151話
という事で、皆さんが行ってしまった。
……何故、機動力の高い角三君だけが出る、とかじゃないか、っていうと……ジョージさんである。
ジョージさんに頼めば、コンパスをコピーしてもらえるのだ。
コンパスなんて、方向差すだけの物なんだから、性能が1%落ちたって大して変わらんだろう、という事である。
……という事で、角三君はテラさんに乗って飛んでいき、鈴本と針生はグライダに乗って行き、社長と鳥海はケトラミさんに二人乗りして行き、羽ヶ崎君と刈谷はマルベロに乗って行き、そして、加鳥は人型光学兵器に乗って飛んで行った。……飛んだ。遂に飛んだぞ、人型光学兵器。
なので、私はハントルと一緒にお留守番である。
『なのー』
ハントルもすっかりでっかくなっちゃったので、私の服に隠れるとか、できない。
いや、できるんだけど、そうするとスカートの中がハントルだけで埋まってしまう為、メイドさん人形達は連れて歩けなくなってしまうのである。
というか、重い。
そして、現在、すっかりファンタジーサイズのヘビさんになってしまったハントルの為に、リボンを作り直している所であります。
ほら、首に巻いてた奴がさ……ハントルの成長に伴ってぶち切れたからさ……。
グライダの糸で織った布を……ちょっと迷ったけど、『大黒蛇の鱗』で染めて、そこに『祈りの歌』の糸で刺繍していく。
……していく、はずだったのに!
『舞戸さん、見つけちゃったから来てくれるかなあ』
早速我らが機械戦士が連絡を寄越してきたので、作業中断。
ハントルにはもうちょっと待ってもらう事にしよう……。
そして移動した先では、でっかい人型光学兵器がお花畑で体育座りしていた。
「来たよー」
人型光学兵器に向かって手を振ると、人型光学兵器は手を振り返し、そして、ある一方を指差した。
……その方向を『遠見』で見ると、成程、お花の上に、元凶がぽん、と浮いていた。
……人型光学兵器もとい加鳥は、これ以上近づくとおそらく、力が抜ける、つまり、補正が剥げるんだろう。
ふむ。じゃあちょっくら回収してくるかな、ということで、元凶に向かって歩き出したところ、脚に何か絡まってすっ転んだ。
『舞戸さん!動かないで!』
そして、『交信』で加鳥の声が聞こえたなあ、と思うと、頭上を熱が通り過ぎていき、じゅ、という音と、何かが焼ける臭い。
そして、なんかよく分からんけど、モンスターらしいもののくぐもった悲鳴。
『『滅光』』
そして加鳥の必殺技が炸裂。
静かになるお花畑。
『……あ、舞戸さん、もういいよ』
何だったんだ、今のは、と思いつつ顔を上げてみると……でっかい花の、残骸みたいな……焼け焦げた物体があった。
「わっついずでぃす」
『モンスターだったものじゃないかなあ』
うん、そんなことは分かっているとも。
……まあ、気にしたら負けなんだろう。うん、特に、この、人型光学兵器を前にしたら、どんなファンタジーも瓦解していくものね……。
……しかし、だな。脚は、相変わらず動かないんだけども。
嫌ーな予感がして、脚を見てみると、にちにちとなんかこう……納豆菌をもってして発酵したんじゃないか、っていうかんじの蔦っていうか、触手っていうか……そういう、非常に気持ちの悪いものがですね。はい。いました。
……生足じゃなくて良かった!
とりあえずこういうもんは『お掃除』だと相場が決まっている!
スカートからハタキを出して、その気味の悪いにちょにちょ生物をぽふぽふやるけれど、1消す間に3位増える。うにょうにょ生物は増えていく。どんどん増えていく。あ、ちょ、まて!伸びるんじゃない!あああああああ!
