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163話

「……何故もっと早く言わない」

「言ったら必要な『奈落の灰』が集まらない気がした」

「少なくとも、2つ目の『共有』済みの元凶は見送りましたね」

 でしょうよ。

 君達は甘いのだから。『なんか引っぺがされるような感覚』があったなんて言ったら、間違いなく中止しただろう。

「体調不良も無く元気なものだし、女神様お墨付きな訳だから私はいいんだけど、元凶の化け物化のヒントにならないかなあ、と思いまして」

「んー、まあ、ヒントに……なんのかね?」

「いや、でも、言ってもらえてよかったのは良かったんじゃないかなあ」

 これだけだと特に何かの情報になる訳でも無いのだけれども、何かあった時に役に立つ可能性はあるんじゃないかな。

「まあ、とりあえず、『共有』無しの元凶幾つか、消せる所まで消してみない?」

 結局は、こうなってしまう訳なんだよなあ……。

 でも、まあ、うん。私は情報を開示した。これには意味があると思いたい。


「じゃあ、いくぞ」

 鈴本が元凶に種を植える。

 勿論、『共有』してない奴である。

 ……そして、私はというと、鳥海に肩車されている。

 つまりだな、『お掃除』の実験でもあるのだ。

 鳥海だったら、まあ、普段からプレートメイル着て走ってるもんで、私という負荷が増えた位、なんてことは無いらしいし、『転移』もできるし、何かあっても防御できるかね、っていう事らしい。

 ……なんか、申し訳ない。


 元凶が発光して、いつもの如く、化け物が出てまいりました。

 恐らく全長8mちょい!ケトラミさんがちっさく見えるぜ!

 見た目はこう、手足の長い獅子、ってところかね。時々二足歩行しようとしてるね。

 そして、出現と同時に、針生が走る。

 これは打ち合わせ通りである。『影縫い』なるスキルで、化け物の動きを封じてくれるのだ。

 それと同時進行で、羽ヶ崎君が化け物の手足を凍り付かせて、やっぱり動きを封じている。

 ある程度動き封じが終わったら、鈴本と針生が飛び回って化け物の注意を引いてくれる。

 そして、化け物の背後から鳥海が私を乗っけて走り、そして私は例の槍型ハタキを構え。

 化け物が気づいて、氷を砕き、影を引き千切るより前に。

「『お掃除』!」

 ハタキが到達。

 そして。

 どろん。と。ぽふん、と。

 ……なんとも言えない、そんなかんじの効果音と共に、化け物は消えてしまったのであった。

 ……おおう……。




 化け物が消えた所で、少し休憩を挟んで、もう一戦。

 さっきと作戦は同じだ。

 改善点は一つだけ。それは、鳥海が私を肩車して走るのがしんどいとの事で、抱えられることになった。

 ……お、落ち着かん。

 そして、また元凶が発光して。

 ……私たちは、最早考えるのをやめた。

 だってさ。……。8mって、結構、まあ、割と、でかいけど、ぎりぎりなんとかなるんじゃないかな、っていうでかさなのよ。

 これ、どうよ。

 間違いなく2桁mあるよ。

 今まででいくと、16mぐらいあるのか。

 でかいよ。でかすぎるよ。

 ……っつっても、作戦は作戦である。針生と鈴本が飛び、羽ヶ崎君と社長が妨害の為杖を構える。

 ……が。

 化け物が吠えたかと思うと、呆気なく縫い止められた影を引き千切り、氷を砕く。

 そして、こちらに向かって、突進。

「舞戸さん、ちょっとハードモードだけど、よろしく」

 鳥海の声が聞こえたと思うと、途端、スピードアップ。

 驚く間もなく、思いっきりGがかかり、跳躍したのだと分かった時にはもう下降。

 なんかこう、お尻がむずむずするような感覚が走ったと思ったらもう化け物が目前。

 慌ててハタキを振るって『お掃除』を発動させる。

 化け物が腕を振るうのに、ぎりぎり間に合ったらしく、自分の左から迫る化け物の腕が触れるか否か、というところで、化け物はまた、ぼふん、とばかりに消えた。

 ……ああ、寿命が、縮んだ。


 化け物がどろんして、緊張の糸が切れた私達はぐったりげんなりしていた。

「これ、次は32m?」

 針生がやはりげんなり気味に言うと、ますますぐったりげんなりしてしまう。

「次は……もう、無理か」

「僕の『滅光EX』も試せばよかったかなあ」

 いやあ、それも、なあ……。

「でも、分かったことがあります」

 社長が1人、疲れ気味ではあるけれど、ぐったりもげんなりもせずに、言葉を続けた。

「『共有』済みの元凶と、『共有』無しの元凶は別カウントということです」

 社長の言い分は、こうだ。

「最後に『共有』無しの元凶を消した時の化け物のサイズは、4m程度で、今回は8m程度でした。間に2つ、『共有』済みの元凶を挟んでいますから、今までの法則から考えれば、『共有』済みの元凶はそのカウントに入っていないという事になります」

