156話
雑談なども挟みつつ、生暖かい空気の中お昼ご飯も終わり、社長と一緒に奈落の花畑へGO!
やっぱり、『奈落の灰』が落ちてくるのはこの花畑の模様。
なんかそういう決まりでもあるのかね?
「社長、どう?」
早速『奈落の灰』を回収している社長に聞くと。
「いや、足りませんよ」
……駄目だこりゃ!
「……ということで、まだ元凶を消す必要があります」
社長が報告すると、皆さん死んだ魚のような目になった。
「きっと、また大きくなって出てくるんですよね……」
刈谷は回復係だから、被害が大きくなると必然的に仕事が増える。
しかも、こいつの場合、その大半が……なんというか、こう、グロ画像、を直視するお仕事である。
最近は剣も使えるようになってきたもんだから、仕事量は凄まじいものがあるはずだ。
「うん、まあ、しょうがないよね」
今度は、加鳥があらかじめエネルギー充填してから元凶に花を植えることにするらしい。
そうすれば、少なくとも1発、超強力なのが入るからね。
こういう戦略は大事だと思う。
少なくとも、相手と戦い始めるタイミングは完全に私達側が決められるんだから、練れるだけ練っておくべきだね。
「一回、魔王に聞いてみるか。有効な戦い方があるかもしれない。一応、元凶は消したし、会いに行っても問題は無いと思うが」
鈴本がそう言い出したことで、状況が打開される可能性が出てきた。
ほら、だって元凶作ったの魔王だし!
となれば、簡単な消し方の1つや2つ、知っていてもおかしくないのである。
「それが今の所一番有効でしょうね」
社長のお墨付きもあり、魔王宅にお邪魔しに行く事にした。
……今度はちゃんとお茶菓子持ったよ!
ということで、やってきました奈落は魔王宅前。
相変わらず瀟洒な雰囲気のお宅であります。
ドアをノックすると、「どうぞ」と、前回の様に気軽な返事が返ってきた。
相変わらずらしいね。うん。
「お邪魔します」
なので、前回同様、お邪魔するよ!
「ああ、来たのか。首尾はどうだ?」
ドアを開けると、魔王さんは相変わらず、華奢な水晶細工のチェス盤に向かっている所だった。
……飽きないんだろうか。
「元凶を3つ、消しました」
相変わらず、魔王手ずからお茶を淹れてくださりまして、それを飲みながら私が持ってきたお茶菓子を摘まんでいる所であります。
「早かったな。見つけるのは苦労するだろう。そちらのお嬢さんの眷属が役に立ったか?」
眷属、っていう言い方しちゃうと怒られそうだけど(主にケトラミさんに)。
ケトラミさんも、グライダも、マルベロも、そして主にテラさんと……新しく入ってきたシューラさんも。
みんな役に立ってくれております。はい。
「して、聞きたいこと、とは?」
魔王さんはちょっと嬉しそうにしながらこちらの発問を促してくる。
有難いね。こっちとしても早い所、問題を解決してしまいたい。
「元凶を消す時に出てくる化け物がどんどん大きくなってきていまして」
……しかし。
「待て。化け物?何の話だ」
……えっ?
魔王さんは、心底戸惑ったような顔をしているだけである。しらばっくれてるんだとしたら、大した演技力だ。
「『碧空の種』を植えて咲かせた後に、謎の生物……みたいなものが、出てきて。最初は小さかったんですが、3つ目の時は2m程度のサイズに」
鈴本も戸惑いながら説明すると、魔王は考え込んでしまった。
……ええええ……。
「……すまないが、『虚空の玉』を作った時、そのようには作らなかった。……化け物が、出てくるのだとしたら……それは、何らかの変化が起きた、のだと思うが……」
……おいおいおいおいおい!それ、ヤバくないのかね!?
魔王が、作った本人が分からない、って、相当に……ヤバく、ないかね?