「かとりぃいいいいいいいい!」
手に負えなくなったので神様仏様人型光学兵器様を呼ぶと、既にこう……エネルギー充填してる所だった。
『『滅光』!』
矢鱈と気合の入った声と共に、再び必殺技が炸裂し、私の脚すれすれを光線が焼いていき……。
「ぷぎょるろろろろろろろ!」
と、何やら奇声を発しながら、ねとっ、としたかんじの、植物っていうか、ナマコっていうか、そういうかんじのものが地面から現れた。右上が少し欠けているのは、『滅光』によるものだろうか。
『『イレイズビーム』!』
『滅光』はエネルギー充填までに時間が掛かるのか、お手軽に撃てるレーザーを撃っていく方針らしい。
加鳥がレーザーでナマコ植物を焼き切っていくと、焼き切れた上半分が地面に落ち……そこから、でかい花が咲く。
そしてその花も動き出して、ナマコ植物を生産していく……無限ループ!
『舞戸さん!元凶を回収して撤退しよう!』
「了解!そっちのナマコは任せた!」
脚は自由になっていたので、早速地面を蹴って進む。
私の行く手を阻むように地面から生えてくるナマコ植物は、私に届く前に加鳥が焼き払ってくれる。
そして、何とか、元凶に手が届く距離にまで近づいて、飛んで、キャッチ!
「回収完了!」
『了解!『イリスシールド』!これで……』
そして元凶を回収して、人型光学兵器の足元まで来たところで……なんか、急に虹色の、半球状のシールドが私の周りに展開されたなあ、と思ったら……凄いのが出た。
『『滅光EX』!』
「ぷぎょろっ」
それは、なんというか……『滅光』を超えたビームであった。
余りの光量に目を閉じるけれど、瞼越しですら、その光は目を灼く。
そして、そのビームによって生まれた熱と風はシールドを通り抜けてやってきて、私は伏せることでなんとか耐え……その熱と風が止んだ時、そこは、なんというか……荒野、焦土、そういうものでした。
『イリスシールド』範囲外の花畑は目視できる範囲では全て消し飛び、それと同時に、例のナマコ植物も今度こそ消し飛んだ模様。
ビームが直撃したらしい部分は、見事にクレーターと化していた。やばいよ、これ。これにお湯張ったらグライダがお風呂に入れるよ!
……そして、人型光学兵器もまた、微妙に黒煙を上げつつ、しかしそこに立っていた。
『……やったか?』
「それ死亡フラグじゃん、やめてよ!」
しかしその心配も不要だったようで……それからしばらく、そこを観察してたけども、ナマコ植物が復活する様子は無かった。そりゃ、地面ごと消え失せてるからなあ……。
……察するに、あれ、ここのユニークモンスターだったんじゃないだろうか。
そのユニークモンスターが、一瞬で、やられた……と、なると……。
……恐るべし、ガ○ダム。
「舞戸さん、大丈夫だった?」
人型光学兵器から出てきた加鳥が私の心配なんぞするけど、うん、それよりも花畑の心配をして欲しい。
「うん、まあ、大丈夫だよ。脚についてたねちょねちょは『お掃除』で消えたし」
気持ち悪かったけれど被害はそれぐらいです。
「うわあ、よかった。毒とか無かった?本当に大丈夫?」
「君、私に『毒耐性』があるの、知ってるよね?で、それより、大丈夫なの、初号機」
「ああ、うん、修理が必要かな」
よく見たら、さっき黒煙をあげていた人型光学兵器、右腕部分が溶け落ちたのか、無くなっていた。ひえー。
「それじゃあ元凶探しはここでストップ?」
「いや、3号機を使うから大丈夫かな」
……何時の間にか、3号機が誕生していたらしい。
「ええっと、じゃあ、一旦戻る、よね?」
「あ、うん」
……ということで、加鳥と人型光学兵器と、それから回収した元凶と一緒に、再び2F北東に戻ると……ああ、うん。木々に隠れるようにして、迷彩柄の3号機が鎮座していた。
