!できるだけ多くの人連れて逃げろ!」

 鈴本に指示されて、咄嗟に近くに居た、パニクってる人たちを連れて『転移』した。

 ……したはずだ。

「駄目だ!『転移』できない!」

 しかし、『転移』は発動しない。

 そして、無情にもこちらに向かってくる化け物が見える。

 ……逃げる暇はない。私の周りにいるのは、戦闘力が私より高くても、私より場馴れしてない人たちだ。

 その化け物が、私達に向かって、牙を剥く。

 ……持ってるのは、リーチの短いハタキと、包丁と、メイドさん人形と。

 ええと、それと、他には、ええと……あとは勇気だけだ!

 化け物に向かってハタキを構える。

 も。

「何やってんの、馬鹿なの?勇気と無謀は別だから」

 横から羽ヶ崎君がでっかい氷塊を飛ばして化け物を打ち据えた。

「羽ヶ崎くーん!後ろ後ろ」

 その羽ヶ崎君の後ろからまた別の化け物が来るのを、針生が飛んできて蹴り飛ばす。

「わざわざ死人、増やさないでよね!」

 ……申し訳ないけど、本当に、その通りだ。

 勇気と無謀は別物だ。私の仕事は……生き残ること、か。


 ……終始こんな有様だった。

 化け物は凄まじい数だったし、こっちはまともに戦えてる生徒が半分切ってる。

 ……数だけじゃない。圧倒的に、個の強さが、足りてない。

 私直接戦っているわけじゃないから分からないけれど、一体一体がユニークモンスター級の強さなんじゃないだろうか。

 羽ヶ崎君が吹っ飛ばした化け物はまるで堪えていないようにまたこちらに向かって来ていて、針生が蹴り飛ばした化け物はまた別の生徒に襲い掛かっている。

「これ、きっつい、ね!」

 羽ヶ崎君が氷柱で串刺しにして尚、化け物は暴れまわる。

 そして、その化け物は生徒の1人を尾で絞めると、その生徒の姿が掻き消え、何も無くなった尾の隙間から、宝石が1つ、落ちてきた。

 ……死んでる。

 見れば、あちこちに、宝石は散らばっているようで。

 何人死んだ?

 これは……取り返しが、つくのか?

 その時だった。

「ユート!しっかりしてぇ!」

 聞き覚えのある声が、耳に刺さった。

 ……そうだ。キャリッサちゃんと、シュレイラさんが、居なくなったら、本当に、詰み、だ。

 この世界、色々な事の取り返しがつくこの世界でさえ、取り返しがつかなくなる!

