150話
さて、とりあえずまずはご飯だご飯。お腹が空いた!
今日はお魚フライにしよう。
『泡魚の鱗』がキャリッサちゃんに頼まれていたため、食料庫にあった『泡魚』の鱗を剥いじゃったんだよ。
で、そのついでに捌いちゃったので、今日はもうお魚フライだと決めていた。
軽く塩胡椒して、衣付けて、カリッと揚げる!これだけだっ!
ソースで食べてもいいし、タルタルソースでもおいしいし、トマトソースでもいけます。うまい。
『泡魚』はその名の通り、口に入れると泡になったかの様にふわり、とろける滑らかさで、中々に美味でした。
うん、これ、衣付けて揚げるんじゃなくて煮込む、とかだったら溶けて消えてたかもしれん。あぶねえあぶねえ。
ということで、ご飯も終わったら寝る。
さっさと寝る。
……しかし、その前に微妙にひと仕事あるのである。
「はい、しゅうごーう」
声を掛けると、どこからともなくケトラミがやってきて、ハントルはその上に乗っかってて、そして気づいたらグライダも来ていた。
「はい、今日から仲間が一頭増えました。マルベロ君です」
『マルベロと申します!』
『奈落より参りました!』
『先輩方、どうぞよろしくお願いいたします!』
早速礼儀正しいのに騒がしいマルベロの挨拶に、三者三様な反応である。
『おう、よろしくしてやるよ』
『ねー、ねー、奈落って暗いの?どんなとこなの?』
『あらあ、可愛いワンちゃんね』
……で、だ。なんとなくグライダがマルベロつっついたりなんだりしているのを見つつ、本日の目的を果たす。そして、私は寝るのだ!
「で、はい、注目」
ポケットから、魔王に貰った小さな宝石みたいな奴を出して手のひらに乗せた。
「魔王から預かってきました。君達に、だそうです。使い方、分かる?」
魔王は、彼らに与えてやってくれ、としか言ってなかったからなあ。使い方なんて分かりません。
『……これ、魔王様から?アタシ達に?』
「うん」
見た目は非常に宝石、触った感じも非常に宝石である。サイズは指の爪位。色は黒いのと、銀色のがある。
『これは魔力塊だ。魔王自身の魔力だな』
ケトラミさんが覗きこんでそう言った。
魔力の塊、とな?ふむ……。
『舞戸、舞戸、僕、この黒いのがいい!』
いつのまにやらハントルは私の首に巻き付いていて、体を伸ばして手のひらの宝石をつついていた。
「えー、っと、じゃあ、ハントルにこの黒いのはあげてもいいかな?」
『構わねえ。俺も黒だな』
『いいわよお。アタシは、そうねえ……相性あるし、銀色の貰うわよ。いいわね?』
『では私は黒を頂きます!』
おや、銀はあんまり人気が無い模様。余っちゃうね。
『頂きまーす!』
どうしようかな、とか思っていたら、ハントルが黒い宝石をぺろん、と呑みこんだ。
……そして、私の首に急激にかかる負荷!折れる!折れる!首が折れる!
『あ、ごめんなの』
そしてするり、とハントルは地面に降り……。
『また一皮剥けたの!』
……でかくなってた。
最早、私の身長超えてる。ハントルじゃなくてゴメートルとかに名前変えた方がいいかもしれん……。
『じゃあアタシも頂きまーす』
グライダも器用に銀色の宝石を糸で吊り上げて……ええと、多分あそこが口なんだな、うん。
『やあだ、何みてんのよお』
そして、それを食べたらしい瞬間から、グライダの体が……光沢というか、艶を増した……アレだ。銀化ガラスみたいな、虹色の光沢をうっすら纏っている。
『俺も貰うぞ』
そしてケトラミさんもこれまた器用に、でっかい舌で一粒だけ宝石を掬い取っていくと、嚥下する。
……あれ?
「ケトラミは特に変身しないんだねえ」
『俺は既に完成されてるってこったな』
あ、さいでか。流石のケトラミ先生である。
……あとでこっそりグライダ伝いに聞いた所、ケトラミはここで強化を体の内側に留めたんだそうな。グライダ曰く、『すました顔して器用な事するわよねえ』である。
『では私も!』
『頂きます!』
『あ、頭1つにつき1つ頂けたり』
「しません」
マルベロはどの頭が食べるかで喧嘩し始めたところを、グライダに糸で縛り上げられて無理矢理適当な頭が食わされてた。南無。
……マルベロも、体が一回りでっかくなったね。なんか……ええと、筋肉が強化された印象だね。羨ましいことです。
「で、これは一体なんだったのかな?」
『だから魔王の魔力塊だっつってんだろ』
それは分かったんだけど、そうじゃなくてだな。
『つまり、あれだ。グライダはお前に魔力を分けられてああなっただろ』
ああ、とは、半透明の乳白色のボディーの事だね。
『あれと同じだ。ま、魔王の魔力とお前の魔力じゃあ天と地ほどの差があるけどよ』
うん、私も魔王と同等とは流石に思ってないとも。……同等だったら怖いわ!
「ところでこれって、私が食べると」
私も筋肉ついたりするかなあ、と期待したところ、
『やめとけ』
と、ケトラミさんから有難いお言葉を頂いてしまいました。
「筋肉が付いたり」
『俺達は元々魔王が作ったもんだからな?お前とはわけが違えんだよ』
……じゃあ、筋肉増強ならず、かあ……。
『お前がこれ食ってみろ、多分消し飛ぶぞ』
筋肉増強ならずどころじゃなかった。結構物騒だった!