 ふむ、ということは、やっぱり『共有』はした方が良さそう、ってことだよ、なあ。

 少なくとも、本当にでかさが倍々になっていくなら、次は32m。

 それを相手にするよりは、まだ、女マネキンの方が良くないか?いいよなあ。

 マネキン相手にしてる分には化け物のサイズは変わらなさそうだし。

 ……となると、益々、だなあ。




 全員で頭を抱えていたら、先輩から『交信』が入ったので、とりあえず解散。

 そして、私はアリアーヌさんの所に行く事になった。

 ……ほら、私たちがもうすぐ帰る、って事で、挨拶もしておきたいし、それから、元凶についての相談だ。

 つまり、「ねえ、消さずに帰ってもいい?ねえ、いい?」っていう。

 ……過去に元凶を消したことがあるなら、神殿の人なら、何か対策とか分かるかもしれないし、何にせよ、報告しておいて損は無いと、思うんだよ。

 そして、私以外の人は、体育館組の食料調達に呼び出されてしまった。

 ……2F南は、モンスターが少なくて、温厚なので安全だ。だからそこに拠点を作ったんだけど……つまり、それって、食料が、無い、って、事なのだ。

 お肉。お肉が無いと、やっぱりよくない。

 なので、皆さんはここら辺、つまり、2F北東あたりで食料を調達して、体育館組に届ける、という事になった。

 ……吹奏楽部の人が来たら、一気に100人弱、人が増えるわけだし、さ……。


 というわけでやって参りました、神殿。

 アリアーヌさん、部屋に居なかったんだけど、ちょっと待ってたら戻って来てくれた。休憩時間らしいから、ちょっと申し訳ない。


 お茶を出してもらって、お茶菓子出して、一息ついた所で、早速本題に入ろう。

「元凶についてだ。……あれは、消すと化け物になるが、昔からそうなのか?」

 もう、一切合財説明は省いて、必要な所だけ聞くと、アリアーヌさん、驚いたような顔になった。

「ご存知ないのですか?アレは、あなたが作ったものでは」

 ……ああ。うん。そうだった。

「……余は、2代目でな。アレを作ったのは余では無い」

 目が泳がないように頑張ったよ。うん。

「ああ、それで、調べてらっしゃったんですね。……神殿の地下倉庫にあった書籍の中には、勇者を召喚するようになってから、元凶が魔物になるようになった、と、ありました」

「つまり、勇者召喚を行う前までは」

「『碧空の種』を植え付ける事で元凶を浄化するのはご存知ですよね?その後、元凶は化け物になることなく、消えたそうです」

 ……それは、どういう意味だろうか。

 元凶を過去に消した異世界人がいて、その人達は……サッカーボールより小さい化け物を退治してたんだろうか?

 しかし、アリアーヌさんはそれ以上詳しい事は分からないようだった。

 ……魔王さんの話を聞く限り、この世界に元凶が出てきたのって、そんなに昔の事じゃないんじゃないかと思われるんだけど……数代前の大司祭が、そこら辺の資料は全部処分しちゃったのかもしれない。


「さて、それからだな。……異国人達は、元の世界に帰るぞ」

 それから、挨拶だね。

「ああ、あなたもお帰りになるんですか?」

 ……うん?

「え、あの、だって、魔王さんも、異国の方ですよね?」

 ……うん。……うん?

「知っておったのか」

「ええ、その、不思議な技を使ってらしたので、てっきり」

 ああ、うん、スキルね。スキル使ったら、そりゃ、異世界人扱いになるわな。うん。

「寂しくなりますね」

「……そうか」

 ええと、こういう時、私はなんていうのが正解なんだろう。

「それで、元凶の事をお尋ねになったという事は、元凶を消さずに帰ることについて、ですね?」

 おや、話が早い。

「元々、私たちの世界です。異国の方に助けて貰おうとしているのがそもそも間違いなんです。……だから、気になさらないで。私達の世界の事は、私達で決着を付けます。それに、この世界だって、元凶が出現してから今まで、滅びていないんですもの。きっと何とかなるわ」

「巨大な化け物になるぞ」

「ええ。みんなで力を合わせれば、きっと何とかなります。何とかします」

 ……アリアーヌさんはそう言うけれど、どうなんだろう。

 異世界人が来てから、元凶は化け物になるようになった。

 それは、異世界人が来た分、元凶が強くなってバランスとった、とか、そういう話なのかもしれない。

 勿論、私達には、元凶を消す義理は無い。

 勝手に呼ばれたのだから。だから、消してやる義理は無いけれど……。

 ……どうしたもんかなあ。




 アリアーヌさんからは、それ以上特に情報も得られず、帰ることにした。

 帰ったらお昼作って、皆さんが帰ってきた所でお昼ご飯にして、また皆さんはご飯の調達に行ってしまったので、私はケトラミさんとお話することにした。

「ねえ、ケトラミ」

『おう、何だ』

 ケトラミさんはのしのしやってきて、私の隣で丸くなってくれた。

 暗黙の了解という奴で、私はケトラミさんをハタキではたいてから、凭れさせてもらう。

 ふっかふかで、ぬくぬくである。最高!

「元凶を消さないと、この世界はいずれ滅ぶでしょう」

『そうだな。だが、それはお前らの仕事じゃねえ。気に病むな』

 ……色々、お見通しだった。

『……お前は、どうしたいんだ』

「できるなら、全部消してから帰りたいよ。けど、私1人の問題でもないしさ」

 私が、あの引っぺがされる感覚を味わうだけなら、何の問題も無い。

 けども、その後、矢鱈と強いマネキンと戦うのは皆さんなのだ。

「それに、卑怯だけど、皆さんの気持ちも、分からんでもないんだ」

 だからと言って、私はこの考えを変えるつもりは無い。

「でも、好きになってしまったものに対して、妥協するつもりは無いよ」

 今の所一番納得がいく、安全性の高い方法は、これだろうから。

『お前も、お前の仲間たちも……いや、なんでもねえ』

「な、なにさ」

『何でもねえっつってんだろ』

 ケトラミさんは怒ったように言うと、ふっかふかの尻尾で、私の体を包んでしまった。

 ……うん、もう少し、じゃあ、このままでいさせて貰おう。


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