 咄嗟に羽ヶ崎君と針生も同じことを考えたらしい。声のした方に走る。

 そして、見覚えのある2人の姉妹が、錦野君らしいものに縋る様子と、それに襲い掛かる化け物達の姿が見えた。

 そして、それに一人で立ち向かう、竜の居ない竜騎士の姿も。

「角三君」

 角三君は、ちら、とこちらを振り返って。

「防御、よろしく」

 とだけ言って、姉妹を背に剣を構えて、そして。


 その一撃で倒された化け物は、7体。

 その威力は凄まじかった。

 瞬間的に、羽ヶ崎君が氷で壁を作ったものの、分厚いそれは融け、さらに針生が作った闇の幕を通して尚、衝撃を感じた。

 闇の幕が消えた後には、誰もいなかった。

 代わりに落ちていた、透き通って銀色の光を宿した、美しい石を拾い上げる。

 ……別に、悲しくは無い。私達はこんな事で一々止まらない。

 生き返らせることは可能だ。それを信じて角三君はこうなった。

 何も、問題じゃない。

 まだ。


 化け物はそれでもまだたくさんいる。

 ……今まで、この世界で、仲間といて、負ける、っていう気はしたことが無かった。

 絶対、どこかで何とかなるような気がしていた。

 けど、今、それが全くしない。

 全然、勝てる気がしない。

 また化け物が来る。

「ねえ、これ、駄目かも」

 針生が見ている先で、紫藤君が吠えていた。

 明石が化け物に噛み砕かれる。

「良くて逃走に成功、悪かったら全滅、かもね」

 歌川さんを庇った花村さんが呆気なく消えていく。

 峯原さんが三枝君だったものを抱いて慟哭する。

「逃走、できる?」

 またやってきた化け物を氷の弾丸で貫いて、羽ヶ崎君が私に言った。

「学校、戻そう。バラバラに」

 それで化け物が消える保証は無いし、深刻な悪影響を及ぼす可能性だってあるけれど、逆に言えば、それしかもう無いのだ。




 蹴破るようにドアを開けて、一番近かった家庭科実習室に駆け込む。

 キャリッサちゃんとシュレイラさんは羽ヶ崎君と針生に任せてきた。

 逆に言えば、私にそっちが任せられないから、私がこっちに来たっていうことだ。

 やる事は単純だ。宝石を探して外に出ればいい。

 それでもし、他の教室がそのままだったら、全ての教室でそれをやればいいだけだ。

 実習室の中に入ったら、床を這う化け物がいた。

 大量にいた。床が見えない。何これきもい……。

 私に向かってうぞうぞとのろのろやってくる。

 私は弱い。

 弱いけど、こんな、精々でかくなった蛆虫程度のくそったれ生物に殺されるほどは弱いつもりは無い。

 化け物が何かを吹きかけてくる。

 多分毒か何かだと思うけれど、生憎私には効かないので無視。

 今まで散々、いろんな毒だの酸だの浴びまくった甲斐があったってものだ。

 自分のリーチは相手のリーチでもあるけれど、このアホな化け物はそのご立派な歯で私に噛みついてくることよりも、無意味に毒をぶっかける事を優先してくるから、なんとか全部『お掃除』できた。