「じゃあまた行ってくるから、4Fに送ってもらってもいいかな?」
……うん。構わんよ。好きに使ってくれたまえ……。
そして、色々と精神的に疲れつつ、ハントルのおリボンの続きをやっていたら、また『交信』が入った。
『見つけた』
角三君である。
「あ、うん。ええと、近くにナマコとか居ないよね?」
『ナマコ?……うん、いない』
うん、君の言葉を信じるぞ。
という事で、『転移』。
移動してみると、角三君がテラさんを撫でつつ待っていた。
「あそこにあるから、お願い」
角三君が指さす方向に、うん、元凶が浮いてるのが見えた。
それにしても、よくこんなにぽんぽん見つかるなあ。今までのは何だったのか。
「じゃあ行ってくるけど、ナマコみたいなのが出てきたらすぐ私は逃げるからよろしく」
「……ナマコ?なんでナマコ……ん、分かった」
さっきみたいなのは御免だっつうことです。はい。
元凶は、固まった溶岩の中にはまり込むようにしてあった。
良く見つけたなあ、こんなの。
慎重に元凶の周りの溶岩を『お掃除』していって、何とか元凶を回収。
……周囲を確認。ナマコ植物は無し。良し!
「回収できたから私は帰るよ」
「俺は、次の奴探しに行くから。……また見つかったら呼ぶ」
そう言うと角三君はテラさんに乗っかって、ぱたぱた飛んでいってしまった。
……あ、背面飛行してる。
戻ったらハントルのおリボンを仕上げて、首に結んであげた。
『ありがとうなの!』
蝶々結びにしたリボンがなんとも可愛らしい。しかしハントルは既にゴメートルなのである。
それでもかわいいのはかわいいんだけども。
この、なんだろう、ヘビとかのつぶらな目が私、割と好きなんだけど、これはでっかくなっても変わらないのでやっぱりハントルは可愛いのだ。
さて、そろそろお昼ご飯の準備しないとなあ。
……と、思っていたら、またしても『交信』である。
『舞戸、こっち来て』
『見つけましたー』
……羽ヶ崎君と刈谷である。うん、またちょっくら行ってくるかな……。
行った先は、こう、なんとも……寒い!くっそ寒い!なにこれ!何これ!
そこは、雪と氷の世界でした。
見渡す限り、白と透明と、重なった氷の薄青でできている。
うん、寒く無かったら綺麗な所だと思います。はい。
……一応、解説してもらった所、3F東エリアらしい。成程、見たことない場所な訳だね。
「で、あれだから、回収してきて」
羽ヶ崎君がぞんざいに指さす方を見ると、うん、確かに、氷の中に元凶が埋まってるのが見える。
あれは……ええと。
「羽ヶ崎君が水出して溶かせば」
「お前が『お掃除』した方が早いんじゃないの?」
……刈谷の方を見ると、「がんばってください」みたいな顔でにこにこされた。あっ、くそ!
しょうがないので、氷の塊に向かっていく。
……マルベロに乗ってます。動く炬燵だね、これ。ぬくい。
『舞戸様!そろそろよろしいのでは!』
『舞戸様でも届くかと思われます!』
『舞戸様!どうぞ私の頭を踏み台にしてください!』
……なんか、非常にありがたいというか、申し訳ない申し出を頂いてしまったので、うん、遠慮なく、マルベロの頭の上に乗せてもらった。丁度いい高さなんだな、これが。
そして氷をハタキでぽふぽふやって、少しずつ削っていく。と。
『舞戸様!失礼します!』
急に体が宙に浮いたかと思うと、次の瞬間にはマルベロの頭の1つに咥えられていた。
そしてそのまま、マルベロは氷の壁を蹴って、そこを離れた。
「っ!『アイスウォール』!」
そして、羽ヶ崎君の十八番が飛び、そこに頭をぶつけたのは……でっかい、氷の竜であった。
……本日2度目の、ユニークモンスター(推定)との遭遇である。