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159話

「あ、なんかそれ美味そう。どこの?」

「あっちの屋台の奴です」

「羽ヶ崎君!それ分けて!」

「え、やだ」

「……何やってるの?」

「どこから食べたらソースが零れないか見極めてるんだよ」

 何やら、賑やかである。

 皆さんはしゃいでるね。年相応でいいと思うよ。うん。

 かくいう私も、平焼きパンに具を挟んだような食べ物を丁度食べ終えた所なんだけども。

 具は、千切りにしたレタスみたいな奴と、焼いたお肉であった。琥珀鹿のお肉らしいね。

 きつめに塩と胡椒が入った香ばしいお肉と、本来の甘みと酸味を引き出すに留めて塩味はお肉の方に依存したトマトソースが良い調和で、美味でございました。

 鶏肉のマリネみたいなのが挟まってる推定さっぱり系の方も美味しそうなんだよなあ、そっちも食べてみようかね。


 そして、クラムチャウダーみたいなスープと、飴がけの木の実類を追加で買ってきて、ベンチに座って食べていた所。

「隣、良いですかね」

 刈谷が私が座っていたベンチの隣に腰を下ろした。

「刈谷は満腹?」

「ちょっと休憩です。これ買ってきたので座って食べようかと」

 見せてくれたのは、ハトロン紙っぽい紙袋に入ったお菓子だ。

 アイシングの掛かった一口サイズの揚げドーナツっぽいお菓子だね。

「食べます?」

「あ、じゃあ頂きます」

 1つ貰って食べてみると、レモンの風味がさっぱりしていて、くどくないお味でした。

「美味しいね、これ」

「そうなんですよ」

 刈谷はもふもふとお菓子を食べて幸せそうな顔をしている。

「こっちのも美味しいよ。食べる?」

 飴がけの木の実類の袋を出すと、刈谷はどうも、と1つつまんで食べる。

「これも美味しいですねー」

「ね」

 ローストした木の実の香ばしさと、カリッとした飴の食感と甘さがたまらんです。

 やめられない止まらない系だね。

「なんか、もっと早くこういう事やれば良かったですね」

「まあ、やっとひと段落ついたからこういう事しよう、っていう発想になるけど、今までは結構、視野狭窄してたからさ」

 なんてったって、町を発見したのに自炊するわ、『転移』できるのに町に住もうとしないわ、割と非効率的な事してたなあ、と、思わざるを得ない。

 誰のせいだ。私か。私のせいか。私のせいだな、これ。

「キャリッサちゃんたちの方が完成するまでに、色々やろうね」

「ですねー」

 さて、とりあえずは……。

「君達、いつまで食べるの?」

 ……ああ、うん、いいから!喋るのは飲みこんでからでいいから!




「さて、どうしようか」

「ドラゴン……」

 どうしようか、って言った次の瞬間にはもう決定。

 という事で、各自別行動になった。

 鈴本と針生と鳥海は、回復役の刈谷を引きずってドラゴン狩りへ。

 角三君1Fの空をテラさんと一緒に飛び回りに。

 羽ヶ崎君もシューラさんと一緒に飛びに。

 そして加鳥は4号機を作るべく引きこもり、社長も毒物を作るために引きこもり。

 私はというと……デイチェモールとエイツォールの観光したかったんだけども、1人で行ってうっかり盗まれでもしたらまた皆さんに迷惑かけるんで、大人しく晩御飯の仕込みとかしておきます。


 急に肉まん食べたくなったから肉まん作るよ!

 それだけだと寂しいからニラ饅頭と小籠包も作るよ!

 それに中華風のたまごスープと、デザートに杏仁豆腐だっ!

 仕込みに時間が掛かる物だから、今日みたいな日はぴったりと言えよう!




 ご飯の支度が終わった頃、ドラゴン狩りしてた人たちが帰ってきた。

「お帰りなさいませ。どうだった?」

「こんなんなったよー」

 ……。

 お、おお……。

 鈴本はでっかい鳥の首のあたりを撫でており、針生は蝶々みたいな羽のドラゴンみたいなのに乗っており、鳥海はドラゴン……っていうか、恐竜に乗ってぐったりしてて、刈谷がそれを支えていた。

「仕事が早いよ、君達」

 しかも、これで一通り飛んできた(鳥海は走ってきた)っていうんだから怖いわ!