 綺麗さっぱり、この教室の化け物を全部消したら宝石を探す。

 机の下、引き出しの中、蛍光管と天井の間まで。

 ……無い。

 探しても探しても、教室の宝石が無い。

 ……学校全体を一つにしたせいで、宝石ももしかして、この学校に1つになったんだろうか。

 教室の外に出ると、廊下にもうぞうぞと這う化け物が居た。

 ……消してたら、キリがない。

 これだけ動きのとろい奴だったら、撒くぐらいできるか。


 それからひたすら、化け物は必要に応じて消して、でもできるだけ無視する。

 踏んで滑って転んだりその隙に噛まれたりしながら、終始毒塗れで学校中を走り回った。

 けれど、無い。

 宝石が1つも見当たらない。

 どこにもない。

 最後に4Fの端っこの教室を探して、それでも宝石は見つからなかった。

 ……学校の合体が、不可逆な物だったという事か。或いは、もしかしたら、宝石はあるのかもしれない。私が見つけられないだけで。

 音がして見てみれば、窓に臓物のようなものが当たって滑り落ちていく。

 そして、それは途中で消えた。

『交信』の腕輪を起動させる。

「もしもし。もう、どうなってもいいよね」

 返事は無い。それどころじゃない状況なのか、返事ができないのか。

 もし帰れなくなったとしても、人が死んだまま帰るよりはいいんじゃないか。

 帰る手段はこれだけじゃないらしいから。

「学校を『解体』するよ」


 スカートのスリットから手を突っ込んで包丁を2本取り出して、床に突き刺す。

 明らかに抵抗があった。

 これは正しい方法じゃない、と言われているようだったけど、そんなん知らん。

 学校をこうやってバラすのが不正解なのか、食品に対してのスキルをこうやって使う事が不正解なのか。

 やっぱり、そんなことは知らん。

「『解体』!」

 気合を入れてそう叫んで、流出していかない魔力を無理矢理流してやれば、ばちり、と電気が爆ぜるような感覚の後、床が消えた。

 床だけでなく、壁も、天井も、ありとあらゆるものが消えていて、私は成功を悟る。

 落下しながら、教室が全て宝石に戻って落ちる様子と、無数の化け物達が消えていく様子を眺めた。

 とりあえず、私は私の仕事は果たした。


 落下した後の事を考えて無かったんだけど、ぼんやり落下したら受け止めて貰えた。

 尤も、受け止めて貰えたはいいけど、そのままバランスを崩したらしく、転倒する羽目になってしまったのだけれども。

「舞戸さん、お疲れさまです」

 疲れた顔をしている刈谷は右目が潰れていて、右腕が消えていた。

「お疲れ様、じゃ、ないでしょう、それ」

 MP切れを起こしかけてる気がするけれど、MPが必要なのは私よりも刈谷だろう。

 ポケットに入れっぱなしにしていたMP回復薬を刈谷に渡す。

 刈谷は案の定、他の人を治すばっかりで自分を後回しにしていたらしい。

 大司祭から手に入れた全体回復魔法を連発していたせいで、こいつもこいつでMP切れ寸前だったらしい。

 刈谷は必要最低限、腕が動いて、目が見えるようになるぐらい自分を治すと、他の人の治療に行ってしまった。

 絶対、他にも怪我はあるはずなんだけれど。

 ……分かる。今は、1人でも多く死なせない事が重要だ。

 死んでいないなら、幾らでもなんとでもなる。

 只、死んでしまったら、それはそれは、面倒な工程を経ないといけないんだから。

 ……だから、死体が残っているのは、良い事だ。

 宝石になってないんだから、幾らでもやりようがある。

 本人にとっては、おそらく、死んだ方がマシなんだろうけれど。

 キャリッサちゃんとシュレイラさんは、無事だった。

 勿論、無傷とはいかないけれど、本当に、本当にどうでもいいレベルの、些末な怪我だ。

「舞戸、すまない。私達の為に……ハガサキとハリウが」

 シュレイラさんが茫然自失したように私に近寄ってくるけれど、慌てて止める。

「来ないで。今、私、毒液塗れだから、寄らない方がいいです」

 うっかり、毒塗れになっていたのを忘れていた。

 ハタキではたいて綺麗にしてから、シュレイラさんとキャリッサちゃんの様子を改めて見る。

 キャリッサちゃんは、途中で気絶してしまったらしい。座り込んだシュレイラさんの側で寝かされている。

 シュレイラさんは、昔覚えたという『ヒール』で、錦野君を治し続けていた。

 ……そのおかげで、錦野君は、ちゃんと残っていた。五体満足。潰れてもいない。今は眠っているだけだろう。この様子なら、時間経過でなんとかなる。


 問題はこっちだ。

 羽ヶ崎君だと思われる氷の彫像と、脚が無い針生。

 針生の方は早く何とかしないと不味いって分かってるけれど、これを戻す手段を私は持っていない。

 メイドさん人形の『ヒール』でどうにかできる段階はもう終わってる。

 羽ヶ崎君を戻して、針生を治してもらうのが一番か。


 氷を『お掃除』で取り除く。

 随分長く一緒に居たんだ。氷と羽ヶ崎君自身の境界線ぐらい、意識できる。

 氷を消すと、羽ヶ崎君は凍ってはいるものの、そこまで損傷はないみたいだった。

 これなら、メイドさん人形の『ヒール』で何とかなるか。

「舞戸、さん」

 メイドさん人形をひたすら働かせていたら、ぎりぎり五体満足の加鳥が居た。

「羽ヶ崎君治すの手伝ってもらえる?」

「うん。まだいける」

 有難い事に、加鳥と2人がかりで治していたら、割とすぐに羽ヶ崎君を溶かして、起こす事に成功した。

『共有』で叩き起こしたら、針生の方を手伝ってもらう。

 ……そうして、何とか、針生も起こせた。


 疲れ切った体を動かしてもらって、何とか鳥海を発見した。

「これと、これと……これもかな」

「宝石になってない、って事は死んでない、って事だよね」

 意識が無いにせよ、間違いなく、死んだ方が楽だっただろう。

 私にできるのはメイドさん人形を動かすことと、実験室にまだ残っていたMP回復薬を取って来て配ること、後は、宝石になってない負傷者を見つける事位だ。

 歯がゆい。




 何とか、宝石になっていない人は全員、ほっといても死なない程度に治せた。

 けれど、宝石になってしまった人も沢山いて、私たちは途方に暮れるしかない。

「……角三君と、社長と、鈴本も居ない、ね」

 加鳥がそう零して、周りを見る。

「鈴本は俺がさっき治してきました。今は実験室で寝てます」

 尤も、やっぱりこれも、酷い状態だったらしい。

 鳥海より酷い状態だった、っていう事は……考えたくない。

 しまっておいた銀色の石を取り出すと、全員の視線が手の平の上の石に向き、そして、一瞬で全員、理解した。

「角三君」

 言うまでも無かったかもしれないけれど、一応、言った。

「……ああ、そっか」

 加鳥が石の表面を撫でる。

「俺も社長、拾った」

 針生が琥珀色の石を取り出して、私の手の平に乗せた。

 傷つかないように、布で包んでから銀色の石と一緒にまたしまっておく。


 見渡すと、陽の光に照らされた草原に、数多の宝石が落ちて輝いていた。

 そして、殆どの生徒は気絶したり、疲れ果てて眠ったりしている。

「……拾わ、ないと」

 刈谷がふらっ、とそちらに歩いて行って、いきなり糸が切れたように崩れて、そのまま動かなくなった。

 限界が来たらしい。

「……先に、寝よっか」

「そう……だね」

 死んだ人には申し訳ないけれど。

 今は全部忘れて眠らせて欲しい。


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