「諦めます」
『よし』
ということで、残りはまた考えるとして、今日の所は寝てしまえ。
ケトラミさんをお布団にしていたらマルベロが掛布団になって非常に暑かったので退いてもらいました。
うん、流石にもふもふ2倍はちょっと暑いです。
マルベロが微妙に寂しそうだったのがちょっと申し訳ない。ごめんよ……。
朝です。新しい朝です。暑くて起きたら掛布団がいました。退け!暑いわ!
なんとかもふもふともふもふの間から脱出した。ああ、もふもふだった……至極もふもふだった……。
朝っぱらから汗だくである。脱水症状になる!
水飲んで、自分を『お掃除』したら朝ごはんだ。
今日はご飯にしましょうかね。
昨夜のお魚を焼き物にでもしてみようかな。醤油で焼いたら美味しいかなあ。
後は野菜多めの味噌汁に、卵焼きつけて、と。
うん、平常運転、平常運転。
「おはよう。なあ、マルベロがでかくなってる気がするんだが」
「おはよ。うん。でかくした」
皆さんがなんとなく血相変えてやってきたので、事情を説明しておいた。
「魔王の魔力塊、ですか。見せてもらってもいいですか?」
社長は魔力塊に興味がある模様。
「どうぞどうぞ。あ、でも食べると消し飛ぶらしいから食べないでね」
銀色の魔力塊を2つ渡すと、社長はしげしげとそれを眺めて、物騒な事を言った。
「これ、単純な仕組みで爆発物にできますね」
「やめなさい」
「え、僕にも見せて」
加鳥も興味を示し始めた。社長が1つ渡すと、しげしげとそれを眺めて、またしても物騒な事を言った。
「巨神兵作ろうかなあ」
「やめなさい」
何故君達はそう、使いもしないだろう物騒な方向への用途で考えるのだね。
社長と加鳥から魔力塊を回収したところで、斜め後ろからつつかれた。
「……それ、モンスターにあげると強く、なるの?」
……振り返ったら、角三君がなんかもじもじしてたので、察した。
「……テラさんにおあげ」
1つ魔力塊を渡すと、途端に嬉しそうな顔になって外へ出て行った。
あ、なんか外からきゅーきゅーテラさんの声が聞こえる。
……あ、なんかめきめき音がする。
そしてガンガン窓を叩く音がしたのでカーテンを開けてみると……。
「OH……」
「鎧が生えた……」
なにやら銀色の鎧みたいなものを身に纏ったテラさんと、興奮気味の角三君がいた。
……この世界は、つくづく、ファンタジックである。
朝ごはんが終わったら、勇者諸君の所へ行きます。
元凶を今までにいくつ消したか、元凶の場所を知らないか、とか、聞きたいことがあるからです。
……っつっても、全員で行く事も無いので、鳥海と社長が聞きに行き、角三君は少し乗り心地の変わったテラさんの騎乗訓練をし、他はというと、私の持っていた元凶を目の前に、会議中でした。
「元凶がそもそもいくつあるか、聞きそびれたな」
「ね」
……今の所、元凶は2つ手元にある。
しかし、元凶がこれしかなかった場合、それはそれでまずい気がする。
ほら、つまり、取り返しのつかない事をする訳だから。元凶を消して『奈落の灰』にして、その『奈落の灰』を霊薬だの人造命だのに使った場合、元凶はまた作れるのか不明だ。
で、そうなった場合、またしても『奈落の灰』不足に陥る訳で……。
在庫が今世界に幾つあるのか、それはちゃんと確かめておかないとまずかろう、ということになった。
「勇者が知らなかったらどうする?」
「神殿で前聞いた時には、勇者は元凶がどこらへんにあるかは分からんでもない、みたいなかんじだったと思うから、まあ多分大丈夫だとは思うけど。……もし駄目だったら、女神本に聞いて、それでも分からなかったら魔王に聞きに行くしかないね」
一応、作ったのは魔王なんだったら、いくつあるかは分かってると思うんだけども。
「多分、1F中央と2F中央にあったんだから、3Fと4Fにもあるような気がするんだよね」
1F中央、ってのは神殿で、2F中央、ってのは浮島だね。
そう言えば埋まってる元大司祭、元気かなあ。元気じゃないな、多分。
「というか、元凶1つがどのぐらいの分量の『奈落の灰』になるのか不安なんだけど」
……羽ヶ崎君の仰ることもご尤もであります。
元凶が世界に今私が持ってる2つしかないのに、元凶5つで霊薬1つ分の『奈落の灰』にしかなりません、とかってなったら、最早詰みである。
そこら辺は……多分、上手くいくと、信じたい!
そのうち会議は脱線して雑談になったりもしたけれど、そうやって駄弁ってる内に鳥海と社長が帰ってきた。それを見たらしい角三君も帰ってきた。
「とりあえず、これを借りてきました」
社長が何か、コンパスみたいなものを見せてくれた。
銀細工の文字盤の上に、青い針が浮かんでいる。余りに綺麗なんで、何かの工芸品か何かに見えるね。
「元凶の方を向くらしいです」
……成程、さっきからずっと、コンパスの針は私の方を向いている。
「勇者たちの所に居た時は西を向いていましたね」
つまり、2F西エリアあたり、って事かな?
「ということで、俺達はそっちの方に行ってきますので、舞戸さんは留守番していてください」
……うん。まあ、そうなるね。
私がいたら針がバグるもんね。うん。いってらっさい!