「明日はこれで世界一周して来るか」

「この世界の端っこってどうなってるんだろうねー」

 楽しそうで何よりです。

 ……アレフ○ルド方式で、上と下、右と左がくっついてたりするんだろうかね?

「あ、それから、元凶拾ってきたよ」

 ……うん、鳥海がぐったりしてるのは、それだな?

 見てみると、3つ元凶が括り付けられていた。

 おおう、すげえ。

「回収するよー」

 元凶を3つ回収すると、たちまち鳥海は元気になる。

「まあ、多分、もう元凶を消さなきゃいけない事って無いと思うんだけども」

 帰る時には魔王さんに返していくのが筋かな?




 という事で、角三君と羽ヶ崎君も帰って来て、引きこもり2人も戻ってきたのでご飯ですよ。

「明日はどうしますか?」

「1Fの端っこ見てくる?ってさっき話してた所」

 空飛べる人、増えたもんねえ。

「じゃあ僕も4号機でついていこうかなあ」

 加鳥はもう4号機を作ったらしい。お前は一体何なんだ。

「羽ヶ崎さんと角三さんもそれぞれシューラさんとテラさんがいますから、じゃあ、俺は留守番ですね」

 おや、社長は留守番か。

「じゃあ社長、明日観光付き合ってよ。デイチェモール、碌に見てないんだ」

 折角の水の都なのにさ。

「ええ、構いませんよ」

 よっしゃ!これで観光できるぜ!

「……俺、正直1F、見飽きたんだけど……俺も付いてっていい?」

 おや、角三君も付いてくる模様。

 ……まあ、そうか。今日半日、ずっと1F飛び回ってたんだもんなあ。そりゃ飽きるわ。

「え、角三君、端っこまで行ったの?」

 鳥海が肉まん齧りながら聞くと、角三君はちょっと自慢げな顔になった。

「行った」

「え、どうなってるの!?端っこって、どうなってるの!?」

 針生が聞くと、角三君は珍しく……ちょっと悪戯っぽい表情で、

「……内緒」

 との事です。

 やっぱりアレフ○ルド方式かなあ。




 朝です。

 今日はお弁当作らないといけないからちょっと早起きしましたよ。

 世界の果てまで遠足に行くのが6名ぐらい居るので、そいつらの分です。

 尚、デイチェモールの観光する私達は、おそらく買い食いになることと思われます。

 お弁当が茶色っぽくなるのが悩みだった私ですが、今回のは割と彩りも綺麗にできたんじゃないでしょーか。

 ふっふっふ、私は進化するのだよ。

 尚、朝ごはんは和食。

 ほら、昨日は洋食だの中華だのだったからさ……。


「じゃあ、俺達は1F北の端を見てくる」

「俺と舞戸さんと角三さんはデイチェモールの観光してきます。ついでにキャリッサさんの所も行ってきますよ」

 キャリッサちゃんたちの進捗はどうかね。

 上手くいってればいいんだけど。

 というか、上手くいってなかったら非常に困る!

「そっちは頼んだ。こっちでもし元凶を見つけたら舞戸呼んでいいか?」

「バンバン呼んでくれたまえよ」

 さもないと、昨日の鳥海みたいな事になるんだろ?あのぐったり加減はちょっとやばかったと思うぞ。


 という事で、ドラゴン組が出発してしまうのを見送って、私は社長と角三君にご同行願って、まずはキャリッサちゃんの所である。

「お邪魔しまーす」

 今回もきっちり、足音させて、ドアはノックして、入った。

「あ、いらっしゃい」

 しかし、そこに居たのは錦野君だけである。

 身構えただけに拍子抜け……。

「キャリッサちゃんとシュレイラさんは?」

「あー、姉妹で研究モードに入っちゃったから、俺は邪魔みたいで……」

 ……ああ、うん。そうか。分かった。

 あの姉妹、何かに似てるなあ、と思ってたんだけど、猫だ。猫。

 自分の気が向くときはじゃれついてきて、気が向かない時は放置、という!正に猫!