「そもそも、『虚空の玉』は何の為に作ったんですか?」
そこが分かれば何か分かるかもね、という事で、聞いてみた。
……聞いてみた、んだけど……急に、魔王の表情が、こう……なんだろう、急に人間っぽくなった、っていうか……感情が表に出てきたかんじがした。
「……女神を、復活させる為だ」
元凶の性質を思い出してみよう。
元凶は、魔力をひたすら吸う、っていう性質が知られている。これは神殿も知ってることだね。
だからか、それを消した時に奈落に落ちてくる『奈落の灰』には、魔力を定着させる性質がある。つまりは吸いつけてる、って事なんだろう。
そして、女神は。
女神は……この世界の人間が、奈落の扉とやらを開いてしまった時に、人間が奈落から来た魔物に対抗できるように、人間に魔法を与えて、そして……その代わりになのか、本になってしまった。
つまりは……うーん、本に収まる容量になっちゃった、っていう事なのか、女神は規模を縮小すると本になるのかは分からないけども。
「『虚空の玉』は、女神の失われた魔力を取り戻すために作ったものだ」
つまり、元凶が魔力を吸ってたのは、女神の魔力を補充する為、と。
「そのためなら、こんな腐った世界など、滅びてしまえと」
女神が魔力を与えて人間は魔法を手に入れて、そして、その結果……腐敗してしまった、というのは、神殿を見れば分かる気がする。
……何より、現在に伝わっている神殿の教えは、魔王は悪であり、女神がそれを滅ぼした、なんていう事になってるのだ。
恐らく、女神が望む方向に世界は動いていかなかったのだろう。
だから、魔王がそう思ってしまった、っていうのも……納得できない話では、無いと思う。
「しかし、フィアナはそれを許さなかった。あいつは、本になろうが、女神だった」
魔王さんは深く息を吐いて、色彩の失せた声で、続けた。
「あいつは、自分より世界を選んだ」
……自分、というのは、女神の事なのか、それとも。
少し、沈黙が場を満たして、カップがソーサーと触れる硬く澄んだ音だけが、小さく響いた。
「『虚空の玉』はフィアナに向けて魔力を流すはずだったが、フィアナがそれを拒んだせいで、ただ魔力を吸うだけのものに成り果てた。その意味では、『虚空の玉』を作ったのは、ある意味では、私であり、フィアナでもある」
「じゃあ、女神が、『虚空の玉』を消す時に化け物になるようにした、と?」
この後に女神本の所にもいかないといけないかなあ……。
「……化け物になるのは、フィアナが細工した部分なのかもしれないが……」
うーん……やっぱり、聞いてみないといけないかな。
「すみません。俺から聞きたいことがあります」
社長が挙手した。なんだろ。
魔王さんが促すと、社長は、息を少し吸ってから、一息に言った。
「昔のとある代の大司祭が奈落に来た時、既に『奈落の灰』はあったんですよね。つまり、既に『虚空の玉』は消されていたという事ですか?」
……盲点!
「ああ、そうだな。しかし、消したのは大司祭では無い。フィアナだ。……作ってすぐ、大分消された。……作った数は千を下らないが、残った数は、百を下回るだろう」
……あ、ああ、うん、そういう事。
お前、そんなに、女神復活させたかったんかい。
「その時の大司祭に初めて『碧空の種』を渡したからな、人間が『虚空の玉』を消せるようになったのは、その後だ」
ほー……あ、うん。そうだよね。
勇者召喚は、私たちが最初じゃない。
つまり、既に元凶は幾つか消されているはずなんだよ。
……それでも、まあ、残ってる、んだよ、なあ……?
……そして、神殿は、元凶を『倒す』っていう表現をしてるんだから、やっぱり、元凶は化け物になる、っていう認識だった、っていう事だと思う。
そして、社長は気づいたのである。
この問題のおかしなところに。
「……待ってください。俺達が初めて『虚空の玉』を消した時は、小さく、すぐに消える化け物でした。そして、数を重ねるごとに、化け物は大きく強くなっています。……これが法則性のあるものだったら、神殿が『虚空の玉』を消し始めた頃は……ミジンコか、それ以下のサイズでしょう。それを、『倒す』と言いますか?」
……考えられるのは、これか。
「『碧空の種』を植えた人が変われば、またサッカーボールサイズになったりするかもしれない」
今の所、元凶に花咲かすのは社長が全部やってる。
これ、人が変わったら変わるかもしれないし。
「……無責任な事を言うようだが、私とフィアナが作ったものであるなら、規則性はあるはずだ」
魔王さんは知性を大切にする、知性的な方だし、女神は女神で、その魔王さんによって手に入れた知性を凄く大事にしてるもんね。うん。
……ちょっと、思い出した。
アリアーヌさんが言ってたことだ。
確か、「魔王は人を団結させるために元凶を作った」みたいな事を言っていたはずだ。
……あれがあながち真実から外れてないとしたら……やっぱり、女神の仕業かね。
人に共通する敵を作ることが、女神の目的だったのだろうか。
だとしたら、化け物になるのは分かるんだけど……法則性が分からん……。
それからちょっと話したりして、お暇することになった。
とりあえず、奈落から2F南に移動。
「じゃあ、とりあえず、さっき舞戸が言った案でやってみるか。もう一段階ならおそらくそこまで苦戦しないはずだ」
つまり、社長以外の人が元凶に花を咲かす、という。
「じゃあ、いきますよー」
刈谷が元凶に『碧空の種』を乗せて、気合を入れる。あ、いや、魔力です。はい。
……そして、やはり、空か海に似た色の光が溢れて、目を灼いていき……。
……4mちょいはありそうな、でっかい、化け物が、出てきた。
誰だよ!人変えたらサッカーボールサイズのかわいこちゃんに戻るとか言ったの!
……私か!
「『滅光EX』!」
そして、化け物は周囲の地面と一緒に蒸発した。
「ふりだしに戻ったな」
「とりあえず、女神本に聞いてくる……」
自分で作ったもんの責任はとれ、って、文句言ってくる……。