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147話

 女神本が知らないとは、一体何事か、と思ったら補足が入った。

『あくまでこの本になってからの世界の事は知らぬでな。今どこにあるのやら、さっぱりよ』

 そ、そういえばそうだよね。

 本になってからの世界の事を知っていたらちょっとびっくりするわ。ネット回線でもつながってんのかっていう。

『しかし、本になる前にあった場所なら知っておる。あれに預けた』

 ……えっ?

 あ、『あれ』って……。

「魔王ってまだご存命?」

『あれは伊達に魔の王を名乗っておらぬでな』

 ……えっ?

「まだ奈落にいらっしゃる?」

『いるであろうなあ。あれはあれの好みに奈落を弄っておったから、さぞ居心地がよかろうて』

「じゃあ奈落中飛んでたら見つかる?」

『見つかるであろうなあ』

 ……。

「魔王が」

『魔王が』

 ……いや、待てよ。

 見つかる、っていうのが、魔王を、じゃなくて、魔王に、の恐れが……か、角三君!




 慌てて女神本に帰してもらった所、皆さんおそろいでした。

「あ、舞戸起きたか!」

「どうだった?女神本なんか言ってた?」

 何やら期待たっぷりの表情で寄ってこられても困る。

「魔王に預けたから、魔王に聞けって」

「……は?」

「預けたらしいよ、『奈落の灰』」

 ありのままに女神本との会話を伝えると、ぽかん、とされてしまった。

 うん、私が一番そういう顔したいんだけど。

「それで、魔王に聞いた方がいい、ってなってさ。魔王は奈落に居るだろう、とも」

 それも伝えると、また皆さん面白い顔になってしまった。

「……それ、角三君がヤバいんじゃないかなあ」

 うん、私もそう思うよ。

 とりあえず報告だ。『交信』の腕輪を起動させる。

「もしもし、角三君?今大丈夫?」

『大丈夫っ、だけど、応援欲しい、かもっ!』

 メイドさん人形の視界を借りてみると、なんかでっかい三つ首の犬と戦っているらしい、という事が分かった。

「わかった。もうちょっと耐えてね!」

『交信』を切って、私もハタキを持ったりMP回復薬を詰めたり、簡単に準備をする。

 それが終わることには全員早着替えが終わっていたので、『転移』!


 移動したら、角三君が丁度墜落するところだった。

 テラさんが片翼やられたらしい。角三君もなんか怪我でもしたのか、体勢を整えるでもなく只落ちていく。

「角三君っ!」

 生身で飛べる鈴本が早速救出に向かい、何とか角三君が地面に叩きつけられる前に抱き留めた。

 テラさんの方は加鳥が風魔法を使って受け止めた模様。

「んー、じゃあ俺が引きつけるから、テラさんと角三君の回復よろしく」

 鳥海が盾役としてケルベロスに向かっていき、それを羽ヶ崎君と社長が援護する。

 鈴本は角三君とテラさんを安全圏まで運んだら参戦。針生は3つの頭をそれぞれバラバラに注意散漫にしようと飛び回る。

 加鳥と刈谷は角三君とテラさんの回復だね。

 いつも通り、うまく連携して戦い始めた訳です。




 ……多分、このままいけば皆さん普通に勝ったと思う。怪我したとしても、勝ったと思う。

 だって皆さん強いもん。相当。

 このケルベロスが相当に強かったとしても、こっちだって強いのだ。だから、多分、勝てない相手では無かったと思う。

 ……しかし、偶然にも、目の前のこいつは犬であったのだ。

 なんか首が多いけど、犬である。

 少なくとも、狼よりは犬に近い犬だと思う。

 そして私は、「メイド」改め、「メイド長」であった。

 つまり、偉くなったのである。

 MPも増えたし装備も充実した。

 そして何より……ちょっと悪いけど、こいつ、ケトラミさんより強そうには見えないんだよっ!

「『待て』ぃ!」


 全身全霊をかけての『番犬の躾』は、なんとか効いたらしい。

 びくり、と三つ首の犬は動きを止めた。

 急に動きを止めたせいでなんとなく皆さんずっこけ気味だったけどそこは勘弁していただきたい。

 二度目だったし、今回は仲間もいたんでそんなに緊張しなかったけども、なんというか、精神的に凄く疲れた……というか、MPがごっそり無くなった感覚だ。うん、ぶっ倒れないだけマシと思おう。

「『お座り』」

 とりあえず『待て』だったけど、『よし』は永遠に来ないのでとりあえず座らせておく。

 というか、『待て』だと、本当に効いてるのかがちょっと判断付きにくかったので。

 ……あ、よし。座った。なんか尻尾ふってやがるぞ、こいつ。

 うん、やっぱり貴様、犬だな!狼は尻尾なんざふりゃあしなかったぜっ!




「いやー、よくやるよね」

 何時の間にか武装した他の皆さんを連れてきていたらしい鳥海がやってきた。

「だって犬ですやん」

「んー、犬だけどさ、これ犬って言ったら色々失礼じゃない?」

「犬に?」

「いやいやいやいや……」

 そして尻尾を振るケルベロスを眺めている。

 流石犬。もう主従関係を覚えたらしく、針生相手にお手やってる。おい、お前は何をやっとるのか。

「お前のそれは一体なんなんだ。チートもいい所じゃないか」

「犬にしか効かないんだからいいじゃない固い事言うなよ」

 まあ、その犬、の範囲が狼からケルベロスまで、っていうのがちょっと広すぎる気もするけども。

「角三君はどう?」

「あー、うん。まだ寝てるけど大丈夫だろう、ってさ。テラさんも治りそうだって」

 あー、良かった。うん、刈谷がいる時点で治らないとは思ってなかったけどさ。


「しかし、問題はこっちだろう」

 鈴本が指さす方向、ケルベロスの背後には、でっかい門がある。

 なんか黒くて禍々し……くはないんだけど、威圧感はある。

「ケルベロスは冥界の門番だっけか」

「じゃあこっから先はあの世かあ。あはははは」

 笑い事じゃねえ。

「どうするの?行くの?行くにしても一旦戻った方がいいと思うけど」

「戻ってから考えようか。じゃあ皆集まってー」

 集まって、といっても角三君とテラさんは寝てるので、そっちにみんなで集まることになる。

 ……あ、ケルベロスが付いてきた。いや、お前はそこで座ってなさいよ。門番じゃないんかい。

「じゃあ『転移』……ん?『転移』……あらっ?」

「ん?俺やる?『転移』……んっ?」

 暫く私と鳥海で首を傾げながら不発しまくって、結論が出た。

「しかし、ふしぎなちからにかきけされた……」


「成程、ボス戦前ってことか」

 それは……やばくね?

「いや、イベントかもしれません」

 あ、そっちなら平和だ。

「イベント戦かもね。あはははは」

 あああ、それだと平和じゃない!

「負けイベントだったりしてねえ」

 やめろ!縁起でもねえ!




 ……門に入るにしても、とりあえずはこの犬、ケルベロスである。

 こいつ、門番だったろうに、侵入者にこんなにホイホイ懐いちゃって良かったんだろうか。

「ところでそいつ、名前何にするの?」

「名前付けたら飼わなきゃならなくなりそうなんで付けたくない」

 今更感もあるけど、こいつは門番だろうし、それを飼う、となったら元々の飼い主に申し訳なさすぎる。

「躾けといてそれは無いでしょ。責任取って飼ったら?」

「だって状況から考えてこいつ魔王の犬じゃん!」

 怖いわ!そんなもん飼うとか怖すぎるわ!

「でもそうにしてもパスは繋いでおいていいだろう」

 鈴本は私とパスが無駄に繋がっちゃってるからそこら辺の便利さが分かるらしい。

 うん、まあ、そうね。うん……もしこの犬、魔王の犬だったとしたら、魔王と敵対することになった場合、有利に働く可能性が高い。

 そうでなくても、まあ、一応繋いでおいて悪い事はあんまり無いだろう。

 ……多分。

「よし。じゃあ契約だ。君は私と私の仲間に危害を加えない。私と私の仲間のいう事は聞くこと。それから、もし私達に危害を加える者がいたら、そいつから守って。その代わりと言っては何だけど、もし君が戦いたくない相手が私達に危害を加えてきたら、どちらの味方にも付かずに逃げていい。これでいい?」

「わん!」

「わん!」

「わおーん!」

 いいのか。これ、かなり私に好条件なんだけども。

「よし。じゃあこれで契約だ」

 グライダとの時を思い出しつつ契約を結んでみると、なんとなくパスが通る感覚があった。うん。成功。

 ……ということで、正式にこのケルベロスと契約を結んだ。

『ではこれからよろしくお願いいたします!』

『誠心誠意お仕えいたします!』

『至らぬ点もあるかとは思いますがそれはその都度叱り飛ばしてください!いっぱい叱って下さい!いっぱい!』

 ……こいつはこいつでキャラが濃かった。頭が3つある分五月蠅いというか濃い。流石の奈落クオリティ。

「あー……ええと、お名前は」

『ございません!どうぞご自由にお呼びください!』

『お前、でも貴様、でもなんでも構いません!』

『なんなら駄犬とでも!』

 ……。

「じゃあ君は今日からマルベロで」

 マゾっ気のケルベロス……。


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