 可愛い所までしっかりそっくりである。そうかあ、あの姉妹は猫かあ。うんうん。

「研究の方はどんな感じですか?」

 社長が聞くと、錦野君は苦笑しながら答えた。

「一応順調だそうだけど。……あ、そろそろブランチの準備しないと」

 ……聞けば、錦野君がキャリッサちゃんとシュレイラさんの衣食住をお世話しているんだそうだ。

 シュレイラさんはそこら辺しっかりしてそうだと思ったんだけど、研究者あるあるで、あの人も研究モードに入っちゃうと、そこら辺がおろそかになるらしい。

 ……まるで、ひな鳥にエサを与えるがごとく、錦野君が研究中の姉妹にご飯を与え、子供のそれを手伝うようにお風呂に入れ、夜になったら無理矢理ベッドに連れて行って寝かすんだそうだ。

 さもないと、延々と研究進めちゃって、ご飯も摂らなければ睡眠もしない、って事になるらしい。

 ああ、ラボ畜……。

「もう少し進展したらこっちから連絡入れるよ」

「そっか。ありがとう。じゃあ、キャリッサちゃんとシュレイラさんによろしくね」

「多分人の話聞かないから、言っても伝わらないと思うけど伝えておくよ……」

 ……錦野君の苦労が、伝わってくるようである!




 それからデイチェモールに『転移』だ!

「では早速観光といきましょうか」

「いえーい!」

「……いえーい?」

 朝の街並みで日差しを浴びながら、早速観光である!

「じゃあ、嫌な事は最初に終わらせましょう。南エリアに行きますよ」

「……あー」

 まさか、まだ凍ってるとは思わないけどさ……。


「まさかのだった」

「うわー……」

「流石羽ヶ崎さんですね」

 以前、私を盗んでくれた人たちをここで凍らせておいたんだけども、なんと、そのままそっくり残ってた。

 2週間、とか、言ってなかったっけ、羽ヶ崎君。

「これ、どうする?」

「どうするって……」

 このままにしておくのも、そろそろ寝覚めが悪いぞ?


 3人で話し合っていた所。

「おーい、何してるんだ?」

 何やら、魔術師さんらしい人達が3人程度、やってきた。

「あ、いえ、凍ってるなー、って見てただけです」

 まさか、こいつら凍らせたのが私たちの仲間だなんて、言えない!

「あー、そいつらか。そいつらはな、この町を根城にしてた悪党どもでな。しょっちゅうスリや万引きや、終いには人攫いまでやるもんだから、困ってたんだ」

 ……そう考えれば、私たちがやったことも、そんなに悪い事じゃなかった、のかな?

 いや、判断基準が一方的ではあるけどさ。

「んで、いつからだったか、ここでいきなり氷漬けになっててな?丁度いいんで、俺達が毎日交代で来ては凍らせ直してるんだよ」

 ……。

 ……ああ、うん。

 そういう、ことか……。

 どおりで溶けて無いなあとは思ったんだ。うん。毎日凍らせ直してるのか。だったらしょうがないね!




 しょっぱなから微妙な気分になりつつも、吹っ切れて楽しく観光した。

 この町は水路を船で移動するようなところが多いから、舟遊びとしても楽しかった。

 糸魚川先輩の国は海の中にいきなり水の無い所があって、そこに建ってる、ってだけだから、ある意味では地上と同じなんだけど、この町は海の上に建物を建てている所が多い。

 そういう建物なんかを見るのも中々面白かった。

 お昼ご飯は飲食店に入って(実は、これ、異世界で初めての飲食店である!)済ませて、その後、異世界ならではのお店を冷かしたりして堪能し、夕方に鈴本から連絡があるまでのんびり街を見て回った。


『ちょっとこっち来てくれるか』

 夕方になって連絡が入ったので、早速、鈴本の視界を借りて『転移』する。

 移動先は、海、でした。

 ……これ、つまり、南と北が繋がってる、って事だろうか?

「舞戸、進んでみろ」

 鈴本に促されたので、不審に思いながらも、海に向かって歩いていく。

 ……うおっ!?

「壁がある!」

 何これ何これ!

 見えない壁があって、海に入れない。壁は叩いてもびくともしない、というか、何だろう……壁に触れる直前で力が抜けちゃうかんじだ。

「これが世界の果てらしいね」

 ほー……案外、呆気ないもんですなあ、世界の果て到達、っていうのは……。


「帰ろっか」

「ね」

 茜色に染まり始めた空と、その光を映す、妙に静かな海面を眺めてから、私たちは2F北東に帰ることにした。

 ……思えば、2F北東エリアって、『帰る』場所になっちゃってるんだなあ。


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