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152話

 その竜は、氷でできていて、襲い掛かって来てるんでも無ければ、きっと見惚れたと思う。

 光を幾重にも反射して輝く、羽毛に似た薄氷に覆われた翼も、澄んだ薄青の体も、何もかもが華奢で、触れれば壊れそうな美しさを持った生き物だった。

 うん。ホントに、襲い掛かってくるんでなければ、ね。

「またユニークモンスターかあああああああ!」

 しかし、襲い掛かってくるんだ、こいつは!

 氷の壁にぶつかった氷の竜は頭を数度振ると、またこちらに向かって飛んでくる。

「ちょっと、舞戸、「また」って、どういう事!?」

 羽ヶ崎君が氷の壁を連続して宙に浮かべて、氷の竜を囲う檻と成した。

「いや、さっき加鳥の所に行ったら、ナマコみたいな植物みたいな変なのがいて」

「それ、大丈夫だったんですか?」

 刈谷が素早くその檻を囲うように、光の壁を生み出す。

「『滅光EX』でユニークっぽいモンスター一体とお花畑が消し飛んでた」

「は!?加鳥一人でユニーク屠ったってこと!?」

「そ!」

 壁で竜を閉じ込めておけたのはここまでだった。

 鋭い音と主に二重の壁が砕け、煌めきながら落ちていく。そして、氷の竜の咆哮が響いた。

「で、撤退!撤退しないのかね、諸君!」

 氷の竜はこっちを目指してきている。やばいやばい、撤退はさっさとやるに限るってのにさ!

「しない」

 ……耳を疑ったけど、羽ヶ崎君は正気だったらしい。

「加鳥にできたんでしょ?僕にだってなんとかなるでしょ」

「は、羽ヶ崎くーん……」

 君という奴は!

「試したい事もあったし」

「刈谷ー」

「舞戸さんはこっちです。はい、『箱舟』」

 あ、お前も共犯か。

「じゃあ、ぱぱっと片づけてくるから」

「やめなされ!君の火力じゃ無理じゃー!」

「うっさい」

 止めたけど無駄だったので諦めた。いつでも『転移』はできるようにしておこう。

 ……刈谷もいるから、まあ、最悪の事態にはならないと思う。うん。それに、羽ヶ崎君だって勝算無しに無茶するような馬鹿じゃあないしなあ……うん。




 しかし、思ったんだけど、氷の竜相手に羽ヶ崎君だと、相性が最悪なんじゃあないだろうか。

 だって、氷に氷よ?あんまり効かないんじゃあないかと思うんだけども……。

「『ライトニング』!」

 あ、そういや、君、そういうのも使えたね。

 羽ヶ崎君が小手調べとばかりに雷を落とすと、氷の竜はその翼で雷を弾き飛ばした。

 ……どうなってんだろ、あれ。

「『ハリケーン』!」

 あ、今度は水系のお天気魔法だね。

 しかし、氷の竜は雨風を凍らせて、羽ヶ崎君に返す始末。

 羽ヶ崎君は嫌そうな顔をしながらそれを氷の壁で防ぐ。

「『ヘイルストーム』!」

 あれ、今度は雹のお天気魔法の模様。

 ……当然だけど、氷の竜は氷なわけで、雹がぶつかってもちょっと痛い位の模様。冷たいのには耐性があって然りだろうなあ。

「……へえ。成程ね」

 しかし、羽ヶ崎君、余裕の表情である。

「刈谷解説員、解説をお願いします」

「え?ええ、ええと、はい。あれはですねぇ、おそらく、氷系の魔法なら氷の竜が弾いたり避けたりしないという事に気付いてあの表情なのだと思われます」

 刈谷はノリがいい。うん。いいことだ。

「しかし、刈谷解説員。氷の竜に氷をぶつけてもあんまり効かないのではないかと思われますが」

「いやいや、きっと、羽ヶ崎君には考えがあるんでしょう。それに、少なくとも、相手の攻撃も羽ヶ崎君には効きにくいですから。長期戦が見込まれますねぇ」

 ……長期戦かー、大丈夫なんでしょうか。

 羽ヶ崎君、そんなにスタミナのある方では無かったような気が……。


 ……心配して見ていたのに、なんか、心配の斜め上を超えていかれてしまった。

「『アイスチェーン』!」

 羽ヶ崎君は霜どころか、なんかもう凍り付いたようになっている杖を構えると、杖から幾筋かの氷の鎖を表出させた。

 その鎖は華奢なくせに妙に強くできているらしく、伸びて氷の竜に絡みつく。

 ……成程。この竜、なまじ自分が氷だから、氷というか、温度が低い者に対して凄く強いんだけど、その代わり、警戒心もあんまり無いのかもしれない。

 しかし、竜は鎖を解こうともせず、羽ヶ崎君に向かって突っ込んでいく。

 竜は息を吸い、それを吐き出した。

 勿論、吸ったままの息じゃない。大気中の水分までもが凍り付き、氷の刃となって吐き出される。

 それは羽ヶ崎君を切り裂きながら吹きすさび、そして、その息で動きを止めた羽ヶ崎君に噛みつこうと、竜は接近していく。

 ……私が動かなかったのは、羽ヶ崎君が笑みを浮かべたのが見えたからである。

「『ニヴルヘイム』!」

 竜の口腔に向けて、羽ヶ崎君の杖から薄青い光が放たれたかと思うと……次の瞬間には、猛吹雪!

 ……何も見えん……。


 吹雪が晴れたら、体が凍ってるらしい羽ヶ崎君と、すっかり凍り付いた氷の竜、という、よく分からん状態になっていた。

 ……両者、動かないね。

「羽ヶ崎君!」

 刈谷が『箱舟』を解いて羽ヶ崎君に駆け寄る。私もマルベロと一緒に駆け寄る。

 あーあーあーあーあー!こんなに凍っちゃって!……一応、一応、心臓は動いている……らしい。

 つまり、血管までは凍ってない、って事なのかな……いや、危ない事に変わりは無いか。

「凍傷っていうか、凍結してますね。治しますよー」

 そして刈谷による治療が始まった。

 私もメイドさん人形達に働いてもらって、『ヒール』のお手伝いだ。

 マルベロに近くに来てもらって、炬燵兼風よけになってもらう。

 私は湯たんぽの代用品にされた。解せぬ。


 少しすると、羽ヶ崎君は大分溶けてきた。

「羽ヶ崎君、聞こえますかー?」

「五月蠅い」

 あ、生きてる!生きてるよこれ!

 なんというか、相変わらずの冷たさではあるけれど、生き返った模様。はー、肝が冷える。

「どうよ」

「いや、どう、って……」

 なんか羽ヶ崎君は自慢げだけど、何がそんなに自慢げなんだお前!

「ユニーク一体倒したけど?」

「ああ、うん、それは凄い、凄いんだけど、凍らないでほしかった」

 見てみろよ、君の手、色が死体色してるぜ?

 触ってみると案の定、アホみたいに冷たいのである。

 しかし、羽ヶ崎君は不機嫌そうな顔をしたなあと思うと、いきなり私にアイアンクローかけてきた!

「ふぎゃっ!」

 ひゃっこい!痛い!

 君の手、氷でできてるんじゃないかね!やめろ!つめたい!つべたい!

「……ぬくい」

 やめろひゃっこい!ひゃっこいから!首は!首はいかん!やめろ!ええい、やめんか!


 30分位したら、息切れしている刈谷と、すっかり常温に戻った羽ヶ崎君と、体温を羽ヶ崎君に持っていかれた私が出来上がった。

 ……そして現在、マルベロという炬燵に包まりながら元凶を回収すべく氷の壁を削っております。

「それにしても、何でわざわざ君は交戦したのよ。単純に撤退すればよかった気がするんだけども」

「倒せたんだからいいじゃん」

 うん、本当にびっくりだけどさ……。

 ……一応、解説するとだな、あれ、コンボ技だったらしい。

『アイスチェーン』は、相手の氷への耐性……つまり、耐冷性を減らす、そして、『ニヴルヘイム』は、その大層なお名前の通り、現時点で羽ヶ崎君の最強技であり、そして、副次的な効果として、自分の氷への耐性をあげる、っていう効果もあるらしい。

 それで、自分がぎりぎり耐えられて、相手がぎりぎり死ぬようにしたんだそうな。

「蜜蜂って熊蜂と戦う時、囲んで体温あげて熊蜂が死んで自分が死なない温度にして殺すじゃないですか。なんかそれみたいですねぇ」

 ……刈谷の例えは、非常に分かりやすいんだけど……なんか、なんか……うん。




 刈谷の例えに頭を捻る暇も無く、私は元凶回収の為に氷をひたすら『お掃除』である。

 この氷、妙に透明度高いもんで、元凶までの距離が分かりにくいんだ。

 うっかり元凶ごと『お掃除』するのが怖くて、ちびちび削っていくことになる。

 暫くして、元凶の回収に成功。うん、中々手間だった。

「じゃあ、私は戻るから。お昼時になったら呼ぶから、そのつもりでね」

「了解ですー」

「分かった」

 元凶を回収したら私はさっさと戻ってお昼ご飯の支度を始めよう。

 羽ヶ崎君と刈谷は、小休憩を挟んでまた次の元凶を探しに行くらしい。……元気だな!




 ということで、戻ってきました。あ、ぬくい。さっきまでひたすら寒かったから、相対的にここが温い!

 ……と、ぬくぬく歓喜していたら、またしても、『交信』である。

「もしもし」

『舞戸、見つけたから回収してくれ』

「ユニークモンスターはいるか!?ナマコとか、氷の竜とか!」

『は?ユニーク?ナマコ?氷の竜……?いや、居ないが……』

 そうか、ならいい。

 グライダに乗って行った鈴本が『交信』を入れてきたので、そっちに飛ぶことに。

 ……メイドに休みなし!お昼ご飯が遠くなっていく!この野郎!


 ということで、『転移』しました。飛びました。そして、滑って、着水!

 しかもなんかしょっぱい!

 あ、やべ!水が鼻に入った!あーあーあーあーあーあー!

 なんだこれ!なんだこれ!あばあばばばばばば!


「……これはひどい」

 そこは海であった。

「……すまん」

 鈴本に回収されて、グライダの背中に乗ることに成功した。

 成功したがびっしょびしょだし、鼻は痛いし、気管にも海水入ってえらいことになるし!

 ……グライダはでかい。

 そして、脚が長い。

 なので、こう……浅い海だったらだな、海の底に脚がつくから、そのままがしょがしょ進んだら行けちゃうんだよね。

 鈴本と針生はその上に乗っかって移動していて、そのまま私を呼んでくれたんだけど、私はというと、割と端っこに居た鈴本の視界に伴って、端っこに移動してきてしまって、しかも、海水に濡れたガラスの曲面だったわけで……滑って、海水にダイブである。

「君ね、もうちょっと端っこじゃなくて、中央にいてくれたら私は水ポチャせずに済んだのだがね」

「それはすまなかったな。で、あれだ」

 ……さらっと流されつつ、鈴本が指さす方向を見てみれば、元凶がぽん、と、浮いてた。

 ただ、ほんとに、ぽん、と。

 ……なんてこったい!こんなに無防備にぽん、と浮いてるだけでいいのか、元凶!いや、『虚空の玉』!

 波に削られたりしないんだろうか。

「……じゃあ拾ってくるからもうちょっと近づいて」

『いやよお!アタシ、アレに近づくと力抜けるもの』

 ……あ、成程。うん、グライダは……私の魔力を使ってるから、そういう事もあるのかな?うん。

「舞戸、お前水泳は」

「苦手だ畜生め!」

 どいつもこいつも私を何だと思ってやがるんだあああああ!

 ……メイドか